第165話 プライヤーと呼びたくなるのだがやはりヤットコと呼ぶのが相応しい。



相変わらず、大ネタ小ネタに業界ネタてんこ盛りの説明特盛でございます(*´ω`*)



======================================





 折角素延べまで行えたのだから、サクッと次の作業をおこないたかったのだが鍛冶作業の翌日は見事な筋肉痛で、連日の筋肉痛は流石に怖いので仕方なく安静にする事にした。


 一日寝ているだけでもいいのだが、ソコは時間的貧乏性のクリン。そんな勿体ない事はせずに少しでも筋肉痛の緩和を目指す。


 前日と同じように抗消炎剤を塗り込んだ布を体に張り付け、地面は土剥き出しなので仕方なく手製ベッドに座り座禅を組む。瞑想するわけでは無いが、軽く指を組み合わせて輪を作ると、


「魔力循環、魔素転化。魔力充填、気力開放。オーラコート発動、効果 《代謝促進》!」


 折角なので発動起句の正式文(オリジナルスペル)でオーラコートを発動させる。HTWのオーラコートと言うスキルは戦闘職専用のバフスキルだが、複数の効果を併せ持つがその全てを一度に付ける事は出来ない。最後に付け加えるコマンドでそれぞれ効果が変わる仕様だ。例えば筋力増強(オブ・パワー)なら筋力(STR)に数パーセントの補正が付き、器用度増加(オブ・デクスタリティ)では器用(DEX)に補正が付く。


 そして、自動回復速度増加(オブ・ヘルス)ならHPとMPの自然回復速度に補正が付き回復が早くなる。どれも魔法の効果に比べたら微々たる物だが魔法の無い戦闘職にとっては貴重な強化、回復手段だ。


 ゲーム的な処理として、ステータスに補正の付くスキルは二つまでは重ねて使用出来る。しかし回復関係のスキルは併用が出来ない。


 と言うのも、ゲーム的に回復系のオーラコートは「静止している時のみ」に効果がある。棒立ちでも良いが一歩でも動いてしまえば効果が切れるので、大体のプレーヤーは座っている状態で使用する。


 こちらの世界で使えるオーラコートもその仕様は同じようで、身動ぎ程度なら効果は切れないが、歩いたりすれば同様に効果が切れるか発現しない。


 クリンも本来は普通に座るだけでいい。別に修行をする訳では無いので座禅の必要無いのだが、体に影響を及ぼすスキルを使うとなれば何となくこの形をとってしまう辺りが元日本人かも知れない。


 ゲームならジワジワとHPとMPの数字が回復していくだけだが、現実の世界ではジワリと体が温かく感じ、徐々に痛みが薄れて行く感じがすると言った所だ。


 一応、ゲーム中にはこのオーラコートの上位互換であるフル・オーラコートと言う、オーラコートの効果の大半を一度に使えて増加量も高い物もあるのだが、そちらはガッツリと戦闘用のスキルで特定の武術スキルを覚えていないと使えない。


 そちらも恐らくこの世界に対応した物があるのだろうが、武術スキルは後回しにするつもりのクリンが覚えられるのは大分先になるだろう。


 何にしても、このオーラコート《代謝促進》のお陰で、酷い筋肉痛も昼過ぎには大分良くなり、森へ出て軽く材料集めが出来る程度には回復し翌日には筋肉痛は収まっていた。






 本来はそろそろ一旦街に出てテオドラの元で勉強をする頃合なのだが、ここまで来て途中で作業を中断出来るクリンでは無い。


 翌日夜明け前には早速炉の前に立ちレンガ炉に炭を積んで炉に火を熾す。この位の時間から火を入れても鉄が錬成温度に上がるまでに時間がある為、様子を見つつ他の作業をしたり食事を作ってストレッチする時間が十分ある。


 それらを済ませてた頃にはもう日は昇っており、鉄棒もいい具合に赤く熱せられていた。早速木枝ヤットコで引っ張り出し、交換済みの石床(この交換にもオーラコートが役立っている)に置くと叩き伸ばし始める。武器では無いので鍛え(鉄を叩いて炭素量を調節し硬度を出す事)はそこまで必要無いので成形に入れる。


