第172話 VS. デミ・ゴブリン。


近況ノートにも書きましたが、明日……と言うか今日の夜より所用で出張する事になりました。なので、唐突ですが明日からの24,25、26日の3日間は更新をストップさせて頂きます。出掛けるのは明日と明後日だけですが、流石に続きを書く時間が取れないので、1日を執筆の時間として合計3日間休止させて頂きます。

その間の感想返し等も止まりますが、なにとぞご理解お願いしますm(__)m


それでは休載前の本編をお楽しみください。




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 結果を言ってしまえば、三匹のデミ・ゴブリンとの戦闘はアッサリと決着が付いてしまった。便宜的に戦闘と呼んだがほぼ一方的な虐殺に近い。


 元々が既に森の小動物を狩れるだけの腕前だ。しかも危険動物が生息する範囲を気配を消して痕跡を残さない様に移動出来る技量まで持っている。更には風の影響は殆ど無いと来ている。


 ましてやデミ・ゴブリン達は哀れなファングボアの子供を嬲るのに夢中でろくに周囲の警戒もしていない。


 弓が届く距離に移動さえしてしまえば、後は狙い通り。クリンが放った矢は違う事無く、此方に背を向けてファングボアを叩いては喜んでいるデミ・ゴブリンの後頭部、丁度頸椎の上辺りに深々と突き刺さった。声を上げる間もなくそのデミ・ゴブリンは即死だ。


 愚かな事に、目の前の獲物を嬲る事に熱中している残りの二匹は、仲間が痙攣しながら倒れ込んだ事に気が付きもしない。


 その間にクリンは新たな弓を番えて狙いをつけている。漸く片割れが仲間が倒れた際に音を立てた事に気が付いて振り向こうとするが、その時には既にクリンは二射目を放っている。耳朶の付け根の柔らかい所を矢が穿ち、これも声を上げる間も無く崩れる様に倒れる。ここに至って、ようやく残りの一匹は異変に気が付いた様子だ。


 慌てて背後を振り返り様子を伺うが——すでに遅い。走って逃げるウサギを射れるクリンがそんな緩慢な動きを見過ごす筈がない。


 予め用意していた三本目の鉄鏃の矢は、振り返ったデミ・ゴブリンの、クリンから見て顔の右側に向かって飛び、つまりは左目を貫き奥の脳まで達した。当然こちらも即死だ。


 終わって見れば僅か十数秒の出来事。


五十メートル程の距離から狙ったがどれも見事に一発で頭部の急所を貫いて脳を潰している。コレが相手が移動して居たり警戒して居たりしていたのなら、クリンも最初から急所を狙わず取り敢えず当たりそうな体の中心を狙って何処かに当たればいい、と言う様な撃ち方をしただろうがこうまで無警戒なら問答無用で急所を狙えた。


「はぁ……すっかり弓の扱いが上手くなったな。まぁHTW時代でもよく使っていたから当たり前なのかもだけど。でもやっぱりリアルで人型の相手を殺すのは、ちょっと心に来る物があるかなぁ……」


 ピクリとも動かない三匹を遠目に、クリンは構えていた弓を卸しながら思わず呟く。如何に不愉快な行動をしていた魔物とは言え、やはり人の姿に近い相手だと倒した後に思う所がある様だ。


 警戒心の強いクリンが、周囲の確認をする前に思わず声を出してしまう程に。それ位は実はこの少年も動揺していたのだ。


 自分で声を出した直後に、己の経験スキルが油断をするのはまだ早いと告げて来る。危険予測スキルが視界の中に違和感があると警鐘を鳴らす。


 視界にあるのは、既に事切れてピクリとも動かないデミ・ゴブリン三匹の亡骸と——まだ微かに動いているファングボアの子供。それを目にした途端、クリンは体を捻りながら地面に倒れ込む。


 だが、それは少し遅すぎた様だ。体を捻りながら倒れ込む途中に左腕に衝撃が襲い、次いで走る痛み。


「い゛っ゛づ!」


 と喉から悲鳴に似た声を上げそうになり何とか押し殺し、下生えの草に身を隠しながら、思わず取り落した弓を右手で拾い直すと草を掻き分ける様に姿勢を低くして移動する。


 左腕に何かが刺さったままであるが今は気にしない。痛みに堪えながら草の中を進み、急に方向を変える。何かに狙われていると思われる現状では草に紛れているとはいえ直進するのは得策では無い。


