第47話 ー閑話ー とある企業の話をしよう。

ええと、本来この話は数行で終わらせる予定でした。読みにくいですしね。

が。あれ?ワシ個人の掲載なんだから好きに書いていいんじゃね?

と思い、好き勝手に書いてやろうと書きました(笑)

反省はしていない。

と言う訳で説明ばかりの回なので、読み飛ばしてもそこまで影響は在りません。


一応読んだ方がより楽しめる様にはなっています。それでは読まれる方はどうぞお楽しみください。




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 かつて、藤良衛文ふじよしもりふみと言う名前の少年が居た。彼が生きた世界、生きた時代の日本には彼が熱狂的に愛した、「HTW」と言うオンラインゲームがあった。

 正式名称をクラフター&ウォリアーズ・Heaven The World Onlineと言う。どういうゲームであったかと言うと、端的に表現してしまえば「ゲームであってゲームでは無い」となる。何やらデスゲームでも始まりそうなキャッチコピーだが、このゲームの場合は全く意味が違う。


 そもそもこのゲームの開発、販売、運営を行っているメーカーはゲーム会社では無い。日本を代表する工業機械製作会社ミゾグチコーポレーション。それを親会社とする完全子会社、ミゾグチ電子産業研究所。ここが開発元である。


 親会社であるミゾグチコーポレーションは、戦後間もなくの頃に現場作業用工具製造会社として産声を上げている。後に電動工具の制作に移り、衛文が生きた時代では国内シェア70%以上を占める大企業になっている。


 しかしこのミゾグチコーポレーション。普通の工具メーカーでは無かった。


 『モーターかバッテリーが付いて居る機械は全て工業作業で使える』


 と言う謎ポリシーを持っていた。モーターとバッテリーが付いているからと現場内の移動用に電動自転車の開発に始まり、ノートパソコン、テレビ、冷蔵庫、果てはポータブルトイレにコードレス掃除機まで制作している。


 しかもどれも耐久性を現場仕様にしている始末である。そしてその頑丈過ぎる電化製品は現場作業員に大いに受けて業界内ではヒット商品にまでなっている。業界以外ではほとんど知られていないが。


 結果、無駄に高い技術力をご家庭レベルの電化製品に惜しみなく注ぎ込みある意味革命を起こした。それがミゾグチコーポレーションと言う日本を代表する大企業。




 俗に言う「変 態 企 業」である。




 この成功に味を占めたのか、ミゾグチコーポレーションは次にこう考えた。


『バッテリーとモーターが付いて居るのなら逆も出来るんじゃね?』と。その結果、親和性の高い医療用工具の分野に進出をする。


 ココでも建築現場、工事現場レベルの耐久性と使用感を持つ本来畑違いの医療用工具は、医療の現場でもシェアの大部分を取る事になる。正直大人気無い。


 ミゾグチコーポレーションの電動器具は工業用医療用を問わずにやや高い。しかし、耐久性が他の追随を許さない程に高い。一度買えば十年使えると言われる程である。そして工業関係がメインであるために修理や交換のアフターケアは欠かせない。


 全国に販売店を持つミゾグチはそれをそのまま医療用工具にも落とし込み、アフターケアも万全の状態を作り上げてしまう。


 医療の事しかしらないメーカーが太刀打ちできないのも当然と言えば当然だ。


 ぶっちゃけ大人気無い。


 その変態企業の名を欲しいままにしているミゾグチコーポレーションは、次に医療用VR機器の開発に着手した。


 医療用工具の開発に関わった関係で、医療関係者からVRを使った、身体的に不自由な患者とのコミュニケーションツールの開発協力の打診を受けたのだ。


 そしてその機器には移動時にも使える様に高性能なバッテリーと、患者が使う事を想定した高性能低振動低騒音のモーターファンが必須であると聞き、二つ返事で開発協力に乗り出す。


 謎ポリシーここに極められりである。


 こうして医療機器メーカーとミゾグチコーポレーションの共同開発として医療用VR機の開発が進められる事になる。この開発の後期に衛文もモニターとして開発協力している。



 ただ、VR機自体は既に開発されており、それ程一般的に普及はしていないが、VR事業自体にミゾグチコーポレーションは噛んでいた。


 それがVR用ソフトウェアを制作する為に完全子会社化されたミゾグチ電子産業研究所、後のミゾグチ・ゾーオミト・シフト社、通称MZSである。


 初期のVR機は業務用冷蔵庫と揶揄される程に大型であり、三畳サイズの巨大な箱で大昔のフライトシミュレーターの様な作りになり、半密閉で人が入り込む形になっていた。


 直ぐに小型化が図られるが、それでもアミューズメント施設の体感ゲーム筐体並みの時代が続いた。まだまだ大きく設置される場所が限られた為に普及は遅れるかに見えた。


 目を付けたのはミゾグチコーポレーションである。大きく大電力を消費し、数を揃えるのが大変なVR機であったが、仮想現実での再現率は高かった。そしてミゾグチコーポレーションは考えた。考えてしまった。


『これ、職業訓練用のシミュレーターに最適なんじゃね?』


 と。ミゾグチコーポレーシは国内最大規模の電動工具のシェアを誇っている。しかしそれでもある切実な問題に頭を悩ましていた。全国的な職人不足である。


 如何にミゾグチコーポレーションが優れた工具を作ろうとも、使う人間が居なくては始まらない。また使えたとしても道具の良さを理解出来なければ買ってもらえない。ミゾグチの製品は初心者でも玄人でも扱いやすい様に設計している。


 そして腕が上がれば上がる程に商品の良さが理解出来る様になる傾向にある。つまり素人だとその辺の安物との違いが理解出来ないのだ。




 加えて、無駄に耐久性の高い事も仇となっている。土建業以外でも自衛隊の野外作業の工具として愛用される程の、過酷で粗雑な環境でも簡単に壊れない丈夫さで、何年も使い続けられてしまうため早々買い替えられない。


 そんな理由で売り上げが先細りになってきている事に頭を悩ませた結果、ミゾグチコーポレーションは、『自分達で工具を使う人間を育てればいいじゃない』と言う結論に至ったのである。その為の職業訓練である。


 自社製品を売るために、使う人間を一から育てる。何故か思考がそちらに向かっていく。耐久力を下げてコストダウンを図り購入者を増やす、そんな甘い事は考えないからこそ変態企業と呼ばれるのである。


 ソフトウェア開発自体は先に現場仕様ノートパソコンを開発した時にノウハウを蓄積している。つまりこいつらは自社OSまで組み上げていた。


 そこでこの開発者達を集めて分社化し、完全子会社としてソフトウェア専門部署としてミゾグチ電子産業研究所が爆誕した。


 建築土木の分野で成長した企業、その子会社である。職人技術のストックは山ほどある。職人その物の伝手も勿論。


 そうした、専門分野の専門家達の技術と知識を存分にトレースし、VRで感覚的に体感でき、かつ作業上の注意点や細かいコツなども体験できる、正に職人を純粋栽培する為の職業訓練VRソフトと開発していった。


 そして開発された据え置き型VR機専用職業訓練ソフトを持ち、文部科学省や教育省、警察省や防衛省等に売り込みを掛け、当初建築土木向けだった訓練ソフトをシリーズ化し、様々な職業に対応する学習ソフトとして広く普及する事になる。


 こうしてVR技術のソフト面でも一躍トップに躍り出たミゾグチコーポレーションとミゾグチ電子産業研究所だったが、ここでもやはり悩みを抱える事になる。


 学習用、訓練用ソフトのシェアはほぼ独占状態であるが、やはりどのソフトも専門分野に特化しているので、シェアは結局頭打ちである。


 加えて学習内容や訓練内容はそうそう変わらない。変わったとしても部分的なアップデートで済む。そもそもミゾグチがたった数年で買い替えが必要な物など作る訳が無い。結果としてシェアはあっても将来性が見込めなくなってしまったのだった。


 この分野でも懲りない奴らである。


 だがそこはミゾグチの子会社。思考が明後日の方に飛ぶのはお家芸である。


「そうだ、企業向けが頭打ちならコンシューマーに行こう! コンシューマーと言えばゲームだよねっ!」


 唐突に、ゲーム業界に殴り込みに行く事に決まった。折しも親会社であるミゾグチコーポレーションが、医療用VR機の開発に成功し改良に向かっている段階であり、また医療向け限定ではシェアが狭く開発コストがペイ出来ないと踏んで、家庭用VR機への落とし込みを始めた時期であった。


 自社製家庭用VR機を作るのならソフトも自社製を出したい。そう思うのは企業としては当然ではある。


 だがそこでいきなり畑違いのゲームに行くのがミゾグチクオリティ。


 そしてミゾグチ電子産業研究所。やはり普通のソフトウェア開発会社では無い。


「ゲームと言ったらRPGが王道だよねっ。よし作ろう!!」


 ……そんな軽いノリでパズルゲームや落ち物ゲーやテーブルゲームの様な登竜門からではなく最初から全力疾走を始めた。


 社名も電子産業研究所では硬いので、ゲーム業界進出に合わせて社名をMZSに改め、自社初のオリジナルゲームをVRMMORPGとして作成する事を決定した。


 したのだが、勿論ゲームの知識も無ければゲーム開発の知識もない。そう簡単に造れる物ではない。当然開発は難航する……かに思われた。


 しかし、MZSは親会社の流れをそのまま受け継ぐ技術屋集団の集まりである。親会社の社長が赤ん坊の時にオシャブリ代わりにネジを咥え、ガラガラ代わりに金槌を振っていたと言われる位の技術バカである。


 ぬいぐるみの代わりに手製ラジオを作り、玩具の代わりに機械式時計を分解して遊ぶ、そんな連中が集まっている。


「専門家が居なければ専門家を連れて来ればいいじゃない」


 自社に無ければ他社に人材を求めよ。技術屋あるあるの思考で、ゲーム業界に詳しく、同時にゲーム開発に携わっている人間のヘットハンティング。それに踏み切ったのである。


 この時MZSが目を付けたのが、当時大手メーカーで幾つかのゲームを手掛けていたゲームプロデューサーをしてた人物である。


 大ヒットこそない物の、それなりにヒットした作品に関わっており、堅実なゲームを作る事で業界内では定評のある男であり、他に何人か目星をつけた中で一番MMORPGの制作に関わっていた。


 耐久性と実用性全振りのミゾグチにとって堅実な人間と言うのは最も好ましい人物である。何より彼が手掛けたゲームのクレームが少ない事でも業界内では有名であったのもプラス要因である。ミゾグチ程の企業でもクレームはやはり怖い物。


 こうして、MZSに白羽の矢を立てられ、熱烈なラブコールの末にヘッドハンティングを受け、チーフプロデューサーとしてMZS製VRMMOの開発に携わる事になったのは、後に同社の名物プロデューサーと呼ばれる男、中堀直也なかほりなおやその人だ。




 別名——最大級のババを引いた男——である。












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プロデューサーの名前は私が好きだったゲームのPDやGCの人から部分的に貰い組み合わせました。


……え? そっちじゃない?

ミゾグチコーポレーションのモデルはM来ただろって?

……サテナンノコトヤラ ( ̄д ̄)yー~~~

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