第182話 世界が変わっても古典と言うのはそんなに変わらない物らしい。
またまたお待たせして申し訳ないです。
切りの良い時間に予約投稿ともおもったのですが、折角書きあがったのでたまにはこう言う時間の投稿もしてみようかと(笑)
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壮大な様でそうでもない様な、そんな微妙な話をクリンは腕を組みながら聞いている。過去の経緯は解ったが、それが『古き盟約の儀典』とやらと、ひいては自分と一体何のかかわりがあるのか、と考えて居るのを他所に小人族の長は言葉を続ける。
「古き盟約の儀典とは一種の条件付けです。特定の行動を取る物には危害を加えるな、と言うのが根幹です。友好の証として人族は我ら小人に貢ぎ物を用意する。我ら小人はそれを用意する人間に対して友好的に接する。困って居れば助け、貧じていれば富を分ける。それにより、人間と小人は友好的な関係を築きました。……暫くの間は、ですが」
「暫く?」
「はい。戦争が過去の物となり、人族が代を重ねる毎に徐々に仲を違う様になっていったそうです。やはり人間にとって我ら小人と言うのは珍しい物であり、愛玩としての価値が高いらしいのですな。更には人族に我ら小人が居ると幸運をもたらすと言う迷信が広がりましてな。盟約の儀典を悪用しておびき寄せて捕らえる様になったそうです」
「ああ……そういや童話でも小人とか妖精が居ると幸運があるとかなんとか……あれ、でもあれって『丁重にもてなせば』って条件が無かったっけ?」
「お詳しいですな。その通りです。と言うかやはり儀典に通じておられるのでは? まぁ実の所我らに運を運ぶ力などありませんな」
小人族の長はそこまで言うと、軽く咳払いして続ける。
「人間と決められた盟約により『人族は小人族が必要とする食料、道具などを用意する。小人族はそれを受け取る代わりに、毒物や強奪行為を止める』……まぁ人族にとっては悪戯感覚だったのですが。そして対価として貢ぎ物をする人間に必要な物を与える。金銭であったり労力であったり紛失物の捜索および返却などが主ですな」
長によれば、その手順としてまず家の高い所、主に棚や机の上等に麦か麦で作られた加工品、エールやパンなどを置く。特にライ麦を好み、ライ麦由来の物を特に喜ぶとされている。若しくはミルクかクリーム、ハチミツなどを窓辺に置く。それらは小人族の好物であり、それを置いてある家からは自由に取って行って良い代わりに、その家に対しては様々な手助けをしていく。
特に多いのが職人仕事の手助けだったらしい。職人仕事はドワーフが有名だが実は先天的に器用な小人族も職人仕事、特に布と革の扱いに長けておりそれらの仕事をする家の場合は作業を手伝ったりもしていたらしい。またドワーフ程ではないが鍛冶仕事も熟す。
そして作業で余った端材を報酬として受け取る。そう言う関係が出来ていたらしい。
「あ……ああ! そう言えば海外の童話とかお伽話だとそんな話が良く出て来てたなっ! 飲み物を窓辺に置いておいて自然に倒れても怒ってはいけない、それは小人に捧げた物としてむしろ喜ばしい事だ、みたいな! 確か靴屋とかも寝ている間に仕事してくれるってのもあったし……鍛冶屋も知らない間に鉄が鋳造されていて、でも時々端っこが欠けているのは、手伝った小人が駄賃として持っていくとか! そんなのがあったよなぁ!!」
クリンは自分の小屋の神棚を思い浮かべながら『ああ……棚と言われれば棚だよね。神棚言う位なんだし』と、思い到る。そして神棚に捧げた供え物を卸す際に、土をくり抜いただけの窓脇に、確かに掃除する間置いておいた事が何度もある。
「そうか……確かに言われてみれば
「確かに、現在では儀典を知っている人間が減ってしまった為に、貢ぎ物を置かない人間の家からは盗む事はあります。しかし、貴方様の様に……偶然だった様ですがちゃんと貢ぎ物を置く家からは盗んだりしません。貢ぎ物を取る代わりに対価として清掃をしたり貴方様の作業の手伝いをしたりしております。儀典に則った正当な行為であります!」
