第63話 転生幼児でも蜘蛛の糸とかで楽をしたいと思う時がある。


 今日の分の更新は休むと書いたな。スマン、アレは嘘だ!!

 と言うか意外と書くこと決まっていてすんなり進んだので十分間に合ってしまいました(笑)

 と言う訳で本日公開分をお楽しみください。



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 その様な予定を立てた事もあり、町に出た時に必要になるであろう私塾への謝礼代を今の内にこの村で稼ぎたい所であったのだが……


「あんなお駄賃じゃ雀の涙だね。予想以上にこの村の人達の財布の紐はキツよね」


 この調子では後四ヶ月もしないで村を出て行かなくてはならないのに大した金額は稼げそうに無い。


 ただお金に関しては実の所そこまで切実では無い。亡き村長のヘソクリには全く手を付けていないし、何よりナイフが作りなおせたお陰で製作用工具が作れる目途が立った。


 道具さえ揃えられたら後はHTWでもやっていたように、スキル上げと並行して制作物をどこかで売ればいい。


 作る為の材料はこれまでの様に自分で作り出してしまえば元手はタダだ。それすらもスキル上げになり一石三鳥である。


 トマソンやマクエルから聞き出した所によると、大きな町なら大体どこにも自由市があり、そこでなら場所代と言う名の税金を支払えば子供でも露店を開く事が出来るらしかった。売る場所があるのなら後はどうとでもなる、と言うのがクリンの本音である。


 HTWで培った技術と、HTWで全て記憶しているレシピ集があり、この世界で覚えたアーカイブで補填すれば必ず売れる物が作れる、と言う自信と自負がある。


 後は年齢が年齢なので足元を見られて買い叩かれる心配もあるが、そちらもそちらで最悪は人を雇えばいいだけだ。


 現実での経験こそないが、前世では万単位のプレーヤーが実際に職人として就職してしまったと言う実績を持つ、ゲーム評論家どころか自社プロデューサーに「お前、それゲームじゃないだろ」と言わしめた伝説があるHTWの灰ユーザーだったクリンである。


 しかもゲーム内レシピを完全記憶して完全再現可能と来ている。この世界の超一流なら解らないがその辺の職人如きに遅れを取らないと言う自信と自負を持っている。


 何だかんだでゲーム世界ではマスタースミスの称号まで手にしている彼は、やはりどっぷりと職人気質を持っていたのであった。


 そんな訳で、今は金策よりも道具制作が急務である。繊維の乾燥に時間がかかるからと言ってその間制作を中断し、仕事だけしていたらアッと言う間に村から出て行く時期になってしまう。


 それではクリンは本腰を入れて積極的に行動し始めた。仕事の後に森に行っては材料になりそうな太目の薪を集め、木工所に行っては使わない廃材などを分けてもらったり、安く仕入れたりもした。


 基本木端ばかりだったが、それでも自作工具を作った時には柄木などに利用できるので喜んで集めまくった。


 それ以外にも炭を焼き足したり、壊れてしまった土器の作り直しと焼き直しも行った。相変わらず粘土の精製作業の時は怪獣ゴッコをして一人楽しんでいたので、やはり遊んで居ると思われ生暖かい視線が向けられている。


 そして繊維の乾燥が済んだらまた糸造りの為の加工である。これでいきなり糸が作れる訳では無い。乾燥させた繊維を今度は熱湯で煮て行くのだ。蔓草と木皮では加工が異なる為、自前の歪んだ鉄鍋とこの小屋の鉄鍋二個を使って同時に煮て行く。


 途中何度か水を変えて煮なおす事数回。軽く漱いだ後最後にそれぞれもう一度煮込んだら別々の桶に煮込んだお湯ごと移し替えて一晩放置。移し替えたのは、そうしないと麦粥を作る鍋が無いからだ。


「この鉄鍋も耐熱用装備が作れたら打ち直しするかねぇ。何時までも歪んだままだと使いにくいし……でもそれなら鋳つぶして作り直す方が早いかなぁ」


 蔓草を煮込んだ鉄鍋を洗いながらブツブツと呟く。この歪んだ鍋はクリンの持ち物なので村から出て行く時も持っていくつもりであるが、鍋としてそのまま持っていくかそれとも鉄材として利用して道具に加工してしまうかが今の所の悩みだ。


