第140話 転生少年の新しい生活。
少しずつアクセルを踏み始めるクリン君です。
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翌日からクリンは積極的に行動を始める。コレまでと同じく日の出前に起きると薪に使えそうな落ち枝やノコギリで切り落せそうな幹や枝を落とし材量を集めて行く。
集めた薪材や木材は、その集めた材料の中から丈夫そうな物を選び、蔓草の紐で縛って土蔵小屋の脇に集積場を作りそこに貯めて行く。屋根も取り付けたので多少の雨なら濡れる心配も無く乾燥も行えた。これらを集めて作ってもまだ日が昇る前だ。
森の中なので探し放題の運ぶ手間も殆ど無いので、少年の技術と相まって恐ろしい速度で材料が集まり物が出来て行く。
その後は粘土集めを兼ねた水路跡の掘り起こしだ。拾ってきた枝を組んで簡単なソリにし、その上に作った桶を乗せてその中に掘り起こした土を入れて行く。
桶が一杯になったら枝ソリを引いて小屋脇の集積場に貯めて行く。何もない今の環境ではこの粘土は幾らでも使い道がある。
ある程度土が溜る頃には日が昇り良い時間になったので朝食を摂る。勿論何時ものライ麦粥だ。水は昨日の内に川から汲んで来て別の桶に貯めてある。
比較的綺麗な川の水であるので、一晩おいて上澄みの方だけ使い更に沸かせば何とか飲料として使用出来ている。
「まぁ、それでもやはり川の水を直ってのは怖いから後で浄水器を造ろう、うん」
原始的な浄水機構は割と単純であり、要するに自然の浄化機能を疑似的に再現しただけの物なので、何よりも森の中なら材料など幾らでもある。
それは後の事として、早速囲炉裏を使いライ麦粥を作り「ウマウマ」と啜った後は前の村から習慣になっているストレッチを行う。かれこれ一年近く続けて来たお陰か、かなり柔軟性が保たれており、開脚したまま体を倒して胸をベッタリ付けると言う軟体技も出来る様になっていた。
「うはははははははは、目指せ足の指で鼻くそ穿り! ……あ、いやまぁアレは流石に無理かな」
あの未来のお子様は柔軟なだけでなく足指が鬼の様に器用だから出来るのだろう。流石に現在のクリンにあの足指の器用さは無い。まぁ、足で文字は書けないが大雑把な絵なら書ける様になっているので、それはそれで大概ではある。
朝食とストレッチを済ませた後は、家の制作に三日かけていたので街に向かう事にする。流石にまだ商品となる物の作成まで手を付けていないので、体一つで向かう事になる。
普通に歩けば少年の脚だと一時間半以上かかるのだが、体力作りを兼ねて軽く走りながら向かったので一時間と少しで街に到着する。
尚、門に入る直前に馬に乗った騎兵の一団が出て来る所を見た。何か起きたのだろうかと思ったのだが、後でテオドラに聞いた所によると「主要街道は定期的に衛兵や騎兵が巡回している」との事だった。毎日と言う事は流石に無いらしいが、日時や時間はランダムで数名の集団で巡回をしているらしい。
「流石魔物が居る世界。そしてこの世界は割と行政と言うか王族貴族に結構力がある様だなぁ。税金を取るだけでは無くちゃんとこう言う形でも還元している辺り、まともな行政が行われているようだねぇ。そりゃ冒険者みたいなのに治安を任せる様な真似は現実で考えりゃ怖いもんねぇ……金次第だし身元なんて有ってない様な物だし」
そんな事を考えながら門を潜ると、手習い所に向かう。この街では朝六時に「開門の鐘」と呼ばれる早朝の鐘が鳴った後、早い市場や衛兵などの公的な立場の人達は動き出すが、庶民は一般的にこの鐘で目を覚ます。
その後に朝食やら洗濯やらの朝の一仕事を済ませ午前九時に鳴らされる「朝の鐘」で大体仕事が始まる。テオドラの手習い所もこの鐘を合図にして解放されている。
この習慣のお陰で、クリンは森で一仕事を終えて食事した後に森を出ても十分に朝の鐘よりも前に街に着く事が出来ている。
そうして解放されると同時に勉強を始める。とは言ってもクリンは前世で高校生レベルの学習は終えている(長期入院で暇だったのでゲームで遊んで居ても学習するだけなら幾らでも時間があり進められる)ので、この場所で学習するのは本当にこの世界の文字だけの事だった。
『うん……話し言葉で何となく思っていたけれども、文字形態が違うけれど言語の組み立ては割とラテン語に近い感じ……いや、その発展形のイタリア語に近い感じな様子だね。これなら文字さえ覚えれば割と対応しやすいかも』
前世では流石にイタリア語など習っていないが、英語は勉強の事もあるがゲームの開発に絡むテスターをしていただけあり英語はある程度使えていた。
