第145話 薬草と木皿。
多少、夕方になってから気温が下がる様になった気がします。
まぁ、それでも日中は暑すぎてまだ頭がボーっとして上手く働かないんですが(笑)
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翌日から早速とばかりに、テオドラの元に薬草学を学びに行く。当初は主に薬草の種類と近隣で取れる代表的な薬草とその生息地、採取の手法とその保存法などを教わった。
大部分はHTWと前世でも使われていた薬草かその現地亜種であったが、幾つかこの世界独自の薬草もあった。
採取手順や保存法は大体HTWと同じであり、特殊な採取法がある物も存在している所も同じであった。ただそう言う物は貴重な薬草であり貴重な薬になる物ばかりで、今は関係無いとザっとした知識として教えられただけだった。
加工法も大体同じだ。分量に若干の違いがある事と、HTWでは入らないこの世界固有の薬草が使われている以外は、基本はやはり同じだったのでクリンにとっては覚えるのはとても楽な部類であった。
「何とも可愛くない教え子だねぇ。少しは失敗してみろって物さね」
教える方にとっては非常につまらない授業になっていたようだが。だがお陰で一週間もあれば十分商品に出来そうな薬が作れる様になっていた。
『加工の効率と効果的にはHTWのレシピの方が上かな。ただこちら特有の薬草が入ると効果はコチラの方が強くなる傾向があるみたいだ。後、薬草で作る生薬にしては効きが早い気がする。コレはコチラの世界の何かが作用しているって事なのかな?』
クリンの方は内心でそんな考察をしていたが、取り敢えず下痢止めと痛み止めと傷薬がテオドラレシピにより売り物になる目途が付き、万々歳と言う所だ。
テオドラレシピで何度か薬を作った所、老婆から十分売り物になるとのお墨付きをもらい、二度目の露店の際には薬も商品に入れる事にする。
二度目が結構時間が空いたのには薬草学の勉強の事もあるが、新しく木製食器を作成するのに時間が必要だった事と、いい加減森の中をナイフとハンマーだけで歩くのが不用心だと感じる様になったので、弓を新たに作成したためである。
森の中でニレもどきの木も見つけられたので、十分な太さの枝をノコギリで切り取り乾燥させてから加工したので、コレだけの時間が必要になった訳である。
それに合わせて、鏃も鉄製の物を作り出したので余計に時間が掛かっている。つまり、この短時間で鍛冶場まで作っていたりする。
と、言っても前の村で使っていた様なちゃんとした鍛冶場では無い。前世でも大昔の鍛冶は野外で行われる事もあり、それを参考にタコを使って均した地面にレンガを積んでレンガ炉を作り、森から取って来た幹を穴を掘った溝に差し込んで柱にして、一番最初のクリン小屋の屋根作りの応用で草葺きの屋根を付けただけの、非常に簡素な物だった。コレもトーマス動画で彼が作っていた物をそのまま模しただけである。
壁など無い東屋みたいな物だが、森に囲まれた場所なので木々が自然の防風になるのでそこまで急務では無いので、今はコレで十分と割り切っている。
和式鞴は流石に持ち運びに悪かったので前の村に置いて来ていたので、今となっては懐かしの素焼きの鞴、手動式ブロアーを作成して使っている。
本当は鏃は鋳造で量産してしまうのが楽なのだが、鉄の量的に大量に作る余裕が無く、また前の村でも頻繁に使っていた崩れた野焼きの炭しか造れていないので、炭の量的にも鉄を鋳溶かす程の火力を出すのがまだ難しい為、三本分ほどの鏃を鍛造で作るのが精一杯であった。それですらなんちゃってスプリングハンマーが無いので結構時間が掛かる。
「何ともまぁ、一歩進んで五歩下がる気分だねぇ。ヤットコも無いから木の棒を代わりに使っているし。それでもハンマーとヤスリとノコギリ、カンナにノミまであるんだから一通りは何とか作れるのは有難いね。また石ナイフから加工でないだけマシだね、うん」
口では不満タラタラだが、その割には実に楽しそうに鏃を鍛造していく。因みに金床も無いので森の中で見つけて来た大石を転がしながら運んできて金床代わりにしている。
前の村での経験と、トーマス動画の知識を総動員すればこのような事も出来てしまう辺り、少年の順応能力も中々の物である。
鏃は集めたクズ鉄の中で板状の物を選んで赤らめてハンマーで叩いて大まかに鏃の形にしたら、冷ましてヤスリで形と刃を削り出し、焼きなましして研ぐだけだ。正直ごく普通の鏃で特に飛びが良いとか刺さりやすいとかまでの性能は出ていない。この世界の鏃より焼きなましした分多少丈夫、という所だろうか。
苦労を掛けて作った鉄の鏃で三本の矢を作り、木皮を叩いて取り出した繊維で作った矢筒に入れる。何度も使いまわす気ではいるが、矢が三本しかないのは流石に怖いので、結局石の鏃の矢も七本作り、合計十本の矢を矢筒に収める。
解り易いように鉄の鏃の物には街で手に入れた鳥の羽で矢羽根を作り、石の鏃の物には前までの様に木の葉を刺して矢羽根代わりにしている。コチラは無くなっても惜しくないのでこのような雑な作りにして見分けが付きやすくしている。
こうして出来た新しい弓と矢を携え、並行して作成していた木製食器とテオドラ印の薬をリュックに詰め、クリンは再び露店に挑む。
因みに、木製食器は前回と同じく皿が三十のコップが十、どちらも木の皮汁で色付けしている。そして密かに前よりもしっかりとした物に作り替えたゴザモドキもリュックの横に縛り付けてある。地味にコレにも木の皮汁をしみ込ませてある。
コレは木の皮の煮汁に防虫、防腐効果がある為だ。木工品に塗るのには実は相性が良い物である。
ブロランスの街に着いたクリンであったが、ここで少し手間がかかる。弓を持って来ていたので武装と見なされ入場料が余計にかかり、弓も直ぐに使えない様に弦を外して弓に巻き付けて封がされ矢筒も布で巻かれた。街から出るまでこれらを外すと捕まるか罰金が取られる仕組みらしい。
魔物の居る世界なので武装する事自体は咎められない。寧ろコレまでクリンがナイフとハンマー程度でフラフラ出歩いていること自体の方が不自然に見えていた位だ。そのような世界だから街中に武器を持ち込んでも平気だが、その代わり直ぐに使えない様な細工が必要になっているらしい。
「考えてみれば当たり前だよね。日本でも場所によっては脇差以上の武器を持って街や宿場に入る場合は紐とかで封をされて勝手に切ったら罰せられたって話もあるし」
まぁ、それも江戸時代前期の話で後期には大分有耶無耶になっていると聞いたが。兎も角そんな手間がかかったが無事門を潜る事が出來、そのままテオドラの手習い所に向かう。
作った薬をテオドラに見せ、これなら売っても良いと許可を貰い、約束通りに授業料代わりに薬を幾つか納品する。ついでに、市場では封がされているが邪魔になるので弓矢一式を置かせてもらう。
「こんな物まで作れるのかえ……本気で器用な小僧だねぇ。というか、こんな物が必要になるなんて、アンタ一体どんな場所に住んでんだい?」
「自然に囲まれた、素材と野草と芋虫と薬草取り放題のステキな所に一軒家建てて住んでいます。その弓も出来たのでお肉も近々取れる様になる予定です」
「……世間一般様じゃそれは未開地と言うんだけれどねぇ」
ドヤ顔で言ったら呆れた顔で返され、地味に凹んだクリンはそのまま肩を落とし市場通りに向かった。前とは別の場所でも良かったのだが、何となくあの場所の雰囲気が合っている様な気がしたので、同じ区画で店を出す事にし税を払う。
これも何となくだが、前回完売こそした物の結局店を開く前に終わってしまった場所が空いていたのでそこで今回も露店を開く事にする。
早速、作り直した敷物を敷いて商売の準備をしていると、
「お、ボウズ。またここで店を開くんだな。というか結構間開けたなぁ。最初の商売が上手くいった奴は普通は続けて露店出す物なんだがなぁ」
と、野菜売りのオヤジが声を掛けて来た。今回は少し離れた場所で店を出しているらしいが、クリンの姿を見つけて声を掛けに来た様子だった。
「ああ、おはようございますオヤジさん。この前買い占められて売り物が無くなりましたからね。本当は様子見ながら売れた分を新たに作る予定だったんですが、一気に作る必要が在りましたからね。どうしても再開に時間が掛かったんですよ」
「ああ、それは悪かったね……って、作った? ボウズがかい? 代わりに売りに来たとか言っていなかったかい?」
「……あ。そうだった。そうなんですよ、その人が新たに作るのに時間かかりましてハハハハハハ」
ウッカリと設定を忘れてしまっていて、白々しく言い直して笑ってごまかすクリンだが、野菜売りのオヤジは一瞬間を開けたが「そうかい」と変わらぬニコニコ顔のまま言っただけでスルーしてくれた。
「この前買った木皿、中々使い勝手が良かったよ。見た目も落ち着いた色で客の評判も良くてね。実はあのまま商品を並べるのに使わせてもらっているんだ」
「おお、そうですか。作った物を気に入って頂けるのは作者冥利に尽き……あっ」
「……ボウズ、用心深そうに見えて意外と抜けているって言われないかい?」
「今初めて言われました……もういいです。どうせここで何度も商売していたら何れバレるでしょうから、今更と言う感じです」
「開き直ったよこのボウズ。でもまぁ、それも一理あるね。しかしその歳でこの木皿が作れるってのは、良い腕と言えるなぁ。まだ四歳か五歳だろ? 大したもんだ」
「六歳なんですが」
「ええ、それはちょっと発育悪くないかボウズ!? ちゃんと飯食っているか? 安くしてやるからウチから野菜買っていきな!」
「大きなお世話です! 何キッチリと自分の店の宣伝してくれてんだオヤジ。他に用事無いならさっさと戻って下さい。今準備で忙しいのですから」
「おっと、悪かった悪かった。ボウズ、今日も木皿売るんだろ? 市場が開いてからで構わないから木皿を後十枚売っておくれよ。それと……まぁ開き直ったならいいか。できればもう二回り大きいサイズの木皿を十五枚ほど作れないかい? この皿使いだしてから客の評判も良いから、出来れば統一したいんだよ」
予約購入だけでなくまさかの注文まで入って、クリンは目を丸くするのであった。
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使ってもらえば品質の良さが分かる、の言葉の通りにリピーターが既に生まれていた様子です(笑)
まぁオヤジさんの場合コレクター心を擽られた感もありますが。
そしてやはり色々と作って居たクリン君でした。
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