第70話 三代住んでも赤の他人。

或いは「三代まではお客様」と言う言葉が、現代日本でも地方に行けばまだあったりします。

都会に慣れるとこの考えが中々鬱陶しいと思う事もありますよね。


と、公開時間間違えていました……申し訳ありません(;'∀')



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 一通り吐いてもう出る物が無くなり、どうにかこうにか皮まで剥いで解体すると、クリンは水場の溜まった水で軽く洗ってから冷やし、その間に近くの、この辺りに良く生えている大きい葉の植物から数枚葉を千切り、それで解体した肉を包み、壊された弓の弦で皮と一緒に縛ると、背板に乗せて気怠い足取りで村へと戻って行った。


 肉は取れたし、欲しかった皮も取れたし、弓の性能も確認できたので万々歳の筈なのだが、その弓は一発で壊され慣れたと思った解体でも精神的に大ダメージを受け、割と踏んだり蹴ったりな気分であった。


 そして、追い打ちをかける様に——


「うん? ああ、山向こうの子か。森から戻って来たのか? 結構色々持って来たなぁ。なら拾得物から税金ぶんもらうぜ?」


 今回は門番ズではない門番に言われ、幼虫や山菜を差し出したが、


「虫や草は要らん」


 と言われ、肉は税率が高いらしく毛皮と合わせて一匹分丸ごと持っていかれそうになり、拾ってあった薪全てと半身渡す事で何とか折り合いをつけてもらった。


 他の人の場合はそんなに持っていかれていない筈だと思い聞いてみたら、


「子供が解体した物などそんなモンだ。折角の獲物でも雑に扱われたら安くするしかないのは解んだろ? それに、どうやって手に入れたかは知らねえが、手ぶらで二匹もツリーフットを持ってくんのはやり過ぎだ。次から見つけても一匹にしておきな。後、解体も余計だ。子供がやったら折角の肉が台無しだからな」


 要するにこの門番はクリンが何の武器も持っていないので、別の猟師が仕掛けた罠か何かから盗んだか何かしたのだと思った様だ。それに対して税金を高くしただけで何も言わない恩情のつもりらしい。


「いや、出て行く時弓持ってたのアンタ見たやんけ」とも思ったが取り敢えず黙っていた。言うだけ無駄な気がしたからだ。


 それに、未熟な子供が解体したのだから雑だし加食部位も減っているのが当たり前と現物を禄に確認もしないで言われ、まともに対応するのも面倒臭くなっていた。


 確かにマーライオン化はしていたが、HTWでの経験がある少年の解体の手際は、ナイフの性能もあって大人と遜色が無いレベルで解体出来ている筈だ。


 毛皮に残っている肉も殆ど脂身だけで肉は付いていないのは一目みれば分かる筈だが、彼はクリンの容姿しか見ていないで決めた様だった。


「……ああもう、それでいいや。じゃ、税分は治めたから僕は行きますよ」

「おう。気ぃ付けて帰れよ拾い子。二度とやるなとは言わないが、もう少し遠慮しとけよ。少しなら目こぼししてくれても頻繁にやったら怒られるからな」


「……」


 門番ズの三人に比べ、一々言い方が気になったが精神的に疲れていたのでスルーして住処である小屋へ重い足取りで戻る。


 踏んだり蹴ったりとはこの事である。半身を持っていかれたと言ったが、縦に半身では無い。上半身と下半身で半身である。しかも持っていかれたのは下半身の、一番加食部位の多い所である。半身といいつつ実質は三分の二は持っていかれている。


「普通半身つったら縦半分じゃねえの? はぁ……何か疲れた……皮が二匹分丸々残っただけ良しとするかぁ……薪を拾って置いてよかったわ。アレが無かったら取った獲物丸ごと一匹分持っていかれていた事になるからなぁ」


 戻って来るときは結構大荷物だったのに、随分と軽くなった背板を背負い、それとは正反対に重い足取りで背負いつつ、裏門から村のメインストリートを外れてとぼとぼと歩いて行く。弓まで壊されているのだから気も重くなると言う物だ。


「はぁ……まさかこの世界にも『お子様料金』と言う概念があったとは迂闊だった……それも安い方じゃなくて高い方になるとか。それにあのオッサン……最初から盗んだ前提で話進めやがって……それに僕の解体が『余計な事』とは言ってくれるじゃん……」


