第29話 門番二号襲来。
「ま、そんな訳で色々作るにしても、先ずは道具とココの設備を使える様にしたいんですよ。鍛冶場だから鍛冶道具はあっても裁縫用具とか木工用具とかは無いですからねぇ」
「まぁ、金が無いなら作るしかないと言うのは理屈で分かるが……五歳の考える事かね? しかし、それにしてもやっぱり器用だよな、お前」
話を続けながらも油を切った道具の錆を落とし拭って綺麗にしていく少年に、マクエルは素直に感心の声を上げた。
「そういや村に来た時に、奇妙な形の弓を持って居たよな。アレも手製か?」
「ああ、アレですか?勿論です。急に村が全滅しましたからね。弓の一つでも無いと何処に行くにも不安でしたし、適当に拾った枝木をナイフで削って作ったんですよ」
「適当ってお前な……猟師の連中とかは確かに子供の時から自分で作る奴いるけどよ、それでもお前位の歳で自作する奴は居ないだろよ」
「そう言われても、必要なら作るしか無いでしょ。で、作ってみた物の材料を厳選していなかったせいか威力が弱くて。作り直すにしても時間を掛けたくなかったので。一本で弱いなら二本くっ付けたら強くなるかなと思ってやってみたんですよ」
「やってみたってお前……本当に使えるのかそれ?」
「何なら試してみます? 向こうの小屋の方に置いてあるんで持って来ますよ」
クリンは磨く手を止めると、よっこいせ、と爺臭い掛け声と共に立ち上がり小屋への扉を潜って中に引っ込むと、手に件の弓を持って戻って来る。もう片方の手には何本かの矢も持って来ている。
「どうぞ。弦は張っていないけど付け方わかります?」
「わかんね。どうなってんだこれ?」
)( の形をした弓など見るのは初めてのマクエルは当然やり方が分からず、仕方なくクリンが弦の張り方を教える。
「先に小さい方の弓の弦を大きい方の
「ああ、小さい方の弦は反対側から弓を引っ張るって訳か。成程、考えたな……」
弦を張り終えた弓を見て、マクエルは思わずうなる。弓の作り自体は甘い。雑だしその辺の枝を拾って曲げただけにしか見えないし、弦に使っているのもその辺の木の皮を編んだ簡素なものだ。耐久力もそんなになさそうに見える。
そして二本の弓を弦にも使っている木皮紐で強引に括り付けているので、少年用のサイズとは言え大人のマクエルでもやや持ちにくい。
「確かに如何にも間に合わせって感じだな……お? 雑木で作ったにしては結構張力あるんじゃないか、これ?」
試しに弦を引いてみた所、見た目に反して結構な重さがあった事に驚きの声を揚げる。クリンに合わせたサイズなのでマクエルはには小さいし細い弓だが、返って来た手応えは十分に威力が出そうな予感をさせる。
「一応、矢も持ってきましたけど……撃ってみます?」
「おう。何か面白くなってきたなっ! ……って、何だ鏃は石かコレ?矢羽根はただの葉っぱじゃないか!?」
「そりゃそうです。焼き払われた村からかき集めた材料ででっち上げたんですから、鉄の鏃とか鳥の羽なんてある訳ないです。無いよりマシです。飛んで刺さればそれでいいんです」
所詮は間に合わせである。そこまでの物は求めないで貰いたいと言うのがクリンの本音である。そして、現状これで狩りも出来ているので今はそれで十分なのだ。
しかしマクエルの方は、流石にここまで大雑把な弓を矢を扱った事はない。半信半疑で矢を番え、水路の向こうにある林の木を標的に弓を引く。距離は三十メートル切る位か。
ブンッと意外と重い音を上げ矢が放たれ、少々浅いが確かに矢が幹に突き刺さる。
「おお、流石! まさか一発で当てられるとはっ……!!」
普通の弓よりも若干癖があるので、割と扱いにくい筈だが見事に命中させたマクエルに思わず拍手をするクリン。しかし当てた方のマクエルが余計に驚いていた。
