第79話 子供に玩具、転生幼児に丸太。
「『普通は子供に大人のアンタが飯を食わせる物だろう、何で逆になってんのよっ!』って、そりゃぁもうえれぇ勢いで怒られたんだわ……」
「自分もその時に一緒に怒られたッス……」
確かにド正論だ。クリンはクリンで村に来て早々に普通の子供に擬態するのを諦めていて、仕事の関係で少年の動向を見て来たマクエルはその様子から子供扱いするのを止めていた為、本人達は少し年の離れた関係程度の感覚でいたが、事情を知らない人間から見たら子供にタカる大人以外の何物でもない。外聞が悪すぎる。
坊主頭の男にしてもそれにつけ込んだ様に見られて当然である。
「で、最低限体裁整えるためにお礼の品持って行けってケツ蹴られてな。んで、コイツをお前へのお礼に持ってきたのよ」
「成程。そういう経緯でしたか。それは態々有り難うございます。で。何で丸太?」
「そりゃぁ、あれよ。子供相手に金渡すのもアレだし、かといってお前さん必要な物は大体自分で作っちゃうじゃん? で何渡そうか悩んでたんだが、その時思い出したのよ!」
「班長から聞いたっす。前に坊ちゃんが『道具作るにもいい材料が無いと碌な物が作れない』とボヤいていたって」
「そうそう。そん時、お前さん『木工したいけれども体力的に雑木しか集められない』って言ってたろ? んで、それなら下手な物渡すより、良い木材を渡す方が喜ぶんじゃねえかってんで、木工所から二人で金出しあって買ってきたって訳よ!」
「そっす。この村で家具なんかに使われる、良い木材の原木っす! 班長が言うには下手に角材とかに加工するより丸ごとの方が坊ちゃんは喜ぶ、って言ってたんでこれにしたんですが……ぶっちゃけ無加工が一番安いんす。で、どうっすかね?」
二人が口々に言い、クリンは手土産と言う丸太をシゲシゲと眺めやる。太さは七十から八十センチと言った所か。高さは二メートル程度で切り揃えられている。材質はオークの近在種だと思われた。確かに家具や道具類の柄などに好んで使われる良質な木材だ。
「ほほぅ……コレはなかなかお見事な丸太です。角材にしてもいいしそのまま削り出してもいいし……小分けにして道具の素材にしても良し。コレは確かにいい物ですよ」
「だろ? いやーお前さんなら気に入ると……」
「でも、僕その時言いませんでしたっけ? 『ノコギリとかカンナとかの木工用具が無いから、手に入っても仕方ないんですけどね』って。今貰っても正直加工出来ませんので邪魔なだけですが」
「班長……」
クリンの言葉に青頭マルハーゲンがじっとりとした目で見て来るのに、マクエルは思わず狼狽える。
「え、ええ? ああ、いや確かにそんな事言っていたような……?」
「それに原木と言いつつ皮が無いじゃないですか。皮も皮で使い道があるのに……それに直ぐに加工するんじゃなければ皮が無いと保管中に割れたりしてくるんですが」
まさかのダメ出しに、「ほら、やはり捻った物を渡そうとするからッス」とか「いやいや、お前だって何にも思いつかないっす!とか言ってたろうが」とかゴチャゴチャと言い合い、やがて二人共に溜息を吐き、
「はぁ、気に入らないんじゃ仕方ねぇのよ。持って帰るか……」
「折角運んだのに……班長のせいっス」
と、持ち帰ろうとするが——
「だがこれはもう僕の物だっ! 一度貰った素材を返すなんてとんでもない! そんな事をする位なら加工する道具を作ってやるわっ!」
とクリンは叫ぶや否や、太い丸太にヒシッと飛びついたのだった。
何せ丸太材などクリンには手に入れる手段が無い。買うには高いし自分で伐採するには道具が無いし、何より重すぎて運びたくても運べない。
クリンにとってはクソ不味い……とまでは言わないが微妙なラーメンの一杯で被った迷惑と天秤に掛けたら秒速で丸太に比重が傾くと言う物である。
「……おい」
「……結局欲しかったんすね」
ガッシリとしがみ付いて離れない少年に、二人がじっとりとした目を向けて来るが、ここで逃してなる物かとさらに強く引っ付く。
「ふははは、こうなれば今すぐにでもノコギリを作らないとねっ! あ、マクエルさん、奥さんには『元々僕が誘ったので気にしないでください。そしてこんな素敵な物を貰えるなら、毎日でもご馳走しますよ』とでも言ってあげてください! では僕はこれでっ! って、流石に運べないんで向こうの鍛冶場に運んでください。さぁさぁさぁ!」
丸太に引っ付いたまま顔だけ二人に向けた五歳児が急かしまくるが、
「ちょっ、待て待て待て! まだ俺の頼みをきいてないだろう!?」
「うわぁ……歳の割に大人びた坊ちゃんだと思ったのに、まんま玩具を貰った子供っす……お願いだから自分らの頼みを聞いて欲しいっす!」
慌てて二人がそう言って来るのに、クリンは物凄~く嫌そうな顔をする。
「頼みぃ~? 謝罪として手土産持ってきたケツから頼みぃ~? 折角目の前にこんないい素材があるのにお預けぇ~? それ、幾らなんでも図々し過ぎません?」
心底嫌そうにそう言い放つ。少年にしては珍しく駄々っ子モードであるが、作りたい物が頭の中を埋め尽くしている時は大体こんな物である。
「そう言うなって、な? 確かに謝罪の意味もあるんだが、地味ぃ~に高かったんだわ、コレ! 木材なんて買った事無かったから知らなかったが、まさかこんな値段するとは思わなかったのよ! よっぽど自分で森行って伐採しようかと思ったわ!」
「自分も知らなかったっす! でも流石に伐採したての木を持ち込むのはどうかと思って泣く泣く買ったっす! お願いですから話でも聞いちゃくれませんすかね!?」
「……まぁ、確かにこれだけの質だと良い値段するでしょうね。そして後何ヶ月かで出て行く僕に生木なんて持って来たらブッ飛ばしていた所ですが……ちゃんと乾燥した丸太を持ってきた所に免じて話だけは聞きましょうか……物凄ぉ~く嫌ですが」
爆上げしていたテンションを一気にスンとさせたクリンは、それでも嫌そうな顔は変えないまま抱き付いていた丸太から離れた。取り敢えず話だけは聞く事にした様だ。
「何、そんなに難しい頼みじゃねえよ。俺に、ちゃんとした石鹸の作り方を教えて欲しいってだけなんだわ」
「石鹸んんん? この前あげたじゃないですか。ちゃんと熟成させたのに、こんな短期間で無くなるなんて、どんな使い方したんです?」
「いや、無くなってねえよ。そもそも使ってもいねえよ」
「……はい?」
不思議そうな顔で首を傾げるクリンにマクエルが説明するには、あの日貰った石鹸を持ち帰って嫁さんに渡した所、どうやって手に入れたかの話になり、その関係で少年に貰った事から謝罪に行きながらもラン麺をご馳走になった話まで伝える運びになり、そこで盛大に怒られた訳だが、「子供から石鹸なんて高級品をせびるなんて大人のやる事か!」とコレに関しても物凄く怒られたらしい。
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ネタバラシすると、この作品で何が困るかって、クリンに素材を渡す方法です(笑)
クリンがもう少し成長したり、別の場所に行った後ならいくらでも整合性の取れる渡し方が出来るのですが、この大して優しくも無い村で合理的な説明の出来るちゃんとした材料の渡し方がこれしか思いつかなかったんですよね(笑)
魔法とかチートとか優しい大人が居れば、もっと手っ取り早く材料渡せたのに……自分でこういう話にしちゃったから、一々苦労しますですハイ。
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