 あの門番をしていた自警団の男も、悪気はきっと無いのだろう。税を殊更高く吹っ掛けたりピンハネしたりしているつもりもなさそうだった。


 単純に「クリンが子供」と言うだけで、どうせ一人で狩れる訳がないとか、モノマネで余計な事して素材をダメにした、位にしか考えていないのだろう。まぁ、そこに更に「よそ者で拾われ子」と言うのも入っている様な気がするが、何にしてもクリンの技量ではなく年齢でしか判断していない事は明白だった。


「まぁ、子供のやる事だから~って考えるのも解らなくもないけど。実際に五歳だしねぇ。何にしても、良い人で良い村なんだろうけれど……やはり定住求めなくて正解だったようだね。早めにこの村で覚える事覚えて、作る物作って出て行こう、うん」


 改めてそう心に決めつつ歩いていると、見回りをしているらしい門番一号ことトマソンと出くわした。


「やぁクリン君。森へ行った帰りかい? ……にしては何時もより荷物が少ないな。何時もはその背板に山と薪だのなんだの積んで、一つではなく二、三個纏めて持って帰ってきているよな」

「ああ、門……トマソンさん。今日は狩りの方に行ったので荷物は少ないんです。二匹程狩れたんですが弓が壊れてそれ以上狩れないので切り上げて戻って来たんです」


「今門番と言いかけたな……? まぁいい。しかし五歳で弓使って狩りか……無茶をすると言うか逞しいと言うか、まぁ君らしいな」


 トマソンはクリンの言葉を疑わず、やや苦笑い混じりだが納得していた。彼はクリンがこの村に来た時に自力で狩ったらしい毛皮も見ていたし、アレコレと自分で作り出しては使っている事も知っていたので、彼位の年齢でも狩りをして帰って来たと言っても疑っている様子は無かった。


『やっぱり、総じて良い村でいい人達ではあるんだよね、ここの村』


 クリンの事を知っている人間なら素直に信じてくれたし、今日の門番の態度には腹は立つが、よく考えれば子供が単身で森に入って獲物を狩ると言うのは信じ難い事だ。


 他の狩人の獲物を掠めたと考えるのも間違いでは無い。そしてそれを理由に着服しようとしたりせずに、注意して諫めた(門番はそのつもりなのだろう)だけで済ませているのだから、優しいと言えば優しいのだろう。


「あ、そうだ丁度いい。トマソンさんには前にボア肉と脂身貰いましたからね。これ、今日狩れたツリーフットの肉です。お裾分けと言う事でどうぞ」


 そう言って、下半身が切り取られて上半身だけになった分を、更に左右に半分に切り分けた物の片方を森の葉で包んだ物をマクエルに差しだした。


「おお、グレイフットを狩れたのかっ! それは有難く頂こう……って二匹も? それは凄いな。大人でも中々二匹は狩れない……ほう、これは解体も君がやったのかな? 中々上手じゃないか」


 マクエルは受け取った包みを軽く開け、中を見ながら嬉しそうに言う。グレイフットはツリーフットの俗称だ。彼はちゃんと現物を見た上でクリンの腕前を褒めて来たので、少しだけ気が晴れた。


「……うん? これは上半身だけの半身か? いや、グレイフットは足も旨いがこの背中の肉が腰と繋がっている所が旨いのだが……解体の仕方を知らない……訳では無いよな、この手際を見るに……」


 渡された包みの中を見ながら不思議そうに言うマクエルに、クリンは澄ました顔で、


「苦情は同僚の方に仰ってください。税金分の支払いで半身徴収と言って下半分を持って行ったのはそちらなので。いやぁ、左右じゃなくて上下で半身だとは流石に思いませんでした。ですが税は税ですので諦めて下さい」


 そう言うと、トマソンは苦笑いを浮かべた。


「ああ……今日の裏門の当番はアイツか……あのバカ、クリン君を子供だと思って雑にやったな? 全く、仕方のない……」

「まぁ、僕の見た目的に仕方ないと言えば仕方ないので。なので今回のお裾分けはこれで勘弁してください」


「ああ、折角持って来てくれた物に不満は無いよ。ただアイツにはちゃんと言っておかないとな。何せ、折角一番旨い足の肉が二本とも持っていかれて貰えなかったのだからな」


 トマソンはそう言って意地悪く笑って見せる。何だかんだで人の良いトマソンは一番角が立たない方向に話を勧めた事に、クリンも気が付いたがそこは気が付かないふりして軽く愛想笑いを浮かべていた。

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