第68話 レッツ、カンフー!?

いいよね、MONKEY MAJIK。ファンって程では無いですが結構好き。

それは兎も角。飯テロ(?)に続いて本作では珍しい狩り(?)回です。



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 狩りを再開させたクリンだったが、獲物は中々見つからなかった。リスや野ネズミの様な生物は見かけたのだが、前の村でなら狙っていただろうが今はこの弓を使ってまで獲ろうと思うほどの魅力はなかった。


「あの頃は食えるなら何でもよかったからなぁ。それに、アレを捕まえるなら弓じゃなくて罠の方が効率がよさそうだし……それにリス肉は前世では旨いって聞いたし」


 しっかりと喰う気では在ったらしい。ただ今回はもう一回り大きい獲物が欲しい、と森の中をさらに進む。


「……お?」


 と、前の村で培った気配察知の能力に何か引っかかる。慎重に周囲を伺い、音を立てない様に移動しながら探していると、四十メートル程先にウサギの様な生き物がいるのを見つけた。三十センチ位の大きさで見た目はウサギに似ており、足が発達していてその背中の毛が灰色に見える動物だった。


「……おお、ツリーフット! まだ食べた事無いけど旨いらしいんだよね、アレ!」


 魔石を持たないので動物にあたり、ウサギと鶏の中間の様な生物だとされている。何故そんな扱いになっているかと言えば、発達した足を使って地面を飛ぶように移動し、森の幹を蹴って空中を跳躍して移動するので鳥の様にも見えるかららしい。


 この辺りに広く生息し、その毛色からグレイフットとも呼ばれていて、前の森にも居たらしいがクリンはまだ獲った事が無い。


「う~ん……どうしようかな……距離があるし狙ってみるかな?」


 クリンが躊躇するのは、このツリーフットは一発で仕留められないと反撃して来る事が多いと聞いていた為だ。木の間を跳び回れる程の脚力を持つ足で空中から蹴りつけて来るらしい。


 首の骨も軽くへし折る威力があるらしく、時々猟師が反撃を食らって骨折したり、当たり所が悪くて即死したなんて話も聞いた事がある位だ。


「つうか、この世界の動物は総じてアグレッシブ過ぎじゃね? さっきのリスとかネズミも捉え損ねたら普通に攻撃してくるし」


 クリンは今の所、この世界で小動物を捕まえて食べようとして、そのまま逃げられたと言う場面に出会った事が無い。大体反撃してくる。


 噛みついて来たり体当たりしてきたり、中にはやたらと染みるオシッコをかけてきたり汚物を飛ばしてきたりし、怯んでいる隙に逃げる。何もしないで一目散に逃げる例は今の所であったことが無い。


 鳥位か。いや、奴らも逃げる時にフンを引っ掛けてきたりする。総じて攻撃的な生物しかいないのがクリンにとってのこの世界の動物だ。


 折角弓を新調したのだし、旨いと聞いてはこのまま逃すのも惜しい。新しい弓ならば十分届く距離だと腹を据えてツリーフットを狙う事にする。


 今度の弓は前回の二重反発構造の弓と違いスタンダードなリカーブボウモデルである。材質からして弓に向いた物を使用しており、大きさも一回り以上大きいので単弓でも威力はコチラの方が出る。


 その代わり張力が強すぎて今のクリンでは片手で完全に引き切る程の筋力は無い。二十メートル以下の距離なら仕留められる威力は出せるがこの距離はちょっと厳しい。


 ならばどうするか。片手で引けないなら両手を使えばいい。


 クリンは九十センチある弦を張った弓を、地面に軽く突き立てる様にして構えると自作の草サンダルを脱ぎ足の親指と人差し指で挟んで固定する。


 片足立ちで立つ形になるが日頃の森歩きに足場の悪い畑などでの作業でバランス感覚はバッチリ鍛えられている。足を微調整して狙いを付けると、石の鏃矢をつがえ両手で弦を引く。同時に弓を挟んだ足を延ばせば、少年の筋力と足の長さで九十センチの弓でも四十五度の角度まで弦を引く事が出来た。


 四十メートルの距離ならこの角度まで引ければ十分な威力が出せる筈。そう思い慎重に狙いを付けて行く。


 以前の生活で鍛えられた気配遮断は十分効果を出しているようだ。奇妙な態勢で弓を構える少年に気が付かず、ツリーフットは呑気に下草を食んでいる。


 呼吸を止め、一気に両手を放す。タイミングがズレたら真直ぐに飛ばなくなるので緊張の一瞬だ。果たして——


 矢は重たい唸りを上げて一直線に飛んでツリーフットの首辺りに突き刺さった。矢を放った瞬間、弦が足に当たるのを嫌って、挟んだ足の指を緩めたので、矢を放った衝撃で弓も地面に転がってしまったために、刺さった瞬間自体はクリンは見逃していたが、短い悲鳴の様な鳴き声を上げたので、確実に仕留められた実感はあった。


「ふぅ……一応この撃ち方は何度も練習したけど、やっぱりぶっつけ本番だと緊張するなぁ。ちゃんと当たってよかった……」


 はじけ飛んで転がった弓を拾いつつ、安堵の声を上げる。だがその時、以前の村で村長や悪ガキの襲撃で鍛えられた危険察知能力に反応する物を感じ、咄嗟にその場で頭を下げてしゃがみ込む。


 ブオンッ! と風を巻く音と共に頭上を何かが通り過ぎて行く。


「うわっ!? な、なんだ一体!?」


 慌てて通り過ぎて行った方向に目を向けると、ダンッ! と音を立てて立木を蹴りながら上に跳躍していく灰色のモコフワボディが一瞬目に映る。


「ツリーフット!? 仕留めた筈じゃぁ……ま、まさか近くにもう一体居たのか!?」


 気配察知能力や危機察知能力がスキル化されていたとしても、恐らくまだ一レベルとか良くても二レベルだろう。まだ「何となく」のレベルを超えないクリンでは、獲物の数を気配だけで察知するまでには到底及んでいない。


