第64話 それは、チートと呼ぶにはあまりにも大雑把だった。
原始的な製法ではあるが、クリンはこの三本依りの糸を量産していくしかやり様が無い。正直糸依り機を作ったとしても時間が大変かかる。このような簡易的な糸依り機ではなく本格的な糸紡ぎ機であるのならもう少し早く依れるだろうが、それでもやはり時間はかかるだろう。
そこで、クリンは奥の手を使う事にする。
「よし、このやり方で十分糸が作れる事が確認できたし、この道具の使い勝手も解った。じゃぁいっちょ本腰を入れて糸を依りますかね」
そう言いつつ、糸紡ぎ機に蔓草の繊維をセットする。そして——
「クラフターズ・コンセントレーション! 秘儀、倍速糸紡ぎぃぃぃだあぁぁっ!」
掛け声と共に、勢いよく糸紡ぎ機を回していく。だが、以前も同じ事を口走っていたが、多少早くなっただけで倍速には程遠い。
しかしコンセントレーションの言葉通りに、少年の集中力が高まる毎に糸を縒る速度や糸を付け替える手際が早くなっていく。最終的には言葉通りに倍速に近い速さと手際になっていた。
これが最近のクリン少年が凄い勢いで物が作れる様になったカラクリである。この事に気が付いたのはマクエルと一緒に粘土を精製し、その粘土をこねていた時の事だった。
作業を開始する時、ついHTWの時の癖で、加速開始を示すワードを口にした。
その時は単に「言って見ただけ」のつもりだったが、気が付けば実際に多少なりとも速度が上がっていた。
最初はただの気のせいかとも思ったが、その後密かに何度か試してみた所、倍速と口にすると僅かに速度が上がる様になってきた。
その時、クリンはピンときた。
『これはもしかしてHTWの仕様、クラフト作業時の別サーバー移行による思考加速システムが現実に組み込まれているんじゃ?』
と。転生の際、セルヴァンはこう言っていた筈だ。「新しい体はゲームのキャラをベースモデルにして向こうの世界でも問題ない様に調整する」と。
そして「HTWには無いスキルもあるが、似たスキルで代用するか新しく作る」とも。つまりスキルだけではなく、この世界とHTWと互換性のあるシステムも、こちらの世界に合わせて組み込まれている、と言う事だ。
そうでなければ「キャラクターをベースに調整する」なんて真似が出来るはずがない。とすればその物ズバリでは無いにしろ、思考七倍加速システムに対応した何かしらのスキルが存在していても不思議は無い。
試しに、HTWで思考加速を行う際のワードである「クラフターズ・コンセントレーション」と唱えて見た所、見事に加工速度が加速されたのだった。
クリンがこれまでこの加速の存在に気が付かなかったのは、HTWの仕様と同じく「クラフター系のスキルを何か一つでも習得する」と言う条件があった為だと思われた。
今まで自覚できたスキルは気配察知や気配遮断や回避強化辺りの、ウォーリア系のスキルばかりでありクラフター系のスキルはこの前やっと生えた石工スキルが初めてであった為だと思われる。
ただ、
現状のクリンでは二倍までの加速が良い所の様であった。最終的に七倍速までは上がるだろうとは思うが、その先があるのかどうかはまだ分からない。
他にも違いは幾つかある様だった。HTWではサーバー移動すれば無制限で加速が続けられていた(システム的なタイムリミットは有った)が、こちらでは加速を維持するのに
しかも連続で使うと消耗が激しく、最低でも十分は開けてから使わないと直ぐにヘバってしまう。体力的な事を考えるのなら二、三十分は開けた方がよさそうだった。
またHTWでは特定の場所、個人所有の作業場かレンタル作業場などの特定の施設でないとシステム上の都合で使えなかったが、こちらではその軛は無く作業が出来る場所ならどこでも使う事が出来た。
その代わり、HTWでは作業場内にいる間は全てが加速されていたが、この世界では自分以外は加速できなかった。HTWでは加熱や冷却にかかる時間も加速できたのだが、こちらではあくまでも自分の動作だけが加速され、加工する材料自体に掛かる時間は加速する事が出来なかった。つまり加熱や冷却に掛かる時間は現実通りに掛かる事になり、その分はHTWよりも作業効率が落ちた。
