第28話 ありがとう、Mr.フルモンティ!! でももう少し配慮して欲しかった。
HTWと言うゲームでは、炉自体は作れるが初期の物は最初から配置されていて作り方は出てこない。流石にそんな原始的な物まではカバーしていなかった。
「いやぁあの海外ニキには感謝だねぇ。体一つでサバイバル、とか言って初動画が本当に何も持たずにフル〇ンモザイクのマッパで出て来た時はビビったけど、あの人が裸一貫手ぶらで道具作りから始めてくれたお陰で物凄く参考になったし」
その動画は現代文明に何一つ頼らずに一からサバイバルで作り上げていく事を売りにした動画で、初投稿時は本当に文明的な物は何一つ身に付けない、完璧な裸体でどこかの奥地の藪を掻き分け登場した。
その姿は正に漢。当時のクリンはそう感じてしまった。意外と闇深い少年である。
そして食べ物の探し方から狩りの仕方、身近な物で土器の作り方を見せただけでなく、その辺の石を削ってナイフを作り、木の繊維から衣類を作り裸族を卒業し、手作りして家まで作り、果ては泥で炉を作り、砂鉄を集めて製鉄までして見せた。
旧石器時代の人間がどのように文明を築いて行ったのかを見せつけるようなその動画の作りに、海外では大バズりした動画である。
尚、クリンの記憶にあるそのサイトの最新動画は、開墾して小さい畑を作り麦を栽培して、手製の小型水車で脱穀と製粉する所まで文明が来ていた。
一体あの人は何を目指しているか、と思わないでもないクリンである。其の内石油でも掘り当てて産業革命でも起こすのではないかと言う勢いであった。
最もその動画を視聴していたのは入院中で、モザイク有りだがマッパの厳つい外人が野山を走り回りサバイバルしている様子をマジマジとみている所を見回りに来た看護婦さんに目撃され、ホ〇疑惑が持ち上がってしまったのだが。
「前からはモザイクしてたけど後ろからは見えないからってモザイク無かったしなぁ。無駄にプリケツさらしてフリフリしてたからなぁあのニキ……」
あそこだけ見れば、確かに裸族の白人兄貴がケツ見せているだけの動画に見えただろう。後に普通……では無ないが、ただのサバイバル動画サイトであると説明して誤解を解いたのは今では……否、今でも苦が酸っぱい消したい思い出である。
そんな少年の心を抉る過去を思い出しつつ、火床を成形し、泥を盛った所で日が大分傾いてきたので、そこで作業を終わらせる。後は乾かすだけなのでキリが良かった。
小屋に戻り何時もの様にライ麦粥を作で夕飯を済ませるとサッサと寝る。この村でもやはり日が暮れると寝て、日が昇る少し前に起きるのが普通の様だ。
因みに、まだ一日何時間なのかは分かっていない。この辺りは以前の村と同じで、ほぼ農民しかいない村では、仕事が決まっていて一日のサイクルは同じであり、特に時間を知った所で意味は無いので誰も気にしていない。朝、昼、夜さえ判ればそれでいいので、この村にファンタジー小説によくある様な時間を知らせる鐘が鳴る事は無い。
前の村などもっと酷い。明るいか暗いか、それだけで朝昼夜と言う考え方が通じない。太陽が昇ってきたら起きる、傾いて沈み掛けたら仕事を止める。暗くなったら寝る。それだけである。大らかと言えば大らかなのが地方の村である。
翌朝、いつもの様に夜明け少し前に起きだし、火を熾して小枝に移し、松明代わりにして隣の作業場に向かう。この小屋にもランプやロウソクの様な物は無く、火床に小枝を適当に放り込んで持っていた枝で火を移す。
一晩では完全に乾いてはいないが、こうやって火を付けておけば自然に乾く。そう割り切り囲炉裏代わりに火を点けた。
その薄暗い灯りを頼りに保管してあった油を桶に入れ、その中に錆が浮いた道具を放り込む。今回は柄木は其のままだ。何れ交換する予定だが今はまだ時間が掛かりそうなので簡単に済ませる事にしている。
本当は昨日の内に油に漬けておきたかったのだが疲れてしまったので後回しにしていた。
一通り放り込み終わると外に出て、水路の向こうの、恐らく防音壁と干渉地を兼ねているであろう林で薪に出来そうな小枝を拾う。
本格的な薪拾いは村の外に出る必要があるので、朝は大体この林で拾っている。
拾い終わってその小枝を燃やして朝食を作る頃にはすっかり日は昇り、食後の休憩を取ってから再び鍛冶場に向かう。
外は明るくとも作業場は暗いので窓を開け搬入口も開け放つ。多少は明るくなった作業場で少年は油に漬けておいた道具類を引き上げて壁際にたてかけ油を切る。
鍛冶場にあったササクレが目立つ皮で、油が切れた道具類を擦っていく。これで結構錆が落ちるのだ。錆が酷い場合は前世なら紙鑢でこするのだが、無いので砂で擦って錆を落とす。鍛冶場なので金鑢はあるのだが肝心のそれも錆びているので仕方ない。
だが、亡くなった鍛冶師は結構道具を大事に扱っていたらしく、そこまで激しく錆びた物が無いので、砂で擦る必要は殆ど無く皮で擦るだけで錆びは大分落ちる。
