第139話 HENTAIは技術の世界では誉め言葉になるらしい。



ようやくクリンハウスが完成します!

そして相変わらず小技が多めに出てきます(笑)




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 僅か二日で土塗りの外壁が立ち上がった。ただ、コレは別段少年の作業が早い訳では無い。勿論手際が良いのはあるのだが、元々材料さえそろっていればこれ位の速さで作る事が出来るのがこの建築様式の利点だ。


 最も、壁が完全に乾くまでには時間が掛かるとか、乾ききるまでは脆いとか、作っている最中に雨が降ればすぐ崩れるとか、色々と欠点はある。


 だが一旦立ち上がって表面が少しでも乾いてしまえば、後はどんどん土が締まって行って勝手に強固になる、と言う割と雑な仕様なのがこう言う環境では嬉しい。


 まぁ、背が届かなくなったので上の方はまだ土が盛られていないので未完成も良い所なのでは在るのだが。


 クリンは屋根を完成させるために、今日丸一日を材料集めと道具作りに当てた。


 先ずは森に入り、大きい葉っぱの付いている草を出来るだけ刈る。次に細くて長い枯れ枝と枯れ枝が無ければ立木から切り取り集める。次に屋根の梁に出来そうな太さの木を拾い集め、更に一回り太くて丈夫そうな木も集める。


 最後に集めたのは、いつもお世話になっている蔓草。勿論根っ子の芋ごと掘り返しオヤツにする事も忘れない。


 結構な量の蔓草を集め、葉を切り落してよって紐を作る。乾燥させて繊維を取り出す方が強固になると分かっていても、例によって時間の関係で断念している。


 集めた枝の中から比較的真直ぐで丈夫そうな長い物を二本選び、気持ちハの字になる様に配置したら横に短めの木を渡して作った蔓草の紐で縛り付けて行く。


 コレは勿論、簡易的な梯子だ。コレまでクリンは釘を一切使っていないが、何も寸鉄帯びずに物を作る事に拘っている訳では無い。単純に鉄材が手に入り難いのと、この手の前時代的な世界では釘は基本オーダーメイドか自分で打ち出すしかない。


 鉄が貴重なクリンとしては釘を使わないで何とかするしかない訳だ。だが即席の紐で縛っただけと侮る事なかれ。


 前世でも紐や縄を使った縛る技術と言うのは恐ろしく研究されている。船舶や工業の世界ではロープワークと言って、様々な結び方が考案されており特に軍隊でもこの研究は行われている。


 前世日本に置いても自衛隊式ロープ術と呼ばれる物がある位だ。


 そして、縄一本で頑丈に結ぶ技術は古来よりの日本のお家芸であり、江戸時代には捕縛縄術と言って相手を縄一本で無力化して拘束する技術が武術家により研究されている。


 最盛期には百五十以上の武術流派が独自の捕縛術を持ち、独特の固定法を持っていたとされている。最も固定具が発達した現在ではその素晴らしい技術も途絶え、現在は一部の警察の逮捕術の他にはエロい方向での使用がなされる位で、海外ではヘンタイロープワークと呼ばれて一部のマニアが習得しているとか。


 HTWでも工業の流れを組む為に、荷物を固定する為のロープワークは必須とされており、現実でも使われる結び方が幾つも登録されている。


 当然の様にクリン君がそれを覚えていない訳が無く、この時もそのロープワークの技術が遺憾なく発揮されている。小技も完璧に使いこなす辺り小憎らしい少年だ。


 こうして無駄に繊細で高い技術を総動員されて作られた大雑把な梯子は、キッチリと少年の体重を支え切り、後回しにした屋根の制作に着手出来る事となる。





 現在六歳であるクリンは今建てている家に恒久的に住む積りは無く、あくまでも間に合わせのつもりで建ててはいるが、場合によっては数年は使い続けるつもりでいたので、自分の年齢ではあっという間に背が伸びて来る可能性も無くはない。


 そう、可能性と言う希望は持ち続けていたい。現在の身長のまま伸びなくなるなんて事は無いと思いたいので、将来性を考えて現在の身長よりも大分高くなるように組み立てている。その為背の届く範囲は土壁を塗ったが、全体の四分の一程度は骨組みの柱と小舞が飛び出たままである。


