第80話 どうやったら門番二号にこんな出来た嫁が来たのかが最大の謎。
え~……この物語はリアルを適度に追及したお話です。ファンタジーですので多少の脚色はありますが、なるべく現実に即した世界観を意識しています。
なので、ちょっと下品なお話も避けて通れない訳で……今回は石鹸回なので、避けては通れない話題なのです……
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「……ええと……僕にはとてつもなくド正論に聞こえるので擁護のしようが無いのですが……まぁあの石鹸は別に高級品でも何でもないですが」
「まぁ、今にして思えば確かにそうなんだがよ。でも、高級品じゃないのはお前も認めるだろ? それを幾ら説明しても納得してくれないんだわ。『子供がそんな簡単に石鹸なんか作れるかっ!』ってな。そんなもん貰えないし使えないの一点張りよ」
「マクエルさん……よくそんな常識的で素敵な人と結婚出来ましたね……何か話からするととても出来た奥さんで、チャランポランな貴方と釣り合っていない様に聞こえて来ます」
「あ、そこは自分も謎に思ってたっす。班長の奥さん、とんでもなく美人で優しいんですよ。怒ると怖いっすけど……どうやったらこんな班長と結婚する気になるのか、村でも最大の謎として噂されているっす」
「お前らなっ!? 誰がチャランポランよ、俺ぁこれでも仕事はキッチリしているし家でもしっかりしているよっ! ……そのつもりだよっ!」
それは兎も角、クリンから聞いた石鹸の作り方の原理自体はとても簡単な物で、高級品扱いされている石鹸とは別の物だ、といくら説明しても信用してもらえなかったそうだ。
『そんなに簡単だと言うのなら貴方が自分で作って見なさい。どうせこの石鹸が無くなったらまた貰いに行くつもりでしょう? そんな見っとも無い真似は許しません!』とそう言われてしまったらしい。
「そんな訳でよ……ウチの嫁さんを納得させる為にも俺が一度自分で作って見せなきゃいけない訳よ。五歳のお前さんが作れるんだ、俺でも作れるよな? だから教えてくれ!」
「……何かそれ、僕はほぼ関係無いのに迷惑だけ飛んできていません?」
話を聞いて「うわ面倒臭っ!」とクリンは思ってしまう。体よく夫婦喧嘩に巻き込まれたと言うのが少年の正直な感想だ。
「大体、前に教えたじゃないですか。あれ以上説明のしようがないんですが。それ位やり方自体は簡単ですし」
「いや、口だけの説明だけじゃなくてだな。ちゃんと作る所を見せて欲しいんだわ。脂身から脂を取り出す所から石鹸を作る所まで。この前渡した脂身があるだろ? アレを使って作る所を一度見せて欲しいんだわ」
そう言ってマクエルが頭を下げて来るが、少年の方は困った顔で指で頬を描く。
「ええと……脂身はもう既に全部処理済みなんです。なので脂を取り出す所からはちょっと無理かと思います」
「……え? あの量が……もうないの?」
「ええまぁ……半日かけて、もう全部ラードにしちゃいました」
「いや、半日であの量を脂に変えるとか、お前手際よすぎるだろうがっ!?」
思わず目が点になってしまうマクエルだった。しかしクリンにも言い分はある。手際よく処理しなければ、あんな量を一度に持ち込まれたら直ぐに傷んでしまう。まぁ、作業を知っている者と知らない者の差と言う奴であろう。
「まぁ、そんな訳で脂を取る所からは今は無理ですね。次に獲れるまで待つか、脂抽出は後日にして先に脂から石鹸にする所を見せるか、どちらかの方が良いと思います」
「そうか……じゃあ、先ずは脂から石鹸作る所だけ教えてくれ。脂身は……そう簡単に手に入らんしなぁ。ああ、でももう少しすればそれなりに手に入るのか」
「え、そうなんです?」
「あと何ヶ月かで収穫だろ? そしたら家畜を潰し始めるんよ。豚もその時に結構潰されるから、その時に纏まった脂身が出るのよ。何時もそれで獣蝋つくるからな」
