第168話 金槌は鍛冶屋の魂。


強引にねじ込みセーフしたっ!

今回も誤字ありそうだなぁ……



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 卸金の制作が終わったら、水減しと二回程の折り返し鍛錬をして、細長い鉄板の形に整形しそれを何枚も量産していく。


 これからのクリンは武器を作るよりも工具や部品として鉄を使う事の方が多くなるので、予めこの様な鉄板を量産しておく方が材料として利用する場合は楽なのだ。


 これから作る予定の斧も、結局はこの鉄板を重ねて鍛着させて作れば良いので、先ずは材料となる鉄板を作るのを優先させた形だ。


 そして。ココで直ぐに斧が作れないのが何時ものクリンである。斧を作る為に必ずしも必要では無いが、後々の事を考えたら材料の使用量の加減により優先順位はコチラの方が高いので、そちらを先に作る事にした。

 それは——新しいハンマーだ。ハンマーと一口に言っても実は目的に応じて様々な種類がある。


 クリンが今所有しているのは少年自身が自ら作った、ほぼ鉄の塊と言うべきものだが、分類的には大金槌、それの両手槌に入る。少年の体格に合わせてあるので大金槌の中では小振りになる。


 そしてクリンが今回作ろうとしているのは同じ金槌だが、その中でも手槌或いは片手槌と呼ばれるサイズの物で、その中の主に金属の加工に使われる鉄工ハンマーと言う、片方が金槌の様に平らで片方が丸い半円状になっている物である。


 他にも同じカテゴリに、片方の形状が違う玄翁や片口ハンマーなどがあるが、それぞれ使用目的が違う。玄翁は主に木工に使われ、片方が平らで片方が僅かに婉曲していて木材に釘を打ち込むのが容易な様に作られ、片口と言う片方がとがった角の様になっていて、錐や穴あけ等に使用出来る物もある。


 他にも両口と言う、両方フラットな面を持つ以外にも八角形に作られていて側面でも釘を打つ事が出来る物や、トンカチと呼ばれる主にレンガや瓦などの石材を割る用の物まで、材質を含めればかなり多様な種類がある。


 大まかに、ハンマー(槌)と言う括りがあり、サイズでの呼び分け(大槌小槌)があり、その枠の中で材質があり(木槌、石鎚、ゴムハンマーなど)、更に目的にあった形状の名前(鉄工、玄翁、片口など)が付いている、と考えて貰えれば解りやすいかも知れない。


 今までは手持ちの鉄の関係で、鍛冶以外の作業も全て同じハンマーで行っているが、ぶっちゃけやり難い。


 鉄を伸ばすのには大槌でも十分なのだが、細かい成形をするのならやはり手槌サイズの物が欲しい。


 それに加工に入るのなら何れは曲線を打ち出す為の槌は必要になる。


 なのでこの際に作ってしまおうと言う訳だ。本当はサイズ違いを幾つも作りたいが流石にそんな量の鉄は無い。


 現代の鉄工ハンマーは軽量化と材質量の軽減の問題からハンマーヘッド部分と柄をつなぐ間と、反対側の半円部分が大きく括れた形の物が主流だ。


 材料をケチりたいクリンにはうってつけなのだが、その加工が出来る道具が全然揃っていない。仕方なく鉄板を重ねて圧着し普通のハンマーヘッドを作り、片方はフラットだが反対側は半円状に潰した形状にする。


 この加工もなんちゃってスプリングハンマーが無い今は一仕事だが、新しく覚えたオーラコート 《筋力増強》とクラフターズ・コンセントレーションの重ね掛け、それとハンマーの両手持ちと足による微調整と言う、コレまで培った全ての技術を持ち込んで、どうにかこうにか形に仕上げる。コレが出来るのも前回ヤットコを作り上げたお陰だ。


 こうして形が出来たハンマーには、両端に折り返し鍛錬を多くして硬度を高めた鉄板を被せて鍛着していく。フラットな面はやりやすいが半円部分は叩き出して被せて行く形なのでちょっと面倒だ。だがこう言う作業が好きな六歳児は喜々として叩き出していく。


