第167話 人の営みの残滓とはかくも物悲しく……も無いかも知れない。


遅くなりましたぁっ! 


あ、そう言えばPVが100万いきました。

これも読んでくださった皆様のお陰ですm(__)m



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 クリンが先ず作ったのは大量の素焼きレンガである。土壁の小屋は何れ建て替える予定だったので、自作のノコギリで切り倒せる太さの木を暇を見ては集めていたので、木造で建てる予定ではいるのだが、流石に全てを賄いきれる程の量の木材は集め切れていない。


 そこで半レンガ造りと言う感じの物を作る気でいた。と言うと壁の中程までをレンガで作りその上から空気取りを兼ねた木造の壁と屋根を付けると思われがちだが、要するにクリンがやろうとしているのは基礎を焼きレンガで作ってしまおう、と言う物だった。


 この世界は中世の西洋圏に非常に似ている為か、その建築様式も非常に近く基礎を作らないか、作ったとしても地面に溝を掘ってそこに砂利や石を敷き詰めてその上にレンガなどを敷き、地面スレスレまでに基礎を低く作る特徴がある。


 日本だと雨が多いのでその様な作りにしてしまうと水が流れ込みやすくなるので古い時代から基礎は高めに作られる傾向があるのだが、西洋では日本程に雨が降らない事と合わせ、そもそも高台に住居を構えるのが一般的であり水が流れ込んでくるような事が少ないので基礎と地面の境が殆ど無い作りが一般的になったとされている。


 クリンの生前は日本人であり、やはり前世の習慣が身に付いているので基礎と地面が同じ高さと言うのは「砂や埃が入り放題やん」と言う思いが出てしまう。


 つまり家の中は土禁にしたいのだ。それに基礎を高めに作る方が地面を這う虫や蛇などが入ってきにくくなるし、ネズミなどの小動物も床下が通れるとなれば人が居る住居の中よりも床下を通る物なので、元日本人としてはそれらの動物や虫と家の中でコンニチワはしたくないので、今度作る時は基礎を高めに作るつもりでいた。


 実の所、今の小屋の中にはアリやトカゲなどが自由に入り放題であり、寝起きにトカゲなどと目が合った事が何度か有る。


 まぁ、この小屋での生活に限らず転生後は最初の村では殆ど同じような生活だったので今更感はあるが、それでもできればそういう生活からはおさらばしたい。


 何せ、前世ではこの様な環境ではネズミなどの野生の動物に噛まれたのが原因で病気になって亡くなると言うケースが多かったと聞いている。


 一応は念のために蛇などが嫌うと言う木の実を撒いたり、ネズミが餌場にしそうな場所を別に作っておいて上がり込んでこない様にしたりはしている。


 そして最近はなんちゃって正露丸を入れた瓶を入り口や窓の側においておけば虫やネズミなどは寄り付かなくなっている。


「うん、実に優秀だねセイロンガーン! 虫もネズミも避けるなんて大〇製薬もビックリだろうよっ! でも匂いが僕にも直撃してくるのが頂けないっ!」


 と言うのが最大の不満点か。あの匂いに包まれて寝るのもそれはそれで辛いのだ。


 そんな感じでクリンは先ずは家を建てる場所の草むしりと整地を行う。これから作る道具や材料も仕舞える様に少し広めにスペースを取る。凡そ前世で言う所の二十平米、十二畳一間と言った所か。


 子供一人で暮らすには十分すぎる広さだろう。まぁ、そこに倉庫スペースも作る予定なので生活する場所は大分狭くなるだろう。


 草蔓の紐を使っておおよその直線を出すと、整地をした地面に溝を掘り木タコを引っ張り出して溝を固め、その部分に小石を拾い集めて撒き、再びタコで叩いた後に素焼きレンガを入れて積んでいく。ある程度積みレンガの隙間には粘土を木灰を煮た汁と練ってトロトロにした物をセメント代わりに使い埋めて行く。


 流石にこの作業は一日では終わらない。主に早朝と夕方に作業を進めそれ以外の時間は森で材料を集めたり、街へ出向いてテオドラの手習い所での勉学や露店での商いに当てた。ただ商いの方は流石に木工品を量産している時間は無いので、ほぼ薬の販売が主流になった。一応作り溜めたセルヴァン像を多めに持って来ているのだがキッパリと売れない。


「そりゃぁ、メジャーな二主神様とか眷属神の像なら買おうと思うかも知れないが、古の大神? だったか? どんなに出来が良くても、そんなのを出されても買わないだろう」


 とは良く近隣で店を開く様になった野菜売りのオヤジの言だ。


 クリンも「まぁそうだよね」と思うのだが、薬と少量だけ作って売っている木製食器では品数的に寂しい。何か考えたい所ではあるのだが家を建てる時間を考えれば、結局そこまで難しい物は作れず、結局は今と変わらない感じになりそうだ。


「秋になって大麦が取れたらそれで麦茶を売るって手もあるんだけれども現状はねぇ……あ、そう言えばこの市場で屋台をするのに何か許可とか居るんですかね?」


 クリンが隣の野菜売りのオヤジに聞くと「屋台程度なら特に要らない」との事。


「そりゃぁ、店を構えたりするのなら竈税の事もあるから届け出が必要だけれどもね。屋台で串焼きだの汁だのを売る分には特に届はいらないよ。ただ、仕入れとかの関係でそう言う所との顔つなぎは必要になるだろうね。後は火を使うのなら使っていい場所が指定されているからソコを借りないとダメだね。それに余り高火力な物もダメだね。露店だから設置型とか以ての外さ。一人で持ち運べる範囲のサイズの、火鉢の様な物限定だね」


 と教えてくれた。勿論ついでに幾つか野菜も買わされたが。それは後でテオドラの元に持ち込んで子供達へのお土産にでもするつもりだ。


「フム……それなら七輪モドキでも作って簡単な料理でも作って売るかねぇ。森で獲物が取れた時だけやる様な感じにすれば、このまま少ない商品で露店開くよりは良さそうだ」


 顎に手を遣りながらそんな事を考えるクリン。何せ炭は自作できるし食材も森で取ればほぼ元手が掛からない。調理もこの場ですれば木製食器を作るよりは遥かに売り物を多くできる筈だ。


「焼き物だと食材が多くいるかもしれないから……煮物か汁物かな。見たら結構煮込みを売る屋台もあるし……水はドーラばぁちゃん所から汲んで来ればいいし、そこまで荷物も増えないだろう……うん、ちょっと考えてみようかな」


 その日は薬と少しばかりの木皿が売れただけで、儲け的には税金分以上は稼げたが普段よりは大分少ない。そしてセルヴァン像は今日も売れ残りである。


 流石にこの状態が続くのは不味いので、新たな商売を考えるのであった。





 と、直ぐにでも新しい商売を始めそうな勢いだが、その前にやる事がある。


「いい加減斧作らないとねぇ。後、鋤と鍬! 炭も屑鉄も溜まったしそろそろ作って良い頃合でしょう!」


 再びの鍛冶作業である。レンガ炉は完成しているし火付けも魔法で行える。そして火掻き棒もヤットコもある。前回とは比べ物にならない程に鍛冶作業が捗ると言う物。


 前回と同じ要領で古鉄卸を行う。ただ前回よりも多い量を卸すので日数は掛かる。だが斧は大量に鉄が必要だし、鋤や鍬もそれなりに鉄を使う。


 結局休みを挟みながら半週(五日)程使って手持ちの鉄を卸金にした。尚、今回はとうとう最初の村からずっと使い続けて来た手鍋も晴れて古鉄卸の材料行きとなった。


 もし露店で飲食をやるのなら、もう少し大きいサイズの鉄鍋の方が使い勝手が良く、手持ちの鉄と合わせたらコレも卸す方が材料の量的には必要だったためだ。


「ま、元々ゲンの良い物でも無かったしね……って、ああそう言えばコレを卸しちゃえば、最初の村から持ってきた物は何一つ無くなるのか」


 ふとそんな事を思う。一応前の村でかき集めた鉄がハンマーや鏨、ノコギリ等になっているのでそれを入れればまだ残っている物はある。ただ作り替えていない物はもう何もない。村長の服は前の村で服を自作した後にボロ布行きになり、多分今頃クリンの後に来たであろう鍛冶師によって使い潰されたか燃やされたかしているだろう。


 肩掛けカバンはとっくに服やリュックの繕いやクッション様に当て布として使われてもうこの世には無い。


 鉄の手鍋が最後の、クリンにとって最初の村所縁の品と言える。言えるのだが、正直「だからどうした」と言う思いしかない。


 クリンにとってはあの村は既に消滅した村。その痕跡が残っていた所で特に何か感傷に触るような事も無い。鉄は鉄。有難く材料として利用しただけである。


 こうして。この世界に山向こうの村と呼ばれた村が存在していたと言う痕跡は、クリンが村跡に残して来た墓石代わりのセルヴァン像を祀った祠と、彼の記憶の中だけとなったのだが——少年にとっては実にどうでも良い事であった。






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いやぁ、100万PV到達したので張り切っちゃったかもしれません(笑)

ちょっと書き直し多めにしていたので時間が掛かっちゃった……


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