第185話 二度目の神との邂逅。


遅くなりました。調子乗って書いていたらくどくなっていたので添削に時間がかかりました(;´Д`)


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「最も、それだけではダメだけどね。それでいいのなら大規模神殿なら毎回介入できる事になってしまうからね。数もそうだけど信仰の質も重要になってくるんだよ」


 セルヴァンが言うには、ただ信仰されるだけではなく如何に敬虔な信者が多いのかも重要であり、他にも祀る神の性質も関係してくると言う。


「我らが力を現世で顕現させるには……そうだね、君の元の世界で言う所の『神気』とでもいう物が必要でね。それが高まった状態か元から濃い場所が必要だ。他にも起爆剤となる存在……所謂『徳の高い人間』ってヤツだね。それが必要になって来る」

「はぁ……と言う事は小人達の祈りと小人の長が居たから僕を呼べた、と」


 納得したようにクリンが頷いているが、当のセルヴァンは『何を言っているんだコイツ』みたいな顔で見て来たので、首を傾げていると、


「ハァ……徳が高い人間って君に決まって居るじゃないか」

「はい!? ええ、何処がです? 僕は結構世俗の欲塗れの自覚があるんですが!?」


「あのね、衛文もりふみ君……いや、クリン君。気が付いていない様だから言うけどね、君、普段の生活をよ~く振り返って見なさいよ。あれ、ほぼ修行僧がやる生活だからね?」

「えっ!? 何で!?」


「生まれた時——と言うか転生した直後から殆ど食事を摂らず粗食に馴染み、自然に近い場所で暮らし、衣食住を全て自力で賄い食料も自分で探すか作る。そして足りない分は労働を対価として喜捨を得る。必要以上に布施を要求していないからね、清貧の行からは外れていない。そして今もほぼ生活で必要な物は自ら作り出し自ら手に入れた物だけで生活すると言う、実に世俗から離れた清貧かつ質素な生活だ。しかも居住地は大自然のど真ん中もいい所の森の中で一人暮らしと来た。どこの神官の修行だよって思わないかい?」


「……あ」


 言われてみれば、と思わなくもない。修行僧になる者は幼少期より親元を離れて修行に入ると言うが、クリンはそもそも親が居ない。拾い先はアレだったので尚更だ。


 そして神職は朝早くに起きて労働に勤しみ、夜遅くまで修行をする。クリンも日が昇る一時間以上は早く起きるし起きないと何されるか分からないので必死だ。そして三歳から過酷な労働をさせられ、深夜に生きる為に森に入り食料を探している。ある意味深夜の深山修行と言える。


 更には街に出て人々の仕事の手助けをし、対価として日々の糧となるつつましい金子を得て街で暮らす、と言うのも神官の修行にはある。


 二番目の村でのクリンは正にその状態だ。普通ではありえない金額での労働に対価のおかしい鍛冶作業だ。しかも夏場に鍛冶作業など火行と言ってもいい位だ。


 そして人里を離れた山林で単独で暮らすのも神官の代表的な修行の一つ。


 現在のクリンは町から一時間以上離れた原生に近い森の中で一人で生活している。


 クリン自身はお気楽に森の中で木工だ鍛冶だと好き勝手にアレコレ作って楽しんでいるし、街で制作物を売ってお金を稼いでいるが、総じてみれば、クリンのやっている事は全て自給自足で必要最低限の金を稼ぐための商売であり、ほぼ過酷な修行僧のそれだ。


「…………言われてみれば…………」

「挙句に君、スキル上げと称して神像をアレだけポコポコ作っているんだよ? しかもモデルにしているのはこの私だよ? そりゃぁガッツリと徳は溜まるし君を呼べる程度の神気も集まるって物でしょう」


「お、おう……確かにそう言われると修行僧みたいな事しているね僕!?」

「付け加えるのなら、元々君はが目を付ける程の魂の持ち主だよ? そんなのが修行僧ばりの生活した挙句に古来よりの信者の祈りを集めたりしたら私が干渉出来るのも当たり前だね。そう言う意味でも君は『持っている』よね、クリン君」


 そのつもりは全く無かったのだが、望むと望まぬとに関わらず呼ばれる下地は自分でバッチリ作っていたのだと気が付いて愕然とする。


「おっと。それでもあまり関係無い話をしている時間は無いかな。が俗世に干渉すると言うのはそこまで高い徳をもってしても制約が厳しいって事でもあるからね」


 どうやらこの邂逅には時間制限があるらしい。本当はもっと愚痴を言いたかったのだが、突然の事に説明を受けてしまった為に余計な時間が掛かってしまっていた。


「色々と言いたい事があるだろうけれど、悪いが今はそれを聞いている時間は無いかな。今回君にこのタイミングで来てもらったのは、君に『選んでもらう為』さ」

「……選ぶ、ですか?」


「そう。君に頼んでこの世界に転生してもらった訳だが……望んだ訳ではないが当初とは違う形で君はこの世界に転生してしまった訳だ」

「随分と聞いていたのとは違う状況で楽しくて仕方がないって思っていたのは事実ですね」


「うん、君の嫌味は相変わらず鋭いね。そこで……君、この機会にもう一度生まれ変わる気はないかい? 今この時であるのなら、君のコレまでの人生を取り消して新たな生命として改めてこの世界に生まれ変わらせる事が出来る」

「それは……今死んで新しく生まれ直さないか、って話です?」


「う~ん、厳密には違うけれども……君的には同じ意味かな。クリン・ボッターとしての存在をこの時点でいったん消して、新たな命として——今度はゲームの体では無くこちらの世界の生命として、と言う形になるが——生まれ変わると言うのはどうかな、とね」

「それは、あの親になる予定だった人達の、本当の子供として生まれると言う事ですか?」


「残念ながらそれは違う。彼らはもう君との縁は切れてしまっている。既に彼らは自分達の運命を進んでしまっている。今更介入する事は出来ない。少々時間が掛かるが君の器たり得る依り代が生まれるまで待ち、後にこの世界の輪廻に加える事になる。その際君の……藤良衛文ふじよしもりふみとしての記憶は成長と共に蘇る様に細工はできる。だが、この世界で六年生きたクリン・ボッターとしての記憶は残念だが消える事になるね」


「そうなってしまいますか……所で、何で今回は輪廻に組み込まれるのです?」

「うん……説明したい所なのだけれども、結構長くなるよ。君が選択する時間を考えたら余裕がなくなるだろうから、今回は『そう言う物だ』と割り切ってもらえると助かる」


「はぁ。そう考えるのは得意ですが……まぁ、つまりはこのまま生きるか、一度リセットして最初からやり直すか、の機会が与えられたって考えればいい訳か」


「そうだね。元々君の今生は私にとってもイレギュラーの連続だからね。この先どういう人生を送るのか私にも全く分からない。明日にでも不慮の事故が起きて君が死ぬ可能性もある。ここで生まれ直すのなら、少なくとも成人——こちらの世界では無く前世の成人年齢——の一八歳までは確実に成長できるだろう。私としてはコチラを選んでくれると助かるのだけれど。予定が狂ってしまった手前、選択は君に任せたいと思うんだよ」


「成程……もしかしてですが……生まれ変わりを選んだ場合、それは『いつ』になるのでしょうか。話しぶりからするとこの直後って訳では無さそうですよね」

「うん、コレまで見て来たから分かっていたけど、中々鋭いね。君の魂が宿れる程の器が自然に生まれるとなるとそう簡単ではないから、直後と言う事は無い。早くて今より十年後……遅くても二百年位後になるかな。それ位あれば器が生まれる可能性が高い」


「そうですか。ではこのままでいいです」


 セルヴァンの言葉を聞くなり即答するクリン。流石にセルヴァンにもそれは予想外だったらしく、目を白黒させる。


「……本当にそれでいいのかい? 私としてはもっと真剣に考えて……」

「折角あそこまで色々と作れる様になったんです。今更それを無かった事にされるなど、それこそ考えるまでも無く却下です」


「いや、しかし生まれ変われば、今度はちゃとした親の元に生まれられるよ? あんな修行僧みたいな生活をしなくても、六歳……では流石に無理だろうけれど、此方の世界の成人を迎える頃には十分クラフトも出来る様になっている筈だよ?」

