第133話 森の探索。



ちょっと長くなったので分割。と言うか暑くて頭が回らなくなっているので、分けて一日分の休みを確保したともいう(笑)




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 目星をつけた森は、途中まで街道に沿って歩いてから脇道に逸れて向かう必要が有った。街を出てから三十分程度の間は畑や民家もチラリと見えたが、分かれ道にまでくるともう道以外に人の痕跡は見当たらない。それでも森に向かう人が居るのか細いながらも道が続いている。しかしその道も森の入り口らしい所で途切れていて、後は人や動物が通って出来たと思われる、所謂獣道の様な物が幾つか探せる程度だ。


「ふむ。コレは中々濃い森みたいだなぁ。植生は前の村とあまり変らないみたいだけど……ここまで濃いと、ちょっと危険かなぁ?」


 クリンは最初の村と次の村での生活で森歩きに慣れているが、慣れているからこそ人の手が殆ど入っていない森の危険性と言う物は理解している。


 最初の村と前の村でズカズカと森に入り込んでいる様に見えるクリンだが、アレは危険察知系のスキルが生えてきたから出来た芸当であり、更には基本的に人の手が入って危険な獣や魔物が間引かれている場所か、最初の村の様に森がそこまで濃く無くて浅い部分であるのなら危険が少なかったからやっていただけである。


 元々少年はとても用心深く、少しでも異変を感じたらさっさと逃げる性質だ。どれ位用心深いかと言えば、アレだけ森で採集物を持ち帰っているのに(狩の時のツリーフットは例外)危険な動物や魔物に一度も遭遇していない位に細心の注意を払っている。


 本来なら五歳程度の年齢ではとても危険な行為で一度や二度は肉食系の獣や魔獣にかち合う物だ。それが一度もない時点で用心深さが伺い知れよう。


 先ずはじっくりと周囲を観察し、獣道らしきものを注意深く調べる。道があると言う事は何かが頻繁に通っていたと言う事であり、迂闊にそれを辿ればその道を利用している動物か魔物に鉢合わせしかねない。


 だから森に入るなら先ずは通れそうな場所を、その場所を利用している何かの痕跡は無いか、或いは利用していても頻度がどれ位か、新しい足跡は無いか、等を観察し見つけ出すのは単身で良く知らない森に入る場合は鉄則だ。


 まぁ、本当は「案内無しに知らない森には入らない」のが一番安全なのだが。今のクリンではそれは望めない贅沢と言う物。何カ所か通れそうな場所を観察した結果、暫く利用された痕跡の無い獣道を利用し森の中に入って行く事にする。


「ま、流石に知らない森に手ぶらで入るのは無いよね」


 クリンは独り言を言いつつ背負っていたリュックを卸し、腰に下げていた自慢のハンマーをリュック側面に取り付けてあった紐で括り固定すると、村を出て来る前に作った鞘に納めた打ち直しナイフを取り出し、腰に代りに結わえ付ける。


「うーん、やっぱりこんな時の為に剣鉈でも作っておけば良かったかなぁ……でも手持ちの鉄だとハンマーヘッドを作るのでギリギリしかなかったからなぁ。弓も作り直している余裕無かったし」


 村を出て来る最後の方はほぼ鍛冶師としての仕事とスキル上げに掛かり切っていたので、弓を新調する暇が無かった。正確には何本か作ったのだが、それらは全て村に置いてきたなんちゃってスプリングハンマーのスプリングハンマー用に使用してしまっていた。


 幾ら連結させて強度を上げたとは言え、やはり木製では損耗が激しく、それなりの頻度で交換する必要が有った為、狩り用に確保しておく暇が無かったのだ。


「と言いつつ、ちゃんと代わりになる物は用意しているんだけどねっ!」


 自分で突っ込みつつリュックを漁り、お椀型に形成した皮に二本の紐を縫い付けた物を取り出す。


「てれれッてれー! 遠心法回転石投げ器ぃ~! ……まぁ平たく言ってスリングだねっ! 原始的だけど何だかんだ強いからね、コレ」


 前世の伝承では十代の羊飼いの少年がこのスリングを用いて三メートル近い巨人を打倒したとされ、現代でもコレを使ってグリズリーを撃退したなんて話が時々出て来る、原始的でありながら極めればかなり強く使い勝手のいい武器。それがスリングだ。


 石さえあればどこでも使えるので場所を選ばず、子供でも大人を倒せる程の威力が出せる、今のクリンにはうってつけの道具である。


 構造は実にシンプル。石を乗せるための受け皿となる部分と振り回す為の紐が二本。紐の片方に輪を作りそれを指に嵌め、受け皿の部分に石なりなんなり入れて振り回したら後は手を放せば勝手に飛んで行き、スリングは輪の付いた紐で手元に残る。


 古来より狩猟などにも用いられたコレの作り方は、勿論どこかのフルモンティが動画で詳しく手順を見せている。しかもご丁寧に扱い方までどのタイミングで手を放せば狙った方向に飛ぶか、またその練習方法まで動画に収められていた。


「いやぁ、本当にトーマスの動画はこの世界で役に立つったらありゃしないよね。でも思ったんだけど、コレが作れるならもっと早くパンツ作れたんじゃね?」


 クリンは皮で作ったがトーマスは自分で繊維を叩き出して作った簡易布で作って居る。石を包む部分をそれで作れるなら、十分大事な所だけ隠す簡単なパンツが作れたはずなのだが、何故かトーマスは頑なに本格的な布を作り出すまで腰ミノすら着けずに裸で通していたのだった。


 何となく本能で深く考えてはいけないと感じ、クリンは一旦考えるのをやめ、リュックから更に粉末にして固めた乾燥マリーゴールドを取り出し、そのまま服に擦り付ける。


 これは簡易的な虫よけだ。本当は燃やして煙を出す方が効果が高いのだが、煙の臭いに誘われて出て来る獣や魔物が居ないとも限らない。


 一応粉末を掛けるだけでも多少気休めにはなるので、乾燥させて塊になった物を擦り付ける事で虫よけ剤代わりにしたのだった。


 この辺りもトーマスの動画で学んで、見知らぬ森に入る際には用心として行う事にしている。そうやって一通り今できる準備を済ませると、改めてリュックを背負い直し首にスリングを引っ掛けて、慎重に森の中へと入って行くのだった。





 周囲を警戒しながらの森の行軍であるので進行速度はかなり遅い。多分百メートル進むのに数分はかかっている。間違っても下草をガサガサと掻き分けて進む様な真似はしない。通り難そうな程に下草が茂って居たら遠回りをするか、周囲を警戒しつつ腰のナイフで慎重に草を刈りながら進むかしている。


 この用心深さがあるからこそこれまで森で危険な獣や魔物に出会う事無く、その痕跡を見つけ出してさっさと逃げて事無きを得ている。


 途中何度か危険を察知して木の上に退避して様子を伺い、気配が消えるまでやり過ごす。幸いにも現れるのは前の村にも居た小動物が主であったために、少し待てばどこかに行ってしまうので、大きく時間を取られたり来た道を戻るハメになったりはしていなかった。


 そうやって森の道も無い様な道を進んでいるクリンだが何も無計画に進んでいる訳ではない。ちゃんと目的があって進んでいる。


 森の中を拠点にするのなら最低限水場を確保しておかないと話にならない。


 その為、なるべく森の深い所まで行く前に水場に当たる様、周囲の植生を確認しながら進んでいる。


 これまで入って来た森と植生が近い為水が多くないと生息できない植物の見当が付く為、それらの植物が生えていないかを探しながら森の中を進んでいる。


 そうして一時間程ゆっくりと森の中を進んだ頃―多分普通に歩けば三十分から四十五分位の距離——に、突如森の中にポッカリと木々の途切れた空間に出くわした。





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取り敢えず、何時か書こうと思っていたクリン君の森散策。これまでだと大分端折っていたので、割と気楽に森に入っている感が出てしまっていたので、

「実はコレだけ用心していました」

と言ういいわk……ゲホンゴホンッ! もとい、ちゃんと書いておこうかと思ってクリン君の警戒ぶりを描いてみました。


そしてやはりトーマス最高!と今回と次回でなる訳です(笑)

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