第175話 開き直られたらもう認めるしかない事も世の中にはある。
毎度遅くなり申し訳ありません。どうにも最近筆が遅い上に、書き直したくなる病が発祥しています(笑)
いつも通りの時間に上げるのは無理かもですが、なるべく毎日投稿は続ける予定ですのでご容赦の程を……
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テオドラに教わった店で魔法薬(ポーション)を購入しその場で使用した。クリンはこの時まで知らなかったが、この世界の魔法薬は二種類あり、服用して内部からジワジワと治していくタイプと、患部に直接塗付して瞬時に治すタイプがあった。
前者は主に「どこが悪いのか分からないけれども体調が悪い」時に使われる物で、新陳代謝を促進し修復させていく性質らしく、服用タイプなのに怪我も一応治るのだが効果が全身に現れる為にピンポイントの怪我に対しての治りは遅い。
もう一つの方は外傷を瞬時に治すのだがそれ以外の場所は体内に既にある疾患などには効果がほぼ無い。
一応飲んでも効果はでるが、ほぼ口の中や胃、腸などの魔法薬が触れた部分にしか効果が無い。その為下痢止め代わりに飲まれる事もあるのだが、下痢にまで効果があるのはある程度質の高い物からで、それらは中級と言う分類になる。
安いポーションでは効かないので値段を考えたらそうそう下痢止めに使える物ではなく、クリンのなんちゃって正露丸が売れるのも頷けると言う物。
『そう言えばHTWでも瞬時にHPが回復するポーションと、継続で回復するタイプのポーションの二種類があったな。それと同じような感じなのかもしれない』
内心そう思いつつ、今回クリンが購入したのは外傷用の塗付するタイプで、その中でも中級に分類される物だった。値段はこの店の魔法薬は質が良い物だったのか銀貨三十枚持っていかれた。
普通の子供なら手が出ない値段だが露店でそれなりの稼ぎが出せているクリンには出せない事は無い値段だ。それでも痛い出費であるのは変わりない。
魔法薬を塗付したら物の数秒で怪我が塞がり、数分後には痛みも消える。
「うぅん……リアルでポーションの回復の様子見るとコレはコレでキモいよな!」
原理は良くは解らないが、塗付された薬品が淡く輝き周囲の魔素と反応して細胞を再生させている様な光景に、試用したクリンも若干引く。
だがこの効果なら確かに銀貨三十枚払う価値はある、と腕をグリグリと動かしながらクリンは思う。致命的では無いとはいえ矢傷を受けたら普通は一、二カ月は動かすのに難儀する筈だ。それが数分で傷が塞がり痛みも消えてそれまでと同じように動かせるのだから前世の知識のあるクリンからしてみれば不可思議である。
魔法薬で怪我を治したクリンは店主に礼を言い空きビンを返却(その場で返すと銅貨十枚戻って来る)し、店を辞した後テオドラにも礼を言おうと手習い所に戻る。
挨拶だけして帰る予定であったが、
「待ちな小僧。あんた自覚はない様だけど顔色が悪いままだよ。怪我自体は治っても錆鉄の毒(破傷風の事)は少し残っているのかもしれない。住処に戻るまで一時間以上かかるんだろう? 薬師を目指そうってヤツがそんな状態で帰ったらダメさね。仕方ないから今日はウチで休んでいきな」
不機嫌そうな顔で嫌そうに言われたが、この老婆なりに照れ隠しと言う奴なのかもしれない。彼女なりに心配していてくれているんだとクリンは思う事にし、
「薬師を目指してはいませんが……ですがお気遣いは有難く頂戴します」
本当は朝窯に入れた焼き物が気になって早く帰りたい所なのだが、何となく体が怠い感じはしていたので、言葉に甘える事にする。
結果的にテオドラの懸念は当たっており、クリンは夜には発熱していた。魔法薬で傷自体は治っても完全に毒素までは除去は出来なかったと言う事なのだろう。
「成程、ポーションも万能ではないって所ですか……そうか、こういう時の為に服用タイプも買えって事なのか……合計で銀貨六十枚、そりゃ簡単に使えないわなぁ」
半ば熱で朦朧とする頭でクリンはそんな事を考える。こういう時の為に解熱剤も作ってはいたのだが、狩りから直接街に向かったので生憎と小屋に置きっぱなしだ。
つくづく今日は上手く行かない、とボンヤリと考えて居る内にクリンは手習い所の椅子を並べてベッド代わりにした場所で、半ば気を失う様に眠りにつく。
次に目を覚ました時には何故か藁ベッドの上に寝ていた。どうやら寝ている間にテオドラが自分のベッドに寝かせてくれたらしい。
「おや、起きたんだね。全く、薬師になろうって癖に解熱剤も持ち歩かないとかなっちゃいないね。前にも言ったと思うけれど急患が出た時の用心に一通り持ち歩く位しな。そら、横の棚に解熱剤置いてあるから飲んでおきな」
「……ですから僕は薬師になる気はないんですが……」
どうやら近くに椅子を置いてそこに座ってクリンの様子を見ていたらしい老婆の言葉に、まだ熱の下がっていない少年はぼんやりとしながら返し、大人しく薬を飲んで再び藁ベッドに深くもたれる。
