第73話 異世界中華道、只今爆走中?


とうとうクリン君が食い気に走り出しました(笑)


※ 本作のPVが10万付きました!うほほい! (∩´∀`)∩

こんな大勢の方に読まれて有難いやら恥ずかしいやら。引き続き本作をお楽しみいただけると作者としては嬉しい限りです。


それでは本編どうぞ。



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 何とか気を取りなおしたクリンは、昨晩決意した自分の食生活向上の為の作業に取り掛かった。と言ってもそんなに複雑な事では無い。


 残りの肉から骨を全部切り出し、取り分けた肉を適度な大きさにカットしたら深く作った素焼きの壷に、ラードと一緒に詰めて行くだけだ。


 これは古くからある保存法で、脂か油に肉を漬けこんで保管する技法だ。オイル漬け、或いはコンフィと呼ばれる技法である。


 冷蔵庫が無くてもそれなりに長期間保存が出来る技法で、クリンの心の師匠であるMr.トーマスも動画内でこの方法を披露している。


 最も、少年の場合は保存目的よりも味の改善の意味合いの方が強い。体長三十センチ強のツリーフットから取れる肉は、子供一人には結構多くても長期保存する程でも無い。


 赤身主体の肉を脂に漬け込む事で、油脂を含ませる目的の方がメインだ。


「どうせ食べるなら、少しでも美味しくってね。でもこれで手持ちの食用ラードは使いつくしちゃったなぁ。まぁ、何時までも残していても悪くなるだけだしね、丁度いいと思いましょうか、うん」


 使いつくしたのは食用のラードで、鍛冶作業に使う用のラードはまだ残っている。しかしあちらは食べる事を考えていないので匂い消しもしていないし、保管も考えていないので酸化しまくっていて既に食用にはもう適さない。


 肉を浸け終え、ふと調理台の上に残ったツリーフットの骨が目に留まる。綺麗に肉から剥がされているが、それでも骨の間とかに多少の肉が残っている。


「……この世界ならコレを捨てる手はないよね……」


 骨にも使い道は沢山ある。削って鏃にしたり釣り針にしたり、太さがあるのならナイフの柄や鞘にしてもいい。例え骨でも立派な素材足り得る。


 が、今回はそれらの使い方はしない。何故なら——


「鶏ガララーメン食いてぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」


 肉が剥がされた骨を見て、瞬間的に「あ、鶏ガラみたい」と思ってしまい、そこからはもうラーメンを作る事しか頭にない。


 既に脳内にはアーカイブを使うまでも無くグルグルと幾つものガラを使ったラーメンのレシピが浮かんでいる。


「……作っちゃうか。昨日、食事状況改善を誓ったばかりだし……それにラーメンも最後に食べたのは、看護婦さんの目を盗んで食べたカップ麺が最後だった筈……ちゃんとしたラーメン食いたいよね、やっぱり!」


 そうと決まれば行動は早い。前の鍛冶師が残していった、売れ残りなのか自分用なのかは分からないが大きい鉄鍋がしまってあったのでそれを引っ張り出し、軽く洗って竈に置き、水をタップリ張って沸騰させる。


 その間にウサギモドキガラは水で洗い、汚れや血合いの部分を取り除いておく。そして、もう一つの竈で自前の鉄鍋で湯を沸かし、竈から掻き出した木灰を入れて煮込む。一煮立ちしたらそれは脇に退かして沈殿させる。


 水が多い為に沸くのに時間が掛かる為、その後に自分の朝食であるライ麦粥を作ってしまう事にした。


 ライ麦粥が完成する前にお湯が沸いたので、大鍋にガラを入れてそのまま煮だす。この大鍋は前世の寸胴程の大きさは無いが、家庭用の両手大鍋位の大きさはあるので、一匹分のガラでも十分出汁は取れそうだった。


 朝食のライ麦粥を食べ終えたら、一旦大鍋を下ろし茹でていたお湯を全部捨ててしまう。勿体ないと思うかも知れないが、コレをしないと骨を煮込む場合に臭みが強すぎて大量の香辛料が必要になったり、最悪臭すぎて飲めない事もある。


 なので、三十分から一時間煮込んで一度捨てるこの方法は、中華のガラの出汁取りでも結構使われている。それに、扱った事の無いウサギもどきのガラでもあるので、この手順はちゃんと踏んだ方がいいと感じたので、勿体ないが交換することにした。


 大鍋に新たに水を入れた後、再び沸騰するまでの間に煮こんだガラから凝固した血合いや余分な筋や脂を取り除いて掃除をしておく。


 やり方によってはココで骨から余計な肉を剥がしてしまう事もあるが、今回は肉の旨味もある方が良いと思い肉は剥がさず付いたまま、今度は水路の脇から取って来た匂い消しとなるハーブ類と一緒に煮て行く。本当は玉ねぎや長ネギなどの香草も欲しいのだが、流石に無いので諦めた。


 これで後は三時間ほど、沸騰するかしないかの温度で煮込むだけである。この辺の知識は、HTWの料理スキルのレシピにある物と、入院中に見まくった料理サイトの情報の掛け合わせである。


「よし……このまま煮込み続けたい所だけど、流石に仕事に行かないとだし……」


 一時間ほど煮た所で、仕事を探しに行く時間になったので、ここでいったん竈の薪に灰を掛けて火を落とす事にした。これでも熱自体は暫く発生したままなので、寧ろとろ火の加減になっていいかも知れないと思い煮込みが足りなければ後で煮ようと仕事に向かう。





