第171話 転生少年狩人の流儀。


遅くなりました。

余りにも眠くて一時間程昼寝するつもりがバッツリと五時間寝てしまった……


しかし、本作にしては割と殺伐とした回になっているかも……



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 クリンは視界の先に移る緑色の肌をした生物をゴブリンだと考えたが実は間違いである。ゴブリンはゴブリンだが、正確にはその亜種であるデミ・ゴブリンと言う魔物である。


 緑色の肌に醜悪な顔、殆ど毛が生えていない頭皮に短い角、歯並びの悪い乱杭歯に突きでた鼻、そして尖った耳に子供と変わらない程の小柄で粗末な布で腰の部分を隠し手には錆びた剣やら棍棒やらを持っている。


 クリンの前世で伝えられて居たりゲームでよく見る、如何にもゴブリン! と言った様相なのだが、正確にはゴブリンでは無い。


 ゴブリンも確かにこの世界に居るのだが、そちらはれっきとした妖精族であり人間の言葉を理解して喋れるし文明も築ける、所謂亜人種だ。別の地域に行けば国を作っているし、普通に人間と共生していたりする。


 緑色の肌で小柄、角に耳がとがっていると言うのは同じだが、容姿的には人間に近い。言い伝えでは先祖こそ同じである物の途中で別れた別種の種族であり、ゴブリンとデミ・ゴブリンを混同すると激怒される。


『そう言えばドーラばぁちゃんに、ゴブリンは妖精族だけどデミ・ゴブリンは魔物。同族扱いするのは失礼だ、と教えられたな』


 と、クリンはようやくそれを思い出す。割と前世の感覚だけで物を考えたら駄目である事に改めて気が付くクリンだ。


 この世界、人型の生物の多くにはこのような魔物の亜種が存在する。オークやオーガ、ミノタウロス辺りがその代表例だろう。


 どの種族も前世でモンスターとして扱われていて、イメージするのに思い浮かぶ容姿をしているモノは、大体この亜種に属し魔物である。


 種族としてのそれらは全て魔人や妖精などに属する、れっきとした種族である。因みに人間の亜種である魔物も存在する。


 クリンはまだこの世界でゴブリンに出会っていないので、目の前のデミ・ゴブリンとどれだけ違うのか知らないのだが、間違いなく魔物の方だと少年の目にも映る。


 人間種の生物と魔物との違いは体内に魔石を持つか否かが大きな違いで、他にも言語による意思疎通が通じないと言う違いもある。


 種族として扱われている彼らは言語こそ違うが言葉によるコミュニケーションをとる事が可能だ。ただ、コレも言語の概念が違い過ぎて鳴き声の様な物で会話したり思念や仕草による意思疎通が可能な物などもおり、やや解り難い特徴だ。


 まだかなり距離があるが、手近な木の上に上り彼等を観察を始めたクリンの目にも、彼らは言語による意思疎通をしている様には見えない。


 ただ、動物の様に何か鳴き合っているようには見える。しかし、彼らは確かにゴブリンとは別の種族で魔物なのだと思えた。


 何故なら視線の先で行われている光景はクリンにはとても醜悪な物に感じられたからだ。


 デミ・ゴブリンと思われる三体は、獲物を見つけた様で、それを囲んで手にした武器でそれぞれ殴りつけている。


 囲まれているのはファングボア。体格から見るにその子供だろう。足に細長い枝の様な物が刺さっており、地面に倒れて動けない様だ。


 手にした武器で殴りつけて来るデミ・ゴブリン達に、動けないながらも何とか抵抗しているようだが、数の差で徐々にファングボアの子供の動きが鈍くなっていくのだが——


『あのデミ・ゴブリン、嬲って遊んでいる……?』


 木の上で見ているクリンの目にはそのように映った。錆びてはいるがナイフの様な物を持ったデミ・ゴブリンも居る。その個体が首にでも突き刺せばすぐにトドメがさせそうだが、中々刺さない。


 ワザと急所を外す様にファングボアの顔を浅く突いたり、致命傷にはならない様な所を刺したりしているだけで、ファングボアが嫌がってその個体に反撃しようとすれば残りの二体が手にした武器で殴り掛かり、悲鳴の様な鳴き声を上げるのを笑うに燥いだ感性じみた声を上げて騒いでいる。


