第31話 二宮金次郎は実は体力お化けなのでは無いかと思う。
翌日。まだ昨日壊された弓の事を引き摺り落ち込んでいたが、門番二号ことマクエルに今日から仕事を再開すると言ってしまった手前、もう一日休んで新しい弓の材料集めをするわけにもいかず、気分を変えて普段通りに朝食後直ぐに村の中心の方へ移動する。
以前の村で培った「細かい事は気にしない」精神はココでも生きている。
中央部には、もう農作業に向かう住人が忙しそうにしている。その何人かに声を掛け、何か仕事が無いかを聞くのがこの二週間での定番の行動になっている。
今日受けた仕事は畑の草むしりである。雑草と言うのは直ぐに生えて来るので、畑で栽培している間はほぼ何時でもある仕事だ。
麻袋を渡され、それにペンペンに雑草を詰めれば銅貨六枚もらえる。しかし、袋はそれなりに大きく、また畑の雑草も頻繁に抜かれているのでそこまで大きい物は無い。袋を一杯にしようとしたら結構な面積の雑草を取らないとならない。小さな雑草は抜きにくく時間が掛かるのだが、クリンには秘策がある。
「てれれてってれ~っ、草抜き器ぃ~っ! コレで小さい雑草も楽々だぁっ!!」
少年が取り出したのは、少し太目の丈夫な枝に、先端には三本の釘を三角の頂点にそれぞれ配置したような形に木皮紐でグルグルと括り付けた様な物だった。
釘は元の村から廃材の中から拾い、幾つかの鉄片と共に持ってきた物で、前世で主流の物では無く四角くて太い物だった。
この釘の部分を雑草の根元に突き刺しグリグリと捻じって引き抜けば、しゃがむ事無く簡単に雑草を根から引っこ抜ける。
ぶっちゃけ前世の深夜通販番組で見かけた便利グッズのパク……オマージュである。構造自体が単純なので簡単に作れて使い易い。壊れても修理が簡単という優れモノである。雑木と廃釘製なので。
尚、取り出したと言ったが、実際は最初から手に持っていただけである。この時期に一番多い雑用なので、どうせ使うだろうと思って持って来ていただけで、単に少年がクラフターとして一度は言って見たかっただけである。
その雑草抜きを使いザクザクと雑草を抜いて行き、根に付いた土を払って麻袋に詰めていく。小さい雑草ばかりとは言えそこは文明(前世)の利器(パクリ)。数本重ねて取る事も可能なので効率は非常にいい。三時間程で袋一つ一杯になり、少し休憩してからもう一袋を一杯にしても、まだ昼下がりと言った時間に終わる。
コレで銅貨十二枚、クリンの感覚で百二十円。ハッキリ言って安い。だが仕事内容的に出せるのはこれ位だと言われているのでそこは仕方がない。いつもならもう一袋分頑張る所だが今日はコレで終わりにする。
昨日立てた予定通り、鍛冶場辺りの事を色々とやるつもりだ。依頼した農夫の元に雑草を詰めた麻袋を持っていき、仕事の終わりを告げる。
「おお、随分手際が良いんだな。こんな時間でもう二袋か。ほれ、今日のお駄賃だ」
その言葉と共に銅貨を渡される。
『やっぱりこの人達には仕事の賃金じゃなくてお駄賃扱い何だよなぁ』
受け取った銅貨を皮袋に入れて懐に仕舞いつつ、クリンは内心思う。大人が同じ量を取って居たらもう少し高い筈だが、どうにもココの人達は子供相手なら仕事ではない、的な感覚で居る様で、あくまでもお駄賃以上のお金は払ってくれなかった。
もっとも、もう少し値段が高くても大人ならこんなあんな小さい雑草を抜く程度の仕事を受けようとは思わないだろうから、結局子供のお仕事でしかないのだが。
まぁいいさ、長くいるつもりは無いんだし、と心の中で呟き畑を後にする。一旦小屋に戻り雑草抜きを仕舞うと小屋に置いておいたナイフと木鉄剣を腰に差す。弓が壊されたので狩りをする気は無いが、一応森に行くので護身のためだ。
この村には門が三つあり、最初にクリンが通って来た街道に面した正門と、畑に向かう横門、そしてこちらも畑があるが、主にその先にある森へ向かうための裏門だ。
今クリンが向かっているのはその裏門である。以前の村と違いこの村は畑面積が大きく村を畑がグルリと囲んでいる形なので、森に行くまでに結構あるかねばならない。大人なら数分で着くらしいが、今のクリンだと一五分位かかる。
この村に住む様になってから何度か行った事があるが、仕事が終わってからだったので森の周辺で燃やせそうな木を拾っただけで、本格的に薪拾いをしようと思っている。
その森に向かうために裏門に行ったのだが、そこには門番一号ことトマソンが見張りをしていた。
「お、話通りにお手伝いを再開したんだな。ん? にしちゃぁ少し早くないか?」
「こんにちはトマソンさん。暫くは色々と住処関係の作業をしたいので、早めに切り上げる事にしたんですよ。今日は手始めに森で薪を拾ってくるつもりです。というか、毎回同じ所で門番している訳じゃないんですね」
「おう。持ち回りで十日間隔で持ち場が変わる決まりなんだ。飽き……慣れておざなりになるとマズいからな」
「ああなる程。同じ場所ばかりだと飽きるんですね。集中力を切らさないためには良いと思います」
「言葉濁したんだからソコは気が付かないフリしてスルーしろよ。まぁ、気を付けて行って来い。余り奥まで行くなよ? 浅い所は間引いているから大体安全だが、奥は数が少ないが一応魔物も出て来るからな。あ、自生している山菜とかキノコとかに手出すなよ? お前の村の森とは植生が違うかも知れないから、下手に食ったら大変だからな?」
クリンは内心『アンタは僕のオカンかっ!』と突っ込んでいたが、口では素直に、
「ありがとうございます。で入って来ます」
と言って頭を下げた後、森へ向かった。
森についてからは先ず丈夫そうな枝と、同じく丈夫そうな蔓を探した。何度か来た時に見回した結果、元の村の森と植生も環境も変わりないように見えた。
「食えそうな物は大体同じだからトマソンさんの心配は無用なんだよね実は」
あの森で、二年間かけてどれが食えてどれが食えないか大体試してある。完璧に判断できる訳では無いが、植物なら大体口に含んでみて、舌がピリピリしたり歯茎がキシキシしたり妙な苦味やエグ味が無ければ大体食える。まぁそれでも毒を持つ物もあるが、大体は何かしらの違和感があるのでその場合は飲み込まずに吐き捨てれば何とかなっていた。
「まぁ海外ニキの受け売りだけどね。ホントあのサイトのお陰で助かっているわ~って、今回は食い物じゃないんだよね。今回は薪だよ薪!」
そう独り言を言いつつ、しっかりしていて丈夫そうな枝を二本と短めの枝数本。そして前の村では見なかった少し太目の蔓草をナイフで適当な長さに切り葉を落とす。
以前も作っていた簡易ラック作りだ。これまでと違い、隠れて使う必要が無いので今回は前の物よりも大き目、丈夫な作りにする。
L字の骨組みを作るのは同じだが、今回は背負い紐を蔓で作り背負子にするので、背中に当たる部分に補強用の枝を幾つか通す。
前までは其の日の内に崩していたので数時間持てばいい程度に割り切っていたが、今回は数日続けて使えそうな程度に丈夫に作っている。蔓草で編む様に枝を固定し蔓が枯れれば絞まってより頑丈になる様に固定していく。
手慣れた物で、丈夫に作っても数分で完成させてしまう。
「うん、やっぱこの位は丈夫に作らないとね。満足では無いがいい出来だ!」
これまでは見つかってもすぐ壊せるようにかなり大雑把に作っていたので、実は何気にフラストレーションがたまっていたのだ。道具と言うのなら丈夫さも重要である。ソコをあえて捨てて来たのは苦痛でしか無く、ようやく実用に耐えうる物を作れて自画自賛してしまうのも無理はないと言う物だろう。
完成した薪担ぎ、所謂背板——二宮金次郎が背負っているアレ——を満足そうに眺めた後、それを一旦木下の見やすい所に置き、森の浅い所で薪拾いをしていく。丈夫な背板を作れたので前の村で取っていた薪よりも太い物を選び拾い集めて行く。
この辺りは他の人も結構拾いに来るのか少し探すのに時間が掛かったが、やがて背板一杯に薪が積み上がる。積み上がった薪は残しておいた蔓草でギッチリと絞めて括り付ける。
「よし、と……おお、重っ!! ちょっと一度に欲張りすぎたかなぁ? あとこの肩紐も少し細くしすぎたかな。この量になるとちょっと痛いな。ま、持てなくはないか」
五歳の体なので量的にはそれ程ではないのだが、この体には十分重い。少し後悔しながらもえっちらおっちらと来た道を戻る。重量の為に戻るのには二十分以上かかってしまう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます