第67話 一狩り行こうぜ!
久しぶりの飯テロ回です。……飯テロか?
まぁ……この世界でしかもクリンが食べる物ですからね。当然また虫喰います。そういう描写がお嫌いな方はお気をつけくださいませm(__)m
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それはそれとして、完成した手織り機で早速布の作成に入る。床に直置きだと作業がし難かったので、壁板の凸凹を利用して木楔をはめ込みそこに引っ掛けて僅かに斜めにして使う事にした。
縦糸を杭に引っ掛けて行くのが少々手間だったが、それが終われば杼を通して本格的に布織りに入る。カンカンと横糸を積めつつ折って行けば、思っていたよりもスムーズに編み込みが出来ていた。
「っしゃっ! これでアレコレ作れる! この糸の減り方なら手袋の他に僕サイズの服なら四、五着分は取れそうだな……褌も二枚は取れそうだっ!」
先ず真っ先に鍛冶用装備に使う手袋が出て来る辺り、やはり制作狂いの気質を持ち合わせている。そして褌を作るのはやはり確定事項であった。
こうしてとうとう布織りに入れたクリンであったが、倍速スキルを使っても織るのに結構な時間がかかる。大人でちゃんとした機織り機を使って一日一反(約十三メートル)が良い所だと言われている。クリンの現在の体格とこの雑な織り機では到底無理である。
それに一日中織っていられる訳でもない。日中に仕事をしなければいけないし薪拾いやその他の作業も並行して行わないとならない。
暫くの間は朝起きて直ぐから朝食まで、夕食後に日が落ち竈の火でも見えにくくなるまでの間に布織り作業をし、それ以外の時間はこれまで通りに仕事やその他の作業に当てる事にする。何気に少年のスケジュールはパツパツになっていた。
そして、その作業の間にも色々とイベントは目白押しである。弓は完成した物の、矢は以前のままの大雑把な物であり弓の強度に耐えられなくなったので作り直す必要があり、廃材から矢軸を削り出し、門番ズに頼んで狩りで鳥が取れた時に羽を何枚か貰い矢羽根に加工する。鏃だけは以前のままの石の鏃だ。
鉄の鏃が欲しい所だが、材料も鍛冶場もあるのだが耐熱用の衣類が出来るまではこれ以上鍛冶作業をするのが憚られたので、鏃を作れる様になるまではこのままだ。
農作業の方は相変わらず草取りが主で、時々害虫避けや害虫駆除の作業が入る様になった。ただ、この辺になるとあまりクリンのやる事が無いので、この作業の時は少し時間的に余裕ができる。
その時間を使って完成した弓と矢を持って森に入る。以前の村の森よりは豊かな森であるようだが、村の連中もこの村で狩りをするので、クリンが入り込める範囲だと獲物はそんなに多くは無い。
「まぁボウズだったら背板作って薪持って帰ればいいだけだし。狩れたら御の字位で気楽に行きましょーかねぇ」
と、狩りがダメでも収穫物を取れる見込みのある者の余裕で、ノンビリと森の中を分け入って行く。獲物を探す途中、
「おっ、この蔓は芋の蔓じゃん!」
とか、
「……おっ? あの木の若芽は結構旨いんだよな!」
とか、
「ん? あの朽木……何かフカフカした感じだな。ああいうのには大抵……やっぱ居た、何かの虫の幼虫! うんまいんだよなコイツ!」
などと、以前の習慣でついつい食べられそうな物を見つけては採取してしまう。結局背板を作り、それらの収穫物を乗せて運んで歩く。
今日はクリンが出来そうな作業が無かったので朝から森に入っている。既に日が高く昇っていて昼に差し掛かる頃合だが、寄り道ばかりしているせいか未だに弓は未使用のままである。食べられる物はどんどん集まっているが。
「う~ん、前世だとお昼食べている時間だよなぁ……朝から歩きっぱなしでお腹減ったし……辺りに他の人の気配も感じないし……タマにはお昼タイムにしますかっ!」
普段は一日二食なのだが、別にお腹が空かない訳では無い。以前の村でも森に入った時は時々こうやって昼飯代わりに森で手に入れた物を食べている。
そうと決まれば行動は早い。木々の間で少し開けた場所を見つけ、その付近に落ちている太目の枝を拾うと、柔らかそうな場所を探り当ててその枝で穴を掘っていく。
深く掘る必要はない。取り敢えず窪んで火が簡単に燃え移らなければそれでいいのだ。そうして出来た穴の回りに、適当な大きさの石を拾い集めて穴を囲うように並べる。
その穴に適当に落ち葉や枯れ枝を放り込み、何時もの様に枯れ枝に切れ込みを入れて擦り付ける。物の数分で煙が立ち落ち葉に燃え移って火が熾る。すっかり手熾しはお手の物である。
「失敗したなぁ。こんな事なら鉄鍋も持ってくるんだったなぁ」
ボヤキながらもその辺の茂みから大き目の葉を見つけて引っこ抜き、その葉に虫の幼虫や蔓芋を適当な長さにへし折った物を乗せて葉で包み込む。
食べられない部分である蔓で葉っぱを縛るとそのまま火の中に直接入れて上にも燃えている枝を被せて行く。
基本、森で拾ったものは生では食べない。精々葉っぱや果実を齧る位だ。洗う水が無いし、何よりも一度虫を生で食べて見事に当たった。
あの時は三日位ゲーゲーと吐いた覚えがある。当然だがそれは前の村の話で、そんな状態でも少年の仕事が無くなる事は無く、割と地獄を見たのであった。
以来森で取った物は必ず加熱して食べる様にしている。そうしてからは当たった事は一度も無い。まぁ、森で拾った物以外でも、この世界に来てから生で物を食べようとは全く思わなくなっているのだが。何度か当たっているので。
そんな事を思い出しつつ、火の番をしていると香ばしい匂いがしてくる。
「お、焼けたかなぁ~どれどれ」
ウキウキとした口調で独り言をいい、落ち枝で簡易竈を掻き回して先程の包んだ葉っぱを掘り出す。
葉っぱは真っ黒に焦げているが、何重かに包んでいるので、蔓紐をナイフで切って葉っぱを開けば、中の虫と芋は丁度良い感じに蒸し焼きになっている。
尚、木の若芽や山菜などには今は手を付けない。アレも旨いのだが、山菜の類いは灰汁抜きをちゃんとしないとゲ〇不味いのだ。持って帰って処理する予定である。
「うんうん、良い感じ。やっぱこの時期はこの芋と虫の幼虫はテッパンの組み合わせだよね。それじゃ、いっただきま~す」
軽く手を合わせて言うと、クリンはいそいそと幼虫を摘まんで口に放り込む。
「う~ん旨い! ……そう言えば、最近は食べていなかったな、この虫と芋。前みたいに森に毎日入らなくなったし、麦粥も食える様になっちゃったしなぁ」
蔓芋を齧りつつ、ふとそんな事を思う。以前は毎日の様に薪拾いに森に行かされていたので、虫の幼虫や芋が生えるシーズンは頻繁に食べていた。
まともに食事を与えられていなかった彼には、この手の物は貴重な栄養源であり、生き延びる事が出来ている一助だ。
「麦粥の方が旨いけれど、考えてみたら動物性たんぱく質がどう考えても不足しているよね。またしばらくは森で虫を探して食べようかなぁ」
などとホクホク顔で食べているのだが——彼は自分が一体何の目的で森に入ったのがすっかりと忘れた様である。
「ハッ!? 違ぇよっ! 動物狩りに来たんだろ僕! 普通に肉食えよ、何で虫で満足しているんだよっ!」
当初の予定を思い出し、思わずセルフ突っ込みをしてしまう。虫の幼虫は確かに旨い。だが現代人の矜持としては肉の方が優先度は高い筈。
そう思い、サッサと虫と芋を食べ掘った土を掛けて火の始末をするとクリンは狩りを再開させたのであった。
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