「くぅ……スキルを過信し過ぎたかな? と言う程自覚は無い筈なんだけどなぁ。しかし、仲間がやられたら逃げるのが小動物なのに、向かってくるとか殺意マシマシでしょ!」


 仲間の仇とでも言う様に、もう一体のツリーフットはその名前の通りに足で木を蹴り付け、木々の間を跳び回る様にクリンの頭上を跳ね回る。と、狙いを定めた様に、


「ダンッ!」

「うおぅ!?」


 一気に急降下してきてまるで踵落としの様に発達した足を振り下ろし、慌てて避けたクリンの体を掠めて激しい炸裂音を立てた。


 モコフワなのに俊敏な動きのツリーフットはその場で跳躍し、体を横に回転させながら太い足で蹴りを放ってくる。


「ちょっ!? 何でウサギモドキが回転後ろ回し蹴りしてくんのっ!?」


 咄嗟に手にした弓でその蹴りを受ける。ミシッと軋む音がして弓が大きくしなり、反動で大きく弾き飛ばされる。


「重っっっ! ちょっと、三十センチ位の体型で出せる威力じゃないでしょコレ!?」


 跳ね飛ばされて転びそうになるのを何とか堪え、クリンは戦慄しつつも怒鳴る。まだ五歳の体というのもあるが、それでも一メートルを何とか超えた程度とは言えこの体格差のある人間を蹴り飛ばせるのは脅威である。


 ツリーフットは驚愕している少年を他所に、更にその場から跳躍すると両足でクリン目掛けて連続で飛び蹴りを放つ。


「うぉぉぉぉぉっ! これじゃツリーフットじゃなくてカンフーフットでしょっ!」


 連続で放たれる蹴りを弓で受ける度にミシッ、ミシッと言う音が弓から聞こえ、クリンは背中に嫌な汗が流れて来るのを自覚する。


 弓で防がれてもお構いなしに蹴り続けたモコフワウサギモドキはいったん距離を取ると、再び「ダンッ!」と地面を蹴り付けると飛び上がり、木々の間を跳ね回って上に上がって行った。


 その際、何故だか風にたなびくウサギっぽい耳が、クイックイと動いてまるで手招きしている様にクリンには見えた。


「いや、まんまカンフーやんけ! てかいきなり格闘漫画感バリバリのアクションとか、この世界厳し過ぎね!? あんまり戦闘得意じゃないし、この体でウォリアー系の修行なんてしていないよ!?」


 まさかただの動物がこんな反撃と攻撃してくるとは思っておらず、困惑しているクリンを他所に、ツリーフットはまるであざ笑うかの様に頭上の木々の間を跳び回っている。


 クリンはまだ気が付いていないが、この世界には人間以外にも彼らの脅威となる魔物が存在しているため、自衛方向に進化している動物が非常に多い世界だった。


 クリンが先に見たリスや野ネズミすら襲われたら何らかの反撃手段を持って返り討ちにしようとして来たりする。ツリーフットはまだ穏当な方だった。


 だがそれでも今のクリン君には十分以上に脅威である。当たり所が悪ければ、確かに即死しかねない蹴りを放ってくるウサギモドキに、彼は十分ビビっていた。


 しかし、少年の頭上を陣取って跳び回る姿を見れば、逃げても追いつかれるだろう事は十分理解出来た。


「にゃろう……ただで食われる気は無いってか。上等だっ! 美味しく頂いてやるからかかって来いやぁっ!」


 半分以上やけっぱちになり、クリンが怒鳴るとそれを合図にしたかのように、ツリーフットが再び少年の頭を目掛けて急降下して来た。


「それはさっき見たっ! いくら戦闘苦手でも同じ攻撃されたら対応できるもんねっ!」


 高高度急降下による踵落とし(?)をクリンは弓で受け止め——


 蓄積された衝撃にとうとう耐え切れず、弓はツリーフットの足が当たった所から「ベキッ!」と音を立てて真っ二つに折れてしまう。


「んんんのぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」


 真ん中から折れた弓を手に驚愕の声を上げるクリン。そして、それを見たツリーフットがニヤリと笑った気がした。ウサギの表情など分からないがそんな気がした。


「何さらしてくれんじゃこのウサ公! 作ってまだ一回しか使ってないんだぞぉ!? どれだけ苦労して作ったと思ってんだコラ! お前は門番二号ウサギかっ!?」


 瞬間的に沸騰したクリンは、弓をへし折りつつも防がれて距離を取ろうとしたツリーフットに、折られた弓の弦を素早く首に巻き付け、勢いよく絞めながら地面に叩き付けた。


 「ギィッ!」と言う鳴き声と、ボキッと言う骨が折れる音がして、ツリーフットはほぼ即死状態であったが、クリンは動かなくなったモコフワウサギモドキには目もくれず、


「ああああああああああ折角作ったのにぃ! 一回で壊されたぁぁぁぁっ! 足で撃つあの技身に付けるのにも苦労したのにぃぃぃぃぃっ!」


 と、既に弓としての用をなさなくなった残骸を手に、盛大に嘆いていたのであった。





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クリンが狩る方だとは書いた覚えが無い!( ̄д ̄)

まぁ結果的に狩る方に成れたけれども。自分で書いてアレだけどウサギ強すぎじゃね?


そして、何気にこの作品では本格的な戦闘シーンはコレが初めてでは無かろうか。

初の命のやり取りがウサギモドキって……まぁウチの作品らしいか!

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