第177話 ボッタクリと言えばやはりコレでしょう。


そう何度も遅くなっている訳にはいかないので頑張って時間通りに書きあげました!


……って言えればいいんですが、単に昨日昼寝のつもりが夜の10時までガッツリねてしまって眠れなかっただけなんですよね(´_ゝ`)




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 翌日。早速クリンは「アレ」を作る準備に取り掛かる。とは言え何時もの様に最初から作れる訳ではなく例によって「作る為の道具」から作る必要が在る。


 まぁ最低限は既に作ってあるので、新たに作らなくてもそのまま制作出来ない事も無い。しかしどうせ後で必要になるし、そこまで鉄を使う物でもない。この際作ってしまおうと考えたのだった。


 クリンがこれから作ろうとしているのはタガネとノミ。そしてそれらが必要になる「アレ」とは刻印だ。


 元々HTWでも製作者を示す為に、制作物に刻印を入れる習慣があった。と言うよりも、アイテム名に作者の欄がありそこに名前が自動で入るのだが、デフォルトの仕様だと○○の短剣とか○○の斧と言った、最初に制作者の名前が付いてしまう。


 クリンが作ったのなら「クリン・ボッター」の短剣と言う感じになるのだが、ぶっちゃけダサい。クリンの場合はまだ普通に名前だから良いが、ゲームだからと適当に名前を付ける奴もいる。有名なのは「あ」と言うプレーヤーで、そのプレーヤーが作ると「あの短剣」となってしまう。どの短剣だよ! とツッコミが殺到し後に一文字だけの名前は使えない様に修正が入ったのはHTWでは有名な話だ。他にもワザと卑猥な名前にして特に女性プレーヤーに制作した物を送りつけて喜ぶ変人も現れ、これも規制されてしまった。


 余りにも無軌道になったので名前を直接付けるのではなく「銘」を刻む方式に変更がされてしまった。


 この銘は、現実の刀工や陶工の様に予め登録された名前が刻まれる様になるシステムで、以前の様に直接名前が入る事は無くなるが、一種のデザイン的な扱いでそれぞれの制作物に刻印される。この時名前以外にもイラストなども登録できるようになっており、その銘の登録にクリンはクリン・ボッターズの名前と共に招き猫をモチーフにした、招く手が親指と人差し指で輪を作る、所謂銭寄越せサインにアレンジした物を自身の銘として制作物に刻印していた。


 この世界でもその「銭寄越せ招き猫」を己の制作物の証として刻印してしまおうと考えたのだった。


 今メインで作っているのは木工品なので、焼きゴテに刻印して焼き付ける形にしようと思い、今あるタガネ一つではデザインしにくいので、何種類かのタガネを増産してしまおうと言う訳である。


 加えて何れ焼き物を作る際に使う刻印も何れ作るので、彫刻が出来るようなノミも何種類か追加で作ってしまおうと思っている。コチラは木工にそのまま使えるので商品制作の為にも必要になって来たと言うのもある。


 その様な理由で先ずはタガネとノミの刃先作りからである。これらは前の村でも一度作っているので特筆する程の事も無い。


 こう言う物を何れ作るかも、と予め板状に伸ばしておいた鉄が束で作ってあるので、それを炉で温めて金槌で成形するだけである。


 今のクリンなら二日もあれば五種類ずつ、計十本のタガネとノミの刃先は作れてしまう。ノミの柄にする木の加工をして組み合わせたとしても三日はかからない。


 そして早速出来たタガネを使って鉄板に「銭寄越せ招き猫」のデザインを刻んでいく。アップデートにより刻印のデザインは五種類まで登録できるようになっており、クリンは登録していた中でも特に好んで使っていた、丸っこくデフォルメしたデザインをタガネを駆使して器用に刻んでいく。


 そして刻み終えたら棒状に伸ばした鉄材と鍛接させて柄とし、持ちやすいように木の柄に差し込めばそれで完成だ。


 早速出来たばかりの刻印を炉の炎で軽く炙り、商売で使う予定のカップの裏に焼きつけて行く。


「うん、ちゃんと『銭招き』の形に見えるな。これなら偽物を持ってこられても一発で判るだろっ!」


 銭招きはクリンがデザインした銭寄越せ招き猫の略称だ。複雑なデザインだが模倣しようと思えばできなくはない。


 だが、たかだか銅貨十枚を誤魔化す為にそこまで労力を払う奴はそう居ないのでコレだけでも十分抑止効果がある筈である。


 取り敢えず商売に使う分と、次回から売る予定の木製食器の裏には全てこの焼き印を付けておいた。万が一偽物を持ち込んでクレームを入れられた時に落款代わりなるだろう。


 こうして前回の様なクレームをつけられた時の対策は済んだ。尚、この作業をしている間にも並行して家造りは行われている。


 やる事が目白押ししているクリンには一つの作業だけに一日を当てられる余裕はない。今は早朝と夕方に鍛冶作業や採取、食後に布や商品の木製食器作りをし、日中は家の建築だ。基礎と壁兼用の焼きレンガ壁の上に森から集めた細めの丸木を積んでいく作業をしている所だ。


 本当は角材とか板とかに加工した物を組み上げて行きたいのだが、生憎と手持ちのノコギリでは加工しきれ無いので、西洋の小屋等に多い丸木を使う形にしている。


 ノミが五種類作れたので、それまではただ良い感じに丸木を積むだけの予定だったが、ノミを使って接ぎ加工が出来る様になったので、加工に時間は多少取られるがそれでもサイズ的に使えなかった丸木も接ぐ事で使える様になり、材料的には大分余裕が出来た。


 そして、地味に助かったのが——正体不明のお手伝いさん達の存在だ。姿はサッパリ見せないのだが、クリンが出掛けている間や寝ている間に建築作業で出る木クズやゴミなどが綺麗に掃除されていたり、作業中に眠気に負けて道具の手入れをしないで寝てしまった時に代りに手入れがなされていたりと、一人で生活しているクリンには非常に有難い事をしてくれるようになった。


 その代わりライ麦の減りが目に見えて早くなったのだが、助かっている事に違いは無いので必要経費と割り切っている。


 因みに時々商売用に乾燥の為に干してある肉も少しだけ削り取って行っている様なのがご愛敬だった。


 露店の方は刻印を作った直後の時に、やはり他所のカップを持ち込んで騙そうとした奴がでたのだが、クリンが使用している物には全て刻印済みであったので直ぐにばれてしまい、これ以降は殆どそう言う言いがかりをつける者は現れなくなった。


 代わりに、


「へぇ、自分の商品に焼き印を付ける事にしたのか。あまり露店でそんな事をする奴の話は聞かないけれども、ボウズの場合は子供だからって舐められやすいもんな。意外と良い手かも知れないな。あ、そうだ。これから全部この印つけるんだろ? ならボウズから買った今までの皿とかコップにもこの印つけてくれないかい? もしボウズの商品が人気出て売れた時、この印が無いと偽物とされかねないからね。売る時の事考えたら付けておいてもらう方がいいだろ?」


 と、露店仲間で一番の上客になりつつある野菜売りのオヤジ——クリンがスープを売る様になってから毎回二杯買っている——がそんな事を言い出す。


「それは構いませんが……気が早い上に転売する気満々です!? 流石にそんなのに態々焼き印を押したくはないですねぇ」

「冗談だよ冗談! 折角使い易くて客からの評判がいいから売る気なんて無いよ! 最近はさ、結構この皿とかコップを何処で手に入れたんだ、って聞いて来る客がいるんだよ。だからその刻印を付ければ説明するのが楽になるんだよ」


「成程、そう言う理由なら是非もありませんね。宣伝にもなりますし、次に来る時には刻印を持ってきますからその時に纏めて押しますよ」


 と、クリンは焼き印をする事を了承する。流石に刻印を態々持ち歩くような事はしていないので、次の露店まで待ってもらい約束通りに刻印をしていく。


 都合よく汁物を販売する為に火を使っているのでその場で押してしまえたのは楽だった。しかしそれを見ていた、クリンから木製食器を買った事がある別の露天商の店主達が「ウチのにも押してくれ」と言い出し、更にはそれを聞きつけた一般の購入者も購入した木製食器を持って来て「こっちにも押してくれ」と押しかけ、気が付けば結構な大作業となってしまっていた。


 中にはそれらの人に紛れて関係ない木製品を持って来て刻印させようとする輩も混ざっていたが、それに対しては、


「馬鹿野郎、そんな明らかな粗悪品に刻印押されたらウチらの木製食器の質が疑われるだろうが! たかだか銅貨十枚せしめる為につまらない真似すんじゃねえよっ!」


 と、正規にクリンから購入した客達によって市場から叩き出されていた。意外と荒っぽい連中がこの場所に集まっている事にクリンが気付いた瞬間でもあった。


 こうして、詐欺を黙らせるために始めたクリンの刻印は、以降彼が作る商品の全てに押される様になり、クリン命名の「銭招き」はクリン印と呼ばれる様になりこの刻印がなされている物は品質が良いと言う噂が立つようになると、他の露店でも真似して刻印をするようになり、更に後にはこの通りが目抜き通りでは無く「刻印通り」と呼ばれる様になるのだが、それはもう少しだけ後の話である。




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こうやって見ると結構忙しいよなクリン……

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