 果たして、数瞬後には先程までの進路上に細長い物が草をまき散らしながら突き刺さる。移動を続けながらチラリとそれに目を向けると、どうやら粗雑な作りだが矢の様だ。


 予想通りの事に、クリンは舌打ちしながらも進む。勿論直進では無く途中で速度を変えたり進路も変える。


 遠距離武器に狙われている場合、ゲームならばジグザグに逃げたりするのが有効だが、現実ではそれは体力を使うし、意外と動きが単調になりがちで進路を予測されやすい。


 クリンは予め目標にしていた大き目の木を目指し、一目散に辿り着きたいのを敢えて堪えやや遠回りをしながら逃げて行く。


 途中更に二度程矢が射掛けられたが、どれも突然の進路方向により当たる事は無い。やがて目標の樹木に辿り着き、その陰に隠れ込み少年の逃避は一旦終わる。


 そこでようやくクリンは己の左腕に目をやる。左腕のやや肩寄りの部位に、やはりと言うか当然だが先程と同じような粗末な作りの矢が刺さっていた。


 刺さっている部分を観察すると左腕の外側に刺さっており、貫通もしていないし骨まで届いている形跡も無い。主要な血管や神経も切断されている感じでもない。勿論血は流れているが筋肉部分に突き刺さっている様で、被害としては軽微の部類と言えるだろう。


 そこまで深く突き刺さってはおらず、鏃もそこまで大きく無かったのが良かった。だが傷の上からも錆びが見え、ついでに鏃には抜きにくい様な返しも無い様子なので、クリンは構わず引き抜き粗末な矢を放り捨てる。


「いっ……てぇなっ! ……クソッ、見落としていたっ! あのファングボアの子供に刺さっていたのと同じ物だ。枝か何かを刺したのかと思ったけど……もう一匹いたのか。油断していたつもりはないが……僕もまだ甘いっ!」


 抜いた時の痛みで思わず悪態じみた声が上がる。矢が刺さった場合は抜かない方が良いと言うが、正直状況次第だ。毒が塗られている事も有るし、そうでないにしても今回の様に錆びている物が使われる事も有る。そして単純に刺さったままでは行動がかなり制限される。重要な部位に刺さって抜いたら出血が酷くなるような場合で無いのなら、抜いてしまう方が戦闘継続と言う意味では良い。


 そう、クリンはこのまま逃げる気はない。迎え撃つ気で取り敢えず射線を切る為にここに逃げ込んだだけだ。


 四匹目が居たのは予想外だったが、やる事は変わらない。完全に殲滅する、それだけだ。どうやら相手は弓を持っている様だ。


 聞いた話ではデミ・ゴブリンの中には専用の武器を使用する個体が現れるらしい。剣なら剣、槍なら槍、そして弓なら弓。


 一般のデミ・ゴブリンは適当な物を使うが、それらの個体は同じ道具だけを使い続ける。それらはやがてその武器に精通し、デミ・ゴブリン・ソードマンやランサーなどと呼ばれる。そしてそう呼ばれる様な個体は一般的なデミ・ゴブリンの上位存在として扱われ、強さもタダのデミ・ゴブリンよりも強いとされている。


 クリンに矢を撃ってきたのは、その上位存在の一つ、デミ・ゴブリン・アーチャーである事は疑いようが無かった。


 瞬殺したデミ・ゴブリンよりも強いのなら、このまま逃げた所で追跡を受けるだろう。ましてや今のクリンは血を流している。痕跡を辿ってジリ貧の追跡劇になるのは目に見えている。


 もし逃げのびる事が出来たとしても、上位存在が生き残ったのなら確実にここを狩場にされる。更にはクリンの存在も知られ他のデミ・ゴブリンも総出で捜索されかねない。


 そうなれば現状よりももっと面倒な事になる。この場で倒しきるのが最善と言う物。だが、浅いとは言え矢が刺さったのだ。左腕で弓を支えるのは難しい。無理をすれば一度や二度程度なら撃てるだろうが、精度は著しく下がっているだろうし無理をして動かしたら後々酷い事になりかねない。


