第147話 商売繁盛。
クリン君のコネコネ大作戦が徐々に実りつつあります。ま、実の所クリン君はなんも考えていませんけれども。
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先日の探索では流石に時間が少なく発見出来なかったので、次の日は早くから森に出る。コレまではこの広場の周囲と森の浅い所しか踏み込んでいなかった。
元々この森は近隣に集落が無く、この森を利用している形跡も無くほぼ原生林にちかかった。結果、浅い部分の間引きがされていないので非常に森の植生が濃かった。
コレまで入っていた森は何だかんだで人の手が入っていたので動きやすかったのだが、この森では流石にそう言う訳にもいかず、また森の状況も人から聞く事が出来ない為、コレまでよりもかなり慎重に移動して居た為、あまり広い範囲の移動が出来ていなかった。
だが、新しく弓を作り多少の自衛が利く様になり、行動範囲を少し広げて探索が行える様になった。その為か結構な大きさの倒木も見つける事が出来た。、そのままでは運べないのでノコギリで運べるサイズに切ってから数回に分けて小屋に運び込む。
「これなら三十センチサイズの皿も十分削り出せそうだね。やれやれ、まさかこんな所でもゲームと現実の差を思い知る事になるとは、思わなかったよ」
運び込んだ倒木材を眺めつつ、クリンは一人でそうぼやく。HTWは無駄にリアリティと言うか『現実味』を出す為に、製品の規格サイズと言う概念をそのまま持ち込んでいる。衣類ならS、M、L、LLと言う規格を持ち込んでいるし、クリンが作って居た様な食器類も小、中、大と言う規格を持ち込み、それぞれ決まったサイズで統一されている。
その為、製作図面も最初にサイズを選べば全てそのサイズの図面に変換されて制作が始まる。デフォルトだと全て中サイズになる。
そして、ココがゲームなのだが図面上はサイズが決められているのだが、実際に製品として使う場合「オート調整機能」と言う物が存在し、自分の体格にあった比率で大中小がグラフィック状で変化する。
つまり、身長や体格に合わせて「見た目上のサイズがその人に合わせられる」と言う事だ。この機能により大柄の人にとっての中サイズのデフォルトサイズと、小柄な人の中サイズは、主観上は大きさが変わってしまう。本来同じサイズである筈なのに違うサイズとして目に映っている。
何故こんな風になっているかと言うと。ゲームなので一々サイズ変更とかしていたら時間がいくらあっても足りなくなる為とCGの整合性バランスを保つ為である。
この機能が無いと、例えば大剣として作った物が大柄なキャラには片手剣となってしまい、大剣の性能を持った片手剣と言う矛盾した物が生まれてしまう。
それにより有利不利が生まれるのはゲーム的に面白くないし、認めてしまえばゲームキャラは全員ムキムキマッチョオンリーになってしまい暑苦しい事この上ない。
よってこう言うアジャスト機能がHTWでは採用されていた。クリンは余りにもヘビーユーザーであったためにこの仕様に慣れ過ぎてしまっていて「図面をちゃんと出して規格に合わせて作っていれば」ちゃんと現実に即したサイズの皿が作れたのだが、ゲームレシピをそのまま使えず現地材料で臨機応変に改良して作って来た為、気が付かずに無意識の内に「自分にとっての中サイズ」の物を作ってしまっていた、という訳だった。
「まぁ、でも今気が付いただけ良かったと言う事かな。日用品だったから笑い話で終わるけれども、もし装備品とかでアジャスト機能があるつもりで作って居たら洒落にならない所だったよ」
怪我の功名とはこの事だ、とクリンは独り考える。お陰で売れるヒントと誤魔化し方に気が付けた。様は単一サイズだから需要が無いし自分サイズだから即バレする。
前世の商品みたいに小中大でサイズ分けして売れば需要もあるだろうし、何ならセット販売しても良い。セット販売なら少し値段を下げお得感を演出し、ばら売りならサイズ毎に値段を変えると言う方法でシレっと値上げもできる。
何よりもサイズ違いを出せば制作者バレもそう起きないだろう。……と思ったが、何か褒められたら思わず自慢しそうな自分が居る事にクリンは薄っすらと気が付いている。
「まぁ何にしても商売のヒントを貰ったし。一枚か二枚位、四十センチ超えの特大サイズとか作ってみるかな。ここから運ぶ事を考えたらそんなに枚数は作れないけど」
物は試し、とサイズ違いの木皿の制作に入る。手彫りであるので時間が掛かるのだが、クラフターズ・コンセントレーションを併用して数日で必要枚数を作り上げる。
最も、ずっと森に籠りっぱなしと言う訳に行かないので何度か午前中だけは街に勉強しに行ったりしていたので、引きこもって制作に掛かり切りよりは時間が掛かっているが。
三度目の露店では、今度はコレまでの十七から二十センチの皿を小サイズとし、一回り大きい物、二十四センチから二十七センチを中サイズ、野菜売りのオヤジが注文した物を大サイズで三十センチから三十三センチ目安で制作した。
それぞれ小、中が三十枚ずつ、大が木のサイズの都合で十枚。そして念のために野菜などを乗せ易いように、と長方形の四十五センチサイズの角皿を二枚用意した。
「う……流石にリュックがパンパンだな。それに重いし……薬も二種類持っていくのが限界だね。もう一ランク大きいリュックを作るか? でも今の体格じゃ重くて持てなくなるだけかな。現状はコレが最大販売数かなぁ」
これに弓と矢、ナイフとハンマーを持つ事を考えれば、これ以上重くなると体力的に一時間半も歩いていられなくなるだろう。やれて、肩掛けカバンでも追加で作ってそれに水や休憩時の軽食などを入れる位が関の山だろう。
「そうなると本当に引き屋台みたいな物が無いとこれ以上の商売は無理か。でもあれもアレで重いし。何か機構を考えないと一時間半も引っ張って歩けないだろうなぁ」
つくづく子供の身体での商売は制限がキツイと思うクリンである。
そんな事を考えている間に街に着き、前回と少しだけ離れた場所で露店を開く。開始の鐘が鳴る前に野菜売りのオヤジに大皿と角皿を見せた所、どちらも買い取ってくれた。それどころか中サイズの皿まで十枚購入すると言う。
値段は小サイズは変わらず銅貨十枚、中サイズが十三枚、大が一七枚で角皿が二十枚の値段を付けたが、値切る事無くそのまま代金を払ってくれた。
やはりサイズで値段を変えれば多少高くても納得して買ってくれる様だ。
「いやぁ、使い勝手がなかなか良くてね。ウチはこんな感じで台車に天板を乗せて野菜を並べて売っているんだけどさ。ボウズの皿だとガタガタしないんだよ。座りもいいし野菜も乗せ易いからね。この角皿なんか大物を乗せるのに実に良さそうだ。見た目的にもタダの木籠に放り込んでおくよりも良いしね。それにこの大きさなら銅貨二十枚は十分出せるよ。もう少し高くても良い位だね」
と、かなり使用感が気に入っている模様だ。そんなに買ったら赤字ではないのかと思ったが、どうやら皮汁に浸けた独特の風合いが皿に並べた時に野菜の色が映え、見栄えが良くなったのか売り上げが上がったとの事。それなら皿を統一すればもっと売り上げが伸びる事が期待できる、と考え購入してくれているらしい。
その野菜売りのオヤジの話を聞きつけたのか、同じ区画で屋台を出している露店主が覗きに来て、小サイズと中サイズの皿をそれぞれ二十枚ずつ買ってくれた。
昼過ぎには残りの皿とコップも売れた。これで食器は何と完売である。しかも屋台の店主とコップを買った人からは、皿も買いたいので欲しい個数を用意するように頼まれた。またも注文が入った形である。
「何とまぁ……家庭用として買われる事を想定していたんだけど、なんか業務用になりつつあるなぁ……有難いんだけど少し複雑だね」
どちらの店主にも追加で作るのに一週間は見てくれと伝えてある。コレでクリンの木製食器は一躍主力商品となったのであった。
薬の方は流石に完売はしないが、前回買った人が「結構効きが良い」と口コミを広げてくれたのか、チョボチョボと売れている。
「うぅん、安め設定だけれども流石にコレだけ売れれば結構な儲けが出るなぁ。税金分考えても銀貨八以上の売り上げか……ちょっと出来過ぎだねぇ。食器の完売までは考えていなかったのに」
と、クリンはホクホク顔であるが、手放しで喜ぶ事も出来ない。食器はそんなに頻繁に買い替える物ではないので、ある程度広まったら頭打ちになる。ましてや作るのに時間が掛かるので、広まる前に人気が無くなる可能性もある。
「まぁ、食器に拘らずに木工製品を色々と考えて商品を模索するしかないかな」
既に次を考えているクリンである。まぁ薬も徐々に売れ始めているのでそこまで心配はしていない。
ただ、売れ行きが良い商品が多い中、一つだけピクリとも売れない物がある。実は初めての露店の時から持ち込んでいたのだが、最初は出す前に食器が完売したので出番が無く、二回目の時は食器もあまり売れず、今回も懲りずに出していたのだが全く売れていない。
それは、あの森に住むようになってからも、木工上げの練習として彫り続けて、そろそろ小屋にも置き場が無くなってきた、セルヴァンを模した木彫りの御神像だ。
折角彫ったのだし木製食器を売るのだから、と試しに一体だけ敷物のスミに置いておいたのだが、誰一人として興味を持つ者は居なかった。
とてつもなく偉い神様なのだが——この国では古の大神と言えどもどマイナーな神扱いされている為か、さっぱり売れる気配がない。今日も目出度く売れ残って、クリンにより森に持ち帰られる事が決定したのであった。
そうして薬の残りとセルヴァン像をリュックに仕舞ったクリンは、テオドラに預けた弓矢一式を受け取りに行こうと市場を後にしたのだが。
「……ぬん?」
何となく、危険察知が働いた気がして眉を顰める。今まで森の中とか街道とかの野外でしか反応していなかったが、街でもちゃんとスキルは機能しているらしい。
「……やっぱり今日は一気に売れていたからねぇ。目を付けたヤツが出たかな?」
露店を開く初日に、テオドラに言われた事を思い出すクリン。やや危険察知の反応が弱いのは、まだ午後の鐘が鳴ったばかりの早い時間である為人通りが多く、相手も様子を伺うだけに留めている為である様だ。
「うーん、ドーラばぁちゃんはこう言う場合は直ぐに手習い所に戻る様に言っていたけれど……それだとアイツらをばぁちゃんの所まで連れて行く事になるんだよなぁ」
テオドラの口ぶりからすると、そういう連中に知られても何ら問題が無い様な感じであったが、ココまで世話になっているとこれ以上面倒を掛けて良い物か、つい躊躇してしまう。どうした物か、とクリンが歩きながら考えていると——
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次回に続くっ! ダダンダンッ!! (・`ω・)b
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