第164話 それは炎が見せる幻想を形と成す行為である。
『早く
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ここまでの作業は日本の鍛冶における日本刀の鍛錬とほぼ同じである。玉鋼では無く
「僕が作ろうとしているのは武器じゃなくてただの工具だしね。そりゃぁ武器を作るのとは工程が変わるのは当たり前の話だよね」
本音を言えばこのままナイフでも刀でも作りたい所であるが、手持ちの道具類ではそんな物を作り切れない。そもそも刀を打てる程の鉄は今は用意していない。
用意していたら絶対にそっちに走る自信がある。なのでコレもある意味自制心なのだろう。衝動に抗いながら再加熱をした鉄を木枝で挟んで取り出し、槌で打ち付けて行く。
ここでは仮付けした鉄を本格的にくっ付けて打ちやすい長方形の形に形成していく工程だ。玉鋼ならここで不純物の量や炭素量を見ながら鍛接していくのだが、卸金はその辺は余り神経質に見る必要が無い。まぁ気を抜けば後に膨れや割れが出てしまうので、あくまでも程度の問題であるが。
何度か叩いては再加熱を繰り返した後折り返しを行う。武器では無いので本来は特に折り返す必要は無いとされているが、江戸時代まで鎖国していた関係で西洋の鉄が殆ど入ってこなかった日本では、刀や槍などの刀剣類以外の日常的な鉄も全て玉鋼を使うしか無く、工程的には
HTWはゲームの癖にこう言う基本的な部分は尊ぶ傾向にあり、ゲームでの制作においてもこの工程を取り入れている。
それに習っているクリンであるから一度の折り返しは行う。本当は二度目もやっておきたい所だが、四つ同時に行うのと手持ちの道具では二回もやるのはホネであるので妥協する事にしている。
本当は切り鏨(折り返しをする際に焼けた鉄に切れ込みを入れる為の大きい鏨。鉈の様な形をしている事が多い)が欲しいのだが、そんな物は無いクリンは頑張って前の村で作った鏨でガジガジと切れ込みを入れて行く。
やはり普通の鏨ではやり難い事この上ないのだが、どうにかこうにか折り曲げてくっ付ける。下り曲げた鉄は再び藁灰をかけて炉の中に戻す。
「まぁ……稲藁じゃないからコレが何処まで効果があるのか謎だけどねぇ……無いよりはマシだと言う事で納得するしか無いよねぇ。HTWじゃ原料不一致でマイナス補正付いてマスタースミスから怒鳴られている所だね」
ゲーム中でクリンに鍛冶を教えてくれていたNPC鍛冶師の仙人めいた顔を思い出しつつ内心苦笑する。一応麦藁でも似た効果が出るとは聞いているので、大きく品質が下がる事は無いだろうとは思っている。付け加えるのなら下がった所で武器では無いのでぶっちゃけそこまで困る物でもない。
四個の塊が再加熱されると、武器だと必要な折り返し鍛錬をすっ飛ばして沸かし伸ばしの作業に行く。
刀なのであればここで折り返しを多く行い炭素量の多くて層を多くする事で硬くする、通称
因みに柔らかいとは言っているがどちらも十分硬い鉄であり、どちらかと言えば鍛冶師の感覚の上で硬い柔らかいと言い分けているだけである。
また、必ずしも柔らかい鉄が芯として使われる訳でも無く、その時の鉄の性質や鍛冶師の流派によっては外側の方に柔らかい鉄を使い芯に硬い鉄を使う事もある。
その辺りは本当に鍛冶師と鉄の性質次第なので正解は一つではないと言える。
炭を追加し鉄を再加熱させる。動かし難い鞴も何のその、順調に目標温度の色合いにまで加熱したら取り出し、槌で叩いてひたすら伸ばしていく。
前の村でならこの作業はなんちゃってスプリングハンマーを使っている所だが、今はもうない。となればする事は一つ。
「オーラコートっ! 《筋力増強》っ!!」
当然これである。しかしコレを使っても尚現状のクリンでは叩く力が弱く、伸ばすのに時間が掛かり鉄が冷めてしまい、それを更に補う必要が在る。
「クラフターズ・コンセントレーションッ!」
必殺の戦闘職スキルと生産職スキルの重ね掛け。打つ力が多少弱いなら回数で勝負。これにより鉄が冷めきる前にスプリングハンマーを使うのとそんなに差の無い速度での打ち延ばしが可能になっている。
前回この重ね掛けをして筋肉痛になったばかりなのに懲りない少年であるのだが、それだけなりふり構っていられないと言う事でもある。
何より槌を打ち付けて
武器では無いが鉄を叩き火花が飛び散り、空気が燃えそうな位の熱気と一緒に、
それはこんな環境での鍛冶であるのに、クリンにはたまらなく楽しい気分にさせる。 力加減を間違えれば変な方向へ伸びそうになるのを槌を当てる角度を変えて制御していく。本来ならコレはコテ棒を使い鉄の方を細かく動かして叩く位置は変えない物なのだが、それすらも無い今は槌の方を動かして叩くしかない。
そんな事はHTWでもやった事が無い。いや、鍛冶を覚えたての頃は理屈が良く解っておらず、適当に槌を振っていたので打つ場所が勝手に変わっていた。
そう言った、未熟ゆえの偶然では無く意図して本来はやらない事をやってまで打つ鍛冶と言うのは少年には久しぶりの鍛冶に加えて、創意工夫をしていると言う溜まらない充足感を与えて来る。
『こんな適当、大雑把、行き当たりばったりの錬成なんて本来Miss表示が出て失敗扱いか、出来たとしても最低品質のジャンクしか作れない。試行錯誤なんてやりたくても出来ないもんね、ゲームでも前世の鍛冶でも』
技法が確立された現代鍛冶において、クリンの様な工法は本来許されない。試したくても試せない。趣味ではなく仕事で鍛冶をしている物なら当たり前だ。
試すにしても仕入れられる金属の量は決まっているし、作れる数も決まっている。作った物を売って金を稼ぐ、つまり生活が掛かっているとなれば試行錯誤なんてしたくても出来ないと言う物。
それが今の環境のせいで……否、こんな環境だからこそ試行錯誤せねばまともに生きて行けない今、心置きなく試せている。
「ハハハハハハハハハハハ! 我が事ながら随分酔狂な事だよねぇっ! だが今は僕が鍛冶師で僕が親方、マスタースミスだっ! なら我道を行くのも一興ってねっ!」
スキルの重ね掛けか、久々の鍛冶作業の為か、それとも炉の熱のせいか。妙にハイになりながらも鉄を叩き続ける。
この感触、この音、この火花。そのすべてがクリンを高揚させていく。この瞬間は少年にとって、ある意味己の生を実感できる最高の瞬間でもあるのだろう。
叩いては炉に戻し、再加熱しては伸ばして効果が切れればスキルの重ね掛けを再び行う。今だけはココが壁も無い屋根があるだけの、吹きさらしの鍛冶場である事も忘れ、思う様に笑い声を挙げながら沸かし伸ばしを続けて行く。
鍛冶作業は彼にとっての最大の楽しみであり、つかの間の現実を離れ少年だけの世界に連れて行く、魅惑の作業なのであった。
クリンのMPが切れる頃には手で叩き出しただけにしては見事な程に均一の太さと長さの鉄の棒が四本出来ていた。そして。
当然の事だが翌日には見事に筋肉痛をぶり返し、丸一日寝込む羽目になったのがご愛敬であろう。
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ああ、余は満足じゃ……
前回もそうですが実際に鉄を叩くシーンは燃えます。ココを一番格好良く書きたいと思っているのですが……どうですかね(笑)
そしてコレ書いちゃったから割と満足しちゃっているのも前回と同じだったり(笑)
なんか最終回みたいになってるよね、うん。
まぁ、まだ品物は完成していないので終わりませんがねっ!
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