第48話 ー閑話2ー HTWと言うゲーム 前編

 今回も説明話です。例によって読み飛ばしても問題は在りませんが、読むとより話が分かりやすくなるようになっています。


本当は一話で終わらしたかったのですが、思いの外長くなったので分割しました。次で終わればいいなぁ……


それではお楽しみください。




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 中堀は最初MZSが持ってきたその話を蹴る気満々で居た。それはそうだ。彼もこの業界で二十数年を過ごしており、その間にMZSなんて会社など聞いた事が無い。


 話を聞けば別業界でそれなりに有名になったからゲーム業界で自社の名前を広める為にゲームを出したいと言う。それも初めての制作でVRMMORPGだと言う。


 正直ナメてんのかコイツ等と思った。


 他所の業界からノコノコやって来て「最高に面白いMMORPGをVRで作りましょう」と誘われても「寝言は寝て言え」以上の感想は出てこない。


 そんなのでいきなり面白いゲームが作れたら誰も苦労はしない。彼ですらゲーム業界に二十数年居て最近ようやくチラホラと売れるゲームを作れる様になった程度だ。


 新規参入で突然ヒット作が作れる程に甘い世界では無い。そんなこの業界をナメ切っている様子ではまともなゲームなど作れる訳が無い。そう思い当然お断りの返答をした。表面的にはもっと丁寧な言葉で、だったが。


 しかし、どういう訳かこの会社に気に入られた様で、しつこく勧誘を受けその都度断り続けた。その回数実に十九回。余りにものしつこさに辟易したのと、どんどんつり上がっていく移籍金に、二十回目の勧誘でとうとう折れ、二十数年務めたゲーム会社を辞めMZSに入社した。


 退社の際、最初は揉めるかと思いきや、かなり円満の退社だった。気難しい筈の社長がニコニコ顔で彼の退職に感謝の言葉と再就職の祝いまで述べたのには驚いた。


 彼はこの時までMZSの親会社がミゾグチコーポレーションである事を知らなかった。どうやら、畑違いの中堀でも名前が聞いた事があるこの大企業が裏から手を回して円満退社に運んだらしい。


 思えば彼の移籍には破格の条件が付いていた。給料は最初年収七百万、ゲームが完成し軌道に乗ったら一千万とMZSの取締の椅子、更には本社株に本社役員の地位。


 普通のゲーム業界では考えられない高給に好待遇。ここまでされたら頑なだった中堀が折れたのも頷けると言う物だ。



 しかし、彼が転職を決めた最大の理由は、彼を勧誘し続けたMZS社員の熱量だった。聞いた事の無い会社に不釣り合いな好待遇。普通は詐欺を疑う。


 しかし話を聞くうちに教育現場や作業現場では有名なソフト会社であり、いい物を作る事に命を掛けている会社である事が嫌でも知れた。


 それに何より、彼らが持ってきたVRMMORPGの企画内容——こちらが作った押し付けの物ではなく、何でも自由に造れて何でも自由に職業が選べる——そんなゲームを作りませんか? と言うその草案に面白さを感じた。


 ゲーム業界に居ればプレーヤーの自由度の高いゲームを一度は作ってみたい物。であるらしい。中堀もその気質は避けられず、このゲームに興味を持ったのも移籍を受けた要因の一つであった。


 そう、面白そうだと思ってしまったのだ。後にこの選択をした当時に戻って自分をぶん殴ってやりたいくらいに後悔する事になる。


 中堀はこれまでゲーム業界一筋で生きて来た。その始まりは一六歳の時にたまたま始めたバイトがゲーム会社のテスターだった。


 そこから徐々にSE関係のバイトもするようになり、大学受験に失敗しフラフラしていた所をそのままバイト先のゲーム会社に誘われて入社し、同社のゲームプロデューサーにまで上り詰めた生粋の業界人だ。 


 だから彼は知らなかった。


 「


 と言う事を。勿論、ゲーム業界にも職人と呼ばれる連中は居る。彼の業界での知り合いの中にも何人もいる。だがそれは、一芸特化の人間を差して言われる事が多い。


 本物の、古の時代から職人と呼ばれていた業種の人間は一味も二味も違う。MZSは確かにコンピューターソフトウェアの会社だ。そちらで実績も出している。


 しかし、元をただせば全員親会社であるミゾグチコーポレーションから流れてきた連中である。つまり、現場作業にどっぷり漬かった世界の住人でありホンマ物の職人集団だ。


 まず、奴らは人の話を聞かない。ゲームの制作会議で、システム的に難しい部分が出て中堀がその案を却下したとしても、こいつらはシレっと次の企画でその改良版を持ってくる。酷い時にはそのまま書類の後ろに紛れ込ませてくる。


 どんなに説明し、口では「分かりました」と言っても次の日に忘れている事などザラ。ゲームのタイトルからしてそのいい例だ。


 初めてクラフター&ウォリアーズ・Heaven The World Onlineと言う題名を見た中堀は「こんな長い上にカタカナと英語が混じったクソダサタイトルなんて今時受けない」と難色を示したのだが、当のMZSの開発陣は、