「上等だ……遠距離の撃ち合いでデミ・ゴブリン程度に負けてたまるか。この森で暮らすならあんな相手程度倒さないとこれからやって行けるか!」


 背負子に縛り付けておいた紐をほどき、それで左腕の傷口と上あたりを縛りながらクリンは鼓舞するように独白する。この際背負子はデットウエイトでしかないので卸している。その背負子から革で作った水入れを取り出し、傷の上にかけて血を軽く洗い流す。その後、先の散策で摘んでいた傷薬用の薬草を取り出し、軽くもんでから傷口に塗る。


 コレで取り敢えずの応急手当は終了だ。気休め程度でしかないが錆びた矢が刺さった痕をそのままにするよりはマシだと思う事にする。


 因みに、引き抜いて放り捨てた矢からは、錆びた鏃だけは折って回収してある。鏃サイズで錆びていようが貴重な鉄。これ幸いと鉄鏃を回収し懐にしまってある。転んでもタダでは起きないクリンだった。


「念のためにコレを持って来て正解だったね。これなら片腕でも何とか扱える」


 首に掛けたスリングを取り外しながら、クリンは苦笑しながら呟く。


 既に居場所は知られているので特に声を潜める事はしない。寧ろ癖になった独り言は少年の考えを纏めるのに今は役に立つ。


 デミ・ゴブリン・アーチャーの正確な場所は掴めていないが、逃げた時に射かけられた矢の軌道からおおよその方向は解っている。


 クリンはその場で手頃な大きさの石を見繕いスリングに嵌める。予め用意した石は扱いやすいので確実に当てる時に利用したい。


 取り敢えず最初の一射は相手の場所の見当を付けるための誘導射と言う奴だ。適当に飛べばそれでいい、と割り切り隠れていた幹から体を乗り出し、大雑把な石を包んだスリングを数回振り回して矢が飛んで来た方向へ投じる。


 恐らくそこには居ないだろう事は解っている。だが相手から見たら関係無い方向に投じる少年の動きは隙に見えた筈。


 石を投じたと同時に幹に身を隠す。と、直後にザクリ、と音を上げて幹に矢が付き立つ。余程の名人でない限り一度矢を放てば数秒は間が空く。


 クリンは迷わず幹から顔を出し、刺さった矢を目視してその角度から飛んで来た方向を瞬時に割り出して目線を向ける。


 それはクリンが盾にしている樹木からおよそ七十メートルほど離れた幹の上。恐らく最初からそこに居て、ファングボアの子供に矢を当てて動きを止めさせた後、仲間のデミ・ゴブリンに襲わせ、自分は高見の見物を決め込んでいたのだろう。


 先程の三体よりはやや肉付きの良い、緑色の肌をし醜悪な顔をした一回り大きそうなアーチャーがこちらを見ながら次の矢を番えようとしている。


 瞬間、クリンの視線とデミ・ゴブリン・アーチャーの視線が交わる。デミ・ゴブリンの表情など分からないが、クリンの目には小馬鹿にした様にニヤリと笑ったように見えた。


 クリンが幹に顔を引っ込めると同時に先程までクリンの顔があった場所を、粗末な矢が呻りを上げて通り過ぎる。


 相手も殺意マシマシの様である。どうやアーチャーはクリンが既に弓を扱いきれ無い事を解っている様だ。


「誰がこのまま調子に乗せるかっ!」


 矢が通り過ぎた直後、素早く腰袋から投げやすい形の石を取り出しスリングにセットし、頭の中で『後で忘れずに鏃を回収しよう』と考えながら、右手で勢いよく振りまわし幹から身を乗り出して応射する。


 鉄への執着心はブレ無い少年である。六歳の少年が放ったにしては凶悪な音を上げて飛んで行った石は、狙い違わず木の上で悠々と矢を構えようとしていたアーチャーが、慌てて頭を捻った場所に正確に飛翔し幹を大きく抉った。


 その事にアーチャーは流石にキモを冷やした様だ。慌ててアーチャーも己が昇っている木の幹にその体を隠した。


「チッ、そのまま油断していろよっ!」


 避けられたと見たクリンは忌々しそうに呟くと、直ぐに次の石をスリングに乗せる。今度は避けられる事を前提に誘い弾として使う為、その辺に落ちていた余り投げるのには向かない形状の石だ。


 こうして、俄にクリンとデミ・ゴブリン・アーチャーとの、激しい射撃合戦が繰り広げられる事になった。





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と、言う感じでいい所なのですが申し訳ないですが3日程掲載は中断させて頂きますm(__)m。


っていうか、あれ!?

何か気が付いたら本格的シューター合戦になってないかい!?

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