閑話集 ——第一と第二の村、こぼれ話編
第101話 閑話5 神の誤算。 前編
新章突入前の、閑話第一発目はやはりここから始めないと駄目でしょう。
結構リクエストありましたしね。
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話は
セルヴァンが力を使い、正に神の奇跡で新たに作り出した赤ん坊の身体に衛文の魂を定着させ、無事その子供をセルヴァンが管理する世界に送り届けた直後の事。
己の神域に戻り、自らの手で送り届けた少年が拾われるのを、今か今かと待つ。タイミングを見計らって送り届けたので、僅か十数秒程の時間である。
数十億と言う年月を重ねている神であるセルヴァンには一瞬よりも短い時間である筈。だが何故だかこの時はその数十秒がとても長く感じた。
「むぅ……人間ではあるまいし、たかだか秒単位の時間がこんなに長く思えるとは……お、見えて来た! フム、アレが我が神託を受けし神授の親だ、
何とも間の悪い事に、このタイミングで他の神からの連絡が入る。
「え、地球の神が来訪? 何で? 衛文君の魂を譲り受ける交渉はさっき済んだ筈……別の神? それも二神? マウラ神とヤギハヤ神? え、カチコミに来たって言っている? 何で? って、確か衛文君の国の古神だったよね。え、もしかして上は納得しても下が納得していないパターン? えぇ……今良い所なのに……え? 直ぐに対応しないと本当にカチコムって言ってる? ぬぅ……立場的に私の方が上だけど神格的には劣るか……」
一瞬だけ逡巡したが、異世界とは言え古神をないがしろにするわけには行かず、後ろ髪を引かれる思いであるが、対応を先にする事に決めた。
「ああ、ちゃんと生で劇的瞬間見たかったんだけどなぁ……仕方ない、か……はいはい、解ったよ、すぐ向かうよ。仕方ない、後で時間巻き戻して楽しむか……」
仕方なく、その場を後にするセルヴァン。この時後数秒迷っていたら、否、この瞬間に振り返ってでも居れば、この先は違った運命になっていたかもしれない。
しかし、結果として既に運命は変わっている。神と言えども運命の悪戯には逆らいようも無い事。それがこの世界での真理の一つである様だ。
そして暫しの間時間が流れ——
「やれやれ、ようやく納得してくれたかぁ……しかし……鍛冶神と火炎の神ねぇ……炉も司っているんだっけ? まさかそんなのが古神に居るとは思わなかったよ……普通神か新神に位置するのが良い所だろうに……いや、立場的にはそうなのかな。流石歴史の古い世界は神の層も厚いねぇ」
己の神域に戻りながら、セルヴァンは疲れた様に一人ボヤく。ややあって、ふと思い出す。
「あ、そう言えばウチの世界だとアレからもう三週間は経っているのか……うぅん、粘られたなぁ……もう転生させたんだから早く諦めてくれればよかったのに……まぁいいや! 折角のシーンを直接見れなかったのは残念だけど、それは何時でも再生できるからねっ! 先ずは……やはり衛文君の現状を確認するか。やっぱり気になるからねぇ!」
中を睨み、鼻歌交じりに何やら操作をする様な仕草をする。
「フンフンフ~ン。三週間かぁ。それだけあれば結構大きくなっているよなぁ。人間の成長は早いし。もう立って歩いて話したりしているかな~ってそれは無いか。幾ら成長が早いと言ってもそこまで早くないんだったよな、確か」
神様と人間では時間の感覚と言う物が大きく違う。そしてセルヴァンもそこまでじっくりと人間の様子を監視している訳では無い。大まかに世界の様子を伺う位であった為、人間の成長速度と言うのは昨日生まれた赤ん坊が、気が付いたら老衰で死んでいる、と言う位の感覚だ。
「流石に自分から懇うて導いた魂、そんな事になったら勿体ない物ね。さて、どんな人生を送るのやら楽しみだね……っと、繋がった!」
その言葉と共に、セルヴァンの眼前に彼の世界の光景が広がる。ソコに映し出されたのは、幸せそうに笑い合う仮親に選んだ夫婦の姿。そして——
男は今輝いていた。新しい生活を謳歌していると言ってもいい。足は相変わらず不自由なままだったが、それでも働けば働いた分だけ喜ばれる。
