第194話 もりのかじやさん。



ヒャッハー、今日中には間に合ったぜ!

遅くなりましたがお楽しみくださいませ!

書き直し過ぎてテンション怪しいですがお気になさらず!



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 実の所、今回のブッシュ・クラフトナイフの作成はそんなに難しくない。そもそもが既に鉄板を作ってあるので、その中から硬度を高く出来そうな物と硬度の低い物を組み合わせ硬い刃になる鉄板を柔軟性のある柔らかい鉄で包んで鍛着させるだけだ。


 日本刀だと芯に柔らかい芯鉄と言う物を硬い鋼で覆う作り方が多いが、以前も言及したが作り手の好み次第だ。その方が制作時に制御しやすいのでその方法が多いと言うだけで、絶対にそう作らなければいけない訳では無い。


 色々と説があるが、芯に柔らかい鉄を使い硬い鉄で包む方式は主に刺突と斬撃に向いた加工法で、硬い金属を中心にして柔らかい鉄で包むと、押して切るのと叩き付けて使う方法に向いているとされている。


 硬い金属は振動を伝えやすい性質を持つので、硬い金属を刃にして、柔らかい金属で両側から挟む事で振動を抑えて衝撃を分散させる効果が見込めるらしい。


 西洋の包丁やステンレスの刃物などに好まれる作り方だ。日本の刃物類でも叩き付けて使う事の多い斧や鉈などの厚身の刀身にも使われる技法だ。


 今回のブッシュ・クラフトナイフも正に斧や鉈の様な使い方をする為、クリンはこの方式で作る事にした訳である。


 とは言っても今回は既に鉄板が出来ている。外側に柔らかい鉄板を重ね、その上に芯と刃になる硬い鉄板を乗せて、再び柔らかい鉄板を重ね、その間に鍛接材となる砂鉄とカタツムリ殻の粉をまぶしていく。


 それを炉に入れて真っ赤に熱する。目指すはやや明るい赤、およそ八百五十度近辺だ。日本刀の作業工程でいうのなら造り込みからに相当する。


 折り返し鍛錬までは鉄板に加工した段階で終わっている為、ここからいきなり始める事が出来る。作業的には楽だがこの鉄板を作る段階で不純物が入って居たり折り返し鍛錬の最中に隙間が出来ている事に気が付かないと、割と悲惨な事になる。


 鉄板を重ねる時に聞こえる音や手触りでその辺もある程度判断しなくてはならず、既に出来ているからと言って気が抜ける訳では無い。


「まぁ、現代鍛造ならプレス鍛造機とかで一気に潰して伸ばせるからその辺の心配は少ないらしいけどね。ああ、いいよなぁアレ。どう考えても魔法よりも楽そうだし。せめてなんちゃってじゃないスプリングハンマー欲しいなぁ……ああ、どっかに工場ごと落ちていないかなぁ……」


 鉄板に加工済みの物を鍛着させるとは言え、現状のクリンではやはりオーラコート 《筋力増強》が前提になっている。


 しかも金床にしているのは削って磨いたただの石だ。打ち損じて石を直接叩こう物ならオーラコートが乗ったハンマーでは一発で割れる。意外と神経を使いながらの作業だ。


「工場が無理なら鍛冶場……は余計無理か。そうだ、工業高校でも良いんだよ。確か熊本の学校とかに油圧式の鍛造プレス使って実習している所があった筈……」


 施設だけでいいから転移してこないかなぁ、と何やら危険な事を呟きながらもキッチリと隙間がありそうな部分を叩いて潰していく。


 生前のクリンも学生であり、ネットでだが高校受験はしている。その際に趣味に走って工業高校を受験しようと色々と資料を集めて情報は漁っているのだ。


 最も病気の事も有り合格した所で実技などは無理そうだったので断念して普通の高校を受験し合格している。合格しただけで結局一度も学校には通えなかったが。


「って、ああっ! 前世でやり残した事思い出したっ!」


 膨れが出そうな部分を潰し終えたクリンは鉄板を炉に戻し、唐突に思い出す。


「学校に受かったらナマJKを見るって野望があったのにっ! 漫画やアニメに出て来るみたいなじぇーけーお姉さんとキャッキャウフフな学園生活を送る野望があったのに!」


 中学一年の後半ばにはもう病院に入院してしまっていたクリンは、学校生活に対して憧れがあった。密かに学園物の漫画やドラマを見まくっていたのでJKと言う存在に一種の憧憬の様な物を抱いていたりする。


「ああ、VRじゃない生制服女子見たかったなぁ……や、秘蔵の画像ファイルに制服JK写真集あったけどさ……折角高校生になったんだから一度でいいから本物みたいじゃん!」


 それが心残りと言うのはどうなんだ、と思わなくもないが……まぁ彼も男の子だったと言う事なのだろう。因みに秘蔵ファイルは体調が悪化する直前に腕時計の趣味の悪い医師に頼んで消去済みである。その辺はソツの無いクリンだ。最もデータ自体はコピーされて今でも医師のパソコンデータの奥の方に眠っているとかいないとか。


 何やら変な方向に脱線しかけているが問題はない。何故なら——


「クリン殿? じぇーけーって何でしょう?」

「はっ!?」


 炉から離れた所で一人と一匹がキラキラした目でクリンを見ている。そう、もう彼は一人では無いのだ。脱線したら軌道修正してくれる有難い存在が居る。


「ゴホンッ! 気にしてはいけません、こちらの話です」


 すました顔でロティに向かって言うが、内心では、

『チィッ! 今まで一人だったからつい何でも口に出しちゃう習慣が付いてしまっているっ! これからは気を付けないとダメだね!』


 と歯嚙みする思いだった。取り敢えず場を誤魔化す意味も込めて鉄が再度適正温度に上がるまで一旦炉の前から離れる。


「十分離れているとは言え、炉の側だから熱いでしょう。僕も少し涼みたいので……いざ、散水(ミスト)あ~んど起風(ブリーズ)ぅ!」


 口の中でモゴモゴと呪文を詠唱し、起句(魔法を発動させるためのキーワード)を口にすると、キラキラと霧が吹きだしサーっと穏やかな風が流れてクリンとバウン、その頭の上に鎮座しているロティを包む。


「ほぉぉぉっ、コレは気持ちいですねぇ! 炉の前だと余計に涼しく感じます!」

「バフッ! ボフッ!」


 一人と一匹は嬉しそうに歓声を上げてクリンの作り出す自力ミスト扇風機の効果を堪能している。


「この魔法の組み合わせは面白いですねぇ! へぇ、こんな効果が出るんだぁ……初歩魔法でも使い方を考えればちゃんと使えるんですねぇ!」

「そうなんですよ。最初は使い道がそんなにないのでタダの魔法練習用だとおもっていたんですが、意外と使い勝手良いですよね。って、感心していると言う事は皆さんもこう言う使い方はしないんですか?」


「しないですねぇ。生活魔法と言っても初歩は所詮初歩なので本当にちょっとした事にしか使えない物と言うのが常識ですし、組み合わせようって考える人も今まで見た事も聞いた事も無いですね。これは面白いです!」


「気に入っていただけたのなら何より。単体で使い難ければ組み合わせてしまえ、は割とクラフターには常套手段なんですけれどねぇ。特に初歩魔法は魔力消費が少ないから組み合わせても割と長時間効果を出せますし」


 クリンは暫し一人と一匹と一緒に涼んだ後炉の前に戻る。背後でロティがバウンに何やら囁いていたが、既に炉の中の様子を気にしてしまっていたので気が付かなかった。





 今作っているブッシュ・クラフトナイフは厚身の刀身にする予定だ。その為におおよその大きさに伸ばすだけでもかなりの力と時間が必要になる。


 そして、もう一つ時間が掛かる理由がある。実はクリンは今回、材料が残った為にそれを用いてもう一本普通のナイフを作る予定で鉄板を重ねて一緒に加熱している。


 厚身で大型のナイフとは言えたった一本しか打たないと言うのは炭が勿体ないと言うのも確かにあるのだが、それよりもクリンにとっては「この世界では」完全新作のナイフを作るのが初めてだと言うのが大きい。


 技術を持っている上に経験もあるとは言え、それはゲームでの話だ。現実となったこの世界で一度ナイフを打っているがそれはあくまでも打ち直しだ。


 斧や鑿や鉋などの刃物も作ってはいるが、それは多少大雑把に作っても機能する物である。しかし、完全自作のナイフは違う。


 厚身とは言え刀身の厚身が鉋や鑿、斧とは比べ物にならない位に薄い。膨れや接着ミスがあれば成形中に割れるし焼き入れしたらヒビが入る事も有る。


 現実と仮想の違い、そして前世の鉄の質とこの世界での鉄の質の違い。何が作用するか分からないのが現状だ。


 その状況でいきなり本命をたった一本だけ作ると言うのは幾ら変態職人気質のクリンであっても怖い。予行演習として予備にもなり得る、作りやすい普通のサイズのナイフでまず感覚を掴んでから、本命のブッシュ・クラフトナイフの本成形に入ろうと考えたのだ。


 サイズ違いとは言え構造も形状も同じに作れば感覚も掴みやすい。そんな思いで、今度は通常ナイフサイズの鉄板の鍛着をする。


「うん、やはり薄いからアッチよりは伸ばしやすいね。ただその分中心厚を保つのがちょっと難しいかな……成程、こういうバランスを取るのは身厚がある方がやりやすいのか」


 ナイフ用の鉄板を炉に戻しながら一人で頷く。この辺の感覚までは流石にHTWの鍛冶では完全に再現してくれてはいない。


 こう言う面を直に感じられただけでも予備ナイフを同時に作る意味はある。そんな事を考えていると、ふと離れていた所にお座りしているバウンに目が行く。


「……あれ、分裂している!? いや、眼の色と毛色も違う……増えた!?」


 気が付けばバウンの側に並ぶ様にしてもう一匹の巨大な犬がお座りしていた。






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現在は大分減りましたが、昔は割と本命の刃物を一本だけ作ると言う事は少なく、予備と言うかどういう形状に加工するか、その形にするのにどれ位の負担がかかるのかなどを見るのに一回り小さい物を打ったりする事がありました。

クリン君も初の完全自作と言う事でそれに習っています。ただ、本来は鍛着も練習用の方からやるべきなのですが、そこは今回はお話上の演出と言う事で後出し演出にさせてもらいました。

え、そこじゃない? 工業高校のJK? はて何の事やら(´_ゝ`)

ただのリスペクトなので気のせい気のせい!

それに工業高校「と」JKなので別ですよ(笑)

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