第137話 市場調査は大切です。
ううぅん……ギリギリ家を作る直前までしか行かなかった……
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テオドラの話を聞き、自分が冒険者になる道は「無いな」と改めて思うクリンである。十歳前後辺りから、子供向けのちょっとした雑用みたいな物は出来るらしいが、既に村でやっていたし今となっては職人系のスキルがボチボチと生えている。
彼女に確認した所、森で獲物を狩れれば肉屋が買い取ってくれるし、最悪露天商に持ち込めば正規よりは安いがそれでも売れる、との事。
そして聞けば、市場の仕切りは裏社会の人間が関わっている様な闇市でも無ければ裏マーケットでも無いので、基本行政が執り行っているらしく、商人ギルドの様な民間の利権団体が絡んで来る事も無いらしい。
そして特に年齢制限も無いとの事なので、この世界の文字と数字を覚えたらそのまま露店でも開く方が余程稼げそうであったし、後何年も待ってから冒険者の仕事をする必要性はかなり薄い。
そして、ぶっちゃけ普通に暮らすだけなら三年四年は暮らせそうな蓄えが出来ている。子供なのでかかる税も少なく衣食住も安く抑えられるので切り詰めれば五年は行けるかもしれない。何にしてもただ消費するだけでは面白くない。
木工がこの時はまだスキルが出ている自覚が無いので、練習を続けるつもりであるから、それで作った物を露店で売れば多少の利益になるかも知れない。
そう考えたクリンは手習い所での学習を終えた後、テオドラから聞いた市を回ってみる事にする。商店から買うような物は食料以外は「自分で作ればいい」と言うクラフター脳により余り用事がない為に、市場の方から回る事にした。
何れは市場調査を兼ねて見て回るつもりであるが、どうせ子供のクリンでは門前払いになる事が多そうだと後回しにした。
市場は大まかに商店街や問屋が集まった様な常設市場と、曜日が決められて開催される限定市場に別れており、最初に常設市場を巡ったがコレは殆ど業務用向けの様な店ばかりで、しかも大体が固定の店を構えている。前世の露店売りの様な店が殆ど無く子供が商売をしている様子は全く無かった。
軽く眺めた後直ぐに限定市場の方に向かう。基本、限定市場が立つのは行政が管理する指定された通りか、役所や神殿が管理する広場とそれに続く通りと定められているそうだ。
例外的に季節の祭りに合わせて中央広場や中央市場を借り切って臨時市が開かれる事もあるらしい。もっとも、この場合は市というよりは祭りと言う方が近い。
今日訪れたのはテオドラから聞いた、神殿が管理する広場の市と、その広場と神殿から続く大通りを街が管理する市が併設されている、昔からある共同市場だった。
参拝客を目当てに人が集まり市場化した経緯があり、月に数度神殿の催事の為に市場が休みとなる以外は、ほぼ常設に近く長期間市場が開かれている。
ただ、神殿や役所の都合で市場が開かれる時間は他の市場より遅く閉まるのも早いとの事。
広場は主に参拝に来る客目当ての土産物や神殿関係の商品を売る店と飲食店が並び、通りには参拝の帰りや日常通路として通りを利用する者相手の日用品や雑貨、食料品を売る露店がズラリと並んでいた。
この通りは横手門、より正確にはその先の貧民街にまで繋がる道らしく、中心広場から離れる程に露店を開く為の税が安くなり比例して治安も悪くなるとの事。
「ほうほう……確かに外れの方に来ると売っている物も怪しくなって来るなぁ……僕より少し大きいけれども子供の姿も見える……聞いた話だと一応盗品の類いは無いって事だけど……ダンジョン産の品物のゴミみたいなのが良く売っているなぁ。あ、くず鉄っぽいのもある! って、野菜とか果物も売ってんの!? こんな所で!? 何か怪しい野菜じゃねえのコレっ!?」
「こらこらボウズ、物騒な事を云うんじゃないよっ! コレはウチの畑で獲れたちゃんとした野菜だよ。単に大量に作って無いから中央市場とかでは売り難いから貧民街や裏町の連中を相手に商売しているから、ココの方が向いているだけだからなっ!」
ニコニコしながらも額に青筋を立てると言う器用な事をする店主のオヤジに、クリンは胡散臭そうな目を向けながら、
「それは失礼しました。ではまともな農作物があると言うのなら、ライ麦を頂きたいのですが。備蓄としてそろそろ買っておきたい所だったんですよ」
「こりゃまた、随分堅っ苦しい喋り方するボウズだなっ! つうか、ライ麦なんか野菜売りから買おうとするんじゃないよっ! 家畜の飼料は問屋で買いなよっ!」
「…………僕のご飯はライ麦なのですが」
「え、食うの!? ああ、いや、貧しい村だとライ麦は食べるらしいし、困窮作物として使われているけれど……ボウズ、余程貧しい暮らししているんだなぁ。良く見たら服とかも薄汚れているし、余程食い詰めているんだろうなぁ」
何故か目じりに涙を浮かべ鼻をすすり出したオヤジに、クリンは大きなお世話だと思いつつも、