流石に盗んだと言われてはムッとしたようで、やや語気が粗くなる小人族の長に、クリンは「それは申し訳ありません」と謝罪をする。
「でも、だとしたら何で最初の頃は供えた物を持って行かなかったんです? そちらを持っていく分には、鳥とかリスとかが入り込んで持って行ったと思うかもですが、流石に元の備蓄場所から持っていかれたら気が付くでしょう」
「……普通は気が付きませんな。と言うか気づかれる様な量は持って行かなかったつもりなのですが。実際ここ数百年我らの仕業と知られた事は一度も無い筈なのですよ。貴方の眼力は少々良すぎますな」
「いやぁ、はっはっはっ。それ程でもないですよ。職人ならこれ位出来て当たり前ですよ。HTWでは目見当と手の感覚だけで体積と重量を計らせたりしてきますからね」
「……人族にもその様な技を身に付ける者が居たのですな。それは知りませんでした。これからはそちらにも注意を払いましょう」
何やら誤解が広まったようだが、考えてみればこちらの世界の職人でも同じ事が出来る者が居ても不思議はない。そういう連中を量産しようとゲームに取り込んだMZSが変態過ぎるのは事実だが。
「元々は、我らもこの様な用心をしていた訳では無いんです。貢ぎ物があれば直接姿を現し礼をして、必要な手伝いが何かを訪ねていたのですが……先ほども言いました通りに、その習慣を悪用して我らを捕らえる人族が増えまして。しかし、全体がそうでは無く儀典に則った作法で行う人族も居ましたし、習慣と化したのか単に儀式として行う人間もいました。ですので、我らは用心の為に貢ぎ物を置く家とその家の人間以外とは接触しない様になりました。そして貢ぎ物を置く家でも直接受け取る事はせず、集積してある場所から気が付かれない量を受け取る、という形にしたのです」
儀典を知っている家ならそれでも貢ぎ物を捧げ続けるし、小人達も続ける人間なら対価として仕事を手伝ったり清掃したりと、古き盟約の儀典通りの行動を取る。
万が一小人達を捕らえる罠だったとしても、姿を見せなければ人間はやがて諦めるし、捕らえようとしない人間は最初から小人達の事を気にしない。「そういう盟約」だからだ。その様な経緯で、今は直接接触するような事はほぼ無かったそうだ。
「成程。事情が事情ですから用心するのも解りました。でも、それなら何で今回僕の前に姿を現したんです? 貴方達の存在には……『何かが居る』程度にしか気が付いていなかったので、幾らでも誤魔化せたのでは無いです?」
「それはですね……幾つか理由が重なった結果です。先ず第一の理由、それは……」
「それは?」
「貴方様が我々の大好物であるライ麦を毎日貢ぎ物として供えていた事です!」
「……は? え、ライ麦!?」
「はい。我らは穀物は全般的に好みますが、特にライ麦に目が無いのですよ。今の人族は大麦や小麦を供えるのですが……我らは太古の時代よりライ麦を食してきた種族でしてな。大麦や小麦、オーツ麦や黍なども悪く無いのですが、ライ麦には及びません。しかしどういう訳かここ数百年は人族はライ麦をあまり供えなくなったのです」
「ええ……こっちの世界の小人もライ麦派なの!? 何だろこの類似性……」
前世(地球)でも伝承やお伽話に登場する小人の多くがライ麦を特に好むとされている。特にライ麦粥を大好物とし。小人に幸運を運んでほしければライ麦粥を供えよ、と言う逸話がある程である。まさかこの世界の小人にもその習性があるとは思わなかったクリンだ。
「そして第二に、貴方様が時空神セルヴァンを祀っており、かつ姿を写した像を彫って奉っている事です。しかも時空神の好物であるライ麦までちゃんと捧げている! 様式こそ異なっていますが要点は的確に押さえています。恐らくこの様式の正式な手順を学んでおられるに違いありません」
「ええ~ここでセルヴァン様に繋がるの!? まさかのライ麦繋がり!? って……ああ!! そう言えば
西洋圏の古代宗教に登場する神にはライ麦が関わる事が多い。ケルト神話に登場するダグザと言う神は麦粥が大好物で、その麦粥とはライ麦粥の事とされているし、ドイツ近隣では豊穣の女神が人間にライ麦をもたらした、ともされている。そして日本書紀でも亡くなった女神の股から穀物が五穀が生まれ、現代では麦とされているが原初はライ麦の様な物だったという説もある。
だが、それが何で小人族の信仰に関わるのかはイマイチ判らないでいると、小人族の長は穏やかな笑みを浮かべながら言う。
「我ら小人族は原初の時代には神の眷属だったと言う伝承がありましてな。時空神セルヴァンに仕えてかの神のお世話をさせていただいていたそうなのです。後の時代、この大地に生命が溢れて以降は役目を解かれ、この地の生命として生きる事を許されそれが我ら小人族の始まりだとされています。その為、神の園を辞した後も時空神に対する信仰を保ち続けていると言う訳なのですよ」
「ははぁ……成程、意外と壮大な繋がりがあったんですねぇ。え、でも元々信仰していたのなら別に僕に祭事の事聞く必要無く無いですか? 元々の奉り方をすれば宜しいだけなのでは?」
「それがですね……先程述べました通り、我らの先祖は遡れば神話の時代に繋がる程に古い種族なのですよ。そして我ら種族の気質として、結構その場の勢いとノリで生きている事が多いのですな」
「……何だろう、とても親近感が湧く気質ですね、それ……」
「まぁ、聞こえの良い言い方をすれば状況に柔軟に順応する、と言う事になります。ですので、原初の時代に確立した神事が時の流れで大きく変貌してしまっているのですよ。加えて原初の時代は偶像を作ると言う行為は恐れ多いとされていまして、時空神に限らず神の御姿は口伝のみで伝わっており遥かな昔に色々と混ざって失伝してしまっています」
「成程。歴史の古い種族だとそう言う事も起きうると言う事ですが……それじゃ今はどんなお祈りをしているのです?」
「時空神様への祈りですか? それは時間と空間を司る神ですからライ麦やライ麦で作ったパン、エール等を供えて空に向けて祈りをささげる程度です。定まった文言も失伝していますので思い思いに感謝を述べると言う形です。古き時代ですと夜明けに全裸で空に向けて体を晒し潔白である事を示す、と言うような方法も取られたらしいですが……その、人に見られると色々とありますので現在ではやる者は居ませんな」
「まさかのトーマススタイルだった! ああ、いや別にあれは祈りじゃなくて趣味だった(彼の名誉の為に言うと別に趣味では無い)な! でも夜明けに小人の集団が空に向かって全裸で立っていたらそりゃトラウマになるよねっ!」
「そんな訳で、我ら小人族の間では長らく時空神の奉り方が個人の裁量次第であり、決まった様式と言うのがなかったのです。そんな折、貴方様が時空神の御姿を像として彫り、かつ見た事も無い様式ですが、確かな儀典に則っていると思われる方式で祈りを捧げているのを見受け、是非とも我らには失われた正式な時空神セルヴァンへの式典をお教え願いたい、と言うこれが三つ目の理由です」
小人族の長はそう言うと居住まいを正してクリンに向き直り、
「お願いします。是非ともお教え願えないでしょうか」
と深く頭を下げ、それに習う形で後ろに控えていた小人族も頭を垂れるのに、クリンは困った顔で暫く見返すのであった。
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この世界の小人は、原点に限りなく近い性質である事を意識しています。というか、私個人が子供の頃に西洋の童話やファンタジー小説などを読み漁った口なので、
「小人と言えばこうだろ」
と言うテンプレを何の疑問も無く伏線として色々突っ込んでいたんですが……うかつにも「いや、日本人だと普通知らないんじゃね?」と言う某友人のツッコミにこの時初めて気が付きまして(笑)
こりゃ説明しないとダメだろ、と慌てて文章を考えた為に整合性を採る為に非常に苦労しました(笑)
思い込みと言うのはやはり良く無いですねぇ(笑)
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