第3話 神様は色々ぶっちゃける。

「まぁ、創造神相手に嘘とか考えるだけ無駄って事か……」

「うん?私は別に創造神ではないよ。君の世界で言うと時と空を司る神。……そうだね、時空神と言った所だね」

「え?でもさっき『私の世界』って言っていたと思うけど……」


「ああ。確かに私が最高神であるので私の世界と言ったけど別に私が創造した訳では無いよ。アレ? 君はこの手の知識豊富じゃなかったかい? 君の世界のお話でも、幾つかの例外を除いて大体は世界を作る神と世界を維持する神は別の筈だけれども」


 言われてみれば、と思う。ギリシャ神話だって世界の始まりはガイアと言う神だし日本神話でもイザナギイザナミが作ったのは日本と言う島だけであり、世界を作ったのはその前に現れては消え現れては消える良く分からない神々だ。創造神と言うのは一神教でも無ければ大体世界を作ったらそこで別の神を作り出すか力を失うかする神話が大部分である。


「まぁ、世界を創造するというのはそれだけエネルギーが必要だと言う事だね。作り出すだけで存在が消えたりする事もあれば力の大部分を消費してしまう。だから私の世界だけでなく、世界を作る神と世界を管理する神は別である事の方が多いね」


 セルヴァンの説明に、なる程そういう物なのか、神話もあながち空想と言う訳でもないんだなぁ、と彼は頷く。


「でも管理、なんですね。支配とかじゃなくて」

「ああ、うん……まぁ、その辺りは言葉遊びみたいになってしまうかな。神と言っても何でも好き放題出来る訳では無くてね。神には神の制約、ルールみたいなものが結構あるんだよ。世界を治めているから支配と言えなくもないけれども、どちらかと言えばやっている事は管理人に近いね。観察者と言い換えても良いかも知れない」


 セルヴァンによると地球の宗教に出てくるような全知全能で唯一絶対の存在では無いらしい。そもそも唯一であるのなら世界はそれで完結するのだから生命など必要無くなってしまう、との事。


「そんな感じで、私は君から見たら異世界で管理人の代表たる主神をやっている訳なんだけど。その世界はまだ若くてね。と言っても人類誕生から30万年は経ってっているんだけどね。しかし地球と比べてしまうとやはりまだ幼い。つまり私もまだまだ若造って事なのさ」


「はぁ……」

「とは言っても向こうの世界でも地上に文明を築ける程度のレベルはあってね。若いからこれからドンドンと成長して行く——と言うのが本来なんだけどね。どういう訳か、ここ少しの間その成長が遅くてね。地上の文明の発達速度が最近停滞気味なのさ」


 ハァ、と少々ワザとらしい感じでため息を吐き、


「管理しているこちらとしても余りにも何もないと退屈……オホンッ!何かテコ入れしないともう少しの間、そうだね後一千年位はこのまま大した成長も無く行きそうなのだよね」


「退屈って言っちゃったよ!って少しが千年? 神様気が長すぎじゃない!?」

「そりゃぁ、神様なんてやってたら億単位の時間は普通に経験するからね。人間とはどうしてもタイムスパンは長くなるさ」


「はぁ……そんな物なんだ?」

「そんな物だよ。ただ、流石に千年はそれなりに長いからねぇ。私達にとっては退屈で済む話でも、実際に生きる人間にとってはかなりの長期停滞になる。長すぎる停滞は諦めになり衰退に繋がる事もある訳さ」


 生物と言うのは変化に合わせて成長していく物でもあるし、変化が無いと言う事は生命としての成長も見込めなくなる、と言う事に繋がるらしい。


「栄枯盛衰は世の理だから人類が滅びる程度なら別にそれでもいいんだけどね。ただあの世界はもう人間は一大勢力だからね。長期停滞の果てに滅亡なんて事になれば世界を巻き込んでそのまま終焉しかねない。折角世界をあそこまで育てた身としては、流石にそれでは面白くないし、避けたい訳さ」


