第54話 幼児の隠れた特技、そしてまさかの……
足の指は取り敢えず親指と人差し指が剥がれたが残りの指は剥がし難かったので諦め、自然治癒に任せる事にした。取り敢えず足の親指が自由になれば歩くのにそこまで不自由ではなくなったので、それで良しとする事にした。
切り離した部分に念のため抽出液を刷り込む。取り敢えず指は離れたが火傷箇所が残っているのでやや動きがぎこちない。
「まぁ、ここまでくれば後は動かしていれば自然と焼けた皮が剥がれて行くって聞いた事があるし……明日からまた仕事貰いに行こうかな」
藁ベッドに埋もれながら、切り離した指をニギニギと動かしながらひとり呟く。多少の突っ張りと引っかかりを感じながらも、動かして行く内に動きが良くなってきている気がして、気が付いたら両手の指だけじゃなくて足の指も動く範囲でうごかしていた。
「うむ……ただ寝ているだけだと暇だから動かしてみた物の……これはこれでやっぱ暇だよねぇ、目的がある訳でも無いし」
前世の病気治療中の事を思い出してしまったせいか、多少不自由でも体が動くならつい動かしたくなるのは当時の習い性と言う物。じっとしているのが一番直りが早いと分かっていても、少しでも体が動く時間を長くする為に体を無理にでも動かしてしまう習性が染みついていて抜けきって居ない様だ。。
「はぁ……コレも貧乏性と言う奴なのかなぁ……あっ。そうだ、どうせ指動かすなら」
思いつき隣の鍛冶場に向かう。その隅に、先日纏めて焼いた土器が一纏めに置かれており、その中からお目当ての物を手に取る。
「丁度いい。指を動かすならやっぱこれでしょ」
そう言って手にしたのは涙滴型に突起が付いたような物——オカリナである。マクエルと一緒に粘土の錬成をして出来た土が余ったので幾つか小物を作ったウチの一つだ。
オカリナが欲しくて作った訳では無く、思いの外マクエルが張り切って予定よりも粘土が多く取れたので、幾つかの小物と一緒に何となく作っただけだ。
なので実は縦笛っぽい土器も作ったのだがそれは焼き入れした時に割れてしまっている。
指で押さえる穴や口を付ける部分をヤスリで研磨してバリ取りや音の調整をしてあるのでこのまま吹ける。
試しに軽く吹いてみる。少々ボテっと本体に釉薬を使わないただの素焼きのせいか、そこまでいい音ではなく、やや低く籠った音であったがオカリナとして十分許容範囲だ。
「うん、初めてにしては上等じゃないかな。ちゃんと音もでているし」
そのオカリナを手に小屋に戻る。藁ベッドの上に胡坐をかいて座ると、穴の位置を確認しつつオカリナの演奏を始めた。
曲はクリンが好きな、オカリナ演奏では定番になっている曲、「コンドルは飛んで行く」である。
とは言え、実は前世も含めて実際にオカリナを吹くのはコレが初めてである。代わりにHTW内では良く演奏している。
ゲーム内では楽器も勿論作る事が出来て、その中でオカリナは練習で一番よく作る楽器の一つだった。ゲームで楽器は吟遊詩人スキルに対応しており、演奏をする事で様々なバフやデバフが付けられる仕様になっていた。
なので、ゲーム内ではオカリナはクラフターだけでなく吟遊詩人にとっても初期練習用の楽器として安く売られ、有志によってオカリナ用の楽譜集が作られ、クリンもそれを手に入れて折角作ったのだからと演奏していた。
オート演奏もできるのだが「あの」HTWである。変態技術者共が実際に演奏できるモードを入れていない訳がない。
リズムゲームの様に楽譜に合わせてオカリナの穴が光り、それをタイミング良く抑える事で実際の演奏ができ、戦闘ではタイミングよく光る箇所を押さえ続けていく事でバフの効果にボーナスが付いたりしている。
クリンが今吹いている曲は、バフ等が付く吟遊詩人用の曲ではなく、本当に演奏するだけの曲だったが、リズムゲームモードはちゃんと機能しており、当然だがその光る順番はクリンの記憶にバッチリ残っている。
何度も繰り返し練習したこの曲は、転生した今でも手順はキッチリ覚えている。脳内でゲーム時代のガイドラインを再生するまでもなく、穴を押さえて行けば指の動きが悪いので少したどたどしくはある物の、ちゃんとコンドルは飛んで行くの曲に聞こえて来る。
「う~ん、ゲームの仕様がそのまま現実でも使えるっていいなぁ、と言うべきか、ゲームで体験した事が現実でそのまま使える変態技術と感心するべきか、迷うなぁ」
肉体を使った初めての演奏でちゃんと曲が吹けた事にクリンは思わず苦笑いを浮べる。ゲーム世界では散々この曲を吹いてきたが、それはゲーム内でのシステム的なサポートがあったからだ。サポート無しでも指が動かせている自分に笑うしかない。
「まぁ、指の訓練にもなるし吹けて困る事はないから有難い限りだけどね」
そう納得する事にし、指のリハビリを兼ねて何度も繰り返しオカリナを吹いていると、
「お~いクリンよぅ! 何やってんだ一体?」
バンバンと小屋の扉をたたく音と共に、そんな声が聞こえてくる。
「出たな門番二号……はいはい、今行きますよ」
声でもう相手が誰だかわかったので、勝手に入って貰おうと考えたが、アーカイブを使った時に扉につっかえ棒をしたままだったのを思い出し、仕方なくオカリナを吹くのを止めて扉に向かいつっかえ棒を外す。その間も景気よく扉は叩かれたままだ。
「今開けますよ。うるさいなぁ、もう」
そう言いながら扉を開けるとやはりと言うか、当然の様にマクエルがおり、「お、出て来たな」と言いながら軽く手を挙げて来る。が、クリンの顔を見た瞬間、
「おわっ!? 何だクリンお前のその顔! 真っ赤じゃないかっ!? って皮もスゲエ剥けてるなぁ!? あれ、そんなに日差し強かったか最近!?」
どうやらオカリナを吹いている時に結構顔の表情筋が動いて皮が剥けていたらしい。そして剥けた部分の肌も赤くなっているらしい。
鏡が無いので自分の状態は解っていなかったクリンは、「道理で顔がひりひりする訳だ」と変な納得をしていた。
「よく見たら手とかも皮剥けすげぇんだわなぁ! お前ってそんなに肌弱かったのか? てか、これから本格的に夏になったらどうなるんだ!?」
「ええと……別に日焼けと言う訳じゃ……あ、でも説明面倒だな……」
どうやら日焼けでこうなったのだとマクエルは思った様で、一瞬否定しようかとも思ったが、何となく鍛冶仕事でこうなったと説明するのが億劫に感じたので、そのまま乗っかる事にした。下手に否定したらまた鍛冶作業見せろとか言われかねないと思ったのもある。
クリンがそう考えていると、ふとマクエルの後ろに見覚えのない男が立っているのが見え、不思議に思い首を傾げる。
「ええと……マクエルさん? そちらの方はどなたで?」
「おっと、そうだった! つうか、お前さん毎回意表突きすぎじゃねえの?つい本題忘れちまったわっ!」
マクエルはそう言って後ろの男に視線を向けた。何というか、色々と四角い男だった。マクエルよりも若干背が低いか四角く厳つい顔に四角い眉、ガッチリとした四角い体格の持ち主で、つられて視線を向けたクリンをしかめっ面で見返して来た。
「……おおう? 何か嫌われている……? あれ、僕初対面ですよね。睨まれる様な事何かしていました?」
「ん……? ああ、気にするな。こいつは俺の同僚で、誰に対してもこんなツラしてんだ」
「大きなお世話だ。別に睨んでなど居ない」
四角い男がムスッとした顔と声で言って来るのに、クリンは驚愕の表情を浮かべた。
「同僚!? って事は……ここに来てまさかの門番三号の登場!?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます