幼少期 村編

第2話 神との邂逅。

 少々思う事が有り、章の開始位置の変更、それに伴いプロローグ2、3は本文となり新たに分割して和数を振りました。内容はほぼ変わっておらず、単純に一話ごとの話数が減った事と、それに伴い整合性の取れない部分を変更したのみです。

 話数がズレだけで内容に変更はありませんので、一度読んだ方は読み飛ばしてもらえると有難いです。


改めて思った。プロローグ3話で25000字オーバーって無いわなぁ……

それでは本編をどうぞ。



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「と、言う感じで君は亡くなった訳だね。いやぁ、精一杯生き抜いた人間の最後と言うのはいつ見ても良いね! 感動的だよ、美しいと言っても良い位だ!!」


『これは一体何の拷問なんだろう』


 と、彼はげんなりと思う。衛文と言う人間はあの時間違いなく死んだ。それは疑いようがない。目の前の男が見せた様に満足して死んだという自覚もある。


 しかし——


「いやぁ、感動的だったからもう一回見ちゃおうか! 良い物は何度見ても良いからね!」


 言葉と共に、眼前には再び病院のベッドに横たわる彼の姿が映し出された。


「いや、趣味悪すぎでしょう、この人……」


 否、再びでは無い。これでかれこれだ。七回連続で自分が死ぬ様をリプレイで見させ続けられている所だ。コレが拷問でなくて一体何なのか。しかも本人の目の前で本人が死ぬ寸前の姿を見て涙を流さんばかりに感動しているのだ。悪趣味の極みである。


 最初は何が起こっているのか理解できなかった。どこまでも白い不思議な空間でただただそこに漂うだけだった。一体どれ程の時間この場で漂っていたのか。正直時間の感覚はあいまいで、意識もはっきりしていない。自分が何者で、何故この場に漂っているのか。


 そんな考えも一切起こらずただ漠然と漂うだけ。と、白い事以外に何もない場所に変化があったのはそんな時だった。


 白く塗りつぶされた世界に、まず揺らぎの様な物を感じた。そしてすぐにその揺らぎは眩く輝き、白い世界を光で塗りつぶした。だがその光も徐々に弱まっていく。


「やれやれ。ようやく交渉がまとまったよ。まぁこちらがお願いする立場なのだからあまり強い事は言えないけど……やはり向こうの方が古くて力ある分頑固だよねぇ」


 光が収まった後、そんな言葉と共に揺らぎが人の形を取っていく。だが彼に認識できたのはそこまでだ。人の姿である、と言う事は辛うじて分かる。だが全体の輪郭は酷くぼやけていて、どのような容姿であるかは勿論、性別も判断不能であった。


「初めまして、藤良衛文ふじよしもりふみ君。……うん?」


 最初、彼が何を言っているのか分からなかった。聞こえなかった訳ではなく、言葉が意味として理解出来なかったのだ。初めましてとは何で、フジヨシヨシフミクンとは何なのか。


 いや、それ以前にそれが自分に向けられた言葉だとも思っていなかった。目の前の人の形をした何かが音を出しただけ、そんな風に感じていた。


「あ~っと……少し時間をかけ過ぎたかな?大分自我が拡散してしまった様子だね」


 どうやら、目の前の人の形をした何かは自分に向けて音を発しているようだ、などと漠然と思っていると、


「まぁ、これ位なら何とでもなるかな。じゃ、君が何者だったのかを思い出してもらう為にも、君の人生を、藤良衛文の一生をダイジェストで見てみようか!実は私も最後の方しか見ていなくてさ。折角だから一緒に見ようか!」


 何故かやたらと嬉しそうに言い出し……


 そして今に至る訳なのだが。


 記憶自体はダイジェストとやらの最初の5分位で蘇っている。同時に、白いだけだった空間が、気が付けば自分が最後を迎えた病室と同じ景色にかわっていた。

 

 そして人の形をした何かは、やたらと端正な顔立ちをした男の姿になっていた。外国の歴史映画なんかに出て来そうな布の多い民族衣装の様な物に身を包み、美形と言う言葉以外に例える言葉が見つからない、整った顔をしていた。だが年齢の方は良く分からない。自分よりも少し年上、十代後半にも見えれ三十代四十代の匂い立つような男盛りに見えなくもない。


 その男が、衛文が生まれた瞬間から始まる映像——どういう原理かは分からないが、画像が宙に浮かんでいる——を眺め、要所要所で彼の生き方への感想を述べ、そして、息を引き取る直前のやり取りに涙を流して感動している。


 何がそんなに気にいったのか、とうとう八回目のリプレイに突入している。何故こんな映像があるのか謎でしかないが、男は興が乗ったとかで彼が生まれる瞬間よりも前……つまり両親がどういう経緯で出会って愛し合い、どのようにして衛文を授かるに至ったか、にまで映像を遡らせていた。


「マジ勘弁して欲しいんだけれど。なんという羞恥プレイだよコレ……」


 本気で悪趣味なので止めて欲しいと思う。何で死んでから自分の両親の若い頃のイチャイチャする姿を見せられなければいけないのか。


 挙句の果てに「大切な人を守れるようになって欲しい」と言う意味で付けたと聞いていた自分の名前が、実は両親が結婚後に初めて泊まったラブホテルの名前が「森踏もりふみ」で、「多分あそこで仕込んだんじゃないか」と言う事で、読み音だけ取ってそれらしい文字を当てはめただけであった、と言う実にどうでもよくて知りたくもなかった事実を知ってしまった。


「いや、本当に辞めてくれないかな!? いい両親だと思っていたのに、そんな適当な理由で名前つける人だったとか、ショックデカ過ぎなんですけど!」


「そう? 解りやすくて良いと思うけど。そしてご両親の予想はドンピシャだね。この時が原因で間違いないね」

「だからヤメテ!? 言葉と一緒に映像も再生しないで!! 両親のベッドシーンとか見たくないから!!」


「因みに君の弟君は十年前に泊まったホテルの名前だね。少し捻ってはあるみたいだけど」

「あーっあーっ聞きたくない、きーこーえーなーいー! って、だからって映像出さなくていいから! 何コレ嫌がらせ!?」


 耳を塞いで叫ぶが、男はどこ吹く風の調子で微笑ましそうに有名なホテルでイチャコラしている両親の姿を見ている。


「というか、僕の時は田舎のラブホで弟の時は東京の高級ホテル? 何その格差は!? って、え? あいつの名前って二刀流日本人メジャーリーガーから取ったんじゃなかったの? そっちの方からの連想ゲームだったの!? ってどうでもいいわ、そんな事!!」


「はっはっはっ、中々お茶目でいいご両親じゃないか。まぁ……あまりからかうのもアレだし、君も大分拡散した自我も記憶も固定されたようだし、そろそろ本題に入ろうか」


 男はそういうと中に浮かぶ映像に向けて軽く手を振ると、画像がサッと消える。彼の死に様を何度も見せつけたのは、どうやらただ悪趣味なだけではなく一応は彼の薄れた自我を保管する目的もあったようだ。


「では、改めて。初めまして藤良衛文君。私はセルヴァン・デヴスオーデス。君たちの言葉でいう所の……まぁ別の世界の神様と言う奴だね」

「神様? それも異世界の?ウソくさっ!! ……ていう程でもないのか……」

「おや、随分と納得するのが早いねぇ。君の居た国では神に対する信仰がかなり薄れているから、こういう時は中々信じない物だとばかり思っていたけれども」

「そりゃぁ……まあ、ねぇ。信じたくはないけどさ」


 もしかしたら死ぬ直前に見ている幻覚、と言う可能性も無くはないが繰り返し死亡シーンを見せられた事もあるが、何より自分は確実に死んだという自覚があったので、意外とあっさりと信じてもいいのではないか、と思えるしそれに何より。