それが男には溜まらなく嬉しかった。
「旦那様、運んで来た荷物の整理は終わりましたよ! 帳簿の記載は解らないのでそちらの方でお願いします! それから出荷する分の積み込みはもう始めてもいいですか?」
「ああ、また……何度も言っていますが、旦那様は止めてください。そんな大層なアレではないので。そして張り切り過ぎですよ。折角体調が良くなってきているのに、そんな無理をしてはいけません」
「申し訳ありませんがそれは聞けません。貴方は私の大恩人です。その方を旦那様と呼ばずに何と呼ぶんですか。そして、私の事はお気になさらず。今までろくに働いていませんでしたから、寧ろ働けば働く程元気になると言う物ですよ!」
あの時、運良く出会えた目の前の男性のお陰で、男の人生は大きく開けた。彼に拾われなかったら、自分はきっとあそこでのたれ死んでいただろう。運よく生き延びたとしても、きっと腐って破滅の道を辿っていただろう。
そんな自分の運命を変えてくれた、目の前で穏やかに笑う男性を男は生涯をかけて恩を返すつもりでいる。その為には不自由な足であろうが身を粉にして働くつもりだ。
「もう、あまり無理をなされてはいけませんよ。私たちは貴方に無理をしてもらうために来て頂いたわけではありませんもの」
「奥方様……いえ、無理などしておりませんとも! コレは私が好きでやっているのです!いわば健康の秘訣と言う物です。止められてしまえば何をしていいか分からず、むしろ体を壊しかねません! 仕事をしている位が丁度いいと言う物です!」
「もう、奥方様は止めてと言っているのに……」
「ハハハハハハ! 旦那様にも言いましたが、それは聞けません! 私の様な者を雇ってくれたお二人に対する最低限の礼儀と言う物です!」
「もう、仕様の無い人ですこと……くれぐれも、無理はしてはいけませんよ。働くなとはもう言いませんが、お体壊されたら元も子もありません、重々労わって下さいな」
掛けられる言葉の暖かさに、思わず涙がこぼれそうになる。今までこんな言葉を掛けてくれる者など男の周囲には居なかった。実の親でさえもだ。
男は悟られないよう、慌てて背中を向け、
「大丈夫です! 折角旦那様と奥方様に雇われたのです。この店を盛り立てて少しでも立派な商会にして見せます!そして、お二人が幸せそうに笑う所を見るまでは体を壊している暇などありません! それが私がお二人に返せる唯一の恩返しなのですからっ!」
だが、涙は隠せても声が涙声になり震えてしまい、結局隠せていなかった。しかし、今の男はそんな事すら気にしている暇はない。言った通りに、少しでもこの店を盛り立てるのが今の彼の存在意義であり、存在理由であり、生きる目的だ。
だから男は涙をぬぐい、二人に輝くばかりの笑顔を向けて見せる。
「さぁ! 次は何をしましょう! 仕事など幾らでもある筈ですぞ! 労働こそ我が喜びと言う奴です、どんどんと仕事をお申し付けください!」
薄暗く色あせた人生を歩んできた男が、人生の下り坂で突如得た思いがけない幸運。その幸運が夫婦の姿を取って目の前に並んでいる。その姿は男には眩しい位に神々しく見えた。
まるで神様だ、と男は思う。いや、自分にとってはこの二人は神に等しい。それも幸運をもたらしてくれた福の神だ。
そんな二人を、己の人生、いや命を懸けて支えていく。何と素晴らしい人生であろうか。これまでの鬱屈した人生を搔き消して余りある。
男の人生は、今彼の笑顔と同じく美しく輝いている——そして。
「……いや、誰だよこのオッサン!?」
とある神域で、思わずそう叫ぶとある世界の神の姿があった。
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このオッサン、本題の前に一話使いやがったので、やはり閑話でもこうやらないといけないんですよ(笑)
ワンパターン上等!
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