第148話 福を招く者。



とうとう……クリン君にもテンプレの波が押し寄せる……




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「ニャ~ン」


 という鳴き声と共に、何かがスリッと足を擽って行った。


「うわっ!? な、何だ一体!?」


 慌てて立ち止まり足元を見ると、足に一匹の白い子猫がまとわりついていた。「ニャオ~ン」と鳴きながら、立ち止まったクリンにこれ幸いとばかりに頭を擦り付けている。


「うわ、随分人懐っこい猫だなぁ……おお、よしよし!」


 思わずしゃがみ込みデレッとした顔で猫を撫でまわす。傍から見れば子猫を可愛がる子供の姿。通りを通る人達も心なしかホッコリとした表情で少年と子供を見て通り過ぎる。


「そう言えば、ドーラばぁちゃんがこの街には野良猫が多いって言ってたっけ。お前も野良なんですかねぇ?」


 ワシャワシャと撫でさすりながらクリンは呟く。随分慣れているようで普通は触ったら怒ると言われているお腹部分を撫でまわしても怒る事無くグルグルと気持ちよさそうに喉を鳴らしてへそ天で寝ころぶ白猫。


 撫でている感じ、お腹が結構凹んでいるのでもしかしたらお腹が空いているのかもしれない、とクリンは周囲を見渡す。その間も撫でまわす手は止めていない。


 テオドラに言われた通りに賑わった通りを選んで通っているので、幾つかの屋台が通りに出ていて、その中の一つに何かの肉を焼いている串焼きの店を見つけた。


「……ふむ。折角の出会いです。儲かった事ですし一つ君にご馳走と行きますか」


 喉を鳴らして寝ころんでいる子猫をヒョイと抱え、胸に抱いて目星をつけた串焼きの屋台に向かう。抱かれた白猫はそのまま大人しくしている。


「おじさん、コレ何の肉です?」

「らっしゃい! ウチは昔からダンジョンから仕入れているトカゲ肉の串焼き屋だよ!」


 威勢よく答えた店主が言うには、ダンジョンの浅い層に生息するトカゲ、通称ダンジョンオオトカゲの肉を仕入れていると言う。


 革が丈夫で革製品に加工される為結構な量がこの街に運び込まれ、肉の方は余り旨くは無いのでこの様に屋台や場末の食堂とかに安く卸されていると言う。


 尚、この世界では肉は基本高級品で塩漬け肉などの保存食以外は基本貴族や金持ちの食べる物だが、例外としてウサギや野鳥などの肉と、ダンジョン産の蛇やトカゲなどの爬虫類やネズミなどの肉は庶民でもやや高いが食べられる。


 まぁコレは街の話で貴族や金持ちが殆ど居ない前の農村や最初の村の様な所なら狩れた獲物を食べる事は出来る。


「ま、それでも手のかけ方次第で十分旨い串焼きになるんだよっ! どうだい、一本食って行かないかい?」


 そう言って焼いている串をクリンに見せる。前世の焼き鳥の一回り大きいサイズの肉が刺さった一串で銅貨二十枚。流石安くても肉と言うべきか、それとも銅貨十五枚で昼食が食べられた前の村が安いと言うべきか悩み所であるがその位は今日は十分稼いでいたので頼む事にする。


「じゃあ、一串いただきましょう。それと、この子にも味を付けていない肉を素焼きにして一串もらえませんか?」


 そう言いながら抱えた白猫を屋台の親父に見せると、親父はニカッと良い笑顔になり、


「へぇ、野良猫に奢るなんて剛毅な子だねぇ! 金払ってくれるなら構わないよっ、この街で猫を大事にするのは良い事だからねっ!」


 笑顔のまま新しい串を二本取り出し「どうせ素焼きを作るんだからボウズのも新しく焼くよ」と言って焼き始めた。


 猫を撫でながら屋台の脇で待つこと暫し。肉が焼ける匂いに腕の中の白猫が鼻をヒクヒクさせてソワソワし出した頃、


「はいよ、焼けたぜボウズ! 猫の方は少し冷ますから先に食いな!」


 と、ソースにたっぷりと潜らせた串焼きをクリンに差し出して来る。


「ありがとうございます。おお、良い匂いだ……」


 お金を渡し、代りに串を受け取ったクリンがソースの香りに目を細めていると、片手で抱かれた猫が「ミャアミャァ!」と盛大に鳴き始め、前足を伸ばして肉を取ろうとする。


「ちょ、コレはダメです! 猫に味の濃い物はダメ……ですよね、ここでも?」


 とクリンが屋台の親父に聞くと「変な事を聞くなぁ」と親父は応じながら、


「ああ、猫とか犬には人間の味付けの物はダメだって良く言われる。ほれ、野良。お前さんはコッチだ」


 と、この辺りでも包み紙代わりに使われている大きな葉に串から外して冷ました肉を、串焼きと猫とで両手が塞がっているクリンの代わりに地面に置く。


 すると猫はターゲットをそちらに変え、ジタバタと暴れ出したので地面に降ろしてやると、一目散に肉の下へ向かい豪快に齧り付いた。


「……おお、子猫の癖にワイルドな食べっぷり……こう言うのを見るとやっぱり野良なんですねぇ……取らないからゆっくりお食べ」


 トカゲ肉に齧り付く子猫にニヨニヨして見ていたが、自分もコレでゆっくり食べれると手にしていた串焼きに齧り付いた。


 ダンジョン産のトカゲ肉とやらは初めて食べたが、トカゲ自体は最初の村で空腹に負けて何度か捕まえて食べていたので今更忌避感は無い。味も殆ど変わらない。独特の匂いがある脂の少ない鶏肉と言う感じだ。


 ただこちらの方が肉の弾力が強く、少しパサパサした感じがする。しかし、タップリまとったソースの汁気で咀嚼し続ければパサつきは気にならなくなる。


「うん、これは中々……ソースだと思ったら何かの煮汁なんですね」

「はっはっはっ、中々イケるだろ? その煮汁は木の実を砕いた物と数種類のハーブをペーストにして煮込んだ自慢の汁なんだ。それを酢で割ってあるんだがトカゲ肉との相性がいいだろう?」


 と、親父は自慢そうに言う。


『成程、前世だと肉には塩、と言われているけれどこの世界だと塩は結構高いもんね。少しだけ使っているみたいだけど味が足りないのを、この木の実とかハーブ、そして酢で味を出しているんだろうね』


 前世の記憶があるクリン的には下味が無いので少し味が寝ぼけた感じがするが、この世界の基準からするとかなり旨い部類に入るのではないかと思った。


 ただ、やはりもう少し塩気がある方が旨いとどうしても思ってしまうのは否めない。ただ、木の実とハーブが混ざったこの煮汁の香りは素晴らしく、香りの良さで味気ないこのトカゲ串も旨く食べられている。


「ふぅ、美味しかったです。こんなに美味しい串焼きは初めてですよ!」


 とクリンが言うと串焼き屋の親父は「ありがとうよ!」とニコニコ顔で答える。少年の言葉も嘘では無い。串焼きなんぞ初めて食べたのだから。現代人の味覚としては正直イマイチだったが転生した後の基準で見れば、成程自慢するだけの腕はあると思えた。


「お前も美味しく頂いているようで良かったですよ」


 と、クリンは葉っぱの上のトカゲ肉をガツガツと食べている二匹の子猫を眺めながらそう呟く。が——


「ん? あれ、二匹!?」


 いつの間にか白い子猫の隣に茶寅の子猫が一緒になって顔を突っ込んでトカゲ肉を食べていた。そして二匹で食べたら当然少なかった様で、


「「ニャァニャァ!」」


 と合唱を始めてクリンにねだり始める。


「ええ……まさかのお代わりコール!?」

「はっはっはっ! ウチの街の猫は逞しいからね。餌をくれる親切な相手だと分かれば他の猫も寄って来るのが普通なんだよ!……で。どうするボウズ?」


 新しく何もつけていないトカゲ串を両手に一本ずつ持った串焼き屋の親父がニヤリと笑いながらクリンに聞いて来る。


「やられたっ……商売上手いですねぇ親父さん……」

「だから言ったろ? この街では猫を大事にする事は良い事だって! こうやって新しい客と追加注文を持って来てくれるんだから、有難いってもんよ!」


「良い事って親父さんにとってって意味かよっ! ああもう、負けました。追加で素焼きを二本……「「「ミャアミャァミャアミャァ!!!」」」……いつの間に三匹に!? 分かった、じゃあ三本! コレで終わりですよっ!! もう追加で来ても上げませんからね!」


 半ばやけっぱちになって追加注文するクリンであった。


「おいおい、有難いけれどもそんなに金使って大丈夫か? 合計で銀貨一枚分だぞ?」

「今日は露店で儲けられましたからね。銀貨一枚までなら許容範囲です。それに……」


「それに?」

「猫を大切にすればいい事があるんでしょう?」


「はっはっはっ! その通りっ!! ホレボウズ、コレは猫に太っ腹で親切なボウズに俺からのサービスだっ! もう一本食っていきなっ!」


 そう言って新しい串を追加で焼き始めた。育ち盛りのクリンであるからこの申し出は有難く受ける事にする。


『成程、猫を大事にすればいい事がある、ね。いつの間にか後をつけていた奴の気配が無い。この街では本当に猫はああいう厄介な相手も避けて行くみたいだ』


 さり気なく周囲を探り危険察知が反応していない事に、クリンは改めて、


『となると、猫を見かけたらなるべく近くに寄らせた方がこの街では安心になるって事だね。コレはアレだね、露店を出す時は猫の餌になる様な物を持参した方が良いかも……ああ、イ〇バの〇~ルがあれば話が早かったんだけどなぁ……作るか!? いや無理だな……アレ絶対なんか怪しい猫用薬入っているよね』


 追加の素焼きを旨そうに食べる三匹の子猫を眺めつつ、新しい串焼きを受け取ったクリンは心の中でそんな物騒な事を考えていた。少年がこの街特有の猫んピードという現象を知るのはもう少し後の事である。





 結局、それ以上子猫は増える事無くトカゲ肉を食べ終えると、満足したのかそのまま屋台の脇で三匹で団子状になって寝てしまった。


 最初の懐き方はなんだったんだ白猫、と思わなくもないクリンだったが本格的に懐かれても森に連れて行く訳にも行かないのでコレはコレで良かったと思う事にする。


 その後テオドラの手習い所に戻ったが、その道中何度か周囲を伺ったが再び後をつけられるような事は無かった。





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なんて訳がないねっ!

テンプレ?ナニソレオイシイノ?

それがクリンクオリティ!


あ、白猫は単に感想でそういう声が有ったから出しただけです。特にレギュラー化して出て来る予定は無いです(笑)

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