第71話 大山鳴動してウサギもどき一匹。


望む望まぬに関係なく、人付き合いと言うのは大事です。お裾分けも考えて行わないと結構面倒になったりするんですよね……




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「む? おお、トマソンとクリン君じゃないか。二人してこんな所でどうしたのだ?」


 と、そこへ横道から出て来た門番三号、ロッゾが二人に気が付き声をかけて来た。


「ああ、そろそろロッゾが交代に行く時間か。なら俺も戻らないとな。いやなに、クリン君がグレイフットを仕留めたそうでな。お裾分けに分けてくれていたんだ」

「グレイ……? ほう、ツリーフットか! アレは中々に美味いが……君が自力で狩ったのか? 凄いな……多才で器用だとは聞いていたが、その歳で狩りも熟すとは」


 最初の時の不愛想な態度はどこへやら、厳つい顔のロッゾにストレートに褒められてクリンは、ブルーな気分が瞬く間に晴れてニコニコ顔である。


「いやぁ、そう言われると嬉しいですねぇ。あ、もう半身ありますからロッゾさんにも差し上げますよ。僕の食べる分は一匹分あれば十分ですし」


 そう言いつつ、背板に乗せていたもう半身が入った包みをロッゾに向けて差し出す。どうやらチョロいのは少年の方だった様だ。


「む……いいのか? 悪いな。いや、この国に来てから初めて食べたのだが、このツリーフットと言うのは中々に旨くて今では好物でな。ほう、上手に解体してあるな。コレも君が? ……本当に多才だな。む? だが胸の方なのか……前足も旨いが足肉を炙って食べると絶品なのだが……」


 トマソンと同じように包みの中を覗き込みながら、似た様な事を言って残念がったのに、クリンとトマソンは顔を見合わせて思わず笑いあった。


 不思議そうな顔をするロッゾに、トマソンが笑いながら顛末を教えると「あのアホめ……」と、彼と同じように苦い顔で歯ぎしりしていた。


 やはり一番旨い部分を税として持って行ったのはやり過ぎだと思った様子であった。心の中で『食い物の恨みは恐ろしいというからね。名の知らぬ門番、南無~』と心の中でクリンが思っていると、三度横道から、


「お、居た居た。お~いトマソン、そろそろ詰め所に戻ろうぜ……って、ロッゾも居るのか。おん? クリンも居るじゃないか。三人で何しているんだ?」

「……げっ、門番二号!? もうお裾分け分ないよっ!?」


 まさかの門番ズ勢揃いにクリンは思わず顔を顰めた。ツリーフットは元々そんなに大きく無いので、気前よく四分の一身で渡してしまったので、もう切り分けてある分が無い。


「ゲッてなんだよクリンよぅ。お前さん、俺の扱いだけ酷くないかね? って、お? 何だ二人共、持ってるそれは?」


 目ざとく二人に渡した包みを見止めたマクエルに、クリンは渋々ながらも自分か今日仕留めた獲物で、税で取られた分の残りを二人にお裾分けとして分けた事を伝えた。


「へぇ! ツリーフットを二匹仕留めるとはやるねぇ! 余り群れないし、複数いた場合生き残った方が反撃してくるから、中々一匹以上捕れないのにやるなぁ! そうか、ツリーフットのお裾分けかぁ……ふーん」


 もの言いたげにジーッとクリンを見つめて来る。が、既に残りは一匹分だけである。


「ええと……流石にマクエルさんにも会う事は想定していなかったので……」

「ああ、うん。そりゃそうよな。税で持っていかれた分の残りなら仕方ないよな。でもまだもう一匹丸々残っているんだよな……?」


「ええと……流石にこの一匹は狩人の特権として一人で食べたいのですが……そんなに肉の量ありませんし……あ、そうだ!」


 何を言いたいのか丸分かりの視線を向けて放さないマクエルに、クリンは困惑した顔をしていたが、ふと思い出し背板から葉で包まれた小さい包みを二つ取り出した。


「お二人に渡してマクエルさんだけ何も無しと言うのもアレですし。少なくて申し訳ありませんがこちらをお土産代わりにどーぞ」

「おお、ありがとよっ! 何か催促したみたいで悪いなぁ! で、コレは何よ?」


 しっかり催促しておいて良く言うよ、と口の中だけで呟き、クリンはニッコリと微笑みながら、二つの包みをマクエルに手渡す。


「一つはスープにすると旨いと聞いていたので、取り分けて置いたツリーフットの頭です。あ、あと尻尾も旨いらしいので小さいですが一応一緒に入っています」

「ああ、頭か……確かに美味いんだが……ああいや、贅沢を言う物じゃないな、うん。で、もう一つは何よ? って……うおぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 何気なく包みを開けて中を覗き込む。と、何やらウゾウゾと動く小さい物体がビッシリと入っているのを目撃して、マクエルは思わず声を上げる。彼も食べた事があるとは言え、やはり突然見せられたら驚くものだ。


