第34話 そして幼児は走り出す。

 申し訳ありません。どうも原稿と掲載版との文字数が違うのでおかしいと思っていたら、一部エピソードが抜けていました。

 タダのギャグパートなので、特に無くてもいいかなぁ、とも思いましたが丁度文字数が少ない回なので加入させました。


 特に何かストーリーが変わった訳では無いのですが、お楽しみいただけたら嬉しく思います。割と気に入っている部分でしたので。


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 二人で話している内に、目的地であるクリンの住む小屋と鍛冶場に着く。


「ほう。マクエルから聞いていたが、本当に綺麗に使っているのだな」


 薪を乗せた背板を卸しながら、トマソンが感心した様に呟く。この二週間で細かい補強をし、周りの雑草なども暇を見つけては抜いているので、一年以上放置されていた面影は大分薄れている。


 トマソンも見回りとかで時々この辺りに来ており、以前の様子を知っていたので素直に褒めてくれたようだ。


「間借りする身ですからね。借りた時より綺麗にして返さないと後が怖いんで」


 トマソンが置いた背板を小屋の入り口の横に運びながら、クリンは上機嫌で答える。確かに薪は半分近くが使い物にならなくされたが、その代わりに前の村では仕入れる事が出来なかった情報を仕入れる事が出来たので、内心ホクホクである。


 薪はもう一度集めれば良いだけだし、その対価として聞きたい事を聞き出せたと思えば十分収支は黒字だ。


「全く。つくづく子供らしくない考え方だな。もっこう、子供同士で遊びたい、とか、旨いものが食いたい、とか、そう言うのは無いのか? お金も大事だが子供は遊びから色々学ぶ事も大事だぞ?」

「ハハハハハハハハハ、素晴らしい大人の意見と言うヤツですね。で。僕がその子供の輪に入って行って、何か学べると思いますか? というか、入れると思います?」


 もっともな意見であるが、クリンは鼻で笑い飛ばして逆に聞く。


「この村の子供って他所からフラリとやって来て、親も居なくて農奴扱い受けていたよそ者と遊んでくれる程に優しい子達なんですかね。少なくとも僕の村の子供は石投げてきましたけれど。まぁ子供と言っても僕より一回り年上しかいませんでしたが」

「ええと……その……何かスマン。だが努力してみるのも良いと思うぞ?」


「そうですね。ですが所詮冬前には出て行く身です。その辺りは町に流れ着いてからでも出来そうなので、今はお金稼ぐ方が結局美味しい物も食べれて万々歳だと思っています」

「まぁその通りなのだろうが……何というかアレだな。君は泰然としていると言うか、悟り切っていると言うか……君は色々と物分かりが良過ぎる。もう少し子供らしい我儘を出してもいいのではないかな」


 やけに踏み込んでくるなぁ、とクリンは思う。どうせこの村で引き取って住人にする気など無いのだから、深く関わらなければいいのに、と言うのが彼の本音だ。なので、彼はコホンと咳払いした後に、


「オラ、くりん・ぼったー、ごさい!おじちゃん、おなかすいたー、オラ、ハンバーグがたべたいゾ!」


 前世で子供の頃にアニメの再放送で見た、永遠の五歳児の口調を真似て言って見る。その時初夏も近いのに真冬の様な冷たい風が吹いた気がした。


「……気持ち悪くないです? 僕が普通の子供みたいな事を言うの……」

「ああ、そうだな……うん、あれだ、ハンバーグが何か知らんが……君はそのままでいいかな、うむ」

 

 その後、何となく会話が無くなり、トマソンは運んで来た薪を一か所に纏めて置くと、そそくさと帰って行った。


 クリンは黙ったままそれを見送り——


「大丈夫、自分でもアレは無いわぁ、と思ったから。傷ついてなんてないさ……フン!」


 と暫く拗ねていたとかいなかったとか。




 そんなこんなが有りつつ、翌日からクリンは数日の間半日を仕事に当て、半日を薪集めに費やした。


 裏門担当の日が続いているのか、トマソンが見張りについており毎日大量の薪を拾い集めて来る少年に、


「そんなに集めてどうするんだ」

 と驚いていた。彼一人であるのならもう数十日分は集めているであろうが、これでもクリンにとってはまだ少なかった。


 それと言うのも、作りたい物が有ったのでどうしても大量に薪を必要としていたからだ。


 何とか目標量を集めたクリンは、また仕事を数日休む事にする。今回は予めトマソンや最近仕事を良くくれる様になった人達に休むと伝えておいたので、変な心配はされない筈である。勘ぐりはされるかもしれないが。




 クリンが作りたかった物、それは炭だ。鍛冶場を借りて色々作るにしても、先ずは作る為の道具、工具類が必要不可欠だ。


 鍛冶場にある物は鍛冶仕事用の道具なので木工や石工もしたい彼には足りない道具だらけであり作る必要がある。


 そして道具を作る為には材料が必要だ。鉄に関しては元の村の始末をする際、焼け跡から細かな鉄材を回収してきているので、何種類かの工具を作る分には足りる。


 そうなると次に必要なのが炭だ。拾ってきた鉄材は焼け跡から拾った物なので全て鈍らになっている。


 そのままでは使い物にならないので、一度加熱して焼き入れと焼きなましをする必要が有る。また成形するにも鍛造でやる予定なので、火床に使うための炭は必須となっている。


 勿論、鍛冶場に炭の在庫はあるのだが、小屋を借りる際に、道具は使っても良いが炭や鉄材などの燃料と材料には手を付けるな、と条件を付けられていた。どうしても欲しい時はお金を払って買い取る事に決められている。


 この村では炭は作っていない。昔は作って居たらしいが大分前に炭焼き職人が亡くなってしまい、それ以降は他所から買い付けている。なので炭は次に来る鍛冶師の為に残しておきたいそうなので、使うのなら金を払えと言う事らしい。


 しかし、炭は意外と高い。作るのに手間がかかって居るし税金もかけられている。従って薪を買うよりも断然高い。薪も税金が取られるのだが拾ってきた薪を幾つか納めれば済むので、森で拾ってくるクリンにとってはほぼタダだ。

 尚、税として支払う場合は門から入る時に見張りに取って来た薪を見せればそこから必要量が持っていかれる。


 以前の村には無いシステムであり、当初クリンは戸惑ったがこれ位の規模と収穫量のある村になれば、行商人による徴税ではなく直接徴税官が来るらしい。

 その為税金が結構かかるようになり、その辺は少し不便と言えば不便である。


 炭を買うほどのお金の無いクリンは自分で作るのが一番安くて速いので、自作する事にしたのだった。自作したら税金がかかるのでは、と思ったが村長に聞いてみた所、炭作りは製法が秘匿されて居て職人以外作り方を知らず、材料も指定された木で作る物らしく、その辺で拾ってきた適当な木で作った物は炭とは認められていないので「本当にそんな物が作れるのなら作っても違法ではない」との事だった。


 どうやら本当に作れるとは思われても居ない様なので、心置きなく作る事にした。


 実は炭作り自体はそんなに難しくはない。極端な話、地面に穴を掘り適当な木材を入れて土をかぶせて燃やせば良いだけだ。それだけで炭は出来る。


 しかし「高品質な炭」を作ろうと思ったら途端に難しくなる。炭にする木材を厳選して専用の窯を作り温度調節や湿度管理を徹底してやらないと、途中で割れたり崩れたり、完成しても燃えムラが出来て火力が安定しなかったりする。


 クリンが作ろうとしている炭は原始的な物であり、取り敢えず燃えて高温が出ればそれでいいので、崩れても割れても何の問題もない。


 安定して火力が出て長持ちするとか考えなければ、炭作り自体はそう難しい物では無いのだ。


 休みに決めた日は早朝から鍛冶場の裏に回り、そこには数日前から夜の空き時間にコツコツと掘っておいた穴があり、そこに枯れ枝を放り込み、焚き付けとして火を点け燃えてきたら薪を纏めて放り込む。


 火が薪に移り燃えて来るまで、その火を利用して、別に取っておいた長い枝を炙る。この枝も前の村から持ってきたナイフである程度削ってある。その長い枝を炎で炙って枝が柔らかくなったら曲げ、曲がりにくくなったら炙り、柔らかくなったら曲げるを繰り返す。


 要するにただ燃やすだけではもったいないから一緒に弓の加工もしてしまおうと言う算段だ。ただ、今回は弓だけではなく他にも使う予定だったので結構な本数を用意している。


 そうこうしている内に炎の色が変わりだし、良い感じに薪が燃えて来たので手早く手製シャベルモドキで上から土をかぶせる。これで一晩放っておけば黒炭になる。


 前世日本では縄文時代から行われている歴史の古い炭作りであり、備長炭だ白炭だと言わなければこのように結構簡単なのだ。時間が恐ろしくかかるが。


 勿論これだけで終わりではない。埋葬する時は時間を掛けたので大きく深く作れたが、今回は夜の限られた時間だけしか掘れていないし、あまり大きく穴を掘ると何か言われそうなので、そんなに大きな穴は掘っていない。


 代わりに三つほど掘って居る。


 三か所で炭を作れば、丁度集めた分は大部分が炭に出来そうなくらいのサイズになっている。流石に一遍にやったら手が回りそうにないので時間差で作る予定だ。


 同じ手順で火を熾し薪を入れ、二次利用で長枝を炙って曲げ、土を被せてを二回繰り返した頃には日は高く上り、前世で言えば二時か三時位の時刻だと思われた。


 後は冷めるまで一晩放置しておくだけなので、曲げた枝を持って小屋の前に戻る。


 まだ全部の加工が終わっていないので、外で燃やす用に石で囲った簡単な竈に残った焚き付け用の枯れ枝や薪を入れて火を作り、長枝の加工を続ける。


 前回の物と違いなるべく身が詰んだ丈夫な枝を選んだだけあり曲げるのに結構手間と時間が掛かっているのだ。その分丈夫な弓になると汗だくに成りながら弓の形に曲げていると——


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