 魔物は好戦的な物が多く、特に魔石を持たない生物を積極的に襲ってくるとは聞いていたが、コレはもう襲うのではなく嬲ると言っていいだろう。


 目の前の光景に、クリン思わず小さく舌打ちをしてしまう。


『コレはあのファングボアの子供は助からない……と言う事は奴らはココを『狩場』として認定しかねないね』


 と、内心で思う。聞いただけの話だが、デミ・ゴブリンと言うのは単体ではそんなに強くはないが集団で行動し、様々な場所で共生して暮らしていると聞いている。


 集団になればこの様に狩りを行い、成功するとその体験を基にするのか暫くその周辺を縄張りにして居つくと言う。


 この森はかなり広く深い。少年やデミ・ゴブリン以外にも様々な生物が存在しておりそれぞれ縄張りを張っている。従ってデミ・ゴブリンが居ること自体は問題ない。


 問題なのは、ここが『クリンの拠点から半日程度の距離しかない』と言う所だ。そんな場所に狩場を作られたら行動が被るし、彼らが獲物を求めて探し回った場合に十分見つけ出せる距離だと言うのが問題だ。ましてや近くに拠点など作られよう物なら、それ以降は落ち着いて拠点で生活出来なくなる。


 当初は様子だけ伺ってさっさと逃げるつもりだったが、そう言う訳にも行かなくなってしまった。


『確か集団を持つデミ・ゴブリンは探索や狩りに向かった個体が帰ってこなかった場合、用心してそいつらが向かった方向には寄り付かなくなる、とかって話だったな』


 クリンは頭の中でテオドラや野菜売りのオヤジたちから聞いた、デミ・ゴブリンの習性を反芻しながら考える。


 街の外で暮らしていると話したら、彼らが街の外で気を付けるべき注意事項の一つとして、デミ・ゴブリンの生態を教えてくれていた。


『知能はあるがそこまで高くはない。集団なら厄介だが個々の能力自体は低い、子供でも倒せる。武器を持っているのであれば慣れた大人なら複数を相手にしても負ける事は無い、だったか。まんま、ゲームに出て来る雑魚いゴブリンの扱いだよね』


 クリンはファングボアの子供を嬲っているデミ・ゴブリン達から視線を逸らさないまま、そっと手探りで矢筒に触れる。草の皮で編んで作ったこの筒には、鉄が手に入り多少余裕が出来た事で鉄の鏃の矢が七本、石の鏃の矢も七本入っている。矢羽根はどちらも鳥の羽を加工した矢羽根に交換済みだ。


 物資に余裕が出来れば何時までも枯葉で代用する意味も無く、やはり石の鏃でも鳥の羽の方が飛びが良い為、全てそちらに変えてある。


 そして、大人用の弓と殆ど遜色の無い威力の出せる自作の弓。腕では完全に引ききれ無いがそれでも十分な威力を誇る。そして首にはスリングに、腰の袋には途中で拾ったスリングに使いやすいサイズの石が四個。


 コレだけあれば、三体なら十分遠距離で戦えそうだ、と頭の中で計算する。流石に六歳では接近での戦闘に勝ち目は薄いが、遠距離での戦闘なら手持ちの装備的に十分勝ち目がある筈だ。


 しかも今ならデミ・ゴブリンはファングボアの子供を嬲るのに夢中になっていて、クリンの存在に気が付いている様子はない。


 距離を開けて遠距離から先手を取れるのなら、三体程度なら十分倒しきれるだけの腕と装備がある。


 ここで逃げ出すよりは倒してしまう方が、後の生活の事を考えたら良いだろう。折角あそこまで仕上げた拠点を手放すのは幾らなんでも惜しい。


 頭の中で戦法とそれによる成功率、起こるであろうリスクを天秤に掛けながら考え、とうとう少年はこの場で戦う事を決め腹を括る。


 一度行動を決めれば後は早い。直ぐに木から降り音を発てない様にデミ・ゴブリン達の方へ向かって静かに近づいて行く。


 今この場からでは二百メートル以上は距離がある。流石に距離があり過ぎ、仕留めるのなら百メートル以内には最低でも近づく必要があり、少年の筋力的には確実性を求めるのなら五十メートル以内に近づかないと仕留めきれ無いだろう。