ほぼコンピューター用語の為に覚えた様な物であるが、割と英語は西洋の言語に被る部分があるので、それを覚えていれば割と学習しやすいと言われている。
ま、少年の場合にはこれ以外にも某裸族系サバイバルニキの動画にコメントを残す為に更に勉強したと言うのもあるが。
その下地があった為か、此方の世界の言葉を覚えたクリンは文字を覚えて単語を丸暗記すれば、割と文字の学習は早かった。
まだ五、六回程度の勉強であるが、アルファベットに相当する文字は覚えてしまい、今は文法的な物を学んでいる所だ。
計算もあるのだが、そちらは数字を覚えるだけで後は前世の計算法が使えたので、ほぼ一日で学習を終えている。
「何とまぁ、可愛げのない小僧だねぇ。教え甲斐がないったらありゃしないよ。いいかい皆、この小僧は何処かおかしいんだからね。こんなのを基準にしたらダメだよ、こう言うのを百害あって一利なしって言うんだ覚えておきな!」
異常とも言える学習速度に流石のテオドラも舌を巻く。そして、他の手習いに来ている子供達に少年の真似をしない様に口を酸っぱくして注意する。
前世の記憶なんていうふざけた物がある上に、無駄に高スペックなクリンにとってはこの程度の学習は学習ですらなく、ただの復習と知識のズレのすり合わせにしか過ぎず、長年子供達に読み書きを教えてきたテオドラにはそれが何となく察知でき、子供達が少年と自身を比べて無駄な劣等感を抱かない様に釘をさすのだった。
「お前さん、実は読み書きできるんじゃないかい? いや……文字自体は知らないのは間違いないね……そうか、お前さん『違う言語』の読み書きは出来る口だね? それならこの異常な物覚えの良さは説明付く。計算も……これも計算式自体は学んでいるね。コチラの計算式と数字のズレを治すつもりでウチに来たんだ。多分アンタに文字だの計算だの教えたのは外国の人間だろ?」
「……これは驚きました。良く解りましたねぇ……今までそれに気が付いた大人は一人も居なかったのですけれども」
コレには流石のクリンも舌を巻く。流石に異世界の知識を持ったまま転生した事は解らない様だが、それでも少年が公的には「ボッター村のクリンと言う行商人」と言う架空の人物がこの国とは違う知識を持っていてそれを教わっている、と言う説明を、彼がする前にそういう人物がいて少年に教えた事に気が付くとは思っても居なかった。
ましてや言語学習自体は既にしている事に気が付くなど相当と言える。
「はん、解らいでか。こちとら『コレ』で飯食っているんだからね。それに小僧のその口調だよ。明らかに丁寧語を学習した人間に教わった言い回しだよ、それは。口調をただ真似ただけじゃ出来ないさね。教えたヤツが絶対に居る筈さ。しかし、そうなるとお前さんを他の子と一緒に教えるのはダメだねぇ。ちょっと刺激が強すぎる。『出来過ぎる子供』ってのにも限度って物があるからね。アンタは勉強するなら他の子が居ない場所だね」
この様な未開と言えるような世界でも、流石は教育者と言う所か。
『これは、少しこの世界の知識層ってのを甘く見過ぎていたかな? 少し警戒レベルを引き上げる必要が有るかも知れないなぁ』
クリンの場合は環境的にこの世界との知識のすり合わせに時間を掛けていたら命に係わる事を学習済みであった為、「この世界の普通の子供」に擬態する事をほぼ諦めていた。
そもそもがどうやっても滲み出てしまう物であり、まともな家庭環境に育ったのならそのズレを修正も出来たであろうが、今となってはそれは無理筋だ。
多少目立つのはもう織り込んで、大きく目立つ事が無いようにしているつもりであったが、最初の村や前の村での体験からこの世界の教育者の勘と言う物を少し甘く見過ぎていたかもしれない。
この老婆でこれ程の推察力があるのだ。もしかしたらこう見えて一定以上の権力階級、大富豪や貴族と言った知識を保有する層とのコネを持っているかもしれない。
そう言う層に売り込まれ囲われて、自由が無くなると言う可能性も否定できない。
『流石は人が多い街と言う事かな。人物と言うのはどんな場所にでも居るって訳だねぇ。そう言えば前の村の村長の例もあったな。在野でも頭が回る奴は回る、って考えてもう少し慎重に行動する事にしましょうかねぇ』
テオドラと会話しつつ、内心でそう心に固く誓うクリンであった。
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この時のクリンはまだテオドラに対しての警戒を解いて居ないのでこんな感じになっています。
しかし、こう言う色々と読んで生徒に合った学習を考える先生ってのは現実では結構減って来ているんでしょうねぇ。
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