 そこに屋根を組む為、再び森に入り柱に使ったのと同じ位の太さの木を三本切り出し、屋根のメインフレームにするために枝を掃う。それ以外に適当な太さと長さの枝を見繕い、コレも枝を払い加工する。


 手製梯子を使って上に上がり、長さが足りない部分を枝を紐で結んで延長させ、取って来た幹を屋根の真ん中を通る垂木として利用する。残りの二本は壁際に配置して軒桁にするつもりだ。


 本格的な家を作る訳では無いので、母屋や棟木は、適当な太さの枝を棟木と軒桁に平行になる様に数本渡して、それぞれ更に垂直方向に枝を通してそれぞれ結びつけることで代用する。一応小屋束代わりの補強も入れてある。


 後は軒桁に沿って割いた枝を多少隙間が出てもいいのでビッチリと敷き詰め、その上に森で取って来た大きな葉をシート代わりに一面に敷き詰め、その上に建築中の小屋の回りの下草刈りを兼ねて集めた草を敷き詰め、数か所を上から長い枝で抑える様に配置し、重しとなる板と石を乗せれば簡易的な草葺き屋根の完成である。


「ま、これなら当面は雨が降っても凌げるから、急場しのぎとしては上等でしょう! 材料が揃い次第に作り替えれば良いだけだしねっ!」


 壁に対して屋根が多少心もとないが現状ではこれ以上どうしようもないと割り切り、後は隙間が空いている屋根と壁の間を梯子を使いながら土を盛って埋めて行く。


 結局屋根は昼過ぎには完成し、隙間を埋める作業を含めても日が暮れる大分前には壁の厚さもあって四畳半を少し切るサイズの土壁の家が完成した。


 まぁ、サイズ的には家というよりもほぼ小屋だ。クリンにとっては大きいが、大人なら屈まないと出入りできないし生活しにくいだろう。


「うん、間に合わせにしては良い出来なのではなかろうか。後は窓代わりの板戸と、扉を作らないとだね。と、なんか完成した気になっているけれどもまだやる事は有るんだよね」


 クリンは独り突っ込みをすると、タコと鋤を手に小屋の中に入り、部屋の真ん中よりもやや入口寄りの所の折角叩いて平らにした地面を、三〇センチほどの広さを鋤で掘り起こす。深さは然程無い。掘った部分を再びタコで均し、集めておいた適当な大きさの石を円形に並べて掘って出た土で隙間を埋める。


 焚火穴、洒落た言い方をすれば堀り囲炉裏である。その掘り囲炉裏の中に家の材料にする為の加工で出た倒木の端材を放り込み、手熾しで火を点ける。


 この作業はすっかり慣れた物で、もう一、二分もあれば火が起こせるようになってしまっている。別に、これから食事にしたり水を沸かしたりするわけでは無い。この手の土壁や土間を作る際には結構水を使っている。つまり湿気が多いのだ。


 なので、火を熾してある程度小屋の中から乾燥させないと、住むのには適さない環境になっている。作っていきなり住めるわけでは無いのだ。


 もう一つ、取って来て乾燥もさせていない葉や草を使っているので、虫が付いている可能性もある。焚火から出る煙で屋根を燻して虫除けを行う意味がある。


 これには余剰効果もあり、煤が付く事で水漏れが抑えられると言う面もある。最もこれは一日二日で効果が出る程の事では無いので、あくまで副次効果だ。


「ま、サイズ的には、こうやって火を熾し続ければ明日の夜辺りにはこの小屋も使える様になるでしょう。夕食はココで取れるとしても寝るのはやはり木の上だねぇ」


 今の状態では直接座ったり壁に触れたりしたら水分でビッチョリになる事請け合いである。結局、その後は火の様子を見つつ、休む事無く小屋の外で暗くなるまで集めた倒木から材料になりそうな部分を切り出す作業をするのであった。






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ロープワークは、割と職人の世界でも必須なんですよね。一見関係無いようにも見えますが、紐を結ぶ技術に直結しますし、何よりも商品を配送する時にちゃんと紐で固定できない様では一人前の職人とは認めてもらえない風潮があります。必ず1種類か2種類は結び方を覚えさせられた物です。


今は必要無いのかもしれませんけれどもね……


家が完成したので、多分少し展開が早くなる……予定なんだけど、早くなるといいなぁ……


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