「確かに、今の様な孤独な生活と違って、親のいる生活が出来るのでしょう。今までの様に人に疎まれたり農奴扱いを受けたりする事も無いのかもしれません。ですが……」


 クリンはチラリとセルヴァンに視線を向け、自嘲じみた笑みを浮かべる。


「セルヴァン様が何度も僕の事を『持っている』といいますが、その『持っている』僕が生まれ変わった程度で予定通りの生活送れると思います?」

「ああ、うん。その通りだね。でもその為に輪廻に組み込んで、君の特性を記憶が戻るまで封じようって話なんだよ。そうすれば君も予定通りに……」


 と、セルヴァンはそこまで言って見た物の頭の中で、

『いや、無理じゃね? それで押さえられるなら最初から予定通りに拾われていた筈』


 とか、つい思ってしまっていた。


「それに折角生産スキルが幾つか身についてクラフトが面白くなってきた所です。まだまだ設備が足りませんが鍛冶場も作って、拠点も苦労して整備している最中です。そして、街には何人か関りが出来た人も居ます。前の村にも……まぁそれなりに忘れがたい人も居ます。そして新たに小人族なんてファンタジー代表みたいな種族と知り合ったばかりです。六年程しか生きていませんがそれでも無かった事にするには惜しいです」


「そうか。しかし、そう言う出会いも新しい人生でも得られると思うよ?」

「そうかも知れません。ですが……失礼ですがセルヴァン様が選んだ新しい人生で、成人するまでの間に『退屈だなぁ』と呟いている自分が想像できてしまうんですよ」


 と、そんな事を言うクリンにセルヴァンは思わず笑ってしまう。自身も以前少年の生活を覗いた時にそう思ってしまっていたからだ。


「確かに今は親も居ないですし頼れる人とか守ってくれる人とかいませんが、相談に乗ってくれる人はいます。そして僕が何を作っても止められる事はありません。誰も助けてくれない代わりに僕の自由に生活できて物を作る事が出来ています」


 そう言って、クリンはすがすがしい笑顔をセルヴァンに向ける。


「僕の前世を見たのならわかると思いますが……僕って結構、『自分の人生は自分で切り開く』って言う生き方が嫌いじゃないんですよ。寧ろ大好きな性質なんです」


 前世は正にそんな生き方をして来たのが藤良衛文ふじよしもりふみと言う人間である。体が動かなくなる病気でそれに逆らう様に体を動かす事を網羅し、動かなくなってからは動く部分、主に頭を使ってやりたい事をやりたい様に生きて来た。そして宣告された余命よりも長く生き抜いて見せた。


 それが最悪な環境で生活する程度の事で生まれ変わる事を願う訳が無い。『話が違う』と文句を言いつつも結局は自分の力で切り開き生き抜いてきた。そんな自覚と自負がある。


 振り返ってみれば、実は意外と脳筋チックな暑苦しい子供だったりするのが今のクリン・ボッターと言う少年である。


「そうか、やはり君はその道を選ぶか。折角安穏とした道を示しても、自分が進み出した茨の道を好むんだねぇ……まぁ何となく分かっていたけどね? 君って結構頑固でへそ曲がりで人の言う事を聞かないタイプだもんね」


 溜息交じりにセルヴァンがそう言うと、クリンはニンマリとした笑みを浮かべ——


「それは最高の誉め言葉って奴ですよセルヴァン様!」


 ——何時かの時と同じように、そんな言葉を言って見せるのだった。






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神との邂逅ではこのセリフを使っての落し方を絶対にしよう、と考えて居たりしました(笑)


まぁ、そのせいでクリン君がこの時までに修行僧の様な生活をする事が確定してしまった訳なのですが(笑)


ライ麦粥食って修行って結構宗教的に多いのよねぇ(笑)


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