他にもHTWでは作業場にパーティーメンバーやギルドメンバー、それとNPC以外の他人が居たら加速できなかったり、一日で合計七時間以上の加速が出来なかったりしたのにこちらでは出来るなどの細かい違いがある。
「それでもまぁ……コレが出来るのと出来ないとでは大違いだよね。作業効率が全然違うよ。でもコレが使えるって事はこの世界の職人達の認識は多少変えないとねぇ」
丁度集中力が切れたので、倍速を止め通常速度で糸を縒りつつクリンは思う。
セルヴァンは転生する時に、記憶以外のチートは無いと言っていた。と言う事はこの作業速度加速システム自体はクリンだけの固有スキルではなく、最初からこの世界にあったスキルと言う事になる。
ならば、この世界の職人でもクラフター系のスキルを持っている者なら同じ事が出来ると言う事である。
実際に木工場で廃材を貰った時にチラリと確認したのだが、職人の何人かは作業の手際が明らかに早かった。
ならば、このスキルが使える事でのクリンの優位性は殆ど無いと言う事であり、このスキルが認識されているのなら、客もこのスキルで作業速度が上がる事を前提とした注文をしてくる、と言うことでもある。
「納期とかある場合はよくよく考えて仕事する必要が出て来たって事で……まぁでもそれは先の話かなぁ。まだクラフター業で生計立てられると決まった訳でも無いし。取らぬ狸の皮算用ってヤツだよね」
今は将来の金策の事よりも目先の糸造り。そう頭を切り替える事にして黙々と糸を紡ぐ作業に戻って行った。
そうして倍速スキルを駆使しながら糸を大量に量産していく。ある程度まとまった量の蔓草の糸が出来た所でその糸を三本抜き取って、それでまた一本の糸にしていく。それが三本できたらまたそれを一本の糸にしていく。
重ねて縒って行く事で元々強かった蔓草糸は更に丈夫な糸、既に紐と呼べる強度と太さになっていた。これは弓用の弦にするつもりだ。動物の腸や腱を鞣した物や麻糸などの方が弓の弦には向いているのだが、現状そんな物は手に入らない。
そしてこの蔓草はそのままでも背板を作るのに使える程に丈夫であり、それを糸にして依って更に紐にすれば、十分弓弦として利用できる強度があった。前回作った木皮ででっち上げたなんちゃって弦とは比べ物にならない。
同じような紐を何本も作り、二本ほど予備に残したらそれをまた縒り合わせて細い縄にして依って行く。
これは別目的の弓に使う予定で、数十本ほど縄にして保管した。
余った蔓草繊維は、そのまま一本の糸として縒り枝に巻き付けて置いた。これは何れ糸として使うなり再び紐や縄にして使う予定だ。
蔓草糸の目途が付いたら木皮糸の方だ。こちらは蔓草糸よりも素材の丈が短かった分、蔓草よりも少々面倒だ。
乾かした繊維を水で戻すのは同じだが、こちらはある程度繊維を割いて同じ太さの繊維をより合わせて行く必要がある。そして、長さが無いので途中で何度か繊維をより合わせて継いでいき、二本の糸にして縒って行く必要が有った。
この工程は手動式糸縒り機を使っても地味に時間がかかる。倍速を使っても全てを糸にするのに数日掛かってしまった。
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はい、クリン君のカラクリのネタバラシ回でした。とは言え結構予想していた人もいたのではないでしょうか。
何せココの読者はやたらと勘の良い人多いし(笑)
相変わらずチートの様でチートでは無い技能ばかりです。まぁ作業限定ヘイストが出来ると言うのは十分チートですが、他の人も使えるのならチートにはならない理論です。
尚、今回は言及していませんが、ウォリアーの方の鍛錬時間短縮もこの世界に実装(笑)されています。
クリン君があまりそちら方面に手を出さないのと、設定上筋トレ時間の短縮とか練習時間が多く取れる程度の恩恵しかなく、戦闘では加速出来ないので、単に直ぐに疲れるだけの恩恵の少ないスキルとなっています。
あ、タイトルには特に意味はありません。何となくいつかはやってみたかったネタだっただけです(*‘∀‘)
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