第186話 邂逅のその先に。


うん、また遅れ出した……お待たせしてすみませんm(__)m



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「それにしても、まさか私がこの祀られ方をするとは思ってもみなかったよ。ろくに神殿に参拝に行かないくせに、前世の様式を持ち出して私を祀って徳を積むなんて方法を取るなんて考えもしなかったよ。しかも今正にこの世界に前世の方式を広めようとしているとか。君の行動は突飛に過ぎるね」


 会話の切れ目にそんな事を言われ、クリンは苦笑いを浮かべる。


「いやぁ、此方の世界の祭事は知りませんからね。そもそも祈りの様式が国や地域で差異がありますから、それなら祈りの方法も世界が違う程度ですから、その位なら大目に見てくれるかなぁ、と」

「そろそろ普通に神殿で祈ってもいいんだよクリン君?」


「そうなんでしょうが……元現代日本人としてはこの世界の神殿はボッタクリ過ぎに見えるんですよ。何で祈るだけで専用の神官が出て来てお布施を要求された挙句に説法を勝手に聞かされてオマケとばかりに、説法代と言う名のお布施を取られるんですかね。しかも金額が決まっているとか意味が解りません。前世でも海外ではそんな感じらしいですが、お祈り程度なら『ご縁がありますように』で五円玉一枚で済む国の住人からしたら納得できないですよ」


「ああ、うん。君の国はあの世界でも独特な宗教観らしいからね。君を転生させた後に気になって調べたんだよ。無神論者が多いって言う割には君の行動見てたらそんな感じしないし。単に宗教に寛容なだけなんだよね、あの国」


 前世の日本人の多くは無神論者だと言われているが、他国や他世界の人間からしてみたら実はそんな事は無い。本来無神論者とは宗教的な儀式などに一切かかわらない者の事だ。正月には初詣をして季節毎の祭事はするし、他宗教の誕生祭も祝えばそれ以外の宗教行事にだって参加する。そして人が亡くなれば何かしらの宗教に従って埋葬する。結局はキッチリと宗教行事は執り行い参加しているのだ。


 そんなのを無神論とは呼ばないのが日本以外での常識だ。特定の宗教の信者からすれば、独自の神を信仰している癖に信者でもないのに他人の神を祀る奇妙な人種でしかない。


 しかも当の日本人はその事に無自覚だったりするので尚更話がややこしい。


「まぁ……確かにその辺は他の国の人にはなかなか理解されませんよね。異世界なら尚更でしょうが……もしかして小人達に前世のやり方教えたのマズかったです?」


「うん? うーん……異世界の風習だから問題があると言えばあるが……しかし、そもそもを言ってしまえば、君の記憶をそのままにして転生させた時点で今更って話でもあるしね。それに私は特に決まった祀られ方を指定してはいないからね。その辺りは君の国の神様に近いかな。『祀る心が大事』って、君が時々言うヤツ」

「そうですか。じゃあこのお祈りの方法をそのまま小人達に定着させてしまっても問題ないと言う事ですね? それならよかった……」


 何となく流れでクリンが魔改造したなんちゃって祝詞が定着してしまいそうな勢いだが、祈られる対象が気にしていない様なので安堵の息を吐くクリンだった。


「あ。でも一つだけ変えて欲しい事があるかな」

「え? 祝詞の文言何かマズかったですか?」


「いや、君の教えた方法自体に言う事は無いんだよ、うん。君じゃなくて小人達の方の習慣で取りやめてもらいたい物があるから、それを君が上手く交渉してくれないかな。今なら君が言えば止めると思うんだ」


 言いつつ、セルヴァンはいつの間にか手にしていた物をクリンに見せる。


「……ライ麦粥!?」


 その手にあるのは間違いなく小人達と共に備えたライ麦粥、それが入れられたクリン手製の木椀だ。何でこれがこの場所にあるのかとクリンが不思議に思っていると、


「ああ、現世の物を直接運んだ訳じゃないよ。神饌と言う物は、信者の祈りに乗ってその概念そのものがこの場所——クリン君の前世風に言えば人の世界と神の世界のハザマと言った所か。そんな感じの所にも存在が出来るのさ。いうなれば限りなく実物に近いコピーがこの世界に運ばれて来るって事だね」


「はぁ、成程? イマイチ判りませんが、向こうで供えた物も信仰心が高ければこちらに届く事がある、みたいに思えば良い訳ですね。で、そのライ麦粥が何か?」

「まぁその認識でいいかな。これ、もう供えなくて良いって伝えてくれないかな」


「それは構いませんが……でも伝統的に備えて来た物でセルヴァン様の好物だと聞いていますが、本当にいいのですか? 」

「うん、何かそんな事になっているんだけれど……ぶっちゃけ、これマズいんだよ。好物でも何でもないんだよね」


「はぁ? え、でも神話とかだと神の好物として定番じゃないですかライ麦粥!?」

「はぁ……知識がある人間って意外とそこで思考が止まるんだよねぇ……なぁ、クリン君。こう考えた事は無いかい? 『何故歴史の古い神に限ってライ麦好きが多いのか』って」


「え? えぇ、言われてみれば前世の神様でも古い神話の神程ライ麦が象徴として使われていましたけど……え、もしかして何か意味あったんですか?」

「勿論さ。私は君の言う『歴史の古い神』に当たる。そして、小人達は太古の時代から私を信仰してきている。つまり、同じ位歴史が古い種族な訳だ」


「……まぁそう言う解釈になりますね」

「歴史が古い、つまり文明が未発達な時代に、まともに食べられて供物に出来そうな物なんてたかが知れていると思わないかい? そしてライ麦はそんな時代でも沢山生産出来て食べられて来た物だよ。要するに他にまともな供物が無い時代の物だ。そんな時代に供えられた物に好きも嫌いも無いだろう。他に無いんだから有難く受け取る以外ないんだよ」


「…………はぁ」


 何か凄くどうでもいい話になって来て、クリンの応答も段々適当になって来る。


「他にないから、その心を有難く受け取っていただけなんだけど、それを好物だと勝手に解釈するんだよ、どいつもこいつも。そりゃ未開文明の時代なら嬉しかったけどさ、勝手に好物にされたらたまらないよ。折角文明が進んでも判で押した様に供物だけは古い時代のままだ! 旨い訳が無いだろうこんな物! いい加減麦とか小麦とか供えてもいい筈だっ! そりゃぁもういらないってなるよ! 多分君の世界の神も同じだった筈だよ!?」


 そんな事を力説されたが、クリンにとっては実にどうでも良い事だったので、


「ええと……神様も大変ですね?」

「そうなんだよっ! 信仰する心が大事なのは事実なんだけどね? でも不味い物は不味いんだよっ! 信徒の心遣いだから拒否できないしッ!」


 何やら拳を握り力説しているセルヴァンを生暖かい物を見る目で見ていたクリンだが、ふと視界がぼやけ、周囲の景色が滲み出す。


「……あれ? な……んだこ…れ?」

「おっと……どうやら時間切れかな。君個人の徳と小人達の信仰を集めてもやはりこの程度の神気を保つ事しかできないか」


「ええ……分かっていてどうでもいい話ねじこんだんです?」

「や、これでも聞きたい事はちゃんと聞けたし。本当はもっと話したい事も有るのだけれども、元々時間が短いのは解っていたからね。これでも大分持たせた方だと思うよ。あ、でもあと一つだけ君に聞きたい事があったんだ」


「ええ……このタイミングで?」

「何大したことじゃないさ。クリン君、君にとってこの世界は楽しいかい?」


 そう聞かれ、クリンは思わず目を見開いた後、ニッと笑って見せた。


「勿論です。コレが『幸せか?』とか聞かれていたのなら『正直微妙!』と答えていたんですけれども」

「ハハハハハ……」


「ですが楽しいか、と問われたら『楽しいに決まっている!』以外に答えは無いですよ。一度死んだ僕にとっては望んでいなかった延長戦みたいな物ですからね。体が動いて、作りたい物が作れて、作った物を喜んで買ってくれる人が居る。それが楽しくない訳がないですよ!!」


「………そうか。それなら良かった。ま、見て来た限り実に楽しそうだから聞くまでも無いとは思ったけれども。是非とも君の口から直接聞いてみたかったんだ」


 そう言われる間にもクリンの目に映るセルヴァンの姿はぼやけて行く。


「次に君を呼べる機会があるか分からないが……だが君はもう選択したからね。自分の力で運命を切り開く道を選んだんだ。こんなに早く私の手から離れるとは思ってもいなかったが、それも君の選択だ。君の選んだ道の先に何があるのか私にもわからないが……楽しんでその道を進んで行ってくれたまえ」

「はい!」


「うん、いい返事だ。それではこれからも元気でね。君の進む先に再び交わる道がある事を願っているよ」


 その言葉を境にクリンの視界が暗転し、意識が途絶える。だがその直前。









「あ、ライ麦の件は本当に頼んだよっ! アレだけは本当にマズいんだから! フリとかじゃないからね、頼んだよっ!」


 そんな声がギリギリ少年の耳に届いた。




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ぶっちゃけ神様への供え物って何千年も前に決まっている様な物なんだから、今だと大して喜ばれないんじゃないかなぁ、とか考えちゃったせいでこう言うオチになってしまいました(´_ゝ`)

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