第66話 機織り機を旗を作る為の機械だと思っていたのは自分だけでは無い筈。

 まだ完全に復調していないので、今回も少々短めです。

と言うか早く話進めたいのに作る物が多すぎる(笑)



======================================




 皮だけ剥いで使わなかった太い枝の一つに、自作墨壺で線を当てる。枝の端に釘を突きさして墨壺ごと糸を引っ張って検討を付けたらピンと糸を弾いて枝に叩きつけるようにする。ただこれだけだが、綺麗な一直線が引けている。


「むっふ~! 車輪の動きも滑らかだし、色が薄いけれども特に滲まない。我ながらよくできているじゃないかっ! やっぱオールフリーハンドも良いけど、文明の利器があると段違いだよなぁ!」


 クルクルと枝を回しつつピンピンと数か所に線を当てる(直線を引くの意味。大工の符丁の一種)と、クリンは満足そうに自画自賛する。褒めてくれる人が居ないなら自分で褒めてしまおう、が少年のポリシーである。


 当てた線に沿って、ナイフでゴリゴリと削り角材の形にしていく。本当はノコギリや鉋などの道具があればもっと楽なのだが、流石に鍛冶場にはそんな物は無い。


 木工所に行けばあるだろうが、流石に貸してくれるとは思えない。何れ作る予定ではいるが、今は作りたくても材業も耐熱装備も無い。無い物を欲しても意味が無いのである物だけで何とかするしかない。そして出来るだけの技量とそれを許す肉体が少年には有る。


「ああ、この体は本当にいいなぁ……HTWの時と全く同じ様に動くし。前世の体だったら流石にこんな器用じゃなかったからなぁ」


 太い木をナイフで削りながらしみじみと思う。前世の身体も、病状が悪化するまではありとあらゆるスポーツを一通り熟せたので、身体能力はかなり高かったのだと思う。


 物覚えも良く、入院中に一度勉強した事はそう簡単には忘れない。総じて優秀な体であったとは思うが、流石に、剣鉈でもないただのナイフ一本でこんな太い木を正確に角材に削り出せる程の器用さは持ち合わせてはいない。


 そして、幾ら記憶力や学習能力が高いとは言え、ゲームデーターを丸ごと暗記できる程の頭脳は無かった。精々教科書の丸暗記が良い所である。


 つくづく、今の環境で生き抜いてこれたのはこの体の器用さと記憶力があっての事だと思う。改めてセルヴァンに感謝をする所である。言いたい事は山とあるが。


 ただ、実の所本人が気が付いていないだけで前世の彼の身体も病気を発症した事を除けば殆ど遜色は無かったりする。


 十一歳であらゆるスポーツに手を出し始め、十三歳までで一通りこなせるようになっていたり、そこから人生を終えるまでに詰め込み学習をしまくって蓄えた知識を今でもそのまま記憶している。アーカイブで記憶が補完されているのはあくまでもゲーム内の知識だけである。衛文もりふみとして記憶した事は自力で記憶している。


 病気で体が動かなくなってからクラフト系ゲームにハマった為に気が付いていないが、もし現実世界でDIYに手を出していたら、最終的には同じ水準の器用さを発揮できていたであろう。


 教科書丸暗記できたり、数年で一通りのスポーツが熟せたり、医療機器やゲームの開発協力なんて出来ている時点で、実は相当ハイスペックな前世の身体だったのだが、悲しい事に病気入院していた事で、その事実に全く気が付いていないクリンであった。




 そんなクリンにより同じ太さに加工された角材は、切れ込みを入れてかみ合う様に加工して組み合わせる。この辺の技術はHTWで宮大工のマスターから習得済みである。


 組み上がった部分はそのままでは直ぐに外れてしまうので、角材に加工する時に出た木端で楔を作り、槌で打ち込んで固定した。


 釘を一切使わずに木だけで組み上げる工法は、道具の少ない今のクリンにとっては必須と言える技術になっている。


 僅か五歳の身体で日本が誇る伝統技能を、簡単な物からとは言え使いこなせている時点で割と異常なのだが残念ながらここには突っ込んでくれる者は居なかった。

 

 外枠が完成したら糸を張る為の歯を付ける作業である。これは古釘を枝に括り付けた即席の錐を作り墨壺で印を付けた部分に穴を開け、そこに木端を削って小さい杭にした物を槌で打ち込んでいくだけである。


 綜絖と筬の溝も位置は墨壷で出し、ナイフで地道に切り出していく。この作業にはやはりノコギリの方が楽なのだがない物は仕方がない。少々時間が掛かったが溝が掘れて竿としても何とか使える様になった。


 これが簡単に出来ているのも墨壺で均等な位置に中心を出す事が出来たお陰である。割と使い道の多い工具で、コレを先に作る辺りクラフト作業に慣れている証左とも言える。




「よぉし、出来たっ! んだけど……今更だけどこんなので大丈夫だったかなぁ? 流石に構造は知っていてもこんな大雑把な手織り機は使った事無いからなぁ。 ミスターのモデルだとちょっと使いにくかったから急遽通販のデザインに変更したけど……機織り機ならHTWでも作らされるし使わされるから出来るけど」


 クリンが作った手織り機は横の長さが五十センチ程、縦が八十センチ程度の大きさの木枠の形をした簡易的な物で、通販で見た卓上手織り機と言う物をそのまま少しサイズアップさせた感じの物だった。


 まぁ、モデルにしたとは言え現代工業製品と原始的な道具による手作りとではクオリティーが全然違うので似ても似つかない形になってはいるが。


 今回の手織り機は完全にトーマス・クルーズが作った物の模倣ではなく、通販番組の卓上手織り機のデザインを取り入れて、半オリジナルの形になっている。


 この形になったのには理由がある。配信ニキの物をそのまま作ると構造は単純なのだが大きく、また構造的に建物の壁を利用する作りだった事に気が付き、機構だけお手本にしてデザイン自体は通販番組で紹介された、木枠型の物に変更していた。


 この小屋は何れ引き渡さなければならないので、勝手に改造できなかったと言うのと、何よりも少年の身長的にトーマス式だと大きすぎて背が届かなくなる可能性があった為だったりする。


 卓上サイズのこの大きさがギリギリで、少年の身体のサイズ的にこれ以上の大きさの物は扱いきれず、このサイズで布を作って糸で何枚か縫い付けて大きいサイズの布を作る方が現実的だと考えた為である。


 その代わり単純な構造であるにも関わらず、クリンでも扱った事の無い形になってしまっている。


「まぁでも、構造的には確かに必要な物は揃ってるから作れる筈なんだよねぇ。あ、でもまだ杼がなかったか」


 杼は木枠の上下の杭に通した縦糸に、横糸を通す為の道具でコレも重要な部品というか道具である。


 適当な大きさの枝を削り、今回はスパナに近い形の物に削り出す。通販で付いていた杼がその形だったのでそれを再現する方が良いと思った所以である。


「しかし……マジで謎だよなぁ、あの通販番組……本当にこんな物購入した人いたのかなぁ? どう考えてももっと精巧な物の方が売れるだろうに」





 そこは本気で謎である。







======================================



もうさ、機織り機の部品の名前って何でこんな複雑で字が簡単に出てこない物ばかりなんだろうねっ!


読み方は解っているのに字が分からなくて辞書引きまくって時間取られまくりですよ!


誰だよ機織り機を自作してその工程を書こうとしたバ〇は!面倒でしゃーない!

……はい、私ですね……自業自得ですサーセン。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る