第27話 そして幼児は動き出す。

さぁ、いよいよクリン君が本性を現し出します(笑)


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「うんうん、体力的に余裕も出来て来たな。これならそろそろ仕事減らして鍛冶場の掃除を始めるかな」


 毎日ちゃんと食事が摂れると言う事は素晴らしく、この僅かの間で以前とは比べ物にならない位に体が動く様になっていた。


 最も、それでも平均的な五歳児に比べればやはり体力はまだまだ落ちる。二週間ずっと働き詰めであったので疲れもたまっているし、休息を兼ねて今日と明日の二日を鍛冶場の掃除に当てる事にする。


 結局体は動かしているので休息になっていないと思わないでも無いが、待ち望んでいたスキル上げの機会、その為の場所を使える様にする事は少年にとってとても楽しい事でもあった。そういう意味では気分転換にはなるのであろう。


 鍛冶場はクリン少年が住んでいる小屋に併設されており、扉一枚で繋がっていた。扉をくぐると作業場は地面むきだしになっており、広さは結構ある。前世の感覚で言えば十五畳位はありそうだ。


 一人で作業していたにしては広いが、恐らくは元は数人で作業する予定で建てられているのだろう。明り取りの窓は小さく数が少なく全体に薄暗い。


「おお、やっぱり雰囲気あるなぁ。如何にも鍛冶場って感じで良いね!」


 金属を加工する際、その温度を炎の色や加熱された金属の色で判断する為、鍛冶場と言うのは基本窓が少なく、その窓も塞いで暗くできる様に作られている物なので、この薄暗さはクリンに何とも言えない高揚感を覚えさせる。


 作業場の中の方に進みながらキョロキョロと辺りを見渡す。先ず目に付いたのは壁際にあるそこだけ石で囲まれた、ここが鍛冶場である証明、転生してからクリン少年が欲しくて仕方の無かった物——火床ほどだ。剥き出しの地面を少し掘り下げる形で窪みが掘られその周囲と、壁が木造な為に耐火としてか壁が石を積み上げて補強してある。


「おお、囲のしていない平炉かぁ……懐かしい。HWでも初期の火床はこのタイプだったよなぁ、確か。いやぁ予想はしていたけれどもやっぱり原始的だねぇ」


 鍛造に使われる、最も簡素で原始的な作りの炉にクリンは感慨深気に呟く。前世でも簡単な作りの為に管理が楽なので、大量生産をしない鍛冶屋だと現在でもこのタイプの炉を使っている鍛冶屋もある。最も、それでも周囲を石壁などで囲い熱効率を高めているのが通常だ。平炉のままと言うのは結構珍しい。と言うよりも古い。


 何より、異世界でも炉の構造は前世やゲームとほぼ同じ事に安堵し、同時に面白みを感じてじっくりと観察する。


 その火床は鍛冶師が死んだ後に誰かが片付けたのか、炭の欠片はおろか灰やノロなどもサッパリと取り除かれており綺麗になっていた。


 と言うよりも、良く知らない人がやったのであろう。鞴を使って風を送っていたであろう穴も綺麗に潰れていて管も引き抜かれて壁に立て掛けてあった。


「あーあ、こりゃ駄目だね。誰だか知らないけれど余計な事をして……新しい鍛冶師が着たらブチ切れるんじゃないかな」


 炉と言うのは綺麗にすればいい物でも無い。鍛造用の炉でもノロ(鉄を作る時に出て来る不純物の事)はどうしても出る。それを集めやすい形に底を形成する物であり、燃料にする炭の溜り方も計算して作られているので、良く分からないままに炉を片付けると後が大変なのである。ましてや送風用の管を抜くなど暴挙である。


「まぁでも、管も結構傷んでいるし交換時期でもあったのかもねぇ。仕方ない、少し手間だけど火床の成形から……って、おお?」


 少し離れた所に、レンガで作られたと思しき壺の様な物を見つける。結構大きく少年の身長よりも高い。近くには踏み台も置いて有る。壺の後ろには簡素ながらも足踏み式の鞴の様な物も見える。


「もしかして……おお、やはり鋳造用の炉だよ!こっちは結構手が入っているなぁ……そうか、この世界でも西洋圏と同じで鋳造が主流なのか。やっぱりこの炉も、構造は向こう前世と殆ど同じなんだなぁ」


 ゲームでもお馴染みの設備であるため、一目で何の設備か見て取る。大きく見えるが鋳造用の炉としてはこれでも小型の部類である。大きい物なら一つの建物が丸々鋳造用の炉であってもおかしくはない。


 人口が多いとは言えたかだか百数十人しかいない田舎の村なので、この位の炉で用をなしているのだろう。


「成程ねぇ……元々こっちの方がメインで使っていて、あっちの平炉は補助か修理の時位しか使っていなかったんだろうなぁ。だからあんな簡素な物で十分だったのか」


 鋳造は型を作ってそこに溶かした鉄を流し込めば同じ物が幾つも作れる為、大量生産に向いている。この村だと鋤や鍬の刃先などを作ってストックしておけば、一々炉を使う必要が無く、燃料である炭の消費量も減らせるので年に数回炉に火を入れるだけで済む。平炉だと一つ一つ作らねばならないので燃料が嵩む。


 その為燃料となる木材の調達が容易では無い地域では鍛造よりも鋳造の方が主流になっている。その辺りは前世も同じである。


 設備を見ただけでその地域性や技術レベルも察する事が出来ている辺り、ゲームの知識も中々に侮れない。最も「あのゲーム」に関してはそれだけでは無いが。


 鋳造炉を観察し、少し外面にヒビがあったり鞴の踏み板が割れて居たり紐にカビが生えて腐りかけたりしていたりしたりと、細かい補修は必要に見えた。


 だが当面はこの炉を使う気は無いので、簡単な補修で留めようと計画を立てる。鋳造と言うのは結構体力が要るのだ。そして大量に作れるので大量に材料も燃料も必要になる。


 流石に五歳の今の身体でそれらの作業を一人で擦る事は出来ない。材料は鉄なので重くて投入口まで踏み台を使っても運びきれそうにない。

何よりも燃料の炭が賄いきれそうにない。この世界での値段はまだ知らないが——

炭は薪よりも高いのだ。


 色々と見回った結果、それなりの量の炭は備蓄されていたが、炉のサイズ的に一回鋳造したらほぼ残らない量だった。


つまり使い切ったら買い足さねばならない。しかしそんな金など——なくは無いが——今は使いたくない。それに農具など修理しながら使う物なので早々買い替えられない。


 作った所で恐らく売れない。もっと言ってしまえば実績の無い子供が作った鐵具てつぐなど信用が無いだろう。来年になれば新しい鍛冶屋が来るのだから尚更だ。


 なので、当面は使うのは平炉の方だ。こちらも炭は沢山使うが溶かす事を考えなければ、必要な物を鍛造する程度なら十分賄えるだろう。


 その後も鍛冶場の中を見て回る。仕事に使う道具は一通りそろってはいたが、一年以上放置されていた為に錆が浮き始めていたし、持ち手の木材は割れてきていたし、鞴などに使われている皮素材も割れが見える。


 道具と言うのは適切な保管をせずに放置しておくと意外と傷みやすい物である。殆ど全てと言って良い程、道具の手入れが必須に少年の目には映っている。


「う~ん、コレは中々先が思いやられるね……とりあえず、溜まっている埃を何とかする所から始めますかねぇ」


 一旦小屋に戻り、部屋の掃除にも使った手製の箒を持ち出し、鍛冶場の中を掃除する。搬出にも使っていたであろう大扉をあけ放ち、埃や壁に付いて居た煤などを外へ追いやり水路で水を汲んでボロ布で道具類に付いた埃や汚れを拭き取る。




 それが終わると火床の底を作業場内にあったスコップで掘り起こし形を整えると、同じく作業場にあった木の桶とスコップをもって外に出て、適当な場所を掘り粘り気のある土を掘り起こし桶に入れる。


 その土を作業場に持ち帰り一回り大きい桶に移し替え、それを数度繰り返す。量が必要と言うよりも単純にクリンの身体が小さいので一度に運べる量が少なかっただけである。


 本当は篩にでも掛けたいところだが無いので、諦めてそのまま水路から汲んだ水を掛けて土を練る。粘り気が強くなったらその土、と言うか泥を火床の底に塗りたくり、緩く傾斜を付けて成形する。


 残った泥は火床の周りを囲む様に盛り上げて塗り付ける。途中で風を送る為の管を通し、更に泥を盛り上げる。前の鍛冶師は石を積んでいたが、彼が知っているやり方は泥を積み上げる方法だったのでこちらにした。コレも前世のサバイバルサイトで調べた方法である。


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