第138話 異世界サバイバー、家を建てる。
ワシ、気が付いちゃったのよ……ワシのコレまでの作風では、
「家を作ります!」
で2,3行で
「出来ました!もう家が建った!」
は許されないと言う事に……
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先ずクリンが取りかかったのは、例によって道具作りからである。家を建てる前に、先ずはこのボウボウに生えている下草を何とかする必要が有る。
ある程度の範囲の草をナイフで大雑把に刈った後、市場で買って来た割れ板と、森の中で拾ってきた適当な長さの棒を組み合わせ、この森にも生えている蔓草で紐を作り括り付け簡易的な鋤を作る。鉄の刃を付ける程でも無い上に鍛冶が出来ないので加工が出来ないので、ただの木製シャベルでしかないが。
尚、この蔓草があると言う事は、地面に芋もあると言う事でもある。キッチリと掘り返し、芋部分は少年のオヤツとなった。
そんな事をしつつも、なんちゃって木製鋤で住居予定の場所の土を掘り返し下草の根切りをする。要するに整地作業である。地面を掘り返し天地返しをしたらここで新たな道具の登場である。
森の中を探索していた時に何本か倒木を見つけており、その中からまだ朽ちておらず丁度いい太さの幹を見つけ、それを三十センチ程の長さで輪切りにして持ち帰り、その輪切りにした幹に二本の柄を取り付けた物。前世では胴突きタコ、均しダコ、土タンプ、ドタンポ、単純にタコと、様々な名前で呼ばれている、地面を叩いて固める為の土木用具だ。
現代では軽油や電気で動く物が発明され出番は大分減ったが、それでもそれらが使えない状況がある為に、未だに使われている原始的だが信頼性の高い道具である。
その手製土突きタコの柄を両手で掴み、高く持ち上げて地面に叩き付ける。そうすると落下の速度と木の自重で土が付き固められていく、と言う寸法である。
コレをやっておくと置かないとでは仕上がりが変わる為に態々やっているのである。ある程度地面が平らになったら、最初の村からずっと持ち運んできている手鍋で川の水を汲み土の上に掛ける。
何度か水を掛けたらまたタコで地面を付き、また水をかけるを数度繰り返す。これで下草の根が混じっていたとしても大分土が締まっている。
因みに、この工法自体はトーマスの受け売りではなく、クリンのオリジナル——と言うよりもHTWの知識である。本社が工事関係の道具を作る会社なので土木建築の技法や工法もお手の物である。当然その知識と技術はゲームにフィードバックされている。
……ゲームで何に使うんだこんな技術、と言うツッコミがHTW時代には結構殺到していたのはココだけの秘密だ。
お陰で世界を超えて今クリンの役に立っていると言うのも変な話である。
ともあれここまで来たら、後は水で濡らした地面が乾くのを待つだけだ。その間に森に入り、適当な太さ——大体クリンの握り拳二個分位の太さ——の木を見つけ、ノコギリで切り倒す。大した太さと長さでは無いので、斧ではなくノコギリでも十分切り倒せる。
それと同じ位の太さの木を見つけては切り倒し、合計で四本切り取る。本当はもう四本欲しい所だが、丁度いい太さの木が中々見つからなかったのとそこまでこだわる程では無かったので、四本で妥協する。その代わりに細くて長い枝を適当に見繕い何本も持ち帰る。
そうして持ち帰った四本の木は、整地した地面の四隅に突き立てる。杭打機など無いのである程度の深さの穴を掘り、そこに刺し入れて周りを土で埋める。
打ち込んだ訳では無いのでやや強度に不安があるが、周りをタコで叩いて固めたので当面は何とかなりそうだ。
そうして四本の木は四隅を支える柱となる。直線は前の村で作った墨壺があるので出すのは容易である。
「うん、何が役に立つか分からないってね。作っておいて良かったよ、ホント」
直角を出すのがやや面倒だったが、ノコギリに作った物の角がほぼ正確な直角であるのでそれを用いて何とか直角を出し、気持ち長方形の形になる様に柱となる幹を配置出來た。
広さ的には目見当で広目の四畳半と言った所か。ただこれで壁も作る事を考えればもう少し狭くなるだろう。
四隅の柱が建ったらその間に少し細めの木を同じように等間隔に穴を掘って建てて行く。現代建築の様に建築基準とか守る訳では無いのでかなり大雑把だ。
「建物として売ったり、何十年も住み続ける訳じゃないから、当面の強度が出せればいいだけだしね。向こう(地球)の大工さんに見られたら怒られるだろうけど、そこはビバ異世界って事で許して欲しい所だねっ!」
それでもHTWで建築スキルを使って家も建てていた経験からか、割と均等に等間隔に差し込めているのは流石と言うべきか。
支柱となる小柱が立ち上がったら、立木から切り落としてもよさそうな細枝をノコギリで切り落とした物を集め、ナイフで縦に割いて長くて幅広の細長い板の様な物を量産していく。出来た物を建てた柱の下から横に通し、小柱の間を通して交互になる様に通していく。
隙間が出来ても気にしない。むしろ隙間がある程度ある方が良い。ある程度下に横通し出来たら、今度はその間に細板を通して後は縦横の編む様に組んでいく。
コレは日本の土蔵の建物などに使われる小舞と呼ばれる、土壁の中の芯になる物で日本では竹を籤にして格子状に組んだ物だ。クリンはコレを参考に、細枝を割く事で代用したと言う訳である。
つまり、クリンが今建てているのは土壁作りの家だ。素焼きなり日干し也のレンガを積んでいくレンガ造りもアリなのだが、アレはアレでレンガを作るのに時間がかかるし、何よりも結構な厚みに作らないと途中で崩れる。
それなら、前世でも日本だけでなく、広く原始的な土壁作りの家で使われるこう言った壁に芯を入れて土を塗る、と言う方法を取る事にした。
コレの利点は土と木が有れば作れる上に、加工が容易そのくせ中々の強度が出ると言う、その使い勝手の良い所だ。
トーマスも動画内でこの土壁の家を建て、何度か改修をしてバージョンアップさせた家を数回建てている。
クリンは有難くその動画を参考に、それだけでは無くHTWでの知識も組み合わせる事で、もっと簡易的で強度が出る方法を取っている。
全面に格子状の小舞を設置するのに一日半かかった。これは材料となる木枝をその都度集めたり入り口となる部分と明り取り用の窓も設置したためだ。
「ココまで組めたら屋根の前に先ずは壁を仕上げちゃうか。雨が降ったら目も当てられないけれども、この感じなら暫く雨は降りそうに無いから大丈夫でしょう!」
本当は柱を建てたら屋根を付けるのがセオリーなのだが、この工法の場合柱は支えているだけなので、壁で固定しないと強度が低いと言う難点がある。
その為、先ずは土を集めて壁に使う為の粘土にする工程にかかる。当初、川に行ってその近辺の土を掘り起こして持って来ようとした(これは川の近くの土が粘土質である事が多い為である)のだが、ふと思いつく。
「あれ……って事は、この埋まった水路跡っぽい所を掘り起こしたら、もしかしたらいい粘土質の土が取れるんじゃね?」
と。試しに水路だったと思われる場所を木製鋤で掘ってみる。と、クリンの予想通りに、やや砂利が混じっているがネットリとした感じの、粘土質を含む土だった。
「おおおお、コレは良いっ! 何れ水路が必要になるとは言え優先順位は低かったから後回しにする積りだったけれど、粘土集めと水路作成を併用しながら行えるっ!」
コレはクリンには嬉しい誤算だった。近場で粘土集めが出来る上に粘土を取るために掘った後がそのまま水路に活用できるとあれば、テンションが上がると言う物。
その上がったテンションのまま、土を掘り返しまくる——と、言うような事は無く。簡単に粘土が集められるのなら、とクリンは先ず先に朽木から使える部分を切り出しまくり、持って来ていたノコギリや鉋、ノミを駆使して板を作り出し、その板を元にしてサイズ違いの桶を幾つも作り出していった。
土を運ぶにしても保管するにしても、運ぶ道具が現状無い。桶を作って置けば土も運べるし用が済んだら水も汲めるし、物を保管するのにも役に立つ。
新しい工程に入る前に、新しく道具を作り出すのはクリン君のデフォルトに成って来ている様子であった。
桶作り自体は一時間もかからず数個作り出せている。その出来立ての桶を手に、一つには川から水を汲んでおき残りの桶に掘り返した土を入れる。
本当は何時もの様にこの土を水で溶かして攪拌し上澄みを粘土にしてレンガにすればかなり上質のレンガが作れそうなのだが、今回は壁に使うと決めていたので多少の小石や砂利、枯草などは気にせずに、土に水をかけなんちゃって鋤でかき混ぜる様にして練る。
水分量を調整しながら練り餅の様な感じになれば後はコレを壁に塗って行くだけである。手である程度の塊にして小舞に塗り付けながらある程度の厚みにし、桶を作った際に出た端材で左官コテと木製パレットを作り、それを使って壁を仕上げて行く。
柱もこの小舞も生木なので本当は乾燥するまで半月とか待ちたい所なのだが、少年の現状ではそう言う贅沢は言っておられず、完成後に手直し前提で取り敢えず土を盛っていく。
現代建築の様に強度計算だとか歪み計算だとか必要が無いので、壁塗りの作業自体は僅か半日もあれば完了してしまう。
この辺は流石HTWのヘビーユーザーならではの手際と言うべきだろう。
六歳の癖に。
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と、言う訳でガッツリと無い無い尽くしでも家を建てる方法をキッチリ解説しなければいけなくなった回です(笑)
このサイズの家なのに結構な文字数が必要になるんですよなぁ(笑)
ま、それがやりたくて書いているので仕方なしっ!
そして次回も引き続きお家の作成です!
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