第65話 タコ墨料理が無いのはイカ墨よりも加工が面倒な上に旨くないからであるらしい。
申し訳ありません、諸事情により、今回は少し短めとなっております。
事情については後程書きますので、先ずは本編をお楽しみください。今回は意外に人気がある「アイツ」がまた出てきます(笑)
======================================
糸が出来た事で、クリンはようやく布作りに入れる。のだが、ここでもまたその前に必要になる道具を作り始めた。
「って、言うと普通は機織り機から考えるんだろうけど、無い無い尽くしの僕にはそういう贅沢は許されないんだな、これが!」
半分自嘲を込めてぼやく。一足飛びに目的の物を作り出せず「道具を作る為の道具が必要」と言う悪循環で、ここでもクリンは機織り機を作る為の細々とした道具を作るハメになっていた。
まぁ、それすらもクラフト作業であるので少年は実に楽しそうであったのだが。まぁ作ると言っても、これも実は既にその道具を作る為の部品は前もって出来ていている。
それを多少加工して組み合わせるだけだったので直ぐに完成する。
レンガと一緒に作った葉っぱ型の皿に、糸依り機の時に使わなかった方の掌に乗る大きさの車輪の様なパーツ。葉っぱ型の皿にはこの車輪を乗せる構造も付いていて、枝で作った軸を差しこんで車輪と葉っぱ型の皿を組み合わせるだけだ。
車輪には蔓紐で作った細い糸を巻き付け、葉っぱ型の皿の尖った部分の少し下に穴があけられていて、そこに糸を通し端を前の村から持ってきた釘に結び付ければ、それで完成である。
「てれれてってれ~、日本の大工さん御用達、素焼きの墨ツボだぁ~~~~~っ!」
古代エジプトで生まれ、中国で完成し、西暦六百年代には日本に伝来し、以降現代でも建築現場で使われている由緒正しい工具。それが墨壺である。
建築だけでなく木工作業にも頻繁に使われる、直線を出す為の道具だ。現代日本でこそ様々な材質により正確な直線が引ける定規は多々あるが、古い時代では直線を出すと言うのはなかなか難しい物だった。
定規に使う材質次第では熱や湿気で歪む。鉄でもそれは例外では無い。なので正確な直線を引くと言うのは、精密な作業を行う物にとっては必須であり難題でもあった。
そんな中生まれたこの墨壺は、糸を使いピンと張らせる事で正確に、そして簡単に直線が出せる画期的な道具であった。
現代でも糸の質が上がり、下手な定規よりも正確な直線が糸の長さの許す限り引けるので、大工連中には現役で好んで使われている。
また、余談ではあるが古くから大工と言う、木工が得意な人間が使う道具であるので、その連中が自作で作って来た道具でもある。
従って、無駄に高い技術を惜しみなくこの墨壺に注ぎ込み、美術工芸品としての価値を持つ墨壺も存在し、古い時代のそれらを好んで集めるコレクターも現代日本には居る。
クリンが作った墨壺は、流石にそんな手の込んだ真似はしていないただの素焼きの墨壺だ。工具が無いので細工したくてもできなかったのだ。何れ宮大工達が作った様な細かい細工が施された、美しい墨壺を作ってやろうと野望を燃やしている。
——閑話休題——
今回クリンが態々墨壺を作ったのは別にいきなり大工作業をする為では無い。まともな製図用の道具が無い為、正確な線を引くのに必要に駆られて作っただけである。
クリンがこれから作ろうとしているのは、とても簡素な手織り用の機織り機であるが、布を織る以上は正確に糸を並べられなければ上手く作れない。
その為には正確に一直線になる様に糸を引っ掛ける歯が必要になる。しかし、ここは鍛冶場である。それもほぼ鋳造しかしていない工房である。
当て金と呼ばれる、大体の寸法を出したり角度を見る道具はココにもあるが、基本そう言うのは金属で据え置いて使う用に作られていて重い。大雑把にしか計れないし、直線は数センチ程度しか分からない。
定規があればいいのだが、鍛冶場には殆ど必要のない道具であり、更には技術水準が中世レベルのこの世界の定規にそこまで精度があるとは思えない。
そこで、今のクリンでも正確な直線を計れる道具としてこの墨壺は重要なのだ。
「まぁ、何れどこかで定規は必要になるから何れ作るけど、今は正確な寸法よりも正確な直線の方が重要だからねぇ」
言いながら、クリンは墨壷の準備をする。本当は綿やガーゼの様な物が良いのだが、無いので今回は残しておいた木の繊維を解した物を軽く丸めた物を葉っぱ型の皿に詰め、その上に墨、も無いので、今回は木炭をすり潰して粉にした物をお湯で練り、ライ麦粥の汁を混ぜて少々のトロミを付ける。
本来の墨汁には大分劣るが、あくまでも目安としての線さえ引ければそれで良いと今回は割り切り、これで代用する事にした。
今回クリンが作る機織り機は、機とは言っているが取っても簡素な造りだ。長方形に組んだ木枠に上下の木枠に歯となる杭を何本も取り付けただけの、とてもシンプルな物にする予定だ。
勿論、アーカイブの中には手織りでももっとちゃんとした機織り機の図面が記憶されているのだが、コレを作るとなると本格的な工具が必要になるし、何よりも作るのにかなりの時間が掛かる。
木の加工だけで半月以上かかり成形と組み立てを考えたら数カ月はかかりそうだ。元より後数カ月でこの村から出て行く予定なのでそんな物を作れる訳もない。
クリンが知る中で一番簡素な手織り機がコレだった。とは言え、当然こんな物の設計図などHTWのアーカイブの中には無い。
ではどこで知ったのかと言えば。皆さんご存じ、サバイバル系動画配信者の
動画内でトーマスは手製ナイフ一本でこの手織り機を作り出し、自作した布で服を作ってフルモンティから卒業している。
ただ、ミスターは墨壷の存在を知らなかったのか作れなかったのか、目見当で作ったので、結構歪な形の機織り機になっていて、出来上がった布もいびつで完成度も少々低かった。その事はトーマスも不満だったのか、後の動画で改めてもっと完成度の高い機織り機を自作して新しく服を作っていた。
「マジでアンタ最高だよっ! 前世ではただのフル〇ン野郎で、体が動かなくなる病気の僕が見て何の役に立つんだと途中で切っちゃったけどさ。転生した後の今になったら参考になる所の騒ぎじゃないねっ! 何が役立つかなんて本当分かんないよねぇ、サンキューMr.トーマス! でもパンツは最初から履いといて欲しかった!」
クリンが感謝の声を上げていると、例によって厳つい白人ニキの幻影が空のかなたに見えた気がした。今回は何やら『誤解だ!』的な事を言っているようだったが、少年にはどうでも良かったのか既に意識の外になっていた。
======================================
お読みいただきありがとうございました。
実は本日、急激に体調不良に陥り書いている途中でダウンしてしまいました。あ、なんかヤバい病気ではなく、トイレとお友達になって離れなくなる系の体調不良です(笑)
ただ、頭がぼーっとして目も霞んで思考も鈍いので、ちょっと今日明日は文字を書くのは無理かと思われます。コレもKIAIでトイレと行き来して書いています(笑)
と言う訳で、申し訳ありませんが本日分は短く、また明日もこの調子では書き上げるのが無理なのでお休みとさせていただきます。場合によっては明後日も休むかもしれません。
申し訳ありませんがご理解の程お願いしますm(__)m
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます