第195話 もりのかじやさん その2



間に合わなかった……しかし、タップリ昼寝したから眠れない!

結果的には書けたからヨシ!



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「ええと……ロティ? この犬……サイズ的にクィン・シーでしょうが、何でしょう? 青い目に青味が掛かった白色の毛並みだから兄弟とか子供とかでは無さそうですが……」

「この子はボフンドルンダルボルです。バウンワウンダルボルと同じく我らの里に暮らすクィン・シーの一族です!」


「……ですから、僕にはクィン・シー一族の名前は発音できそうに無いのですが……」

「でしたらボフンと呼んであげてください! というかぶっちゃけ我らも面倒なので普段はボフンと呼んでいますし!」


「おい、それでいいのか名前のクソ長い小人一族」

「同族ならパターンがあるのでそれさえ覚えれば意外と楽なんです。でもクィン・シーはまた別の理屈で名前付いていますので」


 そう言う事らしい。それで、結局何でこの犬——ボフンがここにいるかと言えば——


「実はこの子、水系統の魔法が得意なんです。 ボフン、お願い!」

「バッフン!」


 ロティの声掛けに新しい犬、ボフンが一声上げて返事をすると、ややあって周囲に細かい霧の様な物が周囲に撒き散らされる。


「お、おお? コレは魔法の霧? と言うか鳴き声はボフンじゃなかったのっ!?」


 クリンが驚いている間にもバウンの頭の上に乗ったロティが自慢げに、

「そしてボフンは風魔法もそれなりに使えるのです!」


 と、胸を張って解説する。因みにクリンのツッコミはスルーされた様だ。

「バッフフン!」


 ロティの声にこたえる様にボフンが風を送り出す。周囲に生成されていた霧を巻き込んでクリン達の周囲で渦巻く。


「やったっ! 水魔法が使えるボフンなら出来ると思ったんです。上手く行きましたねっ! この魔法、里で使っても便利そうです!」

「おお! コレは僕の魔法よりも効率がいいっ!? 霧の風……いや、まんまミスト扇風機っ! って、そう言えば霧風って名前のミスト扇風機あったよなっ!」


「キリカゼ……? せんぶうき?」

「バフッ?」


 ロティとボフンが不思議そうな顔をする。霧風と扇風機は日本語で言ってしまった為に彼女達には分からなかった様だ。


「ああ、此方の世界だとミスト・ウインドって感じですかね。扇風機は……なんだろ。風を送る為のそう言う道具があったんですよ。ああ、そう言えば前にロティに話した麻呂眉犬の仲間に似た名前の犬が居ましたね。忍者犬として本編でも活躍していましたね」

「へえ、噂のニンジャーケンですか! 霧を操る風……何か格好いいですね!」


「バフッ?」


 ロティとバウンはキラキラとした目で聞いていたが、ボフンの方はまだ流れ星の話は聞いていなかった様で首を傾げている。


「いやぁ、大分体の火照りがとれました。有り難うございますボフン……ん? 忍者犬が気になりますか? お礼に話したい所ですが……そろそろ再加熱が済みそうですし……ロティ、申し訳ないですが代わりに話してもらってもいいです?」

「勿論です! ニンジャーケンの話は私もお気に入りですから!」


 と、ドヤ顔でボフンに向かって麻呂眉犬の大冒険活劇を語り始めたのを背中で聞きながら、クリンはナイフの成形を再開するのであった。





 クリンは今回作るナイフは二本共同じ形にするつもりでいる。元々小さい方を大きい方を打つ時の練習にするつもりであるので、形状も同じにする方が都合が良い。


 小さい方のナイフは刃渡りを十センチ未満に設定して伸ばしている。当初は所謂手の幅サイズの四寸(約十二センチ強)を予定していたが、この世界での諸事情により手の幅サイズの三寸(約九センチ強)にする事にした。



 同じ理由で大型のブッシュ・クラフトナイフの方は九寸(約二十七センチ)予定だったが七寸サイズの約二十一センチを予定している。


 将来を考えれば刃渡りが尺サイズ(三十センチ以上の意味)でも良い感じがするが、このサイズを予定しているのには理由がある。


 それはブロランスの街と言うかこの国のルールで、ショートソードサイズの刃物から大きい物は街に直接持ち運べない事になっているからだ。ショートソードから武器扱いになり、街に持ち込む場合は使えない様に封をされて特定の場所に保管させられるか、持ち歩くにしても直ぐに持ち出せない様に梱包する必要がある。


 そして、厄介なのがこのショートソード「以上」と言う括りだ。この世界もクリンの前世の西洋圏と同じく、実はこのショートソードやロングソードと言った名称の区分けが実に曖昧だ。日本の様にキッチリと「何センチ以上何センチ以下」と言う区分が無い。


 大雑把に「肩の付け根から指先まで」の大きさの物(柄も含む)はショートソード、それ以上の物はロングソードやそれ以外の物になる。


 そして、これも大雑把だが「肘から指先まで」の物がナイフやダガーに含まれる。このサイズの物なら護身用や仕事用として持ち歩く事も認められている。


 このサイズの分け方は「個人で腕の長さが違う」ので、明確に何センチと言うのが無い。なのでサイズ的に微妙な場合は所有者の腕で大きさが測られる。


 このルールがある為、迂闊に大きく作るとクリンの体格ではショートソード扱いをされかねないので、現在の少年の体格では七寸サイズが最大であった。


 因みに小さいナイフが手幅サイズなのは税金の関係である。幾らナイフサイズが許されているとは言え、大きい物を二本も持っているのは不自然であり一般市民には必要無いと見なされていて税が取られる事もある。


 そこで「掌の長さ」(中指の先から手首)以下の刃渡りの刃物であるのなら課税対象外と言う決まりがある。つまり三寸サイズなら現在のクリンでもそれに引っかからない。


 正直打ち直しのナイフは十センチ近い刃渡りなので現在のクリンではギリギリだ。なのでこの際余裕でクリアできる長さにしようと言う訳である。


 そう言う、割と世知辛い理由でサイズが決まっているのだが、クリンはそう言う規則や税金以外にもナイフの形状にも気を使っている。


 あまり特異な形状であると警戒され没収される事もあると聞いていたので、今回はものすごくシンプルな形状、スカンジグラインドにする事にしている。


 別名V字グラインドとも呼ばれ、前世地球ではスカンジナビアで発祥した形状の刃物とされている。


 鉄板の片側をV字に削って刃を付けた実にシンプルで潔い形状で、シンプルである為に加工も容易でかつ砥ぎやすく、現在でもクラフトナイフでは好んで用いられる形状だ。


 日本の短刀も非常に近い形をしているが、短刀の場合は日本刀とほぼ同じ造りをしているので刀身はやや五角形の形をしているが、此方の場合はほぼ鉄板だ。


 実に単純で無骨なデザインであるので、此方の世界にも必ず似た物はある筈だとクリンは考えこの形にしようとしている。


 その為、焼けた鉄をただただ均一に目標の長さに伸ばすだけで良く、日本刀の様に反りを計算して打つ必要が無い。


 茎から切先の手前までほぼ同じ幅の正に鉄板だ。そこから刃先がストンと鋭利になる形状でクリンの場合は直線では面白く無いので日本刀の刃先の様に緩く曲線を付ける予定だ。


 二本同時でしかも長さも身厚も違うのに均一に伸ばせているのは流石と言うべきか。この辺りの作業は散々HTWでやってきているので加減は判るのが強みだろう。


「それでもやはり小型ナイフも作って正解だね。ゲーム時代とはやはり鉄の伸びが違う。コチラの世界の鉄の質なのか、僕の筋力の無さなのか……まぁ両方かな」


 ヤットコで挟み、打ち延ばし中のナイフを眺めながらクリンが独り言を言う。気を付けていてもどうしてもこういう独り言は出てしまう様だ。


 自分の行動に一人苦笑し、クリンは叩き伸ばし作業で温度が下がったナイフを炉に戻しながら肩を竦める。スキルを使って筋力を上げているとは言えやはり六歳の身体には色々と堪える。そして魔力の減りもやはり激しい。


 斧の時もそれなりに厳しかったが、やはりナイフの方が神経を使う分消耗が早くこのままでは最後まで魔力が持ちそうもない。


「しかぁ~し! 今の自分がヘボい事は僕が良く解っているっ! 対策はちゃんと考えてあるんですよ、コレがっ!」


 魔力が枯渇しかけている事を自覚したクリンは、ここぞとばかりに予め鍛冶場に持ち込んでいた物を手に取る。


「ジャジャンッ! 魔力回復薬(MPポーション)ぅ~! 服用タイプでこれ一本あれば大人でも一日分の魔力が回復する優れモノっ! ……らしいねっ。流石にこの世界の魔力回復薬は飲んだ事無いけどっ! 前世(HTW)じゃMPPOTがぶ飲みでの鍛冶は常套手段だからね! ま、こっちじゃこれ一本で銀貨十二枚だから早々出来ないけどっ!」


 コルクで栓をしてあるのを引き抜きながら自慢げに一人で悦に入っている。元々年齢的に無理がある鍛冶だと考えて居たクリンは、街で以前ポーションを買った店にコレがあった事を思い出し、予め購入していたのだ。因みに四本買ってある。


 採算度外視もいい所だ。しかしオーラコートを併用が大前提のクリンではなりふり構っていられない。どう考えても筋肉痛待ったなしなのだが、気にしない。


 それでいいナイフが作れるのなら何日か寝込む位なんでも無い。まぁ……この歳でドーピング前提の鍛冶をするのはどうかとは思うが。


 しかし残念な事に新たな出会いを経た後でも少年の行動を止める物は居なかった。


 迷わず魔力回復薬を一気飲みし——


「マッズッ! 青臭酸っぱ臭苦エグ渋いっ!! ぅぇっぷ……な、なんだコレ!? HTWのMPポーションにこんな味は無かったぞっ!?」


 余りものまずさに思わず吹き出しそうになり、慌てて口を押えて飲み込めはしたが、我慢できずに盛大に嘔吐えずくクリン。吐いてしまっては銀貨十二枚が無駄になるので吐き出さない様にするので必死だ。


 因みに、魔法薬(ポーション)の方も同じような味だったのだが、前回使った時は服用タイプではなく塗付タイプであったので気が付か無かったのだ。


「うぅ……何とか飲み込めたけど……これ後三本飲める自信ない……成程、売れない訳だ……チクショウ、鍛冶場が落ち着いたら絶対に自分で魔法薬作ってやる……」


 新たな目標を掲げたクリンはヨタヨタと炉の前から離れ、バウン達が居る場所に向かう。


「うぅ……すみませんボフン……ちょっと気分が優れないので、先程の魔法で涼ませてもらえませんか?」


 と、頼むのだがボフンはツンとして顔を背ける。

「……あれ? 何か機嫌が悪い……? 僕なにかしましたかボフン?」


 再び呼びかけるが、やはりプイッと顔を背ける。そして、チラッと横目でクリンを見て、


「バフッ」


 と小さく吠える。困惑してロティの方に視線を向けると、小人族の少女は少し困った顔で通訳する。

「ええと……『自分の名前は今日からミスト・ウィンドにする』だそうです」

「…………をい」


「どうやら、流れちゃう銀さんのお話が相当気に入った様です。『どうせ人族には自分達の名前は発音できないのだからミスト・ウインドと呼ばれる方が恰好いい』と言う事を聞かなくて……」

「バッフ!」


 ロティの言葉に「その通りだ」と言う感じで吠えて、ボフンはキリッとした顔を見せる。


「……なんで犬の話に感化されているんだよ……それでいいのか精霊獣」


 クリンの感覚的には精霊獣の方が犬よりも立場が上に感じるのだが——何はともあれ、こうしてこの世界にミスト・ウィンドを名乗る精霊獣様が誕生したのであった。





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着々とやらかしが広がっています。(´_ゝ`)



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