「存在感が半端ないし、顔がイケメン過ぎる。こんな美形が普通の人間で居る訳が無いし」

「おや、それは嬉しい事をいってくれるねぇ。ただここでの容姿はあまり関係ないかな」


「関係ない?」

「そう。ここは肉体が存在せず、魂のみが存在できる場所。命を落とした者が最初にたどり着く場所。だから姿形など存在しない。本来はね。だがそれでは人は己の意識を保持できない。元々生前と言う軛から外れるための魂の浄化を行う場所だ。だから最初に声を掛けた時の君は大分自我という物が消えかけていただろう?」


「ああ、それで……じゃあ、あの何度も死ぬところを見せられた拷問は……」

「あはは、拷問は酷いな。君が死者の魂になっては困るんでね。藤良衛文としての君の魂を確定させる為の儀式みたいなもの、かな。だから君にこの場所が病室に見えるのは君にとっての世界と言うのは長い間この部屋だけだったと言う事であるし、私が普通ではない美形に見えるのだとしたら、それは君が神と言う存在は普通では無い程に美しい物だと認識していると言う事だよ」


「つまり、僕のイメージがそういう風に再現しているだけ、と言う事?」

「大雑把に言えばそういう事だね」

「なる程ね……で、その美しい存在である異世界?の神様が僕に何の用なんでしょう?天国にでも連れて行ってもらえるんでしょうか?」


「え、行きたいの天国? まぁ本当に行きたいなら連れて行くのもやぶさかではないけど……退屈だよ、アソコ。私なんか自分で暇な神と名乗った事があるくらいだし」

「いや、そんな事をぶっちゃけられても困るのですけれども……」

 どうやら相手は本当に神である、と思い言葉遣い丁寧な言葉を選んでみたが、当の神様本人はケラケラと笑いながら、

「ああ、今まで通りの口調でかまわないよ。ただ、天国に連れて行くかどうかは直ぐには無理かな。そもそも僕は君が居た世界の神ではないしね。行くとしてもそちらの神次第かな」


 何やら神にも管轄という物があり、それぞれに天国があるので行くのなら元の世界の方に優先権があるので、そちらの判断を待たなければいけないらしい。


「と、いう訳で君には別の話を持って来たんだよ」

「じゃあ今まで通りにするけど……別の話?」

「うん、まぁ平たく言うとだね……君、私の世界、つまり『異世界』に行く気はないかい?」


「おおっ……ベタな展開キタっ!!」


 長い闘病生活をベッドの上で過ごしていた彼は、勿論その手のネット小説や漫画に手を出していた。時間つぶしには最適だったし余命宣告された身としては、ああいう物を読んでしまうとどうしても「自分なら」と夢想してしまう物だ。


 彼が比較的あっさりと目の前の男が神と言う事を信用したのも、そういう創作物を目にして『もしかしたら』と言う期待が少しでもあったからである。


 ただ、用心はしなければならない、とも思う。あの手の話では神を名乗って居ながら実は……と言う話も少なくないのだ。また、実際に神であったとしても性格の悪い神とか我儘な神とか嫌がらせとしか思えない程適当な神など、様々に存在している。


 伊達に人生をトコトン楽しむ事を目的にしたわけでは無い。例え架空の話であってもリサーチはバッチリである。と、そこまで考えてハッと思い当たる。


「もしかして……僕の考えが読めたりする……とか?」

「ハハハハハ、君の世界のそういうお話だと定番だよね。勿論読めるよ。だけど別にやってないね。必要無いから」


「必要無い……とは?」

「ココは魂の浄化と選別の場だよ。つまり魂がむき出しになっている状態だね。考え何て読むまでも無く最初から本心以外に出て来ないよ」


 要するに最初から考えは筒抜けであるという事らしい。ただ思考が垂れ流されている訳でも無いので、互いの言葉のやり取りに嘘が入り込まないというだけらしい。


 が、正直彼には違いが分からないので取り敢えずそういう物かと思う事にする。


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