「おいおい、こんな雑な弓と矢で本当に飛んで当たったぞ……しかも何だこの威力。子供用の小さい弓で、しかも鏃が石だぞ……何で刺さってんだよ」
「それがその形状の強みですね。小さい弓が反対方向の張力を発揮させる分、普通の弓よりも強くなります。でも僕だとあの距離は無理かなぁ。飛ばせても刺さりそうも無いや。流石門番。面目躍如って所ですか?」
「いやまぁ、余り門番は関係ないな。この弓のこの構造、君が考えて作ったのか?」
「あ、作ったのは僕ですけれども構造を考えたのは違います。前に話した、本物のクリンさんが住んでいたボッター村に、こんな形の弓があると聞いていたので再現しただけです」
前世で作った人が居たのをパクった、とは流石に言えないので今回もすべての元凶はボッター村と言う事にする。困ったときのボッター村のクリン、マジ最強である。
「それで作れるのは凄ぇな……これ、弦とか普通の弓用の使えばもっと強くなるんじゃないのか?」
「なると思いますよ。ただそうすると僕には扱いきれなくなるかと。現状その弓でも僕の今の筋力では完全に引き切れませんし」
「成程……確かに今でこの強さならそうなるか……なぁ、これ普通に武器としても使えるんじゃないか? こんな雑木でこれならちゃんと加工した材料で作ればもっと威力出るんだろ?」
マクエルは何度か空撃ちして弓の具合を確かめながら聞く。ちゃんと作れば村の装備品として十分使えそうに思ったからだ。だが、クリンは渋い顔で横に振る。
「う~ん。どうでしょう? 威力は出ると思いますが、結局普通の弓の方が総合的に良いと思いますよ。」
「なんでだよ? コレでこの威力が出せるなら、ちゃんと作れば十分役立つだろ?」
「使ってみて解ると思いますが、弓を二個付けている関係上持ち手に厚みが出てとても握り難いです。そして単純に二倍の重さになるので疲れやすいです」
「ああ……うん、確かに持ちにくいし重いわな。だが……」
「そしてその形状なので場所も取りますし、狩りで持って移動するのに邪魔になります。何より一番の難点は、その弓の特性上引き絞って狙いをつけての保持がほぼ出来ません」
言われてマクエルは弦を引いて保持しようとしたが、成程確かに張力が強く直ぐに指から弦が離れてしまう。
「反対方向の張力が強いので、引いたままの保持がし難いんですよ。小型に作っても弓二個分ですから威力が出るのは魅力ですが、横に小さく作れても結局前に長くなるのですからソコまで有用でもないです。狩りだと結局邪魔でしょう。有効射程距離なんて鉄の鏃でも二十メートルもあれば御の字じゃないですかね。それ以上だと保持出来ない事が響いて来るはずですよ」
「お前、自分で作った物に全力でダメ出しするのな……なら何でこんな形の弓なんて作ったんだ?」
「その弓作ったのが村が焼き払われた直後で、身を守る物を急遽作る必要が有ったからですよ。道具も材料も全部焼けちゃってたんで、こうでもしなきゃマトモな威力が出せる弓が作れなかった、
「成程なぁ……言われてみれば確かにその通りかもなぁ。しかし勿体ないな、使ってみたら結構面白い弓だと思うんだがなぁ」
「面白いは面白いですよ。力が弱くても威力出せるし、保持が出来ない代わりに連射には向いていますから。僕の体格で狩れる獲物だと小型になるので、そういうのを狩る時には向いています。後、狙いを付けずに速射するにも向いていますから、遊びとして気晴らしに打ちまくるのには持って来いですよ」
そんな事を言いだすクリンに、マクエルは思わず破顔する。この世界ではまだ娯楽と言う物はあまりなく、また弓は狩りの道具か武器として使用する物と言う考え方に固執していたので、遊びで弓を撃つと言う発想が無かったのだ。
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