 神は別に人間だけを生かしている訳では無いからね、とは当のご本人のお言葉である。文明を築く規模まで種族として広まってしまった以上、生態系もそれを組み込んだ物となっており、人間が滅びればともに滅んでしまう種族が多岐に渡り、それを引き金に緩やかな終焉になる可能性が高いそうだ。


「そこで、ちょっとした変化を促すためにテコ入れをしたくてね」

「はぁ……それで僕を異世界に? でもなぜ僕なんだろ? 自分で言うのもあれだけど、病人……元病人だから基本病室に引きこもりで特別体力も無ければ頭も良く無いし社交性もそんなに無いから、テコ入れとか言われても役に立てるとは思わないんだけど」


 自分で言うのもアレだが、五年に渡る闘病生活をしてきた人間だ。学校には小学校までしかマトモに通っていないし、高校は一応受験して合格した物の一度も行った事が無い——オンライン授業を何度か受けた程度だ——ので、友達も殆ど居ない。しかも病室引き籠り(?)だ。コミュ障に近い交友関係しかない。色々な物に手を出しそれなりの成果も経験も積んではいるが所詮は十六歳までしか生きていない。


 確かに入院中に大量に知識を詰め込んだし入院前にスポーツも沢山やったが、所詮は未成年。大人には知識量で全然勝てないし、プロスポーツ選手とは比べ物にならず、人生経験は同年代に遥かに劣る……とは言わないが、偏っている事は間違いない。


 要するに未熟な子供でしかない。世界の変化の為と言うのなら殆ど役に立たないという自信が彼にはある。そう目の前の天空神に言うと彼はカラカラと笑い、


「君はいささか自己評価が低いようだね。確かに君の魂はまだ幼く、知識も経験も未熟と言っていいだろうね。だが、それ以上に君の魂は私にとっては魅力的なのさ」


「ええと……どういう意味?」

「知識とか経験なんて、向こうの世界でも積めるから、そこは正直大して気にしていないんだよ。それよりも、君の魂の強さの方に期待があるんだよ。自分の命が短いと分かった途端、その命を燃やし尽くそうと生き足掻く、貪欲に生を謳歌しようとするその魂の有り様は、私(神)にとっては非常に好ましい物なんだ。有限の命とは、有限であると知りながら無限である様に振舞う時こそ美しいと私は常々思っていたからね」


「はぁ……そうなんですか……」

 何やら褒められてはいるようだが、正直意味は分からないので曖昧な感じで答える。


「私としても異世界からの魂を呼び寄せるというのは初めてだからね。それも向こうよりも発達した——格上の世界から呼び寄せるとなればどうせなら良い魂を選びたいというのが神情という物だろう? 君の魂は探した中では最上に近いからね。向こうの神も君の魂は狙っていたみたいだからかなりゴネられたけど。おかげで余計な時間かかって君を待たせる結果になってしまったよ」


「思っていたより神様からの評価が高かった!? そして神とか世界にも格がある事をぶっちゃけられた!! そして密かに心情と神情を引っ掛けた洒落を言っていた!お茶目かっ!?」

「意外とキッチリと突っ込んで来るねぇ。先程も言ったけど僕の世界は地球に比べれば若いからね。当然私も地球の神よりも若いからね。格としては一段下だね」


「衝撃が強すぎて思わず流しちゃったけど、何気に僕が初めてなんだ!?」

「そうだよ。魂のやり取り自体は割と他の世界では頻繁にやっている事なんだけど、余りそれに頼り過ぎると世界の独自性と言うのが薄れてしまうし、何より折角自分の世界なのだから出来る所までは自分達の世界だけで賄いたかったからね。まぁ、それもどうやら限界が来たようなので、格が高い地球の神に頼んで魂を融通してもらった、と言う訳さ」


 セルヴァンによれば、魂という物は本来世界線を越えて自由に行き来が出来る物では在る物の、無秩序にそれをさせてしまうと世界毎に偏りが生じるし、魂を浄化して記憶も存在も書き換えたとしても余りにも元の世界とかけ離れたりすると変質化してしまう事も有るらしい。


 なので、それぞれの世界の神は魂の流通を制御し、時には神同士で互いに眼鏡に適った魂を融通しあうのだが、格上の世界から来る魂は、世界の格と同じく上位の魂と扱われ今回の様に格が劣る世界の起爆剤としてやり取りされる事が多いそうだ。


「私の世界は文明レベルで言えば衛文君の世界で言う所の中世に差し掛かった位の感じでね。まぁ魔法もあるから近世位の生活水準はあると思うけど」

「おお、やっぱりあるんだ魔法!」


「うん。君達の世界の人が大好きな『剣と魔法の世界』と言う奴だね。まぁ……魔法位無いともっと文明成長速度が遅くて話にならないから、と言う面もあるんだけど」

「またぶっちゃけた!? そういう理由で魔法あるんだ!」


「兎も角そういう世界だから、君の知識や経験でも向こうの世界では十分以上の刺激になる筈なんだよ。まぁ、余り知識豊富な人を連れて行っても刺激が強すぎるから、幼い世界にテコ入れするのなら幼い魂の方が扱いやすいというのもあるんだけどね!」

「色々ぶっちゃけ過ぎだ!?何か言葉よりも期待されている感が無いんだけど!?」


 思わず突っ込んでから、おや?と気が付く。


「知識と経験と言う事は……もしかして記憶もそのまま持っていけると言う事?」

「勿論だよ。と言うよりも、それを期待して態々君の世界の様な、向こうとは別の方向に進化している上位世界の魂を探していた訳でもあるし」


「じゃあ、よくある様にチートとかもらえて、厨二病全開で知識チートあんどオレTUEEEEE!! で無双できる!?」

「期待している所悪いけれど、それは無いな。君の世界のお話だとそういうのが定番みたいだけれど、私が何か特別な力を与えて優遇するぐらいなら、別に他世界の魂に拘る必要なんて何処にも無いだろう?それこそ向こうの住人に与えれば済む話だし」


「ア、ハイ……ソウデスネ」


 あっさりと否定されて盛り上がっていた気分が瞬く間に萎む。密かにチート能力で人生楽勝モードを期待していただけに、突きつけられた現実はしょっぱい物だった。


「でもまぁ……知識チートがあるだけで十分と言えば十分……なのかな。でも、十六歳程度で蓄えた知識ってそこまで役に立つんだろうかね?」

「向こうの世界は魔法は発達していても科学技術の方はそんなに発達していなくてね。入院中にアレだけ詰め込み勉強していた君の知識なら十分神の知恵レベルさ。それに……」


「それに?」

「君にはチートなんて必要ない位の優位性があるじゃないか、藤良衛文君」

「はい? そんな物あったっけ?」


 はて、考え込む。元病人で引き籠り体質だった自分にそんな物有る訳が無いと思っていると、セルヴァンは含みのある顔でニヤリと笑う。


「君は私が勧誘する前から『別の世界』と言う奴を体験しているじゃないか。そして、その世界での事をしっかりと魂に刻み込んでいるじゃないか」

「はぁ?別の世界?ナニそれ?確かに色々と面白そうな事に手はだしたけど、流石にどこぞの小説みたく異世界帰りとかの経験なんてした事ないよ?」


 異世界物の小説とかだとたまにそういう設定の人物が出てくるが、流石に自分にそんなぶっ飛んだ経験がある筈も無い。と言うかそんな設定があるのなら不治の病で早死にする事もなかった筈だ。と、考えていると——


「いやいや。君はちゃんとソレを経験しているよ。『もう一人の君』としてね。正直に言うとね、確かに君の魂の強さも魅力だけど、それ以上にもう一人の君が魂に根付いていたからこそ向こうに送り込みたいと考えたんだよ、ヘブン・ザ・ワールドのクリン・ボッター君」


「はい!?」


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