「古式に則った前半題名と最近の風潮を合わせた題名です。気に入らないかも知れませんが、仮題と言う事で今はこれで」


 と押し切り、そして結局最後までその題名を変える事は無かった。後で知った事だがこいつ等もゲームに参入すると言う事でゲームを実体験し、それで気に入ったゲームのオマージュを入れたかったそうだ。


 因みにそのゲームタイトルを「ダン〇ョン&ドラ〇ンズ」と言う。確かに古典だがコンピューターRPGですらなかった。TRPGを参考にしてどうするんだと思った。


 そして奴らは異常に頑固だ。中堀はチーフプロデューサーとして雇われた筈だが、他の社員達が納得しなければ一切仕事が進まなかった。


 そして、初めての事は絶対に一度やらないと気が済まなかった。幾ら中堀が過去の経験上、そのやり方では絶対に失敗すると言っても、奴らは必ずそれをやった。


 そしてシレっと「いやぁ、失敗しましたね」と笑顔で言い放ってくる。自分達が納得して理解しなければ、絶対に中堀の言う事を聞こうとしない。


 正直最初の一ヶ月で何度こいつ等をぶち殺して会社辞めてやろうと思ったか分からない。トライアンドエラーは確かに大事だがやらなくていい筈だ。




 ゲーム畑一筋の彼は、ゲーム業界の会社になる筈のMZSではよそ者だ。畑違いの専門家でしかなくズブの素人扱いをしてくる。


 いや、お前らが素人なんだよ、ゲーム作った事ねえだろうよ。そう中堀は言いたいが移籍者であるの方が断然立場が弱かった。世間一般ではチーフが一番偉い筈だが。


 ゲーム開発において、一番偉い立場に着けられた筈であるが、彼の指示や意見は何一つ通らなかった。いや、正確には通る。会議は基本中堀の意見が最優先で採用されている。


 だがそれを守る奴が一人もいない。なら何のために会議してんだよ、時間の無駄だろうが、と言う罵声が喉まで何度も出かかっている。


 それでも給料は提示された通りの金額が支払われていたので、頑固者達のせいで遅々として進まないゲーム開発作業に半ば腐りながらも、何とか飲み込み我慢して熟していく。とりあえず今回だけ。一本だけでもゲームを作り上げればヘッドハンティングされた義理は果たせる筈。そしたらとっととこんな会社辞めてやる。


 土下座でもして前の会社に平として入り直す方が遥かにマシだ。そう考えていた中堀だが、とうとう我慢の限界を超え、盛大にブチ切れてしまう時が来る。




 それはゲームの企画の最初の段階でゲーム内容を中世風ファンタジー系RPGにする事に決まり、その詳しい設定会議をしている時の事だ。


 ゲーム内での作成活動、所謂クラフトに重きを置き自分で制作した武器や防具を主体にして戦うゲームと言う、そのコンセプト自体には中堀も面白みをかんじていたのでOKを出した。


 しかし、その後に出してきた案には中堀は一貫してNOを突きつけた。彼らの案とは ——各制作時に必要なスキルを実際に体感してもらいたいので、それぞれの職業に特化した職業用シミュレーターを目玉にしたい——


 そういう要望であった。そんな物、プロデューサーとしては検討の余地なく秒で却下である。何で中世風のファンタジーゲームで態々現代の職業訓練みたいな事をしたがるプレーヤーがいると思うのか。そんなの居る訳が無い。


 そもそもそんな容量の高いプログラムを各職業に突っ込んだら如何に高性能なCPUを突っ込んだ所で処理は追いつかないし容量が足りる訳が無い。


 だが奴らは諦めなかった。元々職業訓練用ソフトでシェアを独占している会社である。自社の一番の強みを排除する事など、職人集団である彼らには考えられない事である。


 いや、職人じゃなくてゲームクリエーターだろうが、と突っ込む者は残念ながら中堀以外この会社には存在しない。


 彼らは本来のゲームのプログラムそっちのけで、低容量ダウングレード版の職業訓練ソフトを組み上げ、それを中堀が居ない間に会議に提出し通してしまったのだ。


 しかもそのせいで開発スケジュールは全く進んでいない。




 後で知った中堀はとうとうブチ切れてしまう。


『テメエらゲームをナメてんのか? ゲームをやるゲーマーてのは、遊ぶためにゲームをやるんだよっ! 仕事を覚えたくてゲームする阿呆が何処に居るっ!! 俺はゲームを作るために雇われたんだ、職人養成してえならそう言え、こんな専門者用訓練ソフト何かに関わっている程こちとら暇じゃねえんだよっ!! お前等はやってんのか!? 俺はをやってんだよ、そんなもんゲームとして出してみろ! 炎上どころか暴動起きるわっ! ゲーマーナメてんじゃねえぞ!?』


 そう怒鳴り付け、会議室の机と言う机をなぎ倒し暴れた。堪忍袋の緒が切れたと言うヤツである。この時の中堀はもう会社をクビになっても良いつもりであった。








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変態企業と変態集団っていいよねっ!

ビバAC!! 大体コイツ等のせいだっ!


そして振り回される常識人とか好物です。

……まぁ中堀氏が常識人かは謎ですが……

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