第69話 マーライオンとは一体誰が考えたのだろうか。



注意: 今話は少しばかりグロいシーンとゲロいシーンがあります。苦手な方は間を開けておきますので、そこまで行ったら読み飛ばして頂いても大丈夫です。


 それでは本編どうぞ。




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 壊れた弓を抱きしめ一頻り嘆いた後、何時までも死闘(笑)を繰り広げた場所に留まるのも良くないと、倒した二匹(ウサギか怪しい上に日本では無いので匹表記)のツリーフットを回収し、矢も回収してから脱いだ草サンダルを履きなおすと背負っていた背板に括り付けて移動する。


 流石に弓が壊された以上狩りを続けることはできないので、取り敢えず血抜きだけでもしようと、森の水場へと向かっていく。


 森には直接川や泉などが無くても、所々自然と水が湧き出す場所があり、クリンが目指したのもそういう場所の一つだ。


 森に頻繁に入る者ならこう言った水場の一つ二つは見つけている物だし、クリンも自分で見つけた場所の他に、門番ズや森に入った事がある村人から幾つかの場所を聞き出している。今回はココから一番近い水場で村民から聞いた場所である。


 森の中の地面が隆起し、抉られる様にひび割れた断面に木の根が張り出しており、その隙間から水が僅かにチョロチョロと漏れ出ていて、窪みの間に小さい水たまりを作っている。


 染み出て来る水量はそこまで多くは無く、水が溜まっている場所も精々が二十センチ位の広さで、溢れた水は少し流れただけで地面に吸われて消えて行っている。


 それも小型の自然動物には十分水場として機能していて、小動物達も時折水を飲みに来ると村民がいっていた。動物も利用する為か、溜まっている水は自然に濾過されて居る様で十分澄んでいた。


「でもまぁ、直接飲む真似はしないんだけどねっ! 前にやって見事に当たったし」


 背板を近くに降ろし、解体の準備をながら渋い顔でクリンはぼやく。前の村の森にも何カ所かこう言う水場を見つけており、何度か飲んだのだがその都度お腹が緩くなったり下ったりした。


 それ以来どんなに綺麗に見えても必ず沸かしてから飲む習慣が身に付いている。


「よく転生物とか転移物で、主人公が綺麗な小川見つけてダイレクトにゴキュゴキュ行っているけど、アレ大丈夫なのかね? 少なくともココでそれやったら一発で天国が見えると思うんだよなぁ」


 前世の小説や漫画では良く出て来る描写であるが、残念ながらクリンが暮らすこの世界はそんなに優しくはない。井戸水ですら一度沸かして飲まないと駄目な位だ。


 そもそもこの辺りでは水は飲む物では無い。だ。飲むのは沸かしたお湯か酒で、井戸で汲んだだけの水は基本洗濯か食器を洗うために使う物で、直接飲む事は稀だ。精々が口を漱ぐ位である。


 なので、実はこの辺りでは子供でも軽く発酵した酒を飲む事がある。ただクリンの年齢では流石に早く、もう少ししてから飲むのが一般的でクリンが飲むのはもっぱら沸かしたお湯かそれを冷ました水である。


 ただそれも飲み過ぎるとやはり下るのだが……


「あれだね、ここらの水は硬水って奴なんだろうね。前世でも西洋圏の大半はそう言う水だって聞くし。だから大航海時代にお茶が輸入できるまでは酒と果実汁しか飲み物無かった、って話聞いた覚えがあるなぁ」


 お茶やコーヒーは今でこそ薬だ嗜好品だと言われるが、身も蓋も無い言い方をしてしまえば、元は単に水が悪いので味や臭いを誤魔化して飲む為の物である。水が旨ければ最初からそんな物を必要としないのは当然の帰結だ。


「でも濾過器を作れば十分飲めそうだよなぁ……余裕出来たら作ってみるか?」


 また新たに作る物を増やすクリンである。ただ優先順位は彼の中では低い様で、当面は作る気は無いらしい。


「どうせすぐに村から出て行くんだしねっ! よし、んじゃ解体しますかっ!」
















 その辺の蔓草を幾つか引っこ抜き、ツリーフットの太い足に括り付けて、近くの木の枝に逆さまに括り付けて首の辺りにナイフで切れ込みを入れる。尻尾も切り落としておく。先ずは血抜きの作業である。ウサギは尻尾も落としておく方が血が抜けやすいと言われているので、その通りにしてみた。ウサギかどうかは怪しいが。


 血が落ちる場所には予め穴を掘って置き、そこに溜めて後で埋める予定である。内臓もその穴に一緒に埋める予定だ。


 この作業には血が落ち切るのに少し時間が掛かるのでその間に落ち枝を拾って薪にする。今回は獲物が二匹いるのでそんなに量は集めていない。


 先に集めた虫と山菜もある。


 背板にある程度積み上がった所で、ツリーフットの血抜きも大体終わった様子だ。解体は村に戻ってからやってもいいのだが、内臓とかの処理もあるし匂いが意外と気になるのでこの場で解体も済ませておく事にする。


 吊るしたままの方が解体がしやすい感じだったので、そのまま解体に入る。ツリーフットの解体は初めてだが、前の村を出てから何度か狩りをして解体していて、その中にはウサギも居たので構造は大体同じはずだとクリンは挑戦する事にした。


「うん、吊るした時にも思ったけど、やはり足が伸びると結構デカいよね。見た目は三十センチ強って所だったのに全部伸ばしたら六十センチ超えてるんじゃね? 七十センチはあるよな、コレ」


 生きていた時は中型サイズのウサギと同種だとおもっていたが、こうやって見れば筋肉が異常に発達していて、関節が伸びたらかなり大きく見える。足の太さもヘタしたら子供のクリンと同じ位の太さがある。それは木を蹴って跳べるし骨もへし折れると言う物だ。


 クリンは意を決すると肛門の方から慎重にナイフを入れて、腹を裂いて内臓を傷つけない様に取り出し始めた。


 この手の作業は村を出てから何度も行ってきたので、流石にもう手慣れた物で、最初の頃の様に吐き気を覚えるような事は無かった————




 なんて事は無く。






「オロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロッ!」


 内臓を取り出し毛皮を剥ぎ始めた辺りで盛大に戻していた。某世界の果てに行く系のテレビならマーライオンと評される、見事な戻しっぷりだ。


 生ぬるい現代子が数回解体しただけで慣れる訳が無い。しかも、今回は狩ってから十五分も経っていない鮮度抜群獲りたてホヤホヤである。


 更には、今回は粗悪品の打ち直しとは言え、ご自慢の再鍛錬ナイフである。名品には劣る物の中々の切れ味を誇っている。


 そんな鋭利なナイフで狩った直後で血を抜いたばかりの動物を捌いたらどうなるか。


「ウップ……ま、まだ内臓がピクピク……筋肉がビックんビックん動く……それに合わせて血だの内臓だのもデロンっと……オロロロロロロロロロロロロロロロロッ!」


 既に生きていなくても、細胞はまだ生きていたりする事は良くある事。それを切れ味の良い刃物で捌いたら、反応して動く事は良くある事だった。


 これまでは切れ味の悪いナイフで解体できる場所に移動するまでに時間があったのでこのような反応を目にしていなかった。


 鮮度が良すぎても道具の性能が良すぎても調子に乗り過ぎても問題はあると言う物。慣れたつもりで鼻歌交じりに解体したら、病院育ちの現代っ子にはSAN値直撃でゴリゴリ削られると言う物。耐えられる訳が無い。


 こうして、クリンは異世界に恐らく初であろうマーライオンを登場させ、暫くの間のたうち回るのであった。




「ウップス……僕、最近こんなんばっかりじゃね!?って……ウボボボボボボボッ」






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狩りパートも今回で終わりです。

生水を避けたのに結局戻す運命にあるクリン君でした……


しかし、マジで生水を直接飲むのは止めた方が良いです。小説や漫画の真似して石清水ゴキュゴキュのんでいる人とか見たら「正気かコイツ!」って毎回思います。ハイ。


毎日人が利用している様な所で、ちゃんと管理されている所なら兎も角、その辺の山んなかの岩から出て来る水はマジで沸かしてから飲む事をお勧めします。

 

ワシ、何度当たった事か……




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