「ええ、アレは安いし栄養も多いし言う事のない穀物です。家畜に食わせる位なら僕が食べますよ。で、無いんですか? 貧民街の人間相手に商売をしているとか言うくせに」
「……あ゛あ゛ん!? ねえわけねえだろうがボウズ! あるわっ! ただここには置いてねえっ! 向こうの倉庫に借りている待機広場に保管してあるだけだっ! 待ってろや、今すぐ持って来てやんよっ!!」
どうやら店主もクリンと同じくこの手の煽りに耐性の無い人種だったようである。
「ここで待っとけ、逃げるな、悪戯するな、見張りしとけよっ!!」
と言うが早いがあっという間に路地裏に消え、物の数分でゼエゼエと息を切らせながら一抱えある袋を担いで戻って来た。
「ゼェハァおらっよっライ麦だ! ハァハァ、家畜の餌に降ろす為に用意した物だからゼィゼィ質は多少落ちるが間違いなくライ麦だっ! ハァフゥどうだボウズ!」
「……質が落ちるなら買わないと思いません?」
「ちょっ、おまっ! 確かに質を気にして運んできてないがなっ! それでも家畜が食えるんだ、ちゃんと人間様も食える程度の品質は維持しているわっ!! それに、ウチ以外だともっと雑な扱いの所の方が多いぞっ!?」
「……まぁ、そこまで言うのなら今回は買いましょう。ただ、出来れば次に来る時は品質をちゃんと保った物でお願いします」
「お、おう、毎度ありっ! って、ボウズ、次もウチからライ麦買うつもりかっ!?」
「ええ。問屋まで行くの面倒ですし。この量なら多分一月は持つでしょうから、それ位の時期にはちゃんと持って来て下さいね」
金を渡し五キロ位はありそうなライ麦の入った麻袋を受け取りながら言うクリン。念のためにスペースを開けたリュックを持ってきたのでそれに仕舞う。
「まぁ、買ってくれるならちゃんと持って来るがよ……大麦買えばいいじゃないか」
「高い上に不味いなら、安くて不味い物で妥協します。それでは良い取引でした。またよろしくお願いしますね」
「あ、ああ……有り難うなボウズまた来いよっ! ……って、変なボウズだったなぁ」
ヒョコヒョコと去って行く少年を見送りながら野菜売りのオヤジはぼやく。その後しばらくして商売仲間として隣で露店を開く様になるのはこの少し後の事だった。
その後、適当な日用品と拠点整備に使えそうな小道具、そして途中で目を付けていた錆びだらけの鉄くずを幾つか買い市場を後にした。
手持ちの鉄がほぼ無くなっていたのでここで補充出来たのは有難かった。鋳潰せば恐らくナイフが数本程度は作れそうな量が買えたのでホクホク顔である。
今から戻れば日が暮れる前には森に着きそうだと思い、念のために一度テオドラの所に戻り、数日はまた間隔を開けて来るとだけ伝えると、街から出て森への道を戻って行った。
その日はまた木の上で夜を明かし、翌朝日が昇る前から行動を開始する。先ずは何時までも木の上で過ごしたくは無いので家作りからである。
この広場が危険生物の縄張りでは無いかと確認していた時、その合間に周囲を見て回った所、実は歩いてすぐの所に川が流れていた。
畑らしきものが有ったので、近くに水源となる物があるとは思っていたが、川があるとは思っていなかったのでクリンにとっては嬉しい誤算というやつである。
水さえあれば水質が多少悪くても何とでも出来るので、飲み水の問題も解決し水を沢山使う鍛冶作業の問題も同じく解決した。
そして、どうやら以前この場に住んでいた者達は川から水路も引いていた様で、殆ど埋まって地面と同化していたが、薄っすらと川に続く窪みが見えた。
「ラッキー! これなら掘り返すだけで水路になるだろう! 水汲みも楽になる筈! 井戸も後で掘り返すなり別の井戸を掘るなりすれば、もう水の心配はないでしょっ」
と、言う事で後は住む場所である。最初からちゃんとした家を建てたいのは山々なのだが、現状の手持ちの道具類ではそれは無理筋と言う物だ。
移動中に作った簡易シェルターの様な物でも当面は生活できなくも無いが、出来ればもう少ししっかりとした家を建てたい。
しかし、レンガを作るにしろ木を切り倒して木材を作るにしろ結構時間がかかる。体調とかを考えるのなら、もっと簡単に造れてシッカリと休める家が欲しい。
「と、なるとやっぱり頼れるのはサバイバルニキの知恵になるんですよねぇっ! ミスタートーマス、アンタマジ最高やでっ! でもパンツ穿けやっ!!」
と、今回も笑顔が胡散臭い事に定評のある裸族疑惑のある男の動画をパクる気満々クリンのであった。
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あれ、なんか思っていたよりもまだトーマスの出番結構あるな……
考えてみたら現状で作れそうな家ってトーマスが作れる様な物になるんだよなぁ、コレが。それに木造の家にしろレンガの家にしろ、出来上がるのにどんなに早くても半年かかるからその前に住む場所作らなきゃおかしいんだよねぇ……
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