第134話 ツリーハウスは男の子の憧れ。なんだけれども……
唐突に作品ジャンルが変わるのも本作の特徴かも知れない(笑)
そして出て来なくなると言ったキャラが気が付いたらブイブイ出て来てやがるのも特徴かもしれない(笑)
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「何だろ……立ち枯れた場所……にしては何か整った感じがするけれども……」
と、広場の様になっている場所を「木の上」から確認しながらクリンは小さく呟く。迂闊に踏み込んだりはしない。
こう言う森の中の突然の空白地と言うのは時として野生動物や群を作る魔物などの拠点であったりする事が有る。実際にそういう場所に直接行った事は無いが、この六年間で森の中で注意する場所の情報はかなり得ている。
そう言う迂闊な真似をしないからこそ今まで生き延びて来られたのだとクリンも自覚しているので、先ずは遠くから様子を伺い次いで高所から全体の確認をしている。
こう言う警戒の仕方も、学んだのは勿論トーマスの動画からだ。何もない所から色々作り出すのもトーマス動画の特徴だが、何よりも実際に未開地でのサバイバル全般が売りであり、且つあのサバイバルニキは元軍人の肩書きもある。こういう原生林での活動こそがある意味トーマスの真骨頂でもある。
何せアメリカの原生林では普通に銃が必要な野生動物が普通に暮らしている。トーマスが撮影しているのは私有地だが、手付かずの自然が残っている場所であり、普通に猪や熊が現れるしオオカミも生息している。
だからこそトーマスは弓だのスリングだの石のナイフに石の剣などを作り出して武装している。そんな地域で裸一つでサバイバルを始めるとか正直彼も相当頭のネジが飛んでいるのだが、一応撮影スタッフは護身用の拳銃を所持している。
ただ極力彼らは戦わず、主にトーマスが手製の武器で狩って食料にしたり追い払ったりをしている。そんな所でフル〇ンで生活始めるなよ、と言うのが正直な所だが、だからこそ割と早めに服を作り出してはいる。最初から着ておけ、と言うのは野暮と言う奴なのだろう。
そんな頭のネジが飛んでいる動画の愛好者であるクリン君であるから、この様に「どこの軍人だよ」と言いたくなるような用心深さを発揮して、トーマスのトレースをする事で、本家よりもヤバい森の中を我が物顔で移動出来ていた。
そして彼の動画で学んだ少年はこう言う広場を根城にしている生物がいた場合、必ず痕跡がある事も学んでいた為、その痕跡をこうやって丹念に調べているのである。
「取り敢えず、危険察知に反応する物は無い……ここから見る限りは生えている下草や茂みが不自然に荒れている様子も無いし、餌を蓄積している様な痕跡も見えない……」
木が途絶えているのは大体半径百メートル程の空間で、直径にすれば二百メートル程の中々の広さがある。ここから見る限り、生き物がこの場所を拠点にしている痕跡は見えない。
「ふむ……もし住み着いている生物が居ないのなら中々いい場所だな……水場が近ければ、だけれども……後はフンだの餌の食べ残しなどが無いかの確認ができればいいんだけど」
トーマスの動画でどの部分に注意を向けるか、どういう場合に警戒するかを頭の中で思い出しつつ、周囲を警戒しながら木から降りる。
その瞬間が危ない事も動画で注意していたので、少年も警戒を怠らない。慎重に広場となっている場所へ向かう。もしここを縄張りにしている生物が居るのなら、縄張りを主張する為に何かしらの痕跡がある筈。
そう思い、先ずは外周を回り自分の縄張りを示す為に体を擦り付けたり、傷をつけて印にしていたり、食べ残しの死骸をあえて放置してあったりの、そう言う痕跡が無いか探る。
幸いその手の痕跡は見受けられなかった。ついで糞などの排泄物が無いかの確認をする。野生動物の中には住処の近くに排泄をする事で縄張りを示す種類もいる。魔物なら獲物を食べた後の骨などを散乱させる事もあるらしい。
そう言う痕跡も無いかと思って調べるが、見回った限りはその痕跡もなさそうだ。
「ふん……? 何だろ……こんな所に空き地があるのは不自然なんだけれども……ああ、そう言えばゴブリンとかオークとかは森の中に集落を作る事が有るらしいけれども……もしかしてそう言う所の跡地なのかな?」
グルリと辺りを見渡し、クリンはふとそんな事を思い出す。広場は下草や雑草に覆われていたが、歩いてみて分かったが地面が不自然に窪んでいたり、所々腐った切り株の後の様な物もあり、自然に出来た空き地だとは思えなかった。
「もしかして、過去に衛兵とか冒険者とかに潰された魔物の集落跡とかなのかな? そう言う所には魔物や動物は迂闊に近寄らないと聞くし……でもだとしたらここまで焼き払われたような痕跡も見当たらないし……自然消滅だとしたら何れまた魔物が寄って来る可能性も出て来るんだけれども」
もし魔物の集落跡なら場所の目度自体は付けられていて、何れ魔物が現れる可能性もある。いい場所ではあるのだがそう言う危険もある為に迂闊に判断できない。
と、クリンがそんな事を考えていると——
「……ん?」
慎重に歩いているその足の裏に、妙に柔らかい感触が返って来る。不審に思いその周囲を観察してみると、薄っすらとだが生えている雑草に微妙な区切りがある事に気が付く。
「何だ? って、コレ……もしかしてっ!?」
微妙に草の生え方が長方形に区切られている様に見え、クリンは慎重に周囲を探る。土が柔らかい所と硬い所の境を見つけ出し、その周辺を更に調べて廻る。と、暫くしてある物を見つけた。
「……井戸……の跡だよな、これ」
それは小さい石を幾つも並べて作られた円形の構造物で、円の中からは草が生えていて埋まっている様にみえるのだが、その形状は明らかに人工物で、井戸の跡の様に見えた。
「魔物が井戸を作る訳が無い……と言う事は、ココはもしかして元は開拓村か何かだった、その跡地と言う事かっ!?」
当たりを見間渡しながら、思わず声を上げてしまう。
ここがかつて人の手の入っていた場所であるのなら、他の動物が根城にしていない事も頷けるし、魔物が住み着いた痕跡も見当たらない。
「コレは……当たりかも知れないな、この場所っ!」
その後も辺りを見て回ったが、残念ながら家などの人間の住んでいた痕跡は無く、畑として使われていたであろう土の違いと、埋められたか埋まったのか分からない井戸の跡の他は殆ど見当たらないため、もしかしたら何かしらの理由で破棄され、その際に焼き払われたのかもしれない。
「疫病か何かだった場合が怖いけれども……でもこの感じだと百年単位の時間は経っている様に見える……よし、暫く様子を見て大丈夫そうならここを拠点にするか!」
そう決めたクリンは取り敢えず一旦広場から離れ、広場が良く見えて万が一の際は簡単に逃げ出せそうな場所の木を見つけると、辺りから丈夫そうな木の枝を拾い集めて、簡易的な樹上テントを作り上げる。
構造自体は難しくない。丈夫な枝の間に拾ってきた木枝を並べて蔓草で紐を作って縛り床にしたら、後は軽く横になれる程度のスペースに広げて三角形に枝木で柱を組み、その間にまた枯れ枝を通してその上に落ち葉を乗せただけの、簡易テントを作っただけである。
「うん、余裕があればツリーハウスとか作りたいんだけど……あれって現実に作ると意外と生活しにくいんだよねぇ」
良くアニメや映画とかに木を利用して作るツリーハウスが出て来るが、現実的には割とナンセンスな物だ。
一年程度なら良いかも知れないが、木の幹を柱代わりにしたらそこから腐って来る事もあるし、完全に密閉する訳にも行かないので隙間から虫や蛇などが入り放題だし何ならネズミも通って来る。雨でも降れば幹を伝って水が流れて来るし、雨が止んだ後も暫くは湿気地獄に襲われる。
快適に過ごすのなら、一本の木だけでなく、複数の木を柱に見立ててその間に板を通してテラスを作ってその上に家を建てるか、若しくは大木を見つけてその枝の間にやはりテラスを作って家を建てるか。
その場合でも木は成長するので、一年も経てば歪みが出て来るのでその都度修正が必要だ。ましてや立木に直接釘やネジなどを打ち込むなんて暴挙に出ないのであれば、固定するのが難しく大風が吹いたら家ごと吹き飛びかねない。
そこまで苦労する位なら、普通に地面に家を建てる方が遥かに楽だ。
「憧れではあるんだけどね、ハックル〇リー小屋。でも現実的には無いな。こんな感じの応急テントが関の山だね」
取り敢えず寝床を確保し、周囲を伺いながら数日広場を観察し続ける。食料は街で買って来たライ麦も干し肉もあるので何とかなる。
その結果、野兎やリスなどの小型動物が時々現れる程度だと確認し、ようやくクリンはこの場所を開拓して住処とする決心をしたのは、結局この森に着いてから六日後の事だった。実に用心深い少年である。
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クリン君も伊達に最初の村で五年も生き延びて来ていません。これ位の用心深さが無ければ多分とっくにお亡くなりになられていたでしょう(笑)
ただ、ココまで用心深く行動されちゃうと、迂闊に森の中で襲われる話とか書けないので、お気楽に森を楽しんでいる様に思われちゃうんだよねぇ(笑)
だって襲われる以前に出会いそうになるその前に逃げちゃうんで。
そして、よくよく考えたら今の状況で家とか拠点つくろうとしたら「ヤツ」の出番はまだあるんだよね……
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