第55話 チョロい幼児。
個人的に説明不足を感じたので、次話で説明するセリフを前倒しして、一部書き換えました。マクエルの門番三号に対する言葉が一部変更されています。それに伴い、次話での説明文は省略しました。
考えてみたら最初からここで説明しておいても良かったんだと反省しています(笑)
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素っ頓狂な声を上げたクリンに、マクエルは思わずズッコケる。
「またそれかよっ! つうか三号じゃねえよ、門番じゃねえし! まぁ門番もやるけどよっ! 今日はコイツが夜番警邏でこれから出張る所に会ったから、そういや顔合わせしてなかったと思って、お前さんの様子見がてら連れて来たのっ!」
「それはそれは。お勤めご苦労様です。というか随分明け透けになりましたよねぇ、マクエルさん。『お前を監視しているから余計な事はするな』って所ですか?」
「だからガキが腹の探り合いすんなっての。それにこれはどちらかと言えば『お前のせいで給料減ったから嫌がらせ』て感じだわな」
「それ、僕のせいです? 歳も考えずにハッチャケたのはマクエルさんの自業自得でしょう。それに、キッチリ僕から石鹸とリン酢せびっていきましたよね」
二人で意地悪い笑みを浮かべ合い言い合っていると、ゴホンと咳払いが聞こえる。
「おっと。どうにもお前さんと話していると調子が狂うな。コイツはロッゾ。元々は俺の冒険者時代の仲間でな。村の出身じゃないが俺と一緒に引退したのを機に一緒に自警団をやっている。コイツは警邏が主な仕事でよ。村の中で手伝いが増えたらクリンも会う機会が増えるだろうから、今の内に顔見せしとこうと思ってな」
マクエルがそう言って背後の四角い男——ロッゾに向かって顎をしゃくって見せたので、クリンは軽く会釈して挨拶をしようとしたが、それよりも先に重苦しい声が響いて来る。
「お前が最近話題になっている山向こうの拾われ子か。何やらあちこちで手伝いをしては駄賃をせびっているそうだな。事情は聞いているがあまり関心しないやり方だな。大っぴらにやらずに程々にしておけ」
苦々しそうな顔でそう言われてしまい、クリンは思わず目をパチクリさせてマクエルを見やる。
「ええと……? 僕的には人手が足りない所で仕事のお手伝いをして、正当な対価としてお金を貰っている認識なのですが。それも、普通ではありえない格安での仕事だと考えているのですが……村の中ではそうではない、と言う事なのでしょうか?」
「子供が金を稼ぐこと自体が良くないと言っている。ましてや子供の手伝いで金を渡すなど風聞的によろしくない行為だ。それに、村の端の家に住み着いて好き勝手しているそうじゃないか。あまり村の秩序を乱す様な行為は止めてもらいたい。」
マクエルに聞いたつもりだがロッゾが顰め顔でそのまま答えて来る。どうやら彼はクリンの事が相当気に入らない様子だった。
と言うか、一体どんな風に村では自分の事が伝わっているのだろう、と困った顔でマクエルを見ていると、ヤレヤレと頭を振りつつロッゾの方をバシバシと叩きながら苦笑いで、
「すまんな。コイツは現役時代は大規模商隊や貴族の護衛が専門だったせいでトマソン以上に言葉と頭が固いのよ。いや、俺はお前さんの仕事ぶりを見ているから、金を貰うのは当たりだと思っているし、ここも村長がちゃんと許可だして住んでいる事も知っているんだが……コイツや村の古い連中の中には子供らしくないってんで文句を言う奴もいるって訳よ」
「お前が適当過ぎるだけだ。聞けばこの捨て子はまだ五歳だそうじゃないか。一人で生活させてヘラヘラしているお前の感覚の方が俺には分からん。何やら隠れてコソコソとガラクタを作っているらしいじゃないか」
「……あ゛あ゛ん゛!?」
作った物をけなされるとスイッチが入るのがクリン君である。しかも現物を見もしないでガラクタ呼ばわりされれば一瞬で沸点を通り越すと言う物。いきなりメンチを切り出す。
だが、マクエルは何度かクリンの尻尾を踏んでいるので、そういう性格は理解していたので、少年の肩に手を置いて「まぁまぁ」と言って宥めた。
「実際、お前また何か作ったんだろ? ここに来る途中にピッピカピッピカ、聞いた事無い音が聞こえてきてたからな。絶対何か作ったんだろ?」
「……僕が何か作ったらアンタらに必ず見せなきゃいけない決まりでもあるんですか? 村に間借りしているだけで、一々報告しろとか言われて無い筈ですがね」
宥められても少々口調が荒いまま、口をとがらせながらクリンが吐き捨てる。ガラクタ呼ばわりまでされたのだ、こんな奴に披露する気など毛頭なかった。
「そんな事言うなって。お前の事だ、また何かイカした物作ったんだろ? 確かお前が作るのはカッケー道具って奴なんだろ? 一丁俺にも拝ませてくれよ、な、な?」
そう言われて徐々にクリンの顔から険が取れていく。この一ヶ月と少しの付き合いで、マクエルも大分クリンの性格を把握してきている。
「まったく、マクエルさんは調子がいいんだから……そこまで言われたら仕方ないですね、お見せしましょうっ! 外ではアレなんで中へどーぞ」
最終的にニコニコ顔で扉を全開にし、二人を仲へ招き入れる。
「……チョロい子供だ」
「シッ! いいか、アイツの前でアイツの作った物を貶したり壊したりするなよ、長い間根に持つからなっ! おだてて調子に乗らせるくらいが丁度いいんだよっ」
「何をコソコソ話しているんです? あ、靴を脱ぐのは面倒でしょうから、そこの上がりの縁にでも腰掛けて下さい。直ぐ持ってきますから」
二人に向けてそう言うと、そそくさと藁ベッドに向かい、その上に置いてある土器製オカリナを手にして二人に見せる。
「マクエルさんが言っていた音の元はコレですね。この前作った粘土の余りで作ったオカリナと言う笛の一種です。楽器ですね」
「楽器ぃ? これが? 見た事無い形だなぁ……笛だって?」
「元々は木とか骨とかを削って作った物だそうです。原型は僕の木鉄剣と同じ国の古い時代の物らしいです。この形になったのはイタリア……じゃなくて、ボッター村の職人が百五十年以上前に改良に改良して完成させたそうです。オカリナは『小さいガチョウ』って意味らしいです。初期の物はガチョウみたいな形だったのでそうつけられたらしいですね」
「フン、泥を捏ねただけじゃないか。そんな物が楽器だって? ただのガラク……」
「な、なぁクリンよぅ! 笛だっていうのなら吹いて見せてくれよっ! さっき聞こえて来たし、お前の事だから当然演奏できるんだろっ!?」
マクエルは慌ててロッゾの口を塞ぎ、捲くし立てる様に言う。クリンは一瞬眉を跳ね上げたが、気が付かなかったふりをして、う~んと考え込む。
「まぁ吹けるは吹けますが……僕、この辺りの曲は知りませんよ? ボッター村のクリンさんに教わった曲しか知りませんが、それでもいいです?」
「ああ、お前さんが名前を貰った相手か。確か外国から流れてきた商人だったよな。なら外国の曲って事だろ? それはそれで面白そうだ。是非聞かせてくれよ」
「そうですか。じゃあさっき練習していた曲にしましょう。って……そう言えばマクエルさん達はコンドルって知っています?」
「何だそりゃ? 何が混んでいるんだ?」
「ああ、はい解りました。知りませんね。よくあるギャグをどうも。ボッター村の近辺に生息している鳥だそうです。巨大な鳥でその辺りでは空の王者と呼ばれているそうです」
「空の王者……ドラゴンみたいな物か?」
「それトカゲじゃん。鳥ですよ鳥。何か大きな鳥知りません?」
「……巨大な鳥で空の王者ならガルーダだ。中でもエンペラーガルーダは天空の覇者と呼ばれている巨鳥だ」
そう答えて来たのは、ムスッとした顔のままのロッゾだ。彼の言葉にマクエルも頷きながらポンと手を叩く。
「ああ、そういや冒険者時代にそういう鳥の魔物が居ると聞いたな。一部の国だとガルーダは神の使いとも呼ばれているとか」
「鳥の魔物ですか……じゃあ、マクエルさんも知っているようですし、それにしましょうか。知っている鳥をモデルにした方がイメージしやすいですし」
言いながらクリンは最初の指の位置を調整し、軽く咳払いしてからこう言った。
「では、拙い演奏ですがお聞きください。『ガルーダは飛んで行く』です」
そして、静かに、だが力強く空を飛ぶ大鳥が、優雅に山間を飛び抜けていく情景を唄った曲を奏で始めた。
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