 放り出さなかったのは単にもう一つのツリーフットの頭が包まれた包みが邪魔だっただけだ。


「あ、そちらも森で取って来た幼虫です。多分カミキリムシ系の幼虫だと思います。この辺でも食べるんですよね、確か。丸焼きもいいですが油で炒めて食べるのがお勧めです」

「おいいいいいいいっ!? いや、確かに喰うし旨いのも知っているけれどもっ! この二人は肉で俺は頭と虫って、扱いに差があり過ぎねえか!?」


「そちらは二重になっていて、山菜に若芽も入っています」

「そういう話じゃねえよっ! 結局虫と草と頭じゃねえかっ!」


「そう言われましても。目ぼしい物は税として今日の門番さんに粗方持っていかれましたし。先着順で運が無かったと言う事で、今日は諦めて下さい」


 暗に「アンタの同僚が変な持って行き方したんだから恨むならそっち恨めよ」と言ってのけたのが伝わったのか、ムググと唸って黙り込む。


「あ、そう言えば、あれからそろそろ一カ月経ちますから石鹸がいい具合です。帰る時に寄ってくれれば渡しますから、今日はそれで納得してくれませんかね?」

「おお、もうそんな経っていたのか! そっちの方がウチの奥さん喜ぶからな、そういう事なら、コレと合わせて有難く頂くぜ!」


 途端にホクホク顔になり草包みを持っていない方の手でバシバシとクリンの肩を気安く叩く。何気に結構痛かった。


 クリンが顔を顰めていると、それまで素知らぬ顔で我関せずを決め込んでいた二人が、


「石鹸?」

「何だそれは?」


 訝しそうな顔で聞いて来るのをマクエルは底意地の悪そうな顔で応じる。


「おっと、お前らはそんな良い肉を貰ったんだから今回はダメだぜ。ツリーフットは確かに美味いが食ったら終わりだからな。その点、俺は頭だけだけど肉も食えて他もあるんだからな。十分釣り合いが取れるってモンよ!」

「いや待てよ、石鹸とは何だ? そんな高級品を集ったのか?」


「お前、それは収賄になるのではないか? と言うか一カ月も前からそんな約束をしていたのか?」

「へへ~ん! おあいにく様! 石鹸は石鹸でもなんとこのクリンの自作だからな! 集った……事は集ったが、元手はタダらしいからな、収賄にはならねえよ!」


 何故か自慢そうに言うマクエルからクリンの方へ視線を移した二人が「どういうことだ」と聞いて来るが、色々と面倒になって来た少年は軽く肩を竦め、


「説明しても良いですが、時間良いんです? 結構いい時間な筈ですけれども。僕も疲れているので早く帰りたいですし、戻る時にマクエルさんに聞いた方が早いですよ」


 言われて三人は気が付き、


「いかん、マクエルじゃあるまいに、時間に遅れたら洒落にならん。ではなクリン君、グレイフットの肉は、後で家族と一緒に有難く頂くよ」

「テメェ、トマソン! それはどういう意味だ!? ってまた給料減らされたら洒落にならん! じゃあな、クリンよう! 後で寄らせてもらうぜっ!」

「騒がしい奴らだ……有り難うな、クリン君。私も有難く家で食べさせてもらうよ」


 と、口々に言い慌てた様子で自警団の施設がある方へ向って行った。


「……やれやれ、騒がしいは僕のセリフだと思うんだけど……はぁ、結局一日かけて手に入ったのは皮が二匹分と肉が一匹分かぁ……弓も壊されたし大赤字も良い所だ」


 余計に疲れた、と文句を言いながら鍛冶場の小屋へと帰って行くクリンだったが、その足取りは先程の様な重い物ではなく、軽い物に変わっていたのだった。


 因みに。残った一匹はクリンと死闘(?)を演じた方だったりする。何せ地面に叩き付けて首の骨を折ったので、少し損傷があった為綺麗な方を選んで持っていかれていたのだ。だがそのお陰で言葉通りにクリンは美味しく頂く事が出来そうである。






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 何だかんだでこの3人揃うのはそう無いので結構書いていて楽しかった(笑)

しかし、最近すっかりマクエルはオチ担当になったなぁ……

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