第187話 転生少年の秘密がバレる時。



この位の時間の投稿がデフォになりつつありますな……



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 奇妙な浮遊感が薄れると共にクリンの意識が覚醒していく。


 目を開ければ、そこはクリンが祝詞をあげている最中の、急遽にでっち上げたなんちゃってセルヴァン神社(セルヴァン神像入り)の前だ。


 あの白い空間でセルヴァンと数分に及ぶ邂逅をしていたのだが、不思議と今は『この世界では多分一秒程度しか経っていない』と言う確信めいた感覚がある。


 と、クリンはそこでやけに背後がざわついている気がして振り返る。何故だか小人達は一様に驚いた様な顔をしており——一番前に控えていた小人の長と視線がぶつかる。


 長は直ぐに頭を下げ、祈りを捧げていた直後なのでまるで平伏の様な恰好になる。『何事!?』とクリンが思う間もなく、他の小人達も直ぐに同じ姿勢を取りクリンは更に混乱する事となる。


「我らが失伝したセルヴァン神の祭事を執り行えるので、もしやと思っておりましたがやはり使徒様であられましたか!」


 涙を流さんばかりの勢いでそう言われ、クリンは益々困惑する。


「ええと……いきなり何なのでしょうか? 僕は別に使徒とかそう言う有難そうな物では無いですが」


 確かにたったセルヴァンに誘われて転生した身ではあるが、何か特別な使命がある訳では無い。単に『知識を広めてくれたらいいなぁ的なお願い』をされただけだ。


 それに特別な力チートを授かった訳でも無い。前世の記憶を残したまま転生させてもらっただけだ。ただ、その対象が偏執的な技術者共が製造業の粋とも言えるデータを貯め込みゲームにしてしまうとか言う暴挙に出て、それを暗記するような変態ゲーマーを狙いすまして記憶を残し転生させただけ。ぶっちゃけ自力チートだ。


 そして今も神界の様な場所に呼ばれたが、再転生の打診を受けただけだ。それは断ったし何か新しい使命を受けた訳では無い。単に小人族の信仰に修正を入れて欲しいと頼まれただけだ。大したことでは無い。


『あ、客観的に見たらこれダメなやつじゃね?』


 セルヴァンとのやり取りを最初から思い出したら実は使徒と呼んでも間違いでは無い事に思わず心の中で自分でツッコミを入れてしまう。事実だけ見たら十分神様の御使いだ。


 それでもやはり自分はそんな大層な物では無い筈だ、と言うのがクリンの言い分だ。そんな大層な立場の人間なら何でこんなに苦労しているのよ、とそれに限る。それに本当に使徒であるのなら今回の様に人生をやり直すかどうかの選択など与えられていない筈だ。


「お隠しになられなくても、今の光景を見れば使徒様だと言う事は解ります」

「……今の光景?」


 嫌な予感を覚え、出来れば聞きたくないと思いつつもつい聞き返してしまう。


「貴方様が祈りの言葉を上げてから、突然その神殿が輝き出しました。貴方様は気が付かれていないようでしたが、数秒程光っていたのをこの場の全員が目撃しています。そんな現象が起きるなど聞いた事がございません。これぞ貴方様が使徒と言う証左です」


 やはりろくでもない理由だった、とクリンはげんなりする。光っていた数秒というのは恐らくクリンがセルヴァンの元に呼ばれていた間の事なのだろう。


『何してくれてんですかセルヴァン様! 好きに過ごしていいとか言う割にそんな神の奇跡みたいな真似されたら超絶目立つ所じゃないんですけど!』


 と、心の中で歯ぎしりするクリン。何故だか知らないが少年の脳裏には、


『いやぁ、現世に権能を使うの超久々だから加減間違えちった! テヘペロ』


 とかやっているこの世界で一番偉い神(時空神)の姿が浮かんでいたりする。


「そして、貴方様が時々口にする『この世界』と言う言葉です。まるでこの世界とは元々関りが無かったような口ぶり。そして我らでも知らない様式の祭典。神によって遣わされたのなら説明が付きます」

「……ああ、そこも合わさっているのね……」


 迂闊な発言をキッチリ聞き取られていた事に思わず手の平で顔を覆う。小人の長を始めとしてこの場の全員が尊い物を見るような目でクリンを見ている。このままでは生き神様にでも祀られてしまいそうな勢いである。


「このままじゃどう考えてもマズいよね……本当は誰にも言う気は無かったんだけど……仕方いよね、このままじゃどう考えても僕の自由は無くなりそうだし」


 ここまで神との繋がりを見せつけてしまったら仕方ない。と、クリンは自分の事を話す決意を固める。


「本当に、僕は使徒とかそういうアレでは無いんですよ。単に前世の記憶ってヤツがあって、その前世がこの世界ではなく別の世界だった、と言うだけであとは普通の人間です」


 と、小人達に自分が転生者である事を明かす。古き時代からのセルヴァンの信者であるのなら、寧ろ全て話す方が納得してくれるのではないか、と言う思いもあった。





「成程。転生などと言う話は俄には信じられませぬが……しかし言われてみればセルヴァン神が司るのは時空。こことは別の世界と接触出来るのも、その世界の魂を運び入れるのも出来るのが道理と言う物。確かに、貴方様の話の通りならば使徒様と言うよりも移住者と言うのが適切かも知れませんな」


 長々と説明した所、小人の長は使徒では無い事は納得してくれた様だ。だが、転生と言う概念が今一理解出来ていないらしく、クリンの事は別の世界から神に呼ばれて移住して来た人間、と言うような存在になった様だ。


「つまり、貴方様が執り行っているこの神事は本来別の世界の様式である、と言う事ですな? 道理で独特な様式である筈です」


「ええ、実はそうなんですよ。文言は一応こちらの世界に合わせて変えましたが技法自体はそのまんまですね。やっぱりマズかったですかね? このやり方は止めておきますか?」


「いや、それは大丈夫だと思います。貴方様が彫ったセルヴァン神の像が光ったと言う事は、この方式の祭事を認めたと言う事でしょうからな」


 と、小人族の長はソコには太鼓判を押す。流石にクリンが先程までセルヴァンに呼ばれていた事は教えていない。教えたら話がややこしくなるだけなのでソコは黙秘である。


 結果としてクリンの祈りが通じた為に光ったと言う解釈をしてくれた様だった。


「セルヴァン神が認めた神事です。コレで我らも安心してこの祭事を執り行えると言う物。改めてこの方式をお教えいただき、我が種族全体に広めたいと思う次第です」


 使徒扱いは無くなったが、代りに伝道師としての扱いになった様だ。


「……まぁ、それなら使徒よりはマシか……あ、そう言えば一つお伝えしておくことがありました」


 クリンがそう言うと、小人族の長は首を傾げるので、


「実はセルヴァン様から『ライ麦粥はもう供えなくても良い』と言う……ええと、この場合なんて言えばいいんだ? お告げ、そうお告げがあったんですよ」


 と、伝えたのだが——その瞬間、小人の長はこの世の終わりの様な絶望の表情を浮かべ、他の小人達も同様の表情となってしまったのだった。


「そ、それは……我らの信仰が否定されてしまったと言う事でしょうか……」

「そ、そんな大げさな! そうではなく単にマズ……いえ、そうじゃなくて、ええと……」


 余りにもの落胆ぶりにクリンは慌てて否定するが、結局は上手い言葉が見つからず狼狽する。


 どうやら小人達にとっては長年続けて来た供物を取りやめて良いと言うのは、自らの信仰が間違っていて拒否されたのと同義らしかった。


『ええい、面倒なっ! 確かに前世でも信仰対象から供物を拒否られるってそういう意味になるらしいけどっ! この世界でもそんな所まで網羅しなくていいじゃん!』


 コレだから宗教関係は面倒なので踏み込みたくないんだ、と気楽に『ライ麦要らないから上手くとりなして』と言ってくれたセルヴァンを恨めしく思うクリン。


「い、いや、要らないと言っている訳ではない様ですよっ! ただ、皆さんが事ある毎にライ麦粥を供えてくれるので、負担になっているのではないかと言う、セルヴァン様の心遣いなんですよ、きっと! ……知らんけど」


「そ、そうですか……確かに我らはライ麦を栽培している訳ではなくあくまでも人間からの貢ぎ物としてでしか手に入らない物なので、貴重品ですからお心遣いは大変有難いです。ですが……そうなると我らは何を供物として捧げればいいのか……」


 クリンがとりなしても肩を落としたままそう言われ、どうした物かと思わず右手で頭を掻きむしる。


『ええい、マジで面倒臭っ! 長年受け取っていたんだからマズい位我慢しましょうよセルヴァン様! つうか僕の主食がマズイとかそれはそれで酷くねぇ!? いや、確かに旨くは無いんだけれどもっ!』


 どうした物かと頭を悩ませたが、考える内に段々面倒臭くなり、こうなったらセルヴァンにも責任を取ってもらおうと不穏当な事を考え、無理矢理取り繕った笑顔を顔に張り付けて小人達に告げる。


「皆さんが普段からライ麦粥を供える事にセルヴァン様は心を痛めている訳です。ですからどうでしょう? これからは特別な時だけライ麦粥を供えると言うのは?」

「……特別な時とは?」


「僕はコチラの世界の習慣は知らないので詳しく言えませんが、例えば誕生祭とか新年祭とか葬祭などの、そう言う大きな行事の時だけに供えるとかすれば、皆さんの負担も減るのではないでしょうか」

「……はぁ、成程。それは良いかも知れませんが……しかし今まで毎回供えていた物を減らすと言うのはやはり……」


「そこで、です。特別な時に供えるのですから、特別なライ麦粥を供える、というのはどうでしょうか? それなら貴方達の負担にもならず、且つセルヴァン様への信仰にもいい影響がでるのではないでしょうか」


「特別な粥……ですか。確かに言われてみれば今までの粥は我らが普段食べている物をそのまま捧げていただけです。特別な神事に特別な粥……それはいいかも知れませんな!して、その特別な粥と言うのは一体どういう物で?」


「そうですね。何種類かありますが、先ずはその内の一つをお教えしましょう。これなら神に捧げるだけでなく、小人族皆さんの特別な日に食べるご馳走としても使える筈です」


 と、クリンは依然と顔に嘘くさい笑みを張り付けながら小人達に宣言する。


『元々セルヴァン様が旨いだのマズイだの言うから話が面倒になったんだかんね。神様なのに好き嫌いしちゃぁいけませんよねぇ。人のご飯をマズイと言い切ってくれたんですから、精々旨いライ麦をタラフク食わせてやろうじゃありませんか』


 ケッケッケッと、腹の中で黒く笑いながら顔には聖人の様な笑みを張り付けたままクリンは思うのであった。





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病気で好き嫌いなんて出来なくなった人間で、しかも現在進行形でライ麦粥食って喜んでいる人間に、そんな頼み事したらこうなるよね。


例え神様でもお残しは許しまへんで!

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