 だがそれは後の事。今は布や糸の加工がさきである。のだが、今日出来るのはココまでで、後は翌朝まで水分を吸わせて繊維を柔らかくさせる必要が有る。


 そしてその後はもう一度干して乾燥させれば、晴れて糸や布の加工に入れる。

 そう、ここまでやってもまだ「糸と布を作る為の準備」でしかないのだ。


「いやぁ、マジで時間かかるよなぁ糸と布って。これで色染めなんてやった日には発狂しそうだね。焦っても仕方ないと分かりつつも、やっぱり早い所魔法覚えたいよねぇ……と言うか、この世界にも直接糸が摂れる魔物とかいるんだろうなぁ。いいよなぁ、この村の近くにもいないかなぁ、そう言うの」


 未練がましく言うクリンであるが、そんな話は聞いた事がなかったので諦めるより他が無い。


 多分今回で作れる糸や布の量は服や褌を一、二着作ったら終わる量にしかならないだろう。たったそれだけの量でこの騒ぎである。普通に布を作って居たら年単位が必要になる位の作業量だ。流石に布だけにそんなに時間を掛けていられない。次に布を作るのは道具が揃ってからか、魔法を覚えてからにしようと心に誓うクリンだった。


 翌日、午前の仕事を終わらせて蔓草の糸造りから取り掛かる。と、行きたい所なのだが、その前に作る物、と言うか組み立てる物がある。


 素焼きレンガを作った時に幾つか作った、小さい車輪の様な土器。その一つの車輪の三か所に穴が開いた物を取り、中心軸に棒を削った軸を指す。その軸にワッシャー代わりに作った小さいリング状の土器を重ね、持つのに丁度良い太さの木の枝を加工した物に穴を開けそこに軸を通す。


 そうしたら軸が飛び出た反対側にも土器リングを通し、飛び出た軸には木を削って加工しておいたクランク状の木製ハンドルを差し込む。ハンドルは抜けない様に枝を楔にして打ち込み固定する。


 そうして出来上がったのは、ぱっと見は羽の付いて居ない手回し式ハンディファンの様な物だった。これに、車輪の三か所開いている穴に、丁度嵌る大きさの枝を差し込み長さを調節すれば——


「てれれてってれ~、手回し糸紡ぎ機ぃ~!」


 自分で効果音を入れながら、ハンドルを回してカラカラと空回しする。


「うんうん、ちゃんと動くな。コレも深夜通販で見た怪しい便利グッヅだけど、一々手で糸なんて依ってられないもんね。何事も効率よくいかなきゃっ!」


 クリンが大ファンであるMr.トーマスは動画の中で完全に手作業で糸を依っていたので、それを真似てもいいのだが、別にクリンは彼の様に原始時代から文明を起こしている訳では無いので楽が出来そうな道具は進んで作るし使う。


「と言うかさ……ミスターもアレだけど、あの通販番組も大概謎だよね。今時こんな形の手動糸依り機なんて誰が使うんだろ? 今時糸を自作しようって人でも普通は電動のを使うよね。電気が無い状態でそもそも糸を依ろうなんてもの好き居ないとおもうんだけど」


 と、クリンは自分で模倣した手動式糸依り機を眺めて首を傾げる。前に作った手動式草抜き器といいコレと言い、まぁ使う人は一人か二人は居るだろうが、果たして通販で紹介して購入する人など放送費用に見合う程いるのだろうか。ハッキリ言って謎である。


 ただまぁ、深夜の通販番組などそんな物であるし、今更気にした所でもう既に世界が違う。アイデアだけ有難く頂く事にするクリン少年であった。


 早速糸依り機を使い糸を依っていく。まず、板に釘を刺した物を用意し、その釘に蔓草の繊維の端を結び付ける。その板を動かない様に固定し、反対側の繊維は糸依り機の三つの突起の内の一つに結び付け、ハンドルをクルクルまわす。これで繊維が依れていき、一本の糸が出来る。だがこのままでは細くてとても切れやすい。


 同じ物を後二本作り合計三本にし、釘を打ち付けた糸に三本とも端を結び付けて長さを揃え、反対側を糸依り機の突起にそれぞれ三か所結び付ける。


 そうしてハンドルを回して行けば三本依りの糸の完成である。後はこれに直ぐに糸がほつれない様に、麦粥をさらに煮詰めて粘度を出した汁を海苔代わりにして薄く塗り乾かせば糸として使えるようになる。


 原始的ではあるが、クリンの現状ではこれが最も効率的な糸造りであった。


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