「ベッドまでお貸しいただいて申し訳ありません。御迷惑ですから椅子のままでも良かったのですが……」
「体調不良の小僧が変な気回すんじゃないよ。迷惑だと思うのならさっさと体調戻しな」
「……ごもっともです。しかし藁ベッドは久しぶりです……やはりチクチクガサガサして寝心地は悪いですねぇ。そして余り藁交換してないです? ちょっと匂います」
「人のベッド占領しておいて贅沢言うんじゃないよっ!? この時期なんだからそう簡単に藁なんざ変えられないさねっ! って、藁のベッドが久しぶりだって? じゃあ普段どんな所で寝てるんだい小僧?」
「勿論、自作のベッドです。まぁ敷布団も掛け布団も無いですが、代りに木の繊維を叩き出して籤にして編み込んであるのでクッション性はソコソコなので寝心地は良いですよ」
「ああ……器用な小僧だと思っていたが、そう言う芸当も出来たんだねぇ……しかし木のベッドだって? 街の住人よりも下手したらいい生活してるんじゃないかね、アンタ」
「それはもう。クラフトとは身の回りを快適にする為にありますから。敢えて不便な物を不便なまま使うなんてそれこそ気が知れません。快適に生活出来ないのなら快適に生活できる物を作るのがクラフターと言う物ですよ」
クリンはそんな返事を返すが、直ぐに熱で頭が朦朧としてきたようだ。直ぐに目をつぶって再び眠ってしまった。だが、その直前、
「そう……年寄りがこんな不便なベッドで寝ているとか……許せないねぇ……コレは僕に対する……挑戦だ……」
と、小さな声で呟いていたのだが……幸か不幸か、その言葉はテオドラには聞き取れなかった様子だった。
その日の深夜、とある森の深い場所に一際巨大な怒り狂ったファングボアが群を率いて姿を現し、その森で新しく集落を作ったばかりであったデミ・ゴブリンの集団に襲い掛かり——全てを皆殺しにして壊滅させると言う出来事があったのだが——それはクリンが預かり知らぬ事であり、既に関係の無い物語である。
翌日。テオドラの薬が効いたのか、はたまたクリンの生命力のお陰か、目を覚ました時にはすっかり熱は下がっていた。
礼代わりに朝食を作りテオドラに振舞ったのだが、
「薬は持ち歩かない癖にライ麦は持ち歩くとか変な小僧だねっ! と言うか何で態々家畜の餌で飯を作るんだいっ! また微妙に旨いのが腹が立つじゃないか!」
と、怒られたのだか褒められたのだか解らないお言葉を頂き、「念のためにもう一日位休んで行きな」と言うテオドラからの有難い申し出を断り、朝早くに街を発ち拠点にしている小屋に戻った。
小屋に変わった様子は無く、一日開けておいたにしては砂や埃が入っている形跡はなかった。外に出かける時の習慣になって隠している道具類もそのままになっている。いるのだが——
「………………いやいや、こんな建付けの悪い小屋でこんなに綺麗なままなんておかしいでしょ!」
思わず突っ込むクリン。隠しておいた道具類も、明らかに隠した時よりも綺麗に手入れされている。
そしてご丁寧な事にライ麦を貯めてある壷の上に乗せておいた、なんちゃって正露丸の匂いのしみ込んだ布は取り除かれやや雑ではあるが畳まれて横に置いてある。
そしてやはりと言うか、当然と言うかいつも以上にライ麦が目減りしていた。
「にゃろう……とうとう誤魔化すの止めたな?」
クリンもバカでは無い。と言うかこれ程用心深い——多少抜けた部分もあるが——少年が、何時までも気のせいで片付ける訳が無い。
薄々、この辺りに何かが居る事に気が付いている。ただ特に何か害がある訳では無く、何なら古鉄卸の時の様に手伝ってくれている様な痕跡まであったので、知らん振りを決め込んでいただけだ。
それがクリンが一日家を空けた事で、どうやら気が大きくなって来た様だ。
「ああもう解ったよ! 何が居るのか知らないけれど、ライ麦が欲しければ持って行っていいよっ! でもそれならコッチから直接じゃなく、あっちの神棚に捧げた物を卸しておくからそっちを持って行ってくれないかなっ!? 後コソコソと持っていかないで僕が居ない時に堂々と必要な分を持って行ってくれていいからっ! 対価は時々やってくれているこう言う手伝いで十分だよっ!」
小屋の中で、何処に言うでもなく大きな声で言うクリン。病み上がりで何か色々と面倒になって来たので、少年も開き直る事にした様だ。
この日を境に、クリンの小屋が目に見えて綺麗になっていたり、道具が手入れされていたり、代りに卸した鉄の削れた場所が増えたり、知らぬ間に下げ卸した供え物のライ麦や水が無くなっていたりする事が増えたのだった。
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はい、コレ切っ掛けでテオドラのベッドの魔改造が始まります(笑)
そして、この開き直りネタをねじ込みたい為に一度クリンが小屋から退場する理由としてあの戦闘シーンをねじ込んだのだったりします(笑)
落差よ……
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