「ああ……成程。ここでもそう言う習慣なんですね」
前世の古い時代と同じく、この辺りの地域でも家畜は食べるために飼うのではなく、農耕器具として扱う事が多い。牛は古い時代の農村ではトラクターの様に物を運んだり地面を掘り起こしたり均したりするのに使われ、豚は穴を掘る習性があるので畑の根切りや掘り起こし、切り株の撤去などの作業に使われている。鳥類は害虫駆除だ。
しかしそれらの動物は餌が大量に必要であり、雑草などが多い時期は良いが収穫後は餌が確保出来ない為に繁殖する種を残したら後は潰してしまう事が多い。よく海外の祭りとかで動物の丸焼きなどが振舞われたりするのもこの習慣がある為だし、冬の保存食として豚の加工品が多い理由でもある。
「あ、でもその豚って汚物とか食べさせているんじゃないですかね? それだったらちょっと使えないんですが」
クリンが懸念したのは前世の歴史がある為である。豚は雑食なので冬の間の餌として人間の排泄物を食べさしたりしていた地域が実はあったりする。国によってはダイレクトに豚を便所に繋いで飼っていたりする。古代中国では豬厠(ちょそく)と言う豚が尻まで舐めてくれるトイレがあったと言う。
「ああ、そんなのは大きい町の話なのよ。ウチの様な村じゃ下肥も立派な肥料だからな。しかし、町じゃそう言う豚を普通に喰ってるぞ?」
「いや、それヤバいですから。絶対食ったらダメですよ。脂も使えませんからね。もし持って来たら捨てますからね」
排泄物を餌にしているのだから不衛生で当たり前である。前世ではそのせいで一部宗教では豚は不浄の生き物として食べるのを禁止されていたりする。
「え~、何でだよ。町じゃ皆普通に食っているぞ? 俺は機会が無くて食った事無いが、寧ろ旨いって噂まであるのよな」
不満そうに言うマクエルに、クリンは真顔でこう聞いた。
「マクエルさん。貴方、う〇こばかり食っている知り合いがいたら、その人の事健康的だと思いますか? 人付き合いしたいと思いますか?」
「……ああうん、言いたい事分かったわ。そりゃ確かに食わない方がよさそうだな」
「その方が良いです。取り敢えず、今回は僕が作ったラードを使うと言う事で、何時教えましょう? もう一つの素材である灰汁を作るのに一晩は掛かるんですよ」
「そうか……じゃあ今度の非番の日に教えてもらおうか」
「解りました。じゃ当日は灰汁の作り方だけ教えて、現物は前もって作っておきましょう。で、もう一人のそちらのハゲたオッサンの頼みとはなんでしょう?」
「禿げてねえっす! 剃られただけっす!」
青剃りマルハーゲンはそう怒鳴ると、コホンと咳払いしてから、
「自分はラン麺の作り方を教えて欲しいっす! あの味が忘れられなくて大変なんす! あれ以来毎日の様に夢にまで見る様になったっす!」
そう言われ、クリンは暫く目をぱちぱちとさせた後、フッと息を吐き、
「……知らんがな」
バッサリと切って捨てた。
「そんな冷たい事を言わないで欲しいっす! 自分、あんな旨い食べ物知らなかったっす! 出来れば坊ちゃんに作って欲しいっすが、そんな事したら班長の奥さんにぶっ飛ばされるっす! なので、自分で作って再現したいんっす!」
すげなく言い放ったクリンに縋りつく様にして更に懇願して来たのだった。
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今でもアジア地域の一部とか中東辺り行くとこの便所が現役だったりするんですよね……
尚、クリンが居る今の村でこのトイレが使われていないのは肥料にする為もありますが、純粋に街と村では人口が違い餌として賄いきれるだけの量が取れないからでもあります。森にでも放っておけば勝手に木の実だの虫だのを食べますから田舎の農村だとこっちの方が早いです。
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