「やりたくても出来ない事の方が多いかんねっ、こういうテクニカルな事が出来て初めて鍛冶しているって実感が湧くってもんさ!」

 両足でヤットコを挟んで固定し、両手でハンマーを叩き付けながらそう嘯くクリン。楽しそうで何よりである。


 そうして叩き出して作ったハンマーは一日で形になる。後はヤスリによる成形と焼き入れ焼きなましをして柄を付ければ完成だ。流石にこの作業を含めたら一日では終わらず、二日掛かった。





 その後は勉強と市場での露店、そして森での素材集めで少し間が空く。それらを熟した後にようやく斧作りに入れる。


 この斧にも、また種類が幾つもある。と言うよりも、大部分の人が斧とまさかりを混同して考えている事が多い。本来はどちらも別の道具だ。


 斧は切る、或いは割る為の道具で鉞がいだりけずったりする為の道具だ。斧は主に木を切り倒す際や薪を割る際に用いられ、鉞はその倒した木の枝を払ったり皮を削ったりする為の道具で、それぞれ使用目的が違う。


「なんだけど、前世だと鉞の方が見た目カッコいいからって斧代わりに使って死にそうになった人の話とか良く聞いたねぇ」


 と、クリンは斧作りの準備を進めながら、一人シミジミと呟く。偉そうな事をいっているが、実の所この少年もHTWでそれらを作るまで違いを知らなかった。何なら、その「見た目がカッコいい」と言って鉞を斧として使おうとした側だ。と言うか使った。ゲーム内で、だが。


 斧は木などの硬い物を切る関係上、叩き付ける様にして使われる事が多い。その為刃先に掛かる力が均等に掛かる様に上下対称の形状である事が多く、また刃も基本軸となる部分と極端に大きさが変わらない。刃先が八の字に広がっている物をよく見ると思うが、それでも軸となる部分の倍が精々だ。


 それ以上大きくなってしまうと刃が食い込んだ時に変な部分に力が掛かってしまい、柄軸に負荷が掛かって簡単に折れてしまったり、柄を差し込んだ部分が割れたりしてしまう。


 戦闘などに使われるバトルアックスの様な物はまた別だ。あれはそう言う使い方が出来る様にとりわけ丈夫な作り方がされている。


 しかし、鉞は削る為の道具なので刃に大きい力が掛かる事を想定されていない。あくまでも削るのに便利な様に刃が斧よりも薄い事が多く、また皮を剥ぐのに便利な様に刃が大きく、面積を稼ぐ為に上下非対称の形をしている事が多い。上がまっ平なのに下の方に刃が大きく突き出ている様な物は、ほぼほぼ鉞である。


 鉞は叩き切る様な事を考えて作られていないので、刃と柄の接合が斧に比べれば弱い事が多い。その方が軽量化に繋がるし、必要も無いのに態々丈夫に作る様な事は無いだろう。


 なので鉞を斧として使ってしまうと、刃に加わる力の角度次第では一発で柄木がへし折れて、反動で跳ね返った刃先部分が自分目掛けて吹っ飛んで来たりする事がある。


 実際に前世日本では、クリンの生きていた時代でも時折この様な事故が起きたと言うニュースを耳にしたことがある位である。


「んな部分まで再現するとかHTWは一体どこを目指しているんだろうねぇ。アレのお陰で斧のオリジナルデザインとか考えるの止めたもんねぇ」


 因みに、クリン君はHTWで斧を作る際に某ロボットアニメで有名な斧の、なんちゃらホークと言う物の形状を模して作り、勢い込んで木を切り倒しに行ったら一発で柄がへし折れて斧の端部分が自分目掛けて飛来しHPが一発で消し飛んだと言う苦い記憶がある。


「タチの悪い事に、刃物自体の出来を反映させてやがったもんなぁ。切れ味効果にプラス、ダメージ補正にもプラス修正付いてたから、こりゃぁ高性能だって喜んだのに……自滅で自分の道具の威力知ったのはアレが後にも先にも初めてだったわい」


 苦い顔で斧の厚さに鉄板を重ねて加熱しながら当時を思い出し、ついブルーな気分になるクリン君であった。





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鉞ブーメランはマジで実際に何度か起きている事故なので、皆様マジでお気を付け下さいませ。DIYとかソロキャンとかする人は特にご注意を。


一家に一本は斧と鉞はご家庭にありますからね(´◉◞౪◟◉)

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