第102話 閑話6 神の誤算。 中編


ようやく神様も異変に気が付きます。



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「え、まさかアレが衛文もりふみ君!? たった三週間でオッサンに!? い、いや待て、幾らなんでもそんな訳ないだろう!! 本当に誰だよこのオッサン!? 何でいきなりハートフルなホームドラマ始めてんだコイツっ!? 一体何がどうなって……ええい、考えていても埒が明かないっ! 時間遡行だ時間遡行、巻き戻せっ!!」


 神様でもプチパニックになるらしい。一瞬浮かんだアホな考えを直ぐに捨て、慌てて目の前の映像の時間を巻き戻していく。


 衛文では無く親の様子を見てしまったために起きた悲劇……いや喜劇である。彼の人となりは魂を譲り受けた経緯で良く知っているが、自分で選んだとは言え、いや選んだからこそ親の方が粗末に扱っていないのかの方が気になってしまった結果である。そして。


 問題のシーンに辿り着く。それは、セルヴァンが地球の神々の元へ向かうために席を外してから僅か数秒後の出来事だった。


「何してくれてんだこのオヤジぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」


 流石の神様もビックリな出来事である。まさかこんな割り込みがあるなど夢にも思わない。まぁ神なので夢は見ないのだが。


「だが何故!? 私直々に降臨させた形だ。そうそう運命が変わる事など無い筈……一体何が……って、はぁ!? 『悪運』スキル!? コレのせいかっ!しかも六十レベル越え!? た、確かにこれなら私の加護も突き抜けて来そうだが……どんだけ悪運が付いて回って居たんだコイツ!? 普通上がらないよっ、そして何で都合よくこんな所に現れるっ!?」


 セルヴァンが画像を遡らせながら、珍しく取り乱している様子で眺めていく。当然だ。つい先程衛文が居た世界の神から「神が目を付けていた魂を横からかっさらって行ったのだから粗末に扱ったら許さん」と散々脅され……釘を刺された所だ。


 まさか始まる前から運命が変わっていたなど誰が想像できる物か。だがそれで納得してくれるとも思えない。しかし、神々の掟で予定と違う、気に入らないからと安易に介入も出来ない。すべてはもう既にセルヴァンの手から離れてしまっており、事此処に至ってはもう成り行きに任せるしかない。


「だ、だがこのオヤジ、私の計画の邪魔をしたんだ、相応の罰を受けて貰わなければ!」


 介入は出来なくても事後処理なら辛うじて可能。取り敢えず不愉快なこの男に神罰を下そうと、彼の人生を振り返って見ジャッジする。


「……ぐ、ぐぬぬっ……何と殊勝な心掛けよ……前半は確かにろくでも無いが報いは受けている……そして、私の計画を狂わせたのも故意ではない……だと……グスッ……何という運命に逆らい生きて来たのだこの男は……」


 男の人生を振り返って確認してしまい、思わずもらい泣きするセルヴァン。神様的にこう言う人間の魂には好感を持ってしまう物。経緯はどうあれ、人の世界に干渉して異世界に誕生させた衛文と、己の運命を己の力スキルで乗り越え変えて見せたこの男。神様的な軍配では男の方にどうしても配が上がる。


 元々この世界の理を曲げているのはセルヴァンの方であり、その恩恵を受けているのは衛文である。それを、己の運一つで押しのけて見せた男を褒めこそすれ罰するなど出来ようはずがない。神を名乗る以上はコレを責める事は出来なかった。


「うぅぅぅぅ……コレを裁けば神の名にもとると言う物……えぇい、今回はその悪運から変化した豪運に免じて不問とする! これは他世界の神でも文句は言わせぬ!」


 神にも守るべきルールがある。それは他世界神も同じだ。嫌味位は言って来るだろうが、あの神達もこれには口を挟めない事象だ。


「し、仕方ない……本来の予定と、全く、さっぱり、キッパリ違うが、このまま見守るしかないか……だ、大丈夫! 万が一億が一のこういう時の為に、仕込みはしているっ!」


 神と言いつつ手出しが出来ない事に歯噛みする思いだが、今は見ているしかない。やがて映像の中の衛文が籠ごと川に流され、そこをスネークイーター(ヘビクイオオトリ)と呼ばれる二メートルを優に超える猛禽に攫われた事に悲鳴を上げ、衛文の入れられた籠を下げて飛ぶそのスネークイーターが体長三メートルほどのキランフォール(ワイバーンの小型亜種。最大で四メートル前後)に襲われ争いだしたシーンに絶叫し。その混乱の中取り落された時には青ざめ、本来必要無い筈の用心結界が見事に発動し、衛文が難を逃れた事に安堵の溜息を吐く。


「はぁ……何とも忙しい……衛文君、ちょっと飛ばし過ぎじゃないか? 転生してまだ半日でコレは幾らなんでも『持ってい過ぎ』だろう……何でこの辺りで一番凶悪と呼ばれている二大空魔獣に立て続けに襲われているのさ……」


 空中で互いに絡み合う空の魔獣を他所に、ゆったりと川を流れだした籠の様子に胸をなでおろし、深く息を吐く。そしてその時セルヴァンは思う。


 ——あれ、これ最初の予定よりも大分面白い展開になってんじゃね? と——


「……うん、当初の予定なら多分今までの期間でこんな事件が起こる訳も無いし……下手したら成人するまで退屈……もとい、平穏な生活を過ごしていただけで、大して見る所もなさそうな……」


 コレはコレでありかも知れない。そう言う考えが頭に過り、慌てて頭を振りその考えを押しやる。


「いや、面白いかもだけれども! それで衛文君があっという間に新しい人生を終えてしまったら元も子もないっ! 何とかここからでも平穏な生活に辿り着いてほしいっ!」


 そんな、祈るような気持ち——神なのに——でいると、その願いが通じたのか近隣を縄張りとしているコボルト族(この世界ではトカゲと犬の合いの子の様な存在)に拾われ、どうやら彼らが人里に衛文の籠を届けようとしている事に、ホウッと一息をつく。


「やれやれ……このコボルト達、動機はどうあれ穏健な性質の様だ。このまま人里に届けられるのなら籠に金貨も仕込んである事だし、余程変な場所で無ければ無下にはされまい」


 当初の予定と大分違ってしまっているが、それでも何とか平穏な幼児期を過ごせそうである事に、セルヴァンは再び安堵の吐息を吐くのであった。そして場面は山間の小さな開拓村の光景に移り——


「余程の変な村だったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 眼前で行われた行為に思わず絶叫してしまっていた。






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神と言えどもこの世界では、現世の事は傍観者になるしかない訳で。

そして、最初の村は神様もビックリだったようです(笑)


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