第136話 転生少年、テンプレの夢を見る前にへし折られまくり凹む。


この世界の冒険者の成り立ちと立ち位置の回。

あくまでもこの世界では、と言うのはよろしくお願いします(笑)



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 どうやらこの世界の冒険者ギルドは、前世の異世界転生物にある様な国を跨いだスーパー民間組織では無いらしい。

 国によって差異はあるが、半民間或いはガッツリと国が絡んでいる組織との事。


 この世界は国同士の戦争もあるが、それ以外にも魔物と言う人間に敵対的な存在がおり、他にも魔人族、亜人と言った人間に潜在的に敵対する可能性がある存在も居り、保有する戦力やその集団は多い。


 先ず当たり前だが国軍や領軍。これは国無いし領主が保有する正規の軍隊だ。これには衛兵や退役兵、半農兵も含まれる。


 次にあるのが傭兵。主に徒党を組み傭兵団を作って、臨時兵として戦うのが主流であり、最終的には雇われた国や領主の正規兵になるか騎士の身分を与えられて傭兵団ごと領地を得たりするのが目的の集団で、あまり民間に雇われる事は無い。


 その次が民兵、或いは自警団。魔物などの敵が存在する為、国軍だけではこれらの警戒が間に合わないために、規制が厳しいが認められている。


 村や街の規模で組織できる上限が決まっているし、使える装備も定められた物(例えば正規兵と同じ装備は禁止など)以外使えなかったりする。


 基本町や村を離れての活動は禁止されているが、緊急時、例えば魔物の反乱や戦争時などは国が軍として徴収する場合もある。


 これらが国にも保有が認められた戦力である。しかし、これ以外にも例外的な戦力がある。主に商人が雇う護衛。


 本来は正規兵が街道の巡回などを行い商人如きに戦力を持たせてなど居なかったが、規模が大きくなり魔物や野党などの動きが活発になり、正規兵の見回りだけでは足りなくなり、元傭兵や退役軍人を従業員として雇い「護衛ではなくあくまでも従業員で装備は自衛用」と言い張り続け、現在では黙認に近い形で認められており、戦力として所持出来る様になっている。


 ここまでが、この世界での一般的な武力を有する組織だそうだ。商人は例外と言うか特例に近い物で、限定付きで保有が認められている扱いだ。





 冒険者はこれ等の枠に入っていない。そう、冒険者は武力組織扱いでは無い。当然だ。元々「そう言う組織に属せないあぶれ者の集団」でしか無いのが、この世界での冒険者の立ち位置だ。


 魔物が居る為に自衛としての武装が許されているだけに過ぎず、先出の組織の様に正規の訓練などを行っていない連中だ。


 そもそもが、この世界では一般教養を学ぶのにも一定以上の収入と身分が無いと難しい。逆に言えばそれらが有れば正規の組織に所属できる。所属できていない時点でお察しだ。


 そんなのを集めて組織なんて作った所でまともに組織として運営が成り立つ訳が無い。従って、実は冒険者ギルドと言うのは実はただの「通称」である。


 この世界での冒険者の出自は少々複雑だ。元はこの世界にダンジョンがある事で、当初国軍や領軍がダンジョンの管理及び攻略を行っていた。


 しかし、国が力を付け領土が増えて来るとダンジョンの管理が徐々に難しくなる。ダンジョンからは貴重な品や資源が出て来る為に管理を行わない訳にはいかない。


 そこでダンジョンでの収集を委託するようになり、ダンジョン探索者と言うダンジョン限定で武装を許された民間人が生まれる。


 初期の冒険者はこのダンジョン探索者を指して言われており、ダンジョンでの活動限定であったのだが、ダンジョンから産出される物品の取引に商人達が目を付ける。


 当初はダンジョン探索者から買い取る形であったのが、その取引により規模が大きくなり力を蓄えた商人が、直接ダンジョン探索者を雇いやがて商人に属さないダンジョン探索者を締め出し、ダンジョン関係の商売を独占してしまう。


 これによりダンジョン産業は一部の商人による独占となり、独占した商人たちは大商人として組織化しだし、テオドラが言及した「大昔の商人ギルド」を形成した。


 これに反発したのが、大商人により締め出された商人ギルドに属さないダンジョン探索者と、大商人に市場を独占された中規模以下の商人達だ。


 商業ギルドに属せるのは大商人だけであり、大商人にもなると売り上げ優先で「儲けのいい産出物」以外に見向きもしなくなる。


 結果、ダンジョン以外からも出て来るような儲けの少ない品は市場から姿を消し、市場に偏りが出始める。それらの大量に出回る筈の産物で商売をしていた小中規模の商人達には死活問題になって来る。


 本来は安く大量に出回る筈の商品が、ダンジョンからの産出が見込めなくなり、ダンジョン以外からの輸送に頼る事になり価格が高騰し、安価である筈の商品がドンドンと値上がりしていく。そして、優秀な探究者や輸送の護衛になる戦力は全て大商人に金の暴力で囲われてしまい、満足の行く護衛無しに輸送を行わなければいけなくなってしまう。


 また商人ギルドに属せない探索者も、命がけで取って来た産出品がギルドによって買取が拒否され、売る事が出来ず最終的に買い叩かれる様になる。


 こうして小中規模商人によるヘイトと商人ギルド非加入探索者による反発が重なり、彼らは互いに手を組む様になる。


 コレが現在の冒険者ギルドの前身である「中小商工会探索者援助組合」の誕生につながる。規模で大商人に適わないので互いに手を組み、資金を出し合って必要な物を探索者に依頼する仕組みを作り上げる。これに乗っかったのが、当時大商人により買い叩かれていた各職業の職人達である。


 ダンジョン産出品とそれ以外の材料の流通を商人ギルドが握って居た為、職人達も彼らによって値段が決められてしまい、言い値で取引する他無くなっていた。そうしないと材料が回って来ず商売が上がったりになった。


 何処かの村の女将では無いが、価格が自分達では無く他人に決められる程職人にとって不愉快な事は無い。


 個人では大商人に資金力では劣るが、これらが結束して一つのグループとなれば大商人よりも強い。更には大商人が経済の主導権を握る様な真似を良しとしなかった国もこの流れに加わり、大商人によるダンジョン産業の独占を崩した。


 この様に初期はあくまでもダンジョン探究者の支援をする中小商工会の互助会でしか無く、ギルドと言う規模では無かったらしい。


余談だが主に宿屋を根城にするダンジョン探索者が多かった為に、宿屋を経営する商会が彼らの斡旋を行っていた。その習慣が残ったのか、現在でも冒険者ギルドでは宿と酒場が付いている事が多いそうだ。


 こうして当初は冒険者は主にダンジョンでしか活動していなかったが、徐々に大商人達と確執が生まれて来ると、産出品の輸送などに支障をきたすようになる。


 正規の訓練を受けた軍が民間の輸送体を護衛できる訳も無く、また民間でもまともな護衛が出来る人材はほぼ大商人に抑えられている。


 その為、中小商工会はダンジョン探索者の中でも信頼と実績が高い者達に依頼と言う形で護衛に雇う様になり、ダンジョン探索者もダンジョンの探索を辞め護衛専門で行う物等が出て来る。


 そして後に各自治体で魔物の討伐の際に援護として特に魔物との戦闘に長けたダンジョン探索者を雇う様になる。


 これ等は基本日雇いであり、信頼性と言う面では正規の護衛には不安がある物の、商工会の面目もある為にその手の仕事はある程度信頼のある物を中心に割り振ったりしていた為、徐々にダンジョン以外の仕事も増えて行った。


 こうして現在ではダンジョンに潜らない探索者も増えた為、この中小商工会互助組織は探究者総合支援組合、「俗に言う」冒険者ギルドと呼ばれる様になったらしい。


 基本的には各商工会が主体となっているために自治体が変わると別の組織になるのだが、ダンジョン産出物の流通の関係で他地域の商工会と連携をする事が多く、商工会間のやり取りを円滑化する為の紹介状などが発行され、それが簡易的な身分証の様な扱いになるらしい。


 とは言え、所詮は互助会なので国を跨ぐような効力は無く、各自治体の門を素通りしたり国境の検問をスルー出来る程の効力は無いらしい。


 ただ、このシステムに目を付けたのが国であり、直接国の管理は行わないが各互助会の集会場、所謂ギルドに人を送り監査をしているらしい。それにより、この互助会は一般的には冒険者ギルドとして、半ば国公認の組織と言う事でそれなりの信頼は得ている。


 まぁ、要するに。国としても町や村であぶれた人物達が折角集まって仕事をしているのだから、こういう日陰者を監視し易い組織があると便利だし、更には本来税金を取れなさそうなあぶれ者から税金を取れる機会だと見なし、国の監査の元に限定的に武装が許され、税金をちゃんと支払う限りにおいては、ある程度の黙認がなされているそうだ。


「だからアンタの言うようなランク? なんてものは冒険者には無いよ。そんな物が付けられる程に腕や知識があるなら最初から傭兵やるか商人の専属になっているさね。そもそもそんな物付けて勝手にランク毎に値段なんて付けられたら、それはつまり冒険者ギルドが勝手に安い依頼にして箸にも棒にもかからないゴミを押し付けて来るって事じゃないか。依頼する側からしたら同じ金払うのにゴミ共押し付けられたら目も当てらんないね。大体もしそう言うランク付けが必要だったとしても、それは客には関係無い事さね。ギルドが把握していればいい事なんじゃないかねぇ」


「……夢もちぼーも無いですねぇ。俺様はSランクだ! とか言って威張って貴族から召し抱えられたり、Aランクだから凶悪な魔物討伐するぜ! みたいなテンプレこそ冒険者の醍醐味なのに……」


「……なんで貴族が民間人が勝手につけたランクとやらを有難がって、たかだか腕が立つ程度の農民上がり庶民上がりを召し抱えるのさね。あんなのがまともな礼儀とか学問とか習っている訳ないじゃないか。迂闊に召し抱えたら他の貴族から突っ込まれて政治問題になるわ。そんなのを再教育する位なら最初からある程度の教養のある人間を鍛えて軍人にする方が金掛からんわ」


 無くは無いが、んなのは滅多にないとテオドラにバキバキに否定されて凹むクリンだった。密かに職人として働くのが難しいのなら、最初の内はそう言うのも良いなぁなんて思っていたのだが、この世界でも現実は苦くてしょっぱい物らしかった。







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この世界の傭兵と専門護衛、それと冒険者の立ち位置は、戦国期の日本の、武士と侍の違いみたいな感じでしょうか。武士は「あくまでも武器帯刀を許可された人」であり身分は無く、侍は「れっきとした身分」と言う違いに近いです。


まぁ、これならこの変な組織が存在していても良いのかなぁ、と言う個人的な妥協点として考えた冒険者ギルドです。

まぁ正式名称ではなく「俗称」でしか無いですが(笑)


あんな何の教育も受けてない連中がさ、あんな無条件で誰彼構わず保障されるなんて現実には考えにくいですよねぇ。


なのでこの世界では余りにも遡行の悪い冒険者は冒険者として扱われず、下手したら紹介状が貰えず町の移動に支障をきたしたりします。

そして税金の名の下に自由はそんなになくガッツリと監視されています(笑)


まぁ、コレで粗方の組織の説明は終わったので、次回より話がようやく進みます。

……多分。

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