第20話 さらば村。 いざ旅立ちの時!

※ キリが良い所がここしか無かったので、若干何時もよりは短めです。


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 何だかんだで村人全員を埋葬し終わるのに七日掛かった。全員と言ったが遺体を全部集められた訳では無い。


 元々何人居たのか知らないし、焼けたり切られたり食われたりして破損が酷くて本当に一人分の遺体なのか疑わしい物が多かったし、何より村に押し込んで来た野盗連中の遺体の区別もついていない。


 最初は分けて埋葬するつもりであったが、顔を覚える気が無かった少年には区別がサッパリつかなかったので、結局纏めて埋める事にした。


 正直村の住人全員埋められたかどうかも分からない。損傷が激しかったり食い散らされていたり炭化していたし、何よりも。


 彼は住人の顔を覚えていなかった。村の名前も結局分からないままだったし、住人が何人いたかも知らない。


 村長の顔やイジメて来た子供達の顔は覚えていたつもりでいたが、埋葬した後の今ではぶっちゃけ「どんな顔だったっけ?」と思うぐらいに記憶に薄い。大人になるまで顔を覚えている自信など全くない。


 結局自分はとことんこの村に対して興味が無かったのだろう、と自嘲する。


「ま、コレで義理は果たしたと言う事で。知らない連中と一緒に埋めたけど、あの世で喧嘩はしないで頂戴ね。後はよろしくやって下さいな」


 住人を埋めた場所の側に、完成した神像を設置しつつ少年は手を合わせた。管理するものが居なくなるとは言え、神像を野晒しにするのも気が引けるので残った木材を使って簡易的な祠を作り、そこに神像を設置する事にした。


 本当は線香でもあげたい所だが流石にそんな物は無いので手を合わせるだけに留めた。が、そこで少年は顔を顰める。


「やっぱ出来悪いよねこの神像。ちっとも似てやしない。造形も雑だし表面処理だって甘い。防腐剤代わりに塗った草の汁は発色悪いし、駄作も良い所だよね!」


 溜息と共に吐き捨てる様に言うと、少年は振り向きその場から立ち去る。途中で振り向く事もしない。


 少年にとってはそれしか特に思う事はなく、サッサと手を解くと村から旅立つ準備をする事にした。埋葬が終わればもうこの村に留まる理由など一つも無いからだ。


 冷たいと言うなかれ。元々少年はこの村では虐げられていたし、何よりも少年は長期入院の果てに一度死んだ身である。


 少年の様な、治る見込みの薄い患者が入る病院なんてのは「元から死ぬ予定の人間しかいない」のである。つまり、日常的に人の死を目にする環境だったのだ。中には運よく完治し退院していく者も居るが正直例外に近い。少年が居た病棟には治療が困難な患者が集められ、そこで集中的に看護されている。


 なので、基本治りそうな患者は居ないのである。大体が数カ月長くても数年で死亡するような患者しかいない。そんな場所に三年も入院していたのである。


 人の死と言うのは彼にとっては日常的な事であり、特に思い入れも無い人間に対して思う事など何もなかったのだった。


「ま、明日は我が身ってね。僕だってここに居続けたら何時まで生きていられるか分からないんだし、サッサと出て行くのが吉って物だよね」


 十分とは言えないが、この七日間で村を猿準備は色々としてきた。保存が利きそうな食料や移動の途中で野営などをする際に使えそうな道具や身を守る為の武器も作った。そして、村の最後を見届け埋葬も済ませた。


 この世界に転生してから五年、早くもと言うかようやくと言うか、この村から旅立つ時がやって来た事だけは確かだった。


「やれやれ。良い思い出……は何一つないけど、旅立つには良い日……と言うには殺伐とし過ぎで村全滅しているけれど……予定よりも大分早すぎるけれども……ともあれこの村ともおさらばってヤツだね」


 辺りをグルリと見渡し、忘れ物が無いか確認する。まぁ確認するまでもなく少年が集めた荷物と武器、少年が埋めた村人の墓と少年が建立した祠以外、綺麗さっぱり何もないのだが。


 埋葬に使った道具と燃え残った廃材は、たった今送り火代わりに全部燃やした。

 焼け野原状態のこの広場と墓と祠が、辛うじてこの場所に村があった事を物語るだけだ。遠くから見たら山の裾野に少し開けた場所が見える程度であろう。


 数年もすれば折角切り開いたこの場も雑草だらけとなり、数十年もすれば森に飲み込まれて痕跡すらなくなるだろう。


 その前に、誰かが再びこの場所に来て村を再建させるだろうか。土地は痩せ気味だが一応畑としての土は残って居るし、井戸も残っている。そんな事をふと思う。ただそれをするのは自分では無いだろう。少年はもうここに戻って来る気など更々無い。


「さて、と……さっさと行く事にしますかね。早めに野宿できそうな場所も探さなきゃだしね」


 少年は補強したズタ袋——肩掛けカバンを担ぎ、反対の肩に急造した矢筒と矢、腰に手製の木鉄剣を差し手には間に合わせの連結弓を持つ。


 最後に自分で作った祠の中にある神像に黙礼すると、もう振り向く事無く村から出て行くのであった。


 この五年色々あった。色々あったが特に思い入れも無く、最後の義理も十分果たした筈なので、いっそ清々しいと言える気分での旅立ちに少年は思う。


「自分で仕立て直した服に自分で補修したカバン。そして自分で集めた荷物に自分で作った剣に弓。何から何まで自家製って、正にクラフターらしい旅立ちだね!」


 当初の予定の様にスキルを身に付けてから作った道具類ではなく、制作系のスキルは何一つなく、持ち前の器用さだけででっち上げた不格好な道具達であるが、結果的には実にクラフターらしい状況だ、と内心思った。


 そして、同時に思う事があった。


「セルヴァン様、貴方の世界ちょいとばかりハード過ぎやしませんかね。この五年で何度死ぬかと思ったか判りませんよ……」


 そう、思わず呟いてしまったのも仕方がないと思う。何一つ予定通りでは無いし欲しいと思っているスキルは一向に育っていない。


 全くままならない世界に転生した物だ、と少年は口の中で文句を言い——だが同時に、それほど悪くない今生でもある、と思うのであった。

 前世の人生も好き放題突っ走り、飽きると言う言葉とは無縁だった。今生は何一つ思い通りに行ってはいないが、日々生きるのに必死で飽きる暇だけは無い。

 ならば総合的に見て、良いとは口が裂けても言う気になれないが、そこまで悪い転生では無いのではないか、と思っている。




 こうして。転生して僅か五年で予定よりも大分早く、村からの旅立ちを迎えたヘイロー少年であった。

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