 今回作るのはヤットコなので二本対になる形に整形していく。形的には前後の長さの違うクランク状と言う奴か。


「ああ……本当はサイズ違いも打ちたいっ! ヤットコ一本だけじゃ細かい作業はし難いんだけど……ああ、実際に作れるとなる贅沢になってイカンねぇっ!」


 槌で鉄棒を叩き伸ばしながらもついぼやきが出るのも何時もの事になりつつある。その割にはニコニコ笑顔で実に楽しそうに作業をしているのだから、タチの悪い子供である。


 ある程度伸ばして成形が出来たらもう一本も同様に伸ばしていき、互いに形を見比べて対になる様に打って行く。


 この手の道具は前にも述べたが鋳造するのが楽だ。型に流し入れればこの様に見比べながら、しかも焼きなましをした時のズレも計算しながら打つ必要などない。


 実際にこのような道具は鋳造の物が多い。しかし、である。恐ろしい事に前世日本の、昭和の四十年代の中頃まで、鍛冶作業をする者の中には最初こそ鋳造を使うが最終的には自作で鍛造してこの手の道具を作る者が多かったと言う。


 この頃から鉄が高騰しだしステンレスが主流になって来て、更には規制などが厳しくなって徐々に自分で作る物は減って行ったと言う。


 クリンも大概だが昔の鍛冶師も概ね変態ぞろいである。


 そんな古の鍛冶師を彷彿とさせる真似をしながらも、徐々にただの鉄棒はヤットコの部品へと形を変えて行く。


 おおよその形が出来たら鏨を持ち出し、要となる部位(ハサミ状の道具の、ネジで止める部分)の見当(おおよその印を付けると言う意味)を付け、それぞれに鏨で穴を開けて行く。上手く開けられないとここでダメになってしまうが、かと言って躊躇すればうまく穴が開かずに結局ダメにしてしまう。


 傍から見れば思いっきり無造作に槌を振り下ろし、一発で鏨を深く打ち込む。HTWでこの手の作業を散々熟してきた少年は、現実になった所でこの程度の事で今更躊躇などする事も無い。六歳にしては思い切りが良すぎる位に良い。結果的に穴あけ作業で鉄を割ってしまう事無く二個とも見事に穴を開け終える。


 一番の山場と言える穴あけをアッサリと終わらせた後は重なる部分をなるべく均一に打ち、挟み口の角度と形を成形してやれば、今日の鍛冶作業は終了である。


 後はこのまま冷まして角度などの微調整と、ヤスリで接地面や挟み口の成形をするだけである。その作業は昼過ぎには終わり、そのまま焼き入れ焼きなましを行う。


 その作業は例によってクリン謹製の工業用ラードだ。素焼きの壷にラードを入れ、周りに火を点けた炭を置いて温度を調整し、百八十度の温度で一時間半漬け込む。


「うぅぅん……やっぱこのラードは匂うな……まぁ洗えばいいけど前みたく油を再利用したくはないなぁ。焼きなましだから臭い所で困りはしないけれど……やっぱあんな何食わせているか分からない様な豚の脂身で作るラードは使いたくないなぁ」


 温度管理だけの事なので、豚の脂の質はほぼ関係無いのだが、それでもこの匂いには辟易してしまう。


 一応食べる用のラードは別に確保出来ているので良いのだが、万が一取り違えた時が怖い。これからは例え食べなくても食べられる程度の品質の物だけで作ろうと心に誓うクリン少年であった。


 こうして日が暮れる前には焼きなましも終わり、クリン君念願のヤットコが完成する。尚、留め金は残りの二本の鉄棒の内の一本の尻を鏨で切り飛ばし、丁度良い太さに叩き出して炉で加熱してから穴に差し込み槌で叩いて潰して蓋をして取り付けた。


 翌日は早速出来たばかりのヤットコを使い残りの二本の鍛冶に入る。因みにヤットコは既に微調整済みである。


「ィヤッフゥ!! やっぱヤットコこれがあるだけで大分違うねっ! もう燃えながら鉄を持つ必要が無いっ! ビバ文明の利器っ!!」


 自画自賛しつつ鉄棒を叩いて行く。とは言えこの二つで作るのはコテ棒と火掻き棒だ。ただ棒状に伸ばしていくだけなので難しい事は何もない。だが——


「トンテンカンでかねを打つぅ~~カンカンカンで、クホホのクソ鍛冶しぃ~~♪ かね返せないならせめて金返せっ!」


 と適当な鼻歌を歌いつつ槌を振り下ろしていく。何だかんだで鍛冶作業をしているとご機嫌な六歳児なのであった。






======================================





アイツさぁ、マジで簡単に失敗し過ぎなんだよ。成功率92%で10連続ミスとか殺意湧くでしょ、マジで。


クリン君は今の所成功率……あ、鍛冶以外は失敗多かったわ……


後ギリギリまで構成していたので面倒なのでフライング投稿(笑)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る