 クリンにしてはかなり好戦的な行動だ。普段ならさっさと逃げてデミ・ゴブリンがあの場所を縄張りにしても拠点に向かって来ない対策を練る方が彼らしいだろう。


 今ならなんちゃって正露丸モドキをバラ撒くなり、罠を設置するなり、幾らでも対策はある。だが、それらは出来ればしたくない。


 デミ・ゴブリンだけなら有効かも知れないが、人間が入り込んできた場合はクリンがこの近隣にいる事を宣伝するような物だ。


『いや、それは後付けの理由だね。多分僕は個人的な理由でアイツらを倒そうとしている』


 慎重に、だが手早くデミ・ゴブリン達に近づきながら、クリンは頭の隅でどこか他人事の様にそんな事を思う。


 戦わない理由は幾らでも挙げられる。そして同じ位に戦う理由も幾らでも挙げられる。だが、結局の所少年が戦おうとしているのはたった一つの理由だ。





 少年も自作の弓を拵えて狩りをしている身だ。既に小型の動物を何体も倒している。魔物も食べないと生きていけないとの事なので、狩る事自体にどうこう思う事は無い。


 だが『コレは違う』とどうしても思う。生き物は動物だろうが魔物だろうが、所詮他の命を奪わないと生きてはいけない。


 食べると言う事は必ず犠牲になる命が存在する。そこは避けては通る事は出来ない。だから魔物が動物を襲う事も当然だと思うし、デミ・ゴブリンが集団で狩りを行う事も、それはそれでいい。


 しかし、目の前で行われている光景は違う。狩りは狩りなのだろうが、生きる為の狩りでは無い。食べる為だけに狩るのなら、もうとっくに仕留められている。


 デミ・ゴブリン達は「楽しむ為だけ」に、獲物をなぶって「そのついで」に狩りを行っているのに過ぎない。


 それはクリンの目にはとても醜悪に映る。元々彼は前世で早世した「生きたくても長生きできなかった」人間だ。


 そして、そういう人間が集められ治療を受け、それでもあっけなく死んでいく様をまざまざと見せつけられながら闘病して来た身だ。


 だから少年は「命を弄んで喜ぶ様な真似」をする連中が大っ嫌いであった。例えそれが魔物と言う人間とは違う感性の持ち主であっても、許せる物では無かった。


『要するに、気に入らないからコイツ等をぶっ殺そう、って事だね。デミ・ゴブリン達と何が違うのかって所だけど……僕にも許せないラインって奴がある』


 自分の命を繋ぐ為に狩りをする。ならば己の命の糧となる相手にはそれ相応の敬意を払うべきだ。偽善と言う者もいるかもしれない。しかし実際に前世の彼と、今生の彼は多くの命に支えられて生きている。


 それを小馬鹿にする様なこの狩り方をクリンが認められるはずが無かった。


 五十メートル程まで近づいたが、デミ・ゴブリン達は気が付いた様子も無く、口々に「ゲギャ」だの「グギャ」だのの意味の分からない鳴き声を上げ、そこだけは何故か喜んでいる事が分かる様子で、ファングボアの子供を嬲るのに夢中になっている。


『幾ら気に入らなくても、僕はお前等みたいに嬲る様な真似はしないよ。僕の矜持で殺すんだから、僕の流儀で死んでくれ』


 そう心の中で呟き、矢筒から鉄の鏃の方の矢を抜き出すと手製の弓に番え、今の彼に出来る目一杯、三分の一程までに弓を引き、ゲギャグギャと喜んでいるデミ・ゴブリンの一体、その頭部に狙いを絞り弓を放った——





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何時もとは雰囲気が違うかもですが、割とこんな感じのドライな世界なので、命のやり取りになるとこんな感じになります。


後、やっぱりウチの作品だとテンプレゴブリンでは無い事は多くの人に読まれていたなぁ(笑)

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