錆が落ちたら残っていた油をボロキレで拭えば取り敢えずの錆び落としの終了である。数があるので結構時間が掛かりそうだが、少年はこういうチマチマした作業も嫌いではない。クラフトゲーム好きには寧ろご褒美である。
そうやって暫く鼻歌交じりに錆び落としと磨きを掛けていると、搬入口から、
「お、何だ居るじゃないか。何やら随分と楽しそうだな」
そう声を掛けて来たのはクリン命名の門番ズ、その片割れのマクエルだ。実際はコンビではなく、単に持ち回りで交代しているのだが、最初に二人が出て来たのでクリンの中ではトマソンとマクエルはセット扱いになっている。
「おや。おはようございますマクエルさん。こんな所にどうしたんです? 今日は非番ですか?」
「おはよう。もうすぐ昼だけどな。お、それは鍛冶場の道具か? なんだ、道具磨きしていたのか……って、おおっ? 中も結構綺麗になってないかこれっ!?」
「来年には新しい鍛冶師が来るそうですからね。短い間だけど僕が住んでいた間に鍛冶場が汚れた! とかなるのはシャクなので掃除をしていたんですよ。で、何か御用です?」
「いやほら、お前ってこの村に来てから毎日どこかで仕事して駄賃せびっていただろ?それが昨日急に姿を見せず、今日も来ない物だからトマソンの奴が心配してな。持ち場離れられないってんで仕事が終わったオレが様子を見に来たって訳よ」
お前(勿論発音は違う)と言う言葉に、思わずピクリと反応してしまうクリン。ずっとそれが己の名前だと思ってきたので、どうしても反応してしまうのは仕方がない。軽く肩を竦め、
「せびるって、酷いですねえ。お仕事して対価を貰うのが最初からの約束ですし」
少年の事情を知っているマクエルはそんな少年の様子に特に言及すること無く、笑い飛ばして見せる。
「ははは、悪い悪い。でも毎日仕事していたのに急に来なくなったら、トマソンじゃなくても心配するって物だろう?」
「ああ、それは悪い事をしました。皆さんのお陰で、食料も備蓄できる程度にはなりましたから、良い機会なので昨日と今日を鍛冶場の掃除と手入れに当てたんですよ。今日中に大まかに終わらせて明日からまたお仕事を貰いに行く予定ですよ」
「あの程度で今更疲れる訳ありませんし」と言いながらも手を止めず、道具を磨き続けるクリン。実際、前の村よりも仕事量は少なく、加えてちゃんとした食事も摂れているので少年的にはまだまだ余裕だ。
実際に村にいた時の様な疲れて
本気で何でもない事のように言う彼に、マクエルは感心したように頷く。
「分かった。トマソンには俺から伝えておくわ。しかし……話には聞いていたが、本当に器用なガキだなぁ。妙に手際も良いしよ」
「この辺りはゲームでも……ゴホンッ! 以前からやっていた作業ですしね。道具はちゃんとしておかないといざ使う時に怖いですし」
「本当に使えるのか? てか使う気で磨いているのかよ」
「はい。今は掃除で手一杯ですが、もう少し落ち着いたら、村から出て行く時に必要になりそうな道具を作りためておこうかと。後は衣類とかもそうですね。村長の衣類をくすねて仕立て直したので、僕的には一番いい一張羅のつもりなんですが」
「どこがだよ。どう見てもボロ布だろ? 町にいる浮浪者の方が余程綺麗な恰好しているぞ」
「門番一号と村長にも似た事言われましたよそれ。なので布も織って服を作らなきゃだし、結構時間カツカツで仕事ばかりしていられないんですよね」
「一号って……もしかして二号は俺かよっ! って、え? 布を織るって、何お前糸から自作する気!? 買えよその位!!」
マクエルが呆れた様に言うのをクリンは鼻で笑い飛ばす。
「嫌ですよ。見たらこの服の生地に毛が生えた程度の布地が銀貨二十枚とか言うんですよ?あんなの手が出る訳ないじゃないですか。中古の服だと四十枚だの五十枚だの。お駄賃で貰えるのは銅貨五枚とか十ですから、買うなんて無理無理」
文明が十分に発達していない世界だと往々にして衣類と言うのは高級品である。前世でも産業革命以前の衣類は現代の自動車並みの値段がすると言われている位だ。
勿論、それはちゃんとした衣類の話だ。しかし、安い庶民の服でも生地だけで現代の三万とか四万とかの値段が付き、完成品は中古のボロい服でも四、五万の値段が付いて居たりする。
「だからって作るって発想にいくか普通? ていうか作り方知っているポイ口調が恐ろしいぜ。そんな五歳児見たた事無いわっ!」
「目の前に居るので諦めて下さい。勿論作り方は知っていますよ。前の村では何もしてくれない癖に色々要求してく変人ばかりだったんで、色々出来ないと生きていけなかっただけです」
正確にはゲームでの作成経験と裸族ニキの動画のお陰で作れるだけだが。
「全く、聞けば聞く程どんな村だよって思うよなぁ。良く生きて来たよなお前」
それは本当にそうだと思うクリンである。ちゃんとした物は作れていないが、それでも色々と隠れて作って居なければ生きていないだろうと自覚していた。
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