 その日の仕事は、納屋の片付けと補強をすると言う農家の手伝いだ。後一か月と少ししたら夏の収穫が始まりそのまま秋麦の収穫まで行くので、その前に納屋を片付けて整備しておきたいとの事で、その際の雑用と荷運びが仕事だった。


 手際よく荷物の分別をして、細々とした物を率先として運んだ為に、予定よりも早く作業が進み喜んでくれた。


 この辺りでも昼食を取る習慣は無いが、代りに水分補給と休憩を兼ねちょっとした間食をする。大体が軽いエールを一杯ひっかけて、芋やチーズなどを齧る位だ。


 この辺りの農村で飲まれるエールは前世の古い時代と同じく、大麦で作り濾しが甘いので沈殿物が多くちょっと薄いお粥の様な物である。


 苦味も少なく炭酸も非常に弱い代わりに、ほぼ大麦汁である為に実は非常に栄養価が高い。一説によれば、現代で言う所の栄養ドリンクに近い役割だったのが、こういう粗雑なエールだったと考えられていたりする。


 従って子供でもこのエールを食事と水分補給代わりに飲むのはこの辺りでは普通のことである。のだが、流石に五歳児に飲ませる事は無い。


 その休憩のタイミングで、一通りの仕事は済ませたと見たクリンは、作業を切り上げる事にして給金を貰う。


 今回は余程手際に満足したのか銅貨二十枚が渡された。まぁ、作業内容的には大人なら多分銀貨二枚は貰わないと割りに合わないだろうから、正直そこまで有り難味は無かった。




 それよりも今の彼の頭の中はこれから作るラーメンの事で一杯である。ルンルン気分で足りない材料を求めてそのまま村の商店に向かう。


 商店と言うが、小さい雑貨屋みたいなものである。食品関係を中心に色々売っている店で、クリンが購入する芋や野菜類は大体この店で買っている。


 その店で普段は買わない粉にした大麦粉を計り二杯分買う。おおよそ五百グラム。それで今日稼いだ銅貨二十枚は消えた。これが普段クリンが大麦を食べない理由でもある。


 粒のままの大麦ならもう少し安いが、粉になると粉挽代が加算されるのでこの位の値段が相場である。しかも、大体他の雑穀の粉が混ざってかさましされている。


 それがこの辺りでは当たり前であり、普段は粒のままの大麦粥が食べられている理由でもある。これでパンにして焼いたらさらに窯料金が取られるのだから正直馬鹿馬鹿しい。


 五百グラムの大麦と言うのは、平均的な大人の一日の消費量である。麦粥ならこれにあれこれ入れて、パンなら水とツナギの粉を入れて、どちらにしても一キロ位の量にして食べるのが一般的だ。因みに小麦だともっと高い。同じ量で銀貨が必要になる。そして庶民が買える物は大体混ぜ物がしてある。


 本当は小麦粉で作りたい所であるが、正直手が出ないし混ぜ物がしてあるのならそこまで魅力がある物でも無い。大麦の粉でも一応麺が作れる筈であるので今回は奮発して買ったのであった。


 少年一人にしては量が多いのだが、そこは久しぶりのラーメン。たっぷりと堪能したいし一回で食べきったらつまらないので何食分か纏めて作る予定だ。


 ライ麦の粉で作らないのは、彼の知識ではライ麦だけで麺を作るのは難しく、大体小麦粉と混ぜて作るレシピだったので、今回は大麦の粉とライ麦を少し混ぜて作る予定だ。


 他にも、この辺でよく食べられているキノコと、丁度捨てる野菜の端材があるとの事だったので分けてもらい、ホクホク顔で小屋へと戻って行った。


 帰り着くなり朝煮た大鍋の蓋を開けて覗き込む。流石にまだ煮込みが足りていない様だと見たクリンは、再び火を熾し少し煮詰まっていたので水を足し、貰って来た根菜や野菜の端材を洗うとそのままドバドバと中に入れた。


「やっぱ野菜の旨味も欲しいよね。後入れだけれどもこれで十分出汁が出る筈!」


 普通は食べられない野菜の端や根なども出汁としてなら十分使え、前世のラーメン屋とかでも好んで使われていたりする。


 それに習って端材を入れ煮込んでいる間に麺の加工に入る。大きい桶に大麦粉を入れ、ライ麦を潰して粉にした物と塩と朝作っておいた灰汁の上澄みを掬いかけて捏ねる。これはかん水の代わりだ。


 これが入ると麺に独特のコシが出る。やはりラーメンと言うからにはかん水やそれに類する物が無いらないと気分が出ない。


 途中で粘りが足りなさそうなので、ツナギ代わりに潰した芋も入れて更に捏ねた。本当は卵があればいいのだが、無い物は仕方がない。


「代用上等、臨機応変で素晴らしいってね! ……まぁ、言い方変えたらただの行き当たりばったりだけどもねっ!」


 ある程度捏ねて粉が塊になってきたら、後々皮を鞣す時に使うつもりで作っておいた木の叩き棒で生地をガンガン叩いて行く。


 本来なら専用の道具で伸(の)したり、袋に入れて足で踏んだりするのだが、力が弱く体重も軽いクリンはこの様に重量がそれなりにある道具を使い力いっぱい叩く事で麺の腰を出すつもりだ。


 時々薄く水を塗り、打ち粉をしては棒で叩き、十分捏ねたら打ち粉を振った生地をよく使う大きい葉っぱで包んで寝かせる。





